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28 寵妃はだぁれ?
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《side:テオフィル》
夜会が続いているホールを離れ、別室に、父上、母上、オリヴァーと、それぞれの側近や騎士達、宰相などが揃った。
側妃は両手首を背中で縛られ、床に膝をついた状態で、二人の騎士に押さえ付けられている。
「何か申し開きたい事があるか?」
父上が側妃に問い掛ける。
その表情からは、何の感情も見えない。
「これは、何かの陰謀です。
私は嵌められただけなのです。
助けて下さいませ!」
大きな瞳に涙を浮かべて、側妃は自分の夫に必死で縋ろうとする。
だが、父上はどこまでも無表情だ。
いや、若干の嫌悪感さえ滲んでいるかもしれない。
「陰謀?誰の?どんな?
その証拠はどこにある?
オリヴァーが言った通り、先程のそなたの態度は、自分がテオフィルに毒を盛った犯人だと自白したも同然だったぞ。
あの場にいた誰もがそう思っている」
側妃は父上に泣き付けば助けて貰えるとでも思っていたのだろうか?
味方になってくれると信じていた夫に冷たく見捨てられ、ショックを受けているみたいだ。
「そ、そんな・・・・・・。
嫌よ、違う。信じてっ!
私の事を愛しているのなら・・・」
無実の証拠など提示出来る筈もなく、情に訴える作戦に出た側妃だったが、父上の次の一言で凍り付く事になる。
「愛していない」
「・・・・・・へ?」
想定外の答えだったのか、側妃は間抜けな声を出した。
「私が愛しているのは、王妃だ」
「「「はぁっ!?」」」
コレにはその場に居た全員が、思わず素っ頓狂な声を上げた。
国王の発言にこんな反応をするなんて、本来ならば不敬であるが、この場合は仕方がないだろう。
誰だってそんな反応になるさ。
だって、ふざけてるとしか思えない。
「既に立太子の儀も終えた、正式な王太子の暗殺未遂だ。
重い刑罰を覚悟しろ。
その前に、先ずは取り調べで実行犯や協力者を全て吐いてもらう」
さっきの衝撃発言が無かったかの様に、普通に側妃の処遇について語る父上。
側妃は父上の斜め上の発言に驚き過ぎて、抗う事すら忘れて呆然としている。
「直ぐに取り調べにかかれ」
「・・・・・・はっ!」
父上が側妃を拘束していた騎士にそう命じると、騎士は戸惑いながらも側妃を連れて出て行った。
名残惜しそうに何度か振り返っていたのは、この後の成り行きが気になって仕方ないからだろう。
その気持ちは良く分かる。
「さて、王妃よ」
側妃が連れ出されると、父上が母上に顔を向けた。
父上の頬はほんのりと赤く染まっている。
良い歳こいたオヤジが照れたって、可愛くねぇよ。
「先程の私の発言は本心だ」
父上が言うには、側妃への愛情はとうの昔に枯れていたらしい。
それは、彼女を側妃として娶って直ぐの事。
恋人時代は天真爛漫で可愛らしいと思っていたが、確かな地位を得た彼女は、我儘で傲慢で怠惰で金遣いが荒い本性を露わにした。
そして、側妃とは正反対に、真面目に公務に精を出す母上に、徐々に惹かれて行ったのだとか。
遅ればせながら、自分の気持ちの変化に気付いた父上だったが、思い通りにならないとヒステリックに喚き立てる側妃と向き合うのが面倒で、そのまま放置していたらしい。
母上との関係を改善しようにも、今更どう向き合えば良いのか分からず、こちらも放置。
それに加えて、正妃である母上は、僕を産んでから父上との閨を拒否している。
だから、夜は側妃の元へと通う。
それで周囲も側妃本人も、側妃が寵妃のままであるとずっと思っていたのだ。
うん。クズだな。
救いようが無い。
「だから、これからは仲の良い夫婦として・・・」
「お断りします」
母上はだいぶ食い気味に拒絶の言葉を吐き出した。
そりゃあ、そうなるだろう。
「えっ?」
「聞こえませんでしたか?
まあ、大変。
頭だけじゃなくて、お耳の調子も悪いのかしら?
では、もう一度だけ言いますね。
お・こ・と・わ・り・します!」
「・・・・・・」
「あぁ、勘違いしなで下さいませ。
離縁したいと言う意味ではありませんのよ。
ですが・・・・・・、
仲の良い夫婦って、何を今更・・・」
母上はここで一旦言葉を止めて、フッと鼻で笑った。
「私はこの国を愛しておりますし、王妃の公務にもやり甲斐を感じ、それなりに楽しんでおります。
ですから、これからも王妃として国を支える事に否やはありません。
仲の良い妻が欲しいのでしたら、どうぞ遠慮なさらずに、新しい側妃をお迎え下さいませ。
私にはこれからも、陛下の愛情は必要ありません。
何も女の幸せは、結婚や恋愛だけではごさいませんから」
嫣然と微笑みながら言い放った母上は、侍女を引き連れてサッサと部屋を出て行った。
後に残された父上は、「そんな・・・」と呟いて崩れ落ちた。
いや、何故上手く行くと思った?
普通に拒否られるだろう。
一応言っておくと、父上は愚かな人間では無い。
(今、このタイミングで言っても、何の説得力も無いだろうけど)
国王としての執務は完璧にこなすし、政治的な判断も滅多に間違わない。
他国との交渉事も、常に有利に進める。
臣下からの信頼も厚く、尊敬を集める立派な王なのだ。
だが、しかし・・・・・・
恋愛感情が絡むと、途端にダメ人間になる。
あの女を側妃に選んだのが良い例だ。
父上には、母上の愛情を得る事は諦めて、新しい側妃を探して欲しい。
今迄、側妃の分まで執務を押し付けられて、多忙を極めている母上を、これ以上煩わせないで頂きたい。
願わくば、次の側妃は、王妃の執務のサポートをしてくれる様なまともな女性を選んで貰いたい物だ。
夜会が続いているホールを離れ、別室に、父上、母上、オリヴァーと、それぞれの側近や騎士達、宰相などが揃った。
側妃は両手首を背中で縛られ、床に膝をついた状態で、二人の騎士に押さえ付けられている。
「何か申し開きたい事があるか?」
父上が側妃に問い掛ける。
その表情からは、何の感情も見えない。
「これは、何かの陰謀です。
私は嵌められただけなのです。
助けて下さいませ!」
大きな瞳に涙を浮かべて、側妃は自分の夫に必死で縋ろうとする。
だが、父上はどこまでも無表情だ。
いや、若干の嫌悪感さえ滲んでいるかもしれない。
「陰謀?誰の?どんな?
その証拠はどこにある?
オリヴァーが言った通り、先程のそなたの態度は、自分がテオフィルに毒を盛った犯人だと自白したも同然だったぞ。
あの場にいた誰もがそう思っている」
側妃は父上に泣き付けば助けて貰えるとでも思っていたのだろうか?
味方になってくれると信じていた夫に冷たく見捨てられ、ショックを受けているみたいだ。
「そ、そんな・・・・・・。
嫌よ、違う。信じてっ!
私の事を愛しているのなら・・・」
無実の証拠など提示出来る筈もなく、情に訴える作戦に出た側妃だったが、父上の次の一言で凍り付く事になる。
「愛していない」
「・・・・・・へ?」
想定外の答えだったのか、側妃は間抜けな声を出した。
「私が愛しているのは、王妃だ」
「「「はぁっ!?」」」
コレにはその場に居た全員が、思わず素っ頓狂な声を上げた。
国王の発言にこんな反応をするなんて、本来ならば不敬であるが、この場合は仕方がないだろう。
誰だってそんな反応になるさ。
だって、ふざけてるとしか思えない。
「既に立太子の儀も終えた、正式な王太子の暗殺未遂だ。
重い刑罰を覚悟しろ。
その前に、先ずは取り調べで実行犯や協力者を全て吐いてもらう」
さっきの衝撃発言が無かったかの様に、普通に側妃の処遇について語る父上。
側妃は父上の斜め上の発言に驚き過ぎて、抗う事すら忘れて呆然としている。
「直ぐに取り調べにかかれ」
「・・・・・・はっ!」
父上が側妃を拘束していた騎士にそう命じると、騎士は戸惑いながらも側妃を連れて出て行った。
名残惜しそうに何度か振り返っていたのは、この後の成り行きが気になって仕方ないからだろう。
その気持ちは良く分かる。
「さて、王妃よ」
側妃が連れ出されると、父上が母上に顔を向けた。
父上の頬はほんのりと赤く染まっている。
良い歳こいたオヤジが照れたって、可愛くねぇよ。
「先程の私の発言は本心だ」
父上が言うには、側妃への愛情はとうの昔に枯れていたらしい。
それは、彼女を側妃として娶って直ぐの事。
恋人時代は天真爛漫で可愛らしいと思っていたが、確かな地位を得た彼女は、我儘で傲慢で怠惰で金遣いが荒い本性を露わにした。
そして、側妃とは正反対に、真面目に公務に精を出す母上に、徐々に惹かれて行ったのだとか。
遅ればせながら、自分の気持ちの変化に気付いた父上だったが、思い通りにならないとヒステリックに喚き立てる側妃と向き合うのが面倒で、そのまま放置していたらしい。
母上との関係を改善しようにも、今更どう向き合えば良いのか分からず、こちらも放置。
それに加えて、正妃である母上は、僕を産んでから父上との閨を拒否している。
だから、夜は側妃の元へと通う。
それで周囲も側妃本人も、側妃が寵妃のままであるとずっと思っていたのだ。
うん。クズだな。
救いようが無い。
「だから、これからは仲の良い夫婦として・・・」
「お断りします」
母上はだいぶ食い気味に拒絶の言葉を吐き出した。
そりゃあ、そうなるだろう。
「えっ?」
「聞こえませんでしたか?
まあ、大変。
頭だけじゃなくて、お耳の調子も悪いのかしら?
では、もう一度だけ言いますね。
お・こ・と・わ・り・します!」
「・・・・・・」
「あぁ、勘違いしなで下さいませ。
離縁したいと言う意味ではありませんのよ。
ですが・・・・・・、
仲の良い夫婦って、何を今更・・・」
母上はここで一旦言葉を止めて、フッと鼻で笑った。
「私はこの国を愛しておりますし、王妃の公務にもやり甲斐を感じ、それなりに楽しんでおります。
ですから、これからも王妃として国を支える事に否やはありません。
仲の良い妻が欲しいのでしたら、どうぞ遠慮なさらずに、新しい側妃をお迎え下さいませ。
私にはこれからも、陛下の愛情は必要ありません。
何も女の幸せは、結婚や恋愛だけではごさいませんから」
嫣然と微笑みながら言い放った母上は、侍女を引き連れてサッサと部屋を出て行った。
後に残された父上は、「そんな・・・」と呟いて崩れ落ちた。
いや、何故上手く行くと思った?
普通に拒否られるだろう。
一応言っておくと、父上は愚かな人間では無い。
(今、このタイミングで言っても、何の説得力も無いだろうけど)
国王としての執務は完璧にこなすし、政治的な判断も滅多に間違わない。
他国との交渉事も、常に有利に進める。
臣下からの信頼も厚く、尊敬を集める立派な王なのだ。
だが、しかし・・・・・・
恋愛感情が絡むと、途端にダメ人間になる。
あの女を側妃に選んだのが良い例だ。
父上には、母上の愛情を得る事は諦めて、新しい側妃を探して欲しい。
今迄、側妃の分まで執務を押し付けられて、多忙を極めている母上を、これ以上煩わせないで頂きたい。
願わくば、次の側妃は、王妃の執務のサポートをしてくれる様なまともな女性を選んで貰いたい物だ。
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