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47 即位の夜会
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いよいよ夜会当日。
王宮に到着した私は、ウィルにエスコートされて馬車を降りた。
今夜の夜会は、前回参加したトアール国との国交正常化の夜会とも比べ物にならない程に、大規模で華やかな雰囲気だった。
新国王の即位のお披露目なのだから、それも当然の事か。
会場入りして直ぐに、私達に声を掛けて来たのは南の辺境伯。
先日の娘の愚行を私達に詫びに来てくれたのだ。
どうやら王都に着いてから、ウィルがハミルトン伯爵家と南の辺境伯家へ抗議文を出したらしい。
婚約解消の件でもウィルに借りがあった南の辺境伯は、平身低頭だった。
ハミルトン伯爵も私達に挨拶に来て、妻の暴挙を詫びた。
だが肝心の本人は、遠目で私達の様子を不愉快そうに見ているだけ。
目が合うと鋭く睨みつけられて、そのままフンっと顔を逸らされた。
妖精の仮面が完全に剥がれてしまっている。あれでは折角の美しい容姿も台無しだ。
周囲の人々が彼女をチラチラと見ながら面白おかしく何かを囁いている事にも、どうやら気付いていないみたい。
因みに南の辺境伯は、近々嫡男に爵位を譲って隠居する方針らしい。
嫡男は姉であるハミルトン夫人をたいそう嫌っているらしく、今迄の様に傍若無人な振る舞いは出来なくなるだろうとの事。
辺境伯家の出身である事を笠に着て、横暴な振る舞いを繰り返しているそうだが、その後ろ盾を無くし、夫である伯爵とも上手くいかず、自慢の容姿だってその内に衰える。
……いや、もう既にピークは過ぎているのかも知れない。
今の考えを改めずにこのまま歳を重ねた場合、最終的に彼女には一体何が残るのだろうか?
そう考えると、腹立たしい存在であったはずの彼女の事を少しだけ哀れに思った。
開会して暫くすると、高位貴族や他国からの賓客を取り囲む貴族達の人集りが、会場のあちらこちらに出来始める。
なんとか有力者との縁を繋ごうと擦り寄る彼等はハイエナの様な目をしていて、やはり社交は苦手だなぁと思った。
だけど、今日は素敵な旦那様にエスコートをされているので、いつもよりは少し楽しい気分。
普段の騎士服も良いけど、夜会用の正装を身に纏ったウィルは、とても凛々しくて格好良い。
「そんなに見詰められると、穴が開きそうだな」
うっとりと眺めていたら微苦笑を浮かべたウィルと目が合った。
「……ごめんなさい」
慌てて視線を逸らしたのだけど……。
「ずっと見ていてくれても良かったのに、もう気が済んでしまったのか。
じゃあ次は、俺が美しい君の姿を堪能する番かな?」
耳元で囁いたウィルは、言葉の通りの蕩ける様な瞳を私に向けた。
熱い視線に晒されて、頬がジワジワと赤くなっていくのを感じる。
周囲が微かに騒めいた。
無表情で近寄り難い雰囲気のウィルに声を掛けて来る猛者は少ないが、普段滅多に社交に出ることの無い彼は、密かに注目されていたのだ。
その無表情が新たな婚約者(実は入籍済みだが、まだ発表はしていない)を伴って、甘い雰囲気を醸し出しているのだから、興味を引いてしまうのも当たり前だろう。
「さてと。気が進まないが、そろそろ俺達もヒューバートに挨拶に行かないとな」
「ええ、参りましょうか」
新国王陛下夫妻の元には、挨拶を待つ為の長い行列が出来ている。
上位の者から順番に、陛下に直接お祝いの言葉を述べる事が出来るのだ。
賓客や公爵家の挨拶が終わりかけており、次は侯爵家や辺境伯家の番だ。
『気が進まない』だなんて言っていたけれど、情に厚い彼が学生時代からの友人であるヒューバート陛下を大切に思っている事は明白だ。
「本日はおめでとうございます」
「ありがとう。
二人とも、よく来てくれたねぇ。
夫婦の仲も順調に深まってるみたいで、良かった良かった」
「ええ、本当にお似合いのご夫婦ですわね」
列に並んで暫し。
順番が巡って来て挨拶の口上を述べた私達に、ヒューバート陛下はいつも通りの軽い口調で話し掛けて来た。
妃殿下は陛下の言葉に麗しい微笑みを浮かべて頷いている。
初めて間近でお会いする妃殿下は、とても可愛らしいお顔立ちだが、よく見ると意思が強そうな目をしている。
公の場では一歩引いて夫を立てているが、実は手綱を握っているのは彼女の方なのかも知れない。
「はい。ありがたい事に、素晴らしい妻に恵まれましたので、今後は陛下にご心配をお掛けする事は無いと思います」
「これで西の辺境も安泰だな」
「今後は妻と共に、より一層国家の安全に寄与していきたいと存じます」
「うん、頼りにしているよ」
満足そうに頷くヒューバート陛下に辞去の挨拶をして立ち去ろうとしたのだが、呼び止められて「明日、二人で会いに来る様に」と命じられた。
ウィルはちょっと嫌そうに頷いた。
「ウィル、面倒臭いって顔に書いてある。
不敬に問われても知らないわよ」
「大丈夫だよ。俺の表情をそんなに読めるのはフェリシアくらいだか…ら……」
陛下の元から離れた私達の視界に見覚えのある人物が映り、思わず足を止めた。
ウィルの顔が、俄に険しさを増す。
「……フェリシア、久し振りだね」
私の心臓が、嫌な音をたてた。
少し泣きそうな顔で微笑んだのは、ジェフリーだった。
───────────────────
※ヒューバートの妻については連載開始当初は最後まで登場させない予定でしたが、流石に即位の夜会で国王の隣に居ないのも不自然かと思い、チラッとだけ登場させました。(物語には関わりません)
それに伴い、前半にヒューバートが既婚であることを示すシーンを加筆しました。
加筆によって、マーヴィンが更に失礼な奴になってしまいましたが、彼は姉思いなだけなので大目に見てあげてくださいm(_ _)m
王宮に到着した私は、ウィルにエスコートされて馬車を降りた。
今夜の夜会は、前回参加したトアール国との国交正常化の夜会とも比べ物にならない程に、大規模で華やかな雰囲気だった。
新国王の即位のお披露目なのだから、それも当然の事か。
会場入りして直ぐに、私達に声を掛けて来たのは南の辺境伯。
先日の娘の愚行を私達に詫びに来てくれたのだ。
どうやら王都に着いてから、ウィルがハミルトン伯爵家と南の辺境伯家へ抗議文を出したらしい。
婚約解消の件でもウィルに借りがあった南の辺境伯は、平身低頭だった。
ハミルトン伯爵も私達に挨拶に来て、妻の暴挙を詫びた。
だが肝心の本人は、遠目で私達の様子を不愉快そうに見ているだけ。
目が合うと鋭く睨みつけられて、そのままフンっと顔を逸らされた。
妖精の仮面が完全に剥がれてしまっている。あれでは折角の美しい容姿も台無しだ。
周囲の人々が彼女をチラチラと見ながら面白おかしく何かを囁いている事にも、どうやら気付いていないみたい。
因みに南の辺境伯は、近々嫡男に爵位を譲って隠居する方針らしい。
嫡男は姉であるハミルトン夫人をたいそう嫌っているらしく、今迄の様に傍若無人な振る舞いは出来なくなるだろうとの事。
辺境伯家の出身である事を笠に着て、横暴な振る舞いを繰り返しているそうだが、その後ろ盾を無くし、夫である伯爵とも上手くいかず、自慢の容姿だってその内に衰える。
……いや、もう既にピークは過ぎているのかも知れない。
今の考えを改めずにこのまま歳を重ねた場合、最終的に彼女には一体何が残るのだろうか?
そう考えると、腹立たしい存在であったはずの彼女の事を少しだけ哀れに思った。
開会して暫くすると、高位貴族や他国からの賓客を取り囲む貴族達の人集りが、会場のあちらこちらに出来始める。
なんとか有力者との縁を繋ごうと擦り寄る彼等はハイエナの様な目をしていて、やはり社交は苦手だなぁと思った。
だけど、今日は素敵な旦那様にエスコートをされているので、いつもよりは少し楽しい気分。
普段の騎士服も良いけど、夜会用の正装を身に纏ったウィルは、とても凛々しくて格好良い。
「そんなに見詰められると、穴が開きそうだな」
うっとりと眺めていたら微苦笑を浮かべたウィルと目が合った。
「……ごめんなさい」
慌てて視線を逸らしたのだけど……。
「ずっと見ていてくれても良かったのに、もう気が済んでしまったのか。
じゃあ次は、俺が美しい君の姿を堪能する番かな?」
耳元で囁いたウィルは、言葉の通りの蕩ける様な瞳を私に向けた。
熱い視線に晒されて、頬がジワジワと赤くなっていくのを感じる。
周囲が微かに騒めいた。
無表情で近寄り難い雰囲気のウィルに声を掛けて来る猛者は少ないが、普段滅多に社交に出ることの無い彼は、密かに注目されていたのだ。
その無表情が新たな婚約者(実は入籍済みだが、まだ発表はしていない)を伴って、甘い雰囲気を醸し出しているのだから、興味を引いてしまうのも当たり前だろう。
「さてと。気が進まないが、そろそろ俺達もヒューバートに挨拶に行かないとな」
「ええ、参りましょうか」
新国王陛下夫妻の元には、挨拶を待つ為の長い行列が出来ている。
上位の者から順番に、陛下に直接お祝いの言葉を述べる事が出来るのだ。
賓客や公爵家の挨拶が終わりかけており、次は侯爵家や辺境伯家の番だ。
『気が進まない』だなんて言っていたけれど、情に厚い彼が学生時代からの友人であるヒューバート陛下を大切に思っている事は明白だ。
「本日はおめでとうございます」
「ありがとう。
二人とも、よく来てくれたねぇ。
夫婦の仲も順調に深まってるみたいで、良かった良かった」
「ええ、本当にお似合いのご夫婦ですわね」
列に並んで暫し。
順番が巡って来て挨拶の口上を述べた私達に、ヒューバート陛下はいつも通りの軽い口調で話し掛けて来た。
妃殿下は陛下の言葉に麗しい微笑みを浮かべて頷いている。
初めて間近でお会いする妃殿下は、とても可愛らしいお顔立ちだが、よく見ると意思が強そうな目をしている。
公の場では一歩引いて夫を立てているが、実は手綱を握っているのは彼女の方なのかも知れない。
「はい。ありがたい事に、素晴らしい妻に恵まれましたので、今後は陛下にご心配をお掛けする事は無いと思います」
「これで西の辺境も安泰だな」
「今後は妻と共に、より一層国家の安全に寄与していきたいと存じます」
「うん、頼りにしているよ」
満足そうに頷くヒューバート陛下に辞去の挨拶をして立ち去ろうとしたのだが、呼び止められて「明日、二人で会いに来る様に」と命じられた。
ウィルはちょっと嫌そうに頷いた。
「ウィル、面倒臭いって顔に書いてある。
不敬に問われても知らないわよ」
「大丈夫だよ。俺の表情をそんなに読めるのはフェリシアくらいだか…ら……」
陛下の元から離れた私達の視界に見覚えのある人物が映り、思わず足を止めた。
ウィルの顔が、俄に険しさを増す。
「……フェリシア、久し振りだね」
私の心臓が、嫌な音をたてた。
少し泣きそうな顔で微笑んだのは、ジェフリーだった。
───────────────────
※ヒューバートの妻については連載開始当初は最後まで登場させない予定でしたが、流石に即位の夜会で国王の隣に居ないのも不自然かと思い、チラッとだけ登場させました。(物語には関わりません)
それに伴い、前半にヒューバートが既婚であることを示すシーンを加筆しました。
加筆によって、マーヴィンが更に失礼な奴になってしまいましたが、彼は姉思いなだけなので大目に見てあげてくださいm(_ _)m
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