【完結】愛も信頼も壊れて消えた

miniko

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13 彼の好みの女性?

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 私の婚約の噂は瞬く間に社交界に広がった。

 辺境伯と言えば、この国では、侯爵よりも高い地位であると認識されている。
 その中の一人であるコールドウェル様が、いつまでも独身を貫いていた事はとても有名だ。
 眼力の鋭さや顔の傷から貴族令嬢達に恐れられ敬遠されて来た彼だけど、その地位に魅力を感じて娘を妻の座に捩じ込もうとする下位貴族が後を絶たなかったらしい。

 そのお相手となった私はと言えば、元々顔立ちのせいであまり評判が良く無い上に、王家主催の夜会で婚約を解消した騒動が未だに記憶に新しく、何故あんな醜聞持ちの令嬢が選ばれたのかと首を傾げられている。

 そんな興味からか、今や私の元には毎日大量の茶会の招待状が届いている。

 明らかに私に敵意がある人からの招待は断っているが、それ以外は婚姻後の評判の事も考えると、出来るだけ出席しておいた方が良いだろう。

 だが、それがなかなか面倒ではあるのだ。



「どんな汚い手を使って婚約者の座に収まったのか知りませんが、ウィル様の好みの女性は私の様な可愛らしいタイプなのですよ」

 本日の茶会の会場になっている、とある侯爵家の庭園で。
 友人と談笑していた所に、甲高い声が突然割り込んで来た。
 私との会話を邪魔された友人達は、不快感を隠さない視線を声の主に向ける。
 淡いピンク色のヒラヒラしたドレスを身に纏った小柄なご令嬢が、私の目の前に立ち塞がっていた。
 自分で自分の事を『可愛らしい』とか言うから、ちょっと笑いそうになっちゃって、慌てて扇で口元を隠した。

 仮に彼の好みが『可愛らしい人』であったとしても、それは決して『貴女の様な人』では無いと思う。
 だって、性格が全く可愛く無いのだから。

 彼女は見た所私よりも少し年下。
 コールドウェル様とは十歳ほど歳の差がありそうだが、それでも良いと思うほど彼に惹かれているのだろうか……。だとしたら、少し可哀想?
 いや、彼は社交には殆ど顔を出さないから、私よりも年下の令嬢に面識があるとも思えない。
 ドレスの質感や所作などから見て、どうやら下位貴族のご令嬢みたいだし、以前彼が言っていた通り、妻の座を狙いなさいと親から命令された令嬢なのかもしれない。

 と言うか、彼女は自分よりも私の方が年齢も実家の爵位も上だと言う事には気付いていないのかしら?

「そうですか、それは存じ上げませんでした。
 後日、本人に確認してみますね」

「確認するまでもありませんわ!
 ウィル様が以前ご婚約なさっていた方は、現在のハミルトン伯爵夫人なのですよ?
 彼女との婚約が破棄された後も、ウィル様には沢山の縁談があったのに、全てお断りしている理由が想像つくでしょう?
 社交界でも可憐な妖精の様だと注目を集めている彼女を、ウィル様は未だに忘れられなくて、なかなか次の婚約者をお決めにならなかったのです。
 それなのに、貴女みたいに正反対のタイプの女性を選ぶだなんて、納得出来ないわっ!!」

 そんな事言われても。
 全く無関係の貴女に納得して貰う必要など無い。
 大体私達の婚約は恋愛によって結ばれた物では無い。
 彼の事は好ましく思うし、これから少しづつ信頼関係を結んでいき、いつか愛情が芽生えれば嬉しいなぁとは思うが、今の時点で過去の婚約者に嫉妬する程彼を愛している訳ではないのだ。

 それに今の理屈で言うと、コールドウェル様が想いを寄せているのは、目の前のご令嬢では無くハミルトン伯爵夫人だって事になっちゃうんだけど、それで良いのかしら?
 言ってる事が支離滅裂だ。
 ハミルトン伯爵夫人と面識は無いが、もしかしてご自分と瓜二つの容姿だから、自分が婚約者になるべきだとでも言いたいのだろうか?
 だとしたら、社交界で『妖精』と謳われる程とも思えないのだが……。


「ご忠告、どうも有難う?」

 色々と考えてどう答えるのが正解なのか分からなくなった私は、取り敢えずお礼を言ってみた。

 微笑んで。

 多分良い感じで凶悪な笑みになってたと思う。

「ひっ……」と小さく悲鳴を上げて、肩を跳ねさせたご令嬢は、そそくさと人の波に消えて行った。

 この程度で怯むようでは、コールドウェル様の威圧感には耐えられないと思うのだけど。
 やっぱり面識は無いみたいね。
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