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31 無謀な逃亡劇
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「しかも、私は命を狙われているらしい」
「「ええっっ!?!?」」
またしても淑女らしく無い声を上げてしまったが、それも仕方ないだろうと思う。
驚く私達とは正反対に、生命の危機に瀕しているとは思えないほどに、のほほんとした様子の王太子殿下。
やはり王族ともなれば、暗殺くらいで一々驚いたり怯えたりしないのかしら?
……いやいや、誰だって命は惜しいでしょう。
それなのにこんなに冷静なのは、犯人達の思惑通りにはならないという自信があるからなのだろうか。
殿下のお話によれば、ここのところ、毒を盛られたり刺客を差し向けられたり、馬車に細工をされたりといった事が続いていると言う。
「まあ、杜撰な犯行だったから証拠も直ぐ掴めて、既に中心的な者達は捕縛が済んでいるんだけどね」
こんな時なのに楽しそうにニヤリと笑う王太子殿下に、背筋がゾクっと震える。
この人の命を狙ったりしたら、自分の命の方が危ないって、犯人達は何故気付かないのかしら?
とても機嫌が良さそうな殿下は、寧ろ『不穏分子を一斉に排除するのに好都合だ』とでも思っていそうな雰囲気だ。
「えっと……、このお話って、私が聞いてしまっても良い物でしょうか?」
即位を間近に控えた王太子の暗殺未遂だなんて、一介の伯爵令嬢が聞いて良い話とも思えないのだが。
「まあ、普通なら話さないけど、君はウィルの婚約者だから信用しているし、この話にはクラリスも関わっているから知っておいて貰った方が良い。
それに、詫びなければならないと思って。
フェリシア嬢には、二度とクラリスの事で迷惑を掛けないと約束していたのに、本当に申し訳ない」
王女は西の隣国に入った所で行方不明になったので、捜索にはここの国境警備団があたる事になる。
発見して保護されれば、私が顔を合わせる事もあるかもしれないのだ。
「クラリス王女が逃げた事と、ヒューバートの暗殺未遂は関連があるって言うのか?」
コールドウェル様はいつもより更に厳しい表情で問う。
王太子殿下は、長年王家に忠義を尽くして来たと言われる貴族でも、不正が見つかったり、私欲に走ったりする者は容赦無く切り捨てる。
それは大臣などの要職に就いていた人物でも例外では無い。
彼が実権を握る様になってから、多くの有力者達が相次いで失脚した。
その中の一部が結託して、王太子殿下を亡き者にし、代わりにクラリス王女を女王に即位させて傀儡にしようとしていたのだそう。
「クラリスがこちらの国へ逃げ帰る間に、私を亡き者にして、次期王の首をすげ替えるつもりらしいよ」
いや、『らしいよ』って、そんな他人事みたいに……。
要するに、王太子殿下の命を狙っている者が、王女の逃亡にも手を貸しているって事か。
彼等は本来ならば、王女が国を出る前に王太子殿下の暗殺を成功させたかったのだろうけど、今回の王女の輿入れは急ピッチで進められた為、間に合わなかったのだ。
我が国から大陸の西端のトアール国へと渡るには、東の港から海路を使うのが一般的な方法である。
私は乗った事が無いけど、魔石を動力とした船はかなりのスピードが出るらしく、距離は伸びるが海路の方がずっと早く着くのだ。
だが、クラリス王女はどうやら船酔いが酷い体質らしく、時間がかかっても陸路での移動をと希望した。
隙を見て逃げようという意図もあったのだろうが、船酔い体質は本当らしい。
陸路の場合、普通は遠回りになってもいくつかの宿場街を経由しながら大きな街道沿いを進むのだが、王太子殿下は「クラリスの我儘で陸路になったのだから」と、出来るだけ直線距離での移動を指示したのだそう。
だが、今回はそれが仇になった。
直線距離だと、民家も疎らな地域を通る事もあり、宿屋も食堂も無い場所では野営(王女は馬車の中で寝るので車中泊)をせざるを得ない事もある。
その際の炊き出しに、王女が睡眠薬を投入した。
薬の効果で護衛騎士や従者達が眠ってしまった間に、王女は自ら消えたのだ。
その薬を手配して王女に渡し逃亡を指示したのが、王太子殿下の命を狙う者達だった。
「「ええっっ!?!?」」
またしても淑女らしく無い声を上げてしまったが、それも仕方ないだろうと思う。
驚く私達とは正反対に、生命の危機に瀕しているとは思えないほどに、のほほんとした様子の王太子殿下。
やはり王族ともなれば、暗殺くらいで一々驚いたり怯えたりしないのかしら?
……いやいや、誰だって命は惜しいでしょう。
それなのにこんなに冷静なのは、犯人達の思惑通りにはならないという自信があるからなのだろうか。
殿下のお話によれば、ここのところ、毒を盛られたり刺客を差し向けられたり、馬車に細工をされたりといった事が続いていると言う。
「まあ、杜撰な犯行だったから証拠も直ぐ掴めて、既に中心的な者達は捕縛が済んでいるんだけどね」
こんな時なのに楽しそうにニヤリと笑う王太子殿下に、背筋がゾクっと震える。
この人の命を狙ったりしたら、自分の命の方が危ないって、犯人達は何故気付かないのかしら?
とても機嫌が良さそうな殿下は、寧ろ『不穏分子を一斉に排除するのに好都合だ』とでも思っていそうな雰囲気だ。
「えっと……、このお話って、私が聞いてしまっても良い物でしょうか?」
即位を間近に控えた王太子の暗殺未遂だなんて、一介の伯爵令嬢が聞いて良い話とも思えないのだが。
「まあ、普通なら話さないけど、君はウィルの婚約者だから信用しているし、この話にはクラリスも関わっているから知っておいて貰った方が良い。
それに、詫びなければならないと思って。
フェリシア嬢には、二度とクラリスの事で迷惑を掛けないと約束していたのに、本当に申し訳ない」
王女は西の隣国に入った所で行方不明になったので、捜索にはここの国境警備団があたる事になる。
発見して保護されれば、私が顔を合わせる事もあるかもしれないのだ。
「クラリス王女が逃げた事と、ヒューバートの暗殺未遂は関連があるって言うのか?」
コールドウェル様はいつもより更に厳しい表情で問う。
王太子殿下は、長年王家に忠義を尽くして来たと言われる貴族でも、不正が見つかったり、私欲に走ったりする者は容赦無く切り捨てる。
それは大臣などの要職に就いていた人物でも例外では無い。
彼が実権を握る様になってから、多くの有力者達が相次いで失脚した。
その中の一部が結託して、王太子殿下を亡き者にし、代わりにクラリス王女を女王に即位させて傀儡にしようとしていたのだそう。
「クラリスがこちらの国へ逃げ帰る間に、私を亡き者にして、次期王の首をすげ替えるつもりらしいよ」
いや、『らしいよ』って、そんな他人事みたいに……。
要するに、王太子殿下の命を狙っている者が、王女の逃亡にも手を貸しているって事か。
彼等は本来ならば、王女が国を出る前に王太子殿下の暗殺を成功させたかったのだろうけど、今回の王女の輿入れは急ピッチで進められた為、間に合わなかったのだ。
我が国から大陸の西端のトアール国へと渡るには、東の港から海路を使うのが一般的な方法である。
私は乗った事が無いけど、魔石を動力とした船はかなりのスピードが出るらしく、距離は伸びるが海路の方がずっと早く着くのだ。
だが、クラリス王女はどうやら船酔いが酷い体質らしく、時間がかかっても陸路での移動をと希望した。
隙を見て逃げようという意図もあったのだろうが、船酔い体質は本当らしい。
陸路の場合、普通は遠回りになってもいくつかの宿場街を経由しながら大きな街道沿いを進むのだが、王太子殿下は「クラリスの我儘で陸路になったのだから」と、出来るだけ直線距離での移動を指示したのだそう。
だが、今回はそれが仇になった。
直線距離だと、民家も疎らな地域を通る事もあり、宿屋も食堂も無い場所では野営(王女は馬車の中で寝るので車中泊)をせざるを得ない事もある。
その際の炊き出しに、王女が睡眠薬を投入した。
薬の効果で護衛騎士や従者達が眠ってしまった間に、王女は自ら消えたのだ。
その薬を手配して王女に渡し逃亡を指示したのが、王太子殿下の命を狙う者達だった。
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