20 / 24
20 私の想い
しおりを挟む
「なんだか、凄い人だったわね。
聖女ってあんな感じの人もいるのね。
敬う気が失せるわ・・・・・・」
思わず呟いたソフィー様に、皆んなが首を縦に振る。
「他の聖女様達は、普通に人格者だったんだけどねぇ」
「サミュエル、貴方、あんな人のどこを好きになったのかしら?
ちょっと女性の趣味が悪いのではなくて?」
「僕だって反省してるんだよ。
次からはもう、見た目だけで恋をしたりしない」
「そう。それなら少し安心したわ。
まあ、過ぎた事は仕方ないから、勉強になったとでも思う事ね」
ソフィー様はカラリと笑う。
リチャード様は、未だに少しだけ不機嫌そうな空気を纏っていた。
ソフィー様とサミュエル様のテンポの良いやり取りを聞きながら、然りげ無くリチャード様の腕に手を添えて、お顔を覗き込むと、先程までの不機嫌な空気が霧散する。
視線を合わせて微笑む私達を、サミュエル様が少し寂しそうに見ていた。
「済まなかった。
・・・その、勝手にサミュエルに〝近付くな〟とか〝迷惑だ〟とか言ってしまって」
お兄様に早めに帰ると約束していた私達は、一足早く夜会を抜け出した。
私を送る馬車の中で、リチャード様が俯きながら呟いた。
「いいえ。私も随分と勝手だなって思いましたもの」
「メリッサ。君が好きなんだ。
頼むから・・・俺を、選んでくれないか?
・・・・・・サミュエルじゃなく」
真っ直ぐに向けられた言葉に、胸の奥が甘く疼いた。
私の手を握りしめたリチャード様の指先は酷く冷たくて・・・。
「・・・何故、そんなに私の事を想ってくださるのですか?」
それは告白された時から、ずっと感じていた疑問。
私は彼に好かれる心当たりが全くなかった。
「なんでだろう?
・・・・・・理不尽な目にあっても他人を頼ろうとせずに、いつも一人で凛と立っている君が眩しかった。
それと同時に、何も出来ない自分が歯痒くて仕方なかったんだ。
だから、一番近くで君を守る権利が欲しいのかな。
・・・ちょっと頼り無いかも知れないけどね」
リチャード様は、自嘲気味に笑った。
いつもは自信に満ちた彼の弱気な表情を見ていたら、嬉しさと苦しさが混じったような、複雑な感情が湧き上がる。
リチャード様は公爵家の嫡男だ。
サミュエル様の時のように、特別な事情でも無ければ、私の手が届く人ではない。
私が彼に与えられる物など何も無く、寧ろ不利益しかもたらさない存在なのだ。
この人は、サミュエル様と違って、私の助けなど必要無いのだから・・・。
貴族同士の結婚は、当人の想いがあっても、どうにもならない場合が多い。
彼がどんなに望んでくれたとしても、身分の低い私は、最終的には選ばれる事はないだろう。
ーーーだけど・・・・・・
「私も、リチャード様が好きです」
「・・・・・・っっ!?」
自然に口から溢れた私の言葉に、リチャード様は青い瞳を大きく見開いたまま固まった。
「リチャード様?」
「あ・・・、あぁ、済まない。
振られると覚悟していたから、かなり驚いてしまって・・・・・・」
「そんなに意外ですか?」
「さっき・・・サミュエルと再会した時に、君が嬉しそうな顔をしていたのを見てしまったんだ。
それに、サミュエルに手を握られて、頬を染めていただろう?
だから、君はまだ、彼の事が・・・」
リチャード様の瞳が不安に揺れる。
私は慌てて首を横に振った。
「違います!それは、違うのです。
色々と複雑な事情が・・・・・・っ」
・・・・・・言えない。
それを説明するには、魔力欠乏症の事を話さなければいけないのだ。
全てを打ち明けてしまいたいけれど、スタンリー公爵家との契約が私を縛る。
「事情って?」
「済みません。今は・・・何も話せないのです」
蚊の鳴くような声で呟いた私を抱き寄せると、リチャード様は深く息を吐いた。
「・・・分かった。聞かない。
今は、俺を選んでくれただけで満足する事にするよ」
花祭りの時にも感じたリチャード様の香水が、仄かに香る。
ソワソワと落ち着かないのに、ずっとこのままでいたいような、不思議な気持ちだ。
私の心臓が煩いくらいに脈打っているが、リチャード様の胸からも、同じ速さの音が聞こえた。
今までの私は〝幸せな婚約者を演じる〟という契約を履行する為に、他に恋をする事など許されなかった。
いや、実際サミュエル様の婚約者生活は大変過ぎて、余計な事を考える暇もなかった。
その前にも、私には幼い頃から別の婚約者がいたから、恋など出来る立場ではなかった。
だから、これが私にとっての初恋なのだ。
初恋の味は、甘酸っぱいとかよく聞くけど、私の場合は甘くて、・・・苦い。
ーーー私達の間に、きっと未来は無いのだ。
それは痛いほど分かっているけれど・・・・・・
今だけは、この幸せに浸っていたい。
聖女ってあんな感じの人もいるのね。
敬う気が失せるわ・・・・・・」
思わず呟いたソフィー様に、皆んなが首を縦に振る。
「他の聖女様達は、普通に人格者だったんだけどねぇ」
「サミュエル、貴方、あんな人のどこを好きになったのかしら?
ちょっと女性の趣味が悪いのではなくて?」
「僕だって反省してるんだよ。
次からはもう、見た目だけで恋をしたりしない」
「そう。それなら少し安心したわ。
まあ、過ぎた事は仕方ないから、勉強になったとでも思う事ね」
ソフィー様はカラリと笑う。
リチャード様は、未だに少しだけ不機嫌そうな空気を纏っていた。
ソフィー様とサミュエル様のテンポの良いやり取りを聞きながら、然りげ無くリチャード様の腕に手を添えて、お顔を覗き込むと、先程までの不機嫌な空気が霧散する。
視線を合わせて微笑む私達を、サミュエル様が少し寂しそうに見ていた。
「済まなかった。
・・・その、勝手にサミュエルに〝近付くな〟とか〝迷惑だ〟とか言ってしまって」
お兄様に早めに帰ると約束していた私達は、一足早く夜会を抜け出した。
私を送る馬車の中で、リチャード様が俯きながら呟いた。
「いいえ。私も随分と勝手だなって思いましたもの」
「メリッサ。君が好きなんだ。
頼むから・・・俺を、選んでくれないか?
・・・・・・サミュエルじゃなく」
真っ直ぐに向けられた言葉に、胸の奥が甘く疼いた。
私の手を握りしめたリチャード様の指先は酷く冷たくて・・・。
「・・・何故、そんなに私の事を想ってくださるのですか?」
それは告白された時から、ずっと感じていた疑問。
私は彼に好かれる心当たりが全くなかった。
「なんでだろう?
・・・・・・理不尽な目にあっても他人を頼ろうとせずに、いつも一人で凛と立っている君が眩しかった。
それと同時に、何も出来ない自分が歯痒くて仕方なかったんだ。
だから、一番近くで君を守る権利が欲しいのかな。
・・・ちょっと頼り無いかも知れないけどね」
リチャード様は、自嘲気味に笑った。
いつもは自信に満ちた彼の弱気な表情を見ていたら、嬉しさと苦しさが混じったような、複雑な感情が湧き上がる。
リチャード様は公爵家の嫡男だ。
サミュエル様の時のように、特別な事情でも無ければ、私の手が届く人ではない。
私が彼に与えられる物など何も無く、寧ろ不利益しかもたらさない存在なのだ。
この人は、サミュエル様と違って、私の助けなど必要無いのだから・・・。
貴族同士の結婚は、当人の想いがあっても、どうにもならない場合が多い。
彼がどんなに望んでくれたとしても、身分の低い私は、最終的には選ばれる事はないだろう。
ーーーだけど・・・・・・
「私も、リチャード様が好きです」
「・・・・・・っっ!?」
自然に口から溢れた私の言葉に、リチャード様は青い瞳を大きく見開いたまま固まった。
「リチャード様?」
「あ・・・、あぁ、済まない。
振られると覚悟していたから、かなり驚いてしまって・・・・・・」
「そんなに意外ですか?」
「さっき・・・サミュエルと再会した時に、君が嬉しそうな顔をしていたのを見てしまったんだ。
それに、サミュエルに手を握られて、頬を染めていただろう?
だから、君はまだ、彼の事が・・・」
リチャード様の瞳が不安に揺れる。
私は慌てて首を横に振った。
「違います!それは、違うのです。
色々と複雑な事情が・・・・・・っ」
・・・・・・言えない。
それを説明するには、魔力欠乏症の事を話さなければいけないのだ。
全てを打ち明けてしまいたいけれど、スタンリー公爵家との契約が私を縛る。
「事情って?」
「済みません。今は・・・何も話せないのです」
蚊の鳴くような声で呟いた私を抱き寄せると、リチャード様は深く息を吐いた。
「・・・分かった。聞かない。
今は、俺を選んでくれただけで満足する事にするよ」
花祭りの時にも感じたリチャード様の香水が、仄かに香る。
ソワソワと落ち着かないのに、ずっとこのままでいたいような、不思議な気持ちだ。
私の心臓が煩いくらいに脈打っているが、リチャード様の胸からも、同じ速さの音が聞こえた。
今までの私は〝幸せな婚約者を演じる〟という契約を履行する為に、他に恋をする事など許されなかった。
いや、実際サミュエル様の婚約者生活は大変過ぎて、余計な事を考える暇もなかった。
その前にも、私には幼い頃から別の婚約者がいたから、恋など出来る立場ではなかった。
だから、これが私にとっての初恋なのだ。
初恋の味は、甘酸っぱいとかよく聞くけど、私の場合は甘くて、・・・苦い。
ーーー私達の間に、きっと未来は無いのだ。
それは痛いほど分かっているけれど・・・・・・
今だけは、この幸せに浸っていたい。
126
あなたにおすすめの小説
【完結】婚約破棄して泥を投げつけた元婚約者が「無能」と笑う中、光り輝く幼なじみの王子に掠め取られました。
ムラサメ
恋愛
「お前のような無能、我が家には不要だ。今すぐ消えろ!」
婚約者・エドワードのために身を粉にして尽くしてきたフィオナは、卒業パーティーの夜、雨の中に放り出される。
泥にまみれ、絶望に沈む彼女の前に現れたのは、かつての幼なじみであり、今や国中から愛される「黄金の王子」シリルだった。
「やっと見つけた。……ねえ、フィオナ。あんなゴミに君を傷つけさせるなんて、僕の落ち度だね」
汚れを厭わずフィオナを抱き上げたシリルは、彼女を自分の屋敷へと連れ帰る。
「自分には価値がない」と思い込むフィオナを、シリルは異常なまでの執着と甘い言葉で、とろけるように溺愛し始めて――。
一方で、フィオナを捨てたエドワードは気づいていなかった。
自分の手柄だと思っていた仕事も、領地の繁栄も、すべてはフィオナの才能によるものだったということに。
ボロボロになっていく元婚約者。美しく着飾られ、シリルの腕の中で幸せに微笑むフィオナ。
「僕の星を捨てた報い、たっぷりと受けてもらうよ?」
圧倒的な光を放つ幼なじみによる、最高に華やかな逆転劇がいま始まる!
氷の王弟殿下から婚約破棄を突き付けられました。理由は聖女と結婚するからだそうです。
吉川一巳
恋愛
ビビは婚約者である氷の王弟イライアスが大嫌いだった。なぜなら彼は会う度にビビの化粧や服装にケチをつけてくるからだ。しかし、こんな婚約耐えられないと思っていたところ、国を揺るがす大事件が起こり、イライアスから神の国から召喚される聖女と結婚しなくてはいけなくなったから破談にしたいという申し出を受ける。内心大喜びでその話を受け入れ、そのままの勢いでビビは神官となるのだが、招かれた聖女には問題があって……。小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。
今更困りますわね、廃妃の私に戻ってきて欲しいだなんて
nanahi
恋愛
陰謀により廃妃となったカーラ。最愛の王と会えないまま、ランダム転送により異世界【日本国】へ流罪となる。ところがある日、元の世界から迎えの使者がやって来た。盾の神獣の加護を受けるカーラがいなくなったことで、王国の守りの力が弱まり、凶悪モンスターが大繁殖。王国を救うため、カーラに戻ってきてほしいと言うのだ。カーラは日本の便利グッズを手にチート能力でモンスターと戦うのだが…
お飾りの婚約者で結構です! 殿下のことは興味ありませんので、お構いなく!
にのまえ
恋愛
すでに寵愛する人がいる、殿下の婚約候補決めの舞踏会を開くと、王家の勅命がドーリング公爵家に届くも、姉のミミリアは嫌がった。
公爵家から一人娘という言葉に、舞踏会に参加することになった、ドーリング公爵家の次女・ミーシャ。
家族の中で“役立たず”と蔑まれ、姉の身代わりとして差し出された彼女の唯一の望みは――「舞踏会で、美味しい料理を食べること」。
だが、そんな慎ましい願いとは裏腹に、
舞踏会の夜、思いもよらぬ出来事が起こりミーシャは前世、読んでいた小説の世界だと気付く。
聖女に負けた侯爵令嬢 (よくある婚約解消もののおはなし)
蒼あかり
恋愛
ティアナは女王主催の茶会で、婚約者である王子クリストファーから婚約解消を告げられる。そして、彼の隣には聖女であるローズの姿が。
聖女として国民に、そしてクリストファーから愛されるローズ。クリストファーとともに並ぶ聖女ローズは美しく眩しいほどだ。そんな二人を見せつけられ、いつしかティアナの中に諦めにも似た思いが込み上げる。
愛する人のために王子妃として支える覚悟を持ってきたのに、それが叶わぬのならその立場を辞したいと願うのに、それが叶う事はない。
いつしか公爵家のアシュトンをも巻き込み、泥沼の様相に……。
ラストは賛否両論あると思います。納得できない方もいらっしゃると思います。
それでも最後まで読んでいただけるとありがたいです。
心より感謝いたします。愛を込めて、ありがとうございました。
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる