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18 再会
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お茶を飲んでいると、然程待たずに、コールドウェル様がやって来た。
淑女の礼を取ろうと立ち上がった私を、片手で制した彼は、向かいのソファーにそっと腰を下ろす。
「よく来てくれたね、フェリシア。
長旅で疲れただろう?」
彼はそう言いながら、音も立てずにカップを持ち上げて紅茶に口を付けた。
以前お会いした時にも思ったが、大きな体に似合わぬ洗練された所作だ。
「いえ、大丈夫です」
労いの言葉を掛けてくれるコールドウェル様に返事をしながらも、そのお顔になんだか違和感を覚えて、首を傾げた。
「………ああ、そうか前髪が…」
違和感の正体に気付いた私が呟くと、コールドウェル様は少し焦ったみたいにサッと左頬を片手で覆った。
過去二回、見合いの時と先日の通信魔道具でお顔を拝見した時は、長めの前髪を下ろして左側に流していたコールドウェル様だが、今は前髪を上げて髪紐で結んでいるのだ。
「人前に出る時は、少しでも傷が隠れる様にと気を遣って前髪を下ろしているのだが、視界が悪くなるので領地にいる時は結んでいるんだ。
戦闘の際には邪魔になってしまうから……。
だが……、フェリシアはこの傷が見えていると、気になるだろうか?
……もしかして、怖い、とか?」
「あ、いいえ!!全く。
傷は命を懸けて戦った証。騎士にとっては勲章ではないですか。
格好良いとは思えど、怖いだなんて思いません。
ただ、前髪を上げている方が、綺麗な青の瞳がハッキリ見えて素敵だなぁと思っただけなのです」
素直な感想を伝えると、コールドウェル様の厳めしいお顔が見る見る内に真っ赤に染まった。
その顔を見ていたら、ようやく自分がとても恥ずかしい発言をしてしまった事に気が付いて、私の頬まで熱くなってきた。
「……」
「……」
口をポカンと開けたまま、無言で固まるコールドウェル様に、壁際に控えていたロバートが残念な物を見る様な視線を投げる。
「旦那様、折角美しいご令嬢からお褒めの言葉を頂いたのですから、黙ってないで気の利いた台詞の一つも吐いたらどうです?」
「いや、無理だろ。
今、胸が苦し過ぎてそれどころじゃない」
「えっ!?大丈夫ですか?」
眉根を寄せながら胸元を押さえるコールドウェル様の体調が心配になって、立ち上がろうとしたのだが、涼しい顔のロバートに止められた。
「ご心配には及びませんよ、フェリシア様。ただのヘタレですので」
「……ヘタっ…?
お前には主人に対する敬意は無いのか!?」
「ふっ……」
二人の気の置けないやり取りを見ていたら、自然と小さく笑みがこぼれた。
「「……っ!!」」
二人共、驚いた様に私の顔をじっと見つめている。
何?私何かしちゃったかしら?
「…フェリシア様の笑顔はとても愛らしいのですね」
ポツリと呟いたロバートを、コールドウェル様は不機嫌そうな目でジロリと見る。
「あんまりフェリシアの顔を見るな」
「そんな無茶な。
独占欲も程々になさいませ」
『愛らしい』などと言う褒め言葉には無縁だった私は、その時大いにパニックに陥っており、残念ながらその後の二人の会話は耳に入っていなかった。
淑女の礼を取ろうと立ち上がった私を、片手で制した彼は、向かいのソファーにそっと腰を下ろす。
「よく来てくれたね、フェリシア。
長旅で疲れただろう?」
彼はそう言いながら、音も立てずにカップを持ち上げて紅茶に口を付けた。
以前お会いした時にも思ったが、大きな体に似合わぬ洗練された所作だ。
「いえ、大丈夫です」
労いの言葉を掛けてくれるコールドウェル様に返事をしながらも、そのお顔になんだか違和感を覚えて、首を傾げた。
「………ああ、そうか前髪が…」
違和感の正体に気付いた私が呟くと、コールドウェル様は少し焦ったみたいにサッと左頬を片手で覆った。
過去二回、見合いの時と先日の通信魔道具でお顔を拝見した時は、長めの前髪を下ろして左側に流していたコールドウェル様だが、今は前髪を上げて髪紐で結んでいるのだ。
「人前に出る時は、少しでも傷が隠れる様にと気を遣って前髪を下ろしているのだが、視界が悪くなるので領地にいる時は結んでいるんだ。
戦闘の際には邪魔になってしまうから……。
だが……、フェリシアはこの傷が見えていると、気になるだろうか?
……もしかして、怖い、とか?」
「あ、いいえ!!全く。
傷は命を懸けて戦った証。騎士にとっては勲章ではないですか。
格好良いとは思えど、怖いだなんて思いません。
ただ、前髪を上げている方が、綺麗な青の瞳がハッキリ見えて素敵だなぁと思っただけなのです」
素直な感想を伝えると、コールドウェル様の厳めしいお顔が見る見る内に真っ赤に染まった。
その顔を見ていたら、ようやく自分がとても恥ずかしい発言をしてしまった事に気が付いて、私の頬まで熱くなってきた。
「……」
「……」
口をポカンと開けたまま、無言で固まるコールドウェル様に、壁際に控えていたロバートが残念な物を見る様な視線を投げる。
「旦那様、折角美しいご令嬢からお褒めの言葉を頂いたのですから、黙ってないで気の利いた台詞の一つも吐いたらどうです?」
「いや、無理だろ。
今、胸が苦し過ぎてそれどころじゃない」
「えっ!?大丈夫ですか?」
眉根を寄せながら胸元を押さえるコールドウェル様の体調が心配になって、立ち上がろうとしたのだが、涼しい顔のロバートに止められた。
「ご心配には及びませんよ、フェリシア様。ただのヘタレですので」
「……ヘタっ…?
お前には主人に対する敬意は無いのか!?」
「ふっ……」
二人の気の置けないやり取りを見ていたら、自然と小さく笑みがこぼれた。
「「……っ!!」」
二人共、驚いた様に私の顔をじっと見つめている。
何?私何かしちゃったかしら?
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ポツリと呟いたロバートを、コールドウェル様は不機嫌そうな目でジロリと見る。
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