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19 予想外の再会
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「これがリチャードが贈ったドレスね?
見事に彼の瞳の色だわ」
ソフィー様は少し呆れたような表情で、私のドレスを眺めた。
「やっぱり、ソフィー様がドレスの店を教えたのですね?」
「うふふ。バレちゃった?
だって、学生の頃から一途だったリチャードを見てたら、つい応援したくなっちゃって・・・」
「そんなに前から、リチャード様のお気持ちをご存知だったのですか!?」
「直接聞いたわけじゃないけれど、わかり易いんだもの。
あんなに無口で無愛想な男が、メルの事ばかり気にしているのだから、気付かない方がおかしいわ。
メルが鈍いのよ。
・・・あぁ、でも、そのメルが自覚してるって事は、ちゃんと告白したのね。
朴念仁だと思ってだけど、やる時はやるのね」
リチャード様は、誰にでも親切でフレンドリーな方なのかと思っていたのに、ソフィー様の評価は全く違っていた。
私は淑女らしくなく、口をポカンと開けてしまった。
暫くソフィー様と談笑していると・・・
「メリッサ!!」
ここに居る筈のない懐かしい声が、私の名を読んだ。
「サミュエル様っ!?
どうなさったのですか?
いつこちらに戻られたのです?」
「三日前だ。
実は、魔力欠乏症が完治したんだよ!」
サミュエル様は周囲を気にして声量を落としながら、嬉しそうに報告した。
「本当ですか!?」
「ああ、あちらの大聖女さまが作る特別な魔術薬なら、治せるかもしれないと知ってね。
神殿にお願いして薬を譲って貰ったら、魔力の器が修復できたんだ。
やっと普通の生活が送れるようになったんだよ!」
「成る程、魔術薬か・・・・・・」
サミュエル様の言葉を聞いたソフィー様は、ちょっと難しい顔で考え込んでいたが、この時の私は気付かなかった。
彼の苦労をずっと近くで見守っていた私にとって、魔力欠乏症の完治はとても嬉しいニュースだった。
「おめでとうございます、サミュエル様」
「ありがとう」
私を見つめる彼の瞳には、いつの間にか、今まで私に向けられた事がない熱が宿っているように見えた。
まるで聖女セアラに初めて会った時の様に・・・・・・。
それに気づいてしまった私は、動揺して顔が熱くなるのを感じる。
そしてサミュエル様は、あの頃のように私の手を取った。
ーーー何これ?どういう事?
拒絶を示す為、やんわりとその手を離すと、彼は悲しそうな顔をした。
「僕が馬鹿だった。
今更、僕がした事を帳消しには出来ないとわかっているが、それでも君に謝りたい。
君は何時でも僕を大切にしてくれていたのに・・・」
違う。
それは実家への援助のためだ。
私が一番大切にしていたのは家族であって、サミュエル様ではない。
「メリッサ、離れてみて気付いたんだ。
僕は君の事が・・・」
「サミュエル!」
サミュエル様の台詞を遮る様に、低く苛立ったような声が割り込んだ。
振り返ると、大股でこちらに向かうリチャード様。
私と目が合うと、その瞳に一瞬悲しみの色が浮かぶ。
彼は私を背中に隠すように間に入り、サミュエル様と向かい合った。
「サミュエル、お前はもうメリッサを手放したのだろう?
今は俺が口説いている所だ。
彼女に近付くのは遠慮して欲しい」
「嘘だろ・・・・・・何故リチャードが?
メリッサは、僕の元婚約者なのに・・・」
「元、ならば問題無いだろう。
もうお前とメリッサは何の関係もない筈だ。
大体、お前が身勝手な婚約解消をしたせいで、メリッサがどんな心無い噂をされていたか、想像がつかないわけじゃないだろう?
今更、何も無かった様に現れても、迷惑だ」
迷惑・・・とまでは言わないけど、私も今更遅いとは思う。
それに、聖女セアラはどうしたのだろう?
あんなに激しく恋に堕ちて、色々な物を犠牲にしたのに、もう冷めてしまったのだろうか?
「やっと見つけたわ!」
鈴を転がすような愛らしい声に振り返ると、聖女セアラが神官を一人伴って、小走りで寄ってくる所だった。
何故彼女まで、ここに居るのか?
もうカオスだ。
「サミュエル、わざわざ迎えに来てあげたのよ?
私と一緒に帰りましょう」
ああ、帰国してしまったサミュエル様を追いかけて来たって事か。
「セアラ。君とはもう別れた筈だ」
「私はそんな事認めていないわ。
私の事を愛してるって言ってた癖に」
「君が認めようが認めまいが、僕はもう隣国へは行かない。
愛なんて只の気の迷いだった。
君だって、僕の事を愛してなどいないはずだ。
君のアクセサリーになるのは、もう真っ平なんだよ」
「は!?何なの?失礼な男ねっっ!
・・・・・・あら?貴方もとても男前。
私、美しい男性が好みなの。
もうサミュエルはいいわ。
代わりに貴方を私の国に連れて帰ってあげる」
聖女セアラの視線がリチャード様に移った。
聖女は彼に腕を絡ませようとするが、振り払われる。
初めて会った時から、なんとなく性格が悪そうだとは思っていたけど、こういうタイプだったのか。
想像以上だ。
「何故俺が、愛するメリッサを置いて、お前の様な下品な女と出国しなければならない?」
リチャード様は私を腕に閉じ込めながら、怒気を孕んだ声で聖女を威嚇した。
そこで、彼女は漸く私の存在に気付いた様で・・・
「よく見たらアンタ、サミュエルの元婚約者じゃない!?
何よっ、こんな地味な女の何処が良いのっ!?」
聖女が私を罵倒した瞬間、冷んやりとした空気が漂った。
「もう一度言ってみろ」
リチャード様の地を這うような低い声に、聖女の肩がビクッと震えた。
一触即発の様子に、慌てたお付きの神官が聖女を守る様に前に出る。
「すっ、すみません!
ごめんなさい!!
セアラ様はちゃんと連れて帰りますから・・・」
そう言いながら、彼女を引き摺って出て行った。
聖女セアラは最後まで何か喚いていたが、もうどうでも良い。
私たち四人はグッタリと項垂れて、ため息を吐いた。
聖女、自由過ぎるだろ。
見事に彼の瞳の色だわ」
ソフィー様は少し呆れたような表情で、私のドレスを眺めた。
「やっぱり、ソフィー様がドレスの店を教えたのですね?」
「うふふ。バレちゃった?
だって、学生の頃から一途だったリチャードを見てたら、つい応援したくなっちゃって・・・」
「そんなに前から、リチャード様のお気持ちをご存知だったのですか!?」
「直接聞いたわけじゃないけれど、わかり易いんだもの。
あんなに無口で無愛想な男が、メルの事ばかり気にしているのだから、気付かない方がおかしいわ。
メルが鈍いのよ。
・・・あぁ、でも、そのメルが自覚してるって事は、ちゃんと告白したのね。
朴念仁だと思ってだけど、やる時はやるのね」
リチャード様は、誰にでも親切でフレンドリーな方なのかと思っていたのに、ソフィー様の評価は全く違っていた。
私は淑女らしくなく、口をポカンと開けてしまった。
暫くソフィー様と談笑していると・・・
「メリッサ!!」
ここに居る筈のない懐かしい声が、私の名を読んだ。
「サミュエル様っ!?
どうなさったのですか?
いつこちらに戻られたのです?」
「三日前だ。
実は、魔力欠乏症が完治したんだよ!」
サミュエル様は周囲を気にして声量を落としながら、嬉しそうに報告した。
「本当ですか!?」
「ああ、あちらの大聖女さまが作る特別な魔術薬なら、治せるかもしれないと知ってね。
神殿にお願いして薬を譲って貰ったら、魔力の器が修復できたんだ。
やっと普通の生活が送れるようになったんだよ!」
「成る程、魔術薬か・・・・・・」
サミュエル様の言葉を聞いたソフィー様は、ちょっと難しい顔で考え込んでいたが、この時の私は気付かなかった。
彼の苦労をずっと近くで見守っていた私にとって、魔力欠乏症の完治はとても嬉しいニュースだった。
「おめでとうございます、サミュエル様」
「ありがとう」
私を見つめる彼の瞳には、いつの間にか、今まで私に向けられた事がない熱が宿っているように見えた。
まるで聖女セアラに初めて会った時の様に・・・・・・。
それに気づいてしまった私は、動揺して顔が熱くなるのを感じる。
そしてサミュエル様は、あの頃のように私の手を取った。
ーーー何これ?どういう事?
拒絶を示す為、やんわりとその手を離すと、彼は悲しそうな顔をした。
「僕が馬鹿だった。
今更、僕がした事を帳消しには出来ないとわかっているが、それでも君に謝りたい。
君は何時でも僕を大切にしてくれていたのに・・・」
違う。
それは実家への援助のためだ。
私が一番大切にしていたのは家族であって、サミュエル様ではない。
「メリッサ、離れてみて気付いたんだ。
僕は君の事が・・・」
「サミュエル!」
サミュエル様の台詞を遮る様に、低く苛立ったような声が割り込んだ。
振り返ると、大股でこちらに向かうリチャード様。
私と目が合うと、その瞳に一瞬悲しみの色が浮かぶ。
彼は私を背中に隠すように間に入り、サミュエル様と向かい合った。
「サミュエル、お前はもうメリッサを手放したのだろう?
今は俺が口説いている所だ。
彼女に近付くのは遠慮して欲しい」
「嘘だろ・・・・・・何故リチャードが?
メリッサは、僕の元婚約者なのに・・・」
「元、ならば問題無いだろう。
もうお前とメリッサは何の関係もない筈だ。
大体、お前が身勝手な婚約解消をしたせいで、メリッサがどんな心無い噂をされていたか、想像がつかないわけじゃないだろう?
今更、何も無かった様に現れても、迷惑だ」
迷惑・・・とまでは言わないけど、私も今更遅いとは思う。
それに、聖女セアラはどうしたのだろう?
あんなに激しく恋に堕ちて、色々な物を犠牲にしたのに、もう冷めてしまったのだろうか?
「やっと見つけたわ!」
鈴を転がすような愛らしい声に振り返ると、聖女セアラが神官を一人伴って、小走りで寄ってくる所だった。
何故彼女まで、ここに居るのか?
もうカオスだ。
「サミュエル、わざわざ迎えに来てあげたのよ?
私と一緒に帰りましょう」
ああ、帰国してしまったサミュエル様を追いかけて来たって事か。
「セアラ。君とはもう別れた筈だ」
「私はそんな事認めていないわ。
私の事を愛してるって言ってた癖に」
「君が認めようが認めまいが、僕はもう隣国へは行かない。
愛なんて只の気の迷いだった。
君だって、僕の事を愛してなどいないはずだ。
君のアクセサリーになるのは、もう真っ平なんだよ」
「は!?何なの?失礼な男ねっっ!
・・・・・・あら?貴方もとても男前。
私、美しい男性が好みなの。
もうサミュエルはいいわ。
代わりに貴方を私の国に連れて帰ってあげる」
聖女セアラの視線がリチャード様に移った。
聖女は彼に腕を絡ませようとするが、振り払われる。
初めて会った時から、なんとなく性格が悪そうだとは思っていたけど、こういうタイプだったのか。
想像以上だ。
「何故俺が、愛するメリッサを置いて、お前の様な下品な女と出国しなければならない?」
リチャード様は私を腕に閉じ込めながら、怒気を孕んだ声で聖女を威嚇した。
そこで、彼女は漸く私の存在に気付いた様で・・・
「よく見たらアンタ、サミュエルの元婚約者じゃない!?
何よっ、こんな地味な女の何処が良いのっ!?」
聖女が私を罵倒した瞬間、冷んやりとした空気が漂った。
「もう一度言ってみろ」
リチャード様の地を這うような低い声に、聖女の肩がビクッと震えた。
一触即発の様子に、慌てたお付きの神官が聖女を守る様に前に出る。
「すっ、すみません!
ごめんなさい!!
セアラ様はちゃんと連れて帰りますから・・・」
そう言いながら、彼女を引き摺って出て行った。
聖女セアラは最後まで何か喚いていたが、もうどうでも良い。
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聖女、自由過ぎるだろ。
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2022.10.18 設定を追記しました。
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