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19 入学
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新緑が眩しい麗かな春の日。
いよいよ私は、念願の王立学園に入学する。
二度の人生を通して初の学園生活に胸を弾ませて、入学式に臨んだ。
「───、諸先輩方の教えを守り、伝統ある学園の一員として、責任ある行動を心がけて参りたいと思います」
全校生徒が注目する中。
壇上で爽やかに新入生代表の挨拶をしているのは、私の婚約者(仮)である。
彼は私と目が合うと、一瞬だけ甘やかな微笑みを浮かべた。
女子生徒が俄かにザワつく。
アチコチから憎しみの籠った視線を感じるのは、多分、気のせいでは無いだろう。
ああ、サヨナラ私の平和な学園生活。
フィルの婚約者になった時点で、こうなる事は分かってたけどね。
フィルが挨拶を終えた壇上には、麗しの第三者王子殿下が登場し、在校生代表の挨拶が始まった。
女子生徒達は、あっという間に壇上へと向き直り、熱視線を送っている。
切り替えの速さが素晴らしい。
そんな中、一人だけ壇上に目を向けずに私を睨み続ける女子生徒がいた事に、この時の私は気付いていなかった。
式典が終了し、各教室へと移動する為、生徒達はゾロゾロと講堂から出て行く。
まだ扉の周りは混雑しているので、のんびり出れば良いかと座ったままで様子を伺っていた。
「ディア、行かないの?」
式典中は別行動だったフィルが、私を見付けて駆け寄って来た。
「どうせあの混雑では、直ぐには出られないので、人が減るのを待ってました」
「丁度良かった。
あの人混みの中では、きっと見付けられなかったから。
一緒に教室に行こう」
「はい」
私はフィルが差し出した手を取った。
クラス分けは、入学前に行われたテストの成績順で決まる。
新入生代表のフィルは首席なので、勿論一番優秀なAクラス。
そして、一度目の人生で、お飾りとはいえ侯爵夫人となるべく、嫌になる程マナーや学業を叩き込まれた私も、なんとかAクラス入りした。
まあ、当時は飾っても貰えないお飾りの妻だったので、その成果を披露する場は皆無だったのだが。
フィルと手を繋いだまま教室に入ると、沢山の視線が突き刺さった。
Aクラスは、幼い頃から家庭教師に勉強を教わって来た高位貴族ばかりなのだ。
その中に私が混ざると異分子感が半端無い。
特に女生徒の視線は好意的な物では無かった。
「子爵令嬢がこのクラスに入るなんて、何かの間違いじゃない?」
「きっと、カンニングでもしたのだわ」
「お金で試験問題を買ったのかもしれないわね」
コソコソと内緒話風に交わされる女生徒の会話は、実は私の耳にもギリギリ届く音量に計算されていてタチが悪い。
彼女達は、きっと馬鹿なんだろうな。
私に嫌味を言うのは別に構わないのだけど・・・。
私の隣に誰が居るのか見えていないみたい。
それって、『試験で不正を働く様な女と婚約している』って意味になって、フィルに対してもめちゃくちゃ失礼だよね?
チラリと隣を見上げると、微笑むフィルから真っ黒なオーラが立ち昇っている幻が見えた。
怖っっ!
「何も知らない癖に勝手なこと言ってるけど、ディアは優秀だよ。
クラックソン公爵家の家庭教師のお墨付きだ。
当たり前の事だが、身分に関係なく頭の良い者は居る。
僕は、くだらない嫌味を言うしか脳が無い君達がこのクラスにいる事の方が不思議だ。
僕のディアに君達の馬鹿が感染るといけないから、今後は彼女には近付かないでくれ」
優しそうな微笑みを浮かべながら、その表情とは正反対の辛辣な言葉を吐き出すフィルに、彼女達は赤くなったり青くなったりして口をパクパクと開閉させた。
「ウフフッ」
背後から鈴を転がすような声が聞こえて振り向くと、丸い眼鏡をかけた知的な雰囲気の美女が口元を押さえて笑っていた。
「ああ、ごめんなさい。
フィリップ様が余りにも普段と違うからビックリしちゃって。
初めまして。
私、ローズマリー・アディントン。
よろしくね」
面白そうに私達を見ている彼女は、とても有名人だ。
アディントン公爵家のご令嬢で、第三王子殿下の婚約者である。
いよいよ私は、念願の王立学園に入学する。
二度の人生を通して初の学園生活に胸を弾ませて、入学式に臨んだ。
「───、諸先輩方の教えを守り、伝統ある学園の一員として、責任ある行動を心がけて参りたいと思います」
全校生徒が注目する中。
壇上で爽やかに新入生代表の挨拶をしているのは、私の婚約者(仮)である。
彼は私と目が合うと、一瞬だけ甘やかな微笑みを浮かべた。
女子生徒が俄かにザワつく。
アチコチから憎しみの籠った視線を感じるのは、多分、気のせいでは無いだろう。
ああ、サヨナラ私の平和な学園生活。
フィルの婚約者になった時点で、こうなる事は分かってたけどね。
フィルが挨拶を終えた壇上には、麗しの第三者王子殿下が登場し、在校生代表の挨拶が始まった。
女子生徒達は、あっという間に壇上へと向き直り、熱視線を送っている。
切り替えの速さが素晴らしい。
そんな中、一人だけ壇上に目を向けずに私を睨み続ける女子生徒がいた事に、この時の私は気付いていなかった。
式典が終了し、各教室へと移動する為、生徒達はゾロゾロと講堂から出て行く。
まだ扉の周りは混雑しているので、のんびり出れば良いかと座ったままで様子を伺っていた。
「ディア、行かないの?」
式典中は別行動だったフィルが、私を見付けて駆け寄って来た。
「どうせあの混雑では、直ぐには出られないので、人が減るのを待ってました」
「丁度良かった。
あの人混みの中では、きっと見付けられなかったから。
一緒に教室に行こう」
「はい」
私はフィルが差し出した手を取った。
クラス分けは、入学前に行われたテストの成績順で決まる。
新入生代表のフィルは首席なので、勿論一番優秀なAクラス。
そして、一度目の人生で、お飾りとはいえ侯爵夫人となるべく、嫌になる程マナーや学業を叩き込まれた私も、なんとかAクラス入りした。
まあ、当時は飾っても貰えないお飾りの妻だったので、その成果を披露する場は皆無だったのだが。
フィルと手を繋いだまま教室に入ると、沢山の視線が突き刺さった。
Aクラスは、幼い頃から家庭教師に勉強を教わって来た高位貴族ばかりなのだ。
その中に私が混ざると異分子感が半端無い。
特に女生徒の視線は好意的な物では無かった。
「子爵令嬢がこのクラスに入るなんて、何かの間違いじゃない?」
「きっと、カンニングでもしたのだわ」
「お金で試験問題を買ったのかもしれないわね」
コソコソと内緒話風に交わされる女生徒の会話は、実は私の耳にもギリギリ届く音量に計算されていてタチが悪い。
彼女達は、きっと馬鹿なんだろうな。
私に嫌味を言うのは別に構わないのだけど・・・。
私の隣に誰が居るのか見えていないみたい。
それって、『試験で不正を働く様な女と婚約している』って意味になって、フィルに対してもめちゃくちゃ失礼だよね?
チラリと隣を見上げると、微笑むフィルから真っ黒なオーラが立ち昇っている幻が見えた。
怖っっ!
「何も知らない癖に勝手なこと言ってるけど、ディアは優秀だよ。
クラックソン公爵家の家庭教師のお墨付きだ。
当たり前の事だが、身分に関係なく頭の良い者は居る。
僕は、くだらない嫌味を言うしか脳が無い君達がこのクラスにいる事の方が不思議だ。
僕のディアに君達の馬鹿が感染るといけないから、今後は彼女には近付かないでくれ」
優しそうな微笑みを浮かべながら、その表情とは正反対の辛辣な言葉を吐き出すフィルに、彼女達は赤くなったり青くなったりして口をパクパクと開閉させた。
「ウフフッ」
背後から鈴を転がすような声が聞こえて振り向くと、丸い眼鏡をかけた知的な雰囲気の美女が口元を押さえて笑っていた。
「ああ、ごめんなさい。
フィリップ様が余りにも普段と違うからビックリしちゃって。
初めまして。
私、ローズマリー・アディントン。
よろしくね」
面白そうに私達を見ている彼女は、とても有名人だ。
アディントン公爵家のご令嬢で、第三王子殿下の婚約者である。
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