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20 私の想い
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「なんだか、凄い人だったわね。
聖女ってあんな感じの人もいるのね。
敬う気が失せるわ・・・・・・」
思わず呟いたソフィー様に、皆んなが首を縦に振る。
「他の聖女様達は、普通に人格者だったんだけどねぇ」
「サミュエル、貴方、あんな人のどこを好きになったのかしら?
ちょっと女性の趣味が悪いのではなくて?」
「僕だって反省してるんだよ。
次からはもう、見た目だけで恋をしたりしない」
「そう。それなら少し安心したわ。
まあ、過ぎた事は仕方ないから、勉強になったとでも思う事ね」
ソフィー様はカラリと笑う。
リチャード様は、未だに少しだけ不機嫌そうな空気を纏っていた。
ソフィー様とサミュエル様のテンポの良いやり取りを聞きながら、然りげ無くリチャード様の腕に手を添えて、お顔を覗き込むと、先程までの不機嫌な空気が霧散する。
視線を合わせて微笑む私達を、サミュエル様が少し寂しそうに見ていた。
「済まなかった。
・・・その、勝手にサミュエルに〝近付くな〟とか〝迷惑だ〟とか言ってしまって」
お兄様に早めに帰ると約束していた私達は、一足早く夜会を抜け出した。
私を送る馬車の中で、リチャード様が俯きながら呟いた。
「いいえ。私も随分と勝手だなって思いましたもの」
「メリッサ。君が好きなんだ。
頼むから・・・俺を、選んでくれないか?
・・・・・・サミュエルじゃなく」
真っ直ぐに向けられた言葉に、胸の奥が甘く疼いた。
私の手を握りしめたリチャード様の指先は酷く冷たくて・・・。
「・・・何故、そんなに私の事を想ってくださるのですか?」
それは告白された時から、ずっと感じていた疑問。
私は彼に好かれる心当たりが全くなかった。
「なんでだろう?
・・・・・・理不尽な目にあっても他人を頼ろうとせずに、いつも一人で凛と立っている君が眩しかった。
それと同時に、何も出来ない自分が歯痒くて仕方なかったんだ。
だから、一番近くで君を守る権利が欲しいのかな。
・・・ちょっと頼り無いかも知れないけどね」
リチャード様は、自嘲気味に笑った。
いつもは自信に満ちた彼の弱気な表情を見ていたら、嬉しさと苦しさが混じったような、複雑な感情が湧き上がる。
リチャード様は公爵家の嫡男だ。
サミュエル様の時のように、特別な事情でも無ければ、私の手が届く人ではない。
私が彼に与えられる物など何も無く、寧ろ不利益しかもたらさない存在なのだ。
この人は、サミュエル様と違って、私の助けなど必要無いのだから・・・。
貴族同士の結婚は、当人の想いがあっても、どうにもならない場合が多い。
彼がどんなに望んでくれたとしても、身分の低い私は、最終的には選ばれる事はないだろう。
ーーーだけど・・・・・・
「私も、リチャード様が好きです」
「・・・・・・っっ!?」
自然に口から溢れた私の言葉に、リチャード様は青い瞳を大きく見開いたまま固まった。
「リチャード様?」
「あ・・・、あぁ、済まない。
振られると覚悟していたから、かなり驚いてしまって・・・・・・」
「そんなに意外ですか?」
「さっき・・・サミュエルと再会した時に、君が嬉しそうな顔をしていたのを見てしまったんだ。
それに、サミュエルに手を握られて、頬を染めていただろう?
だから、君はまだ、彼の事が・・・」
リチャード様の瞳が不安に揺れる。
私は慌てて首を横に振った。
「違います!それは、違うのです。
色々と複雑な事情が・・・・・・っ」
・・・・・・言えない。
それを説明するには、魔力欠乏症の事を話さなければいけないのだ。
全てを打ち明けてしまいたいけれど、スタンリー公爵家との契約が私を縛る。
「事情って?」
「済みません。今は・・・何も話せないのです」
蚊の鳴くような声で呟いた私を抱き寄せると、リチャード様は深く息を吐いた。
「・・・分かった。聞かない。
今は、俺を選んでくれただけで満足する事にするよ」
花祭りの時にも感じたリチャード様の香水が、仄かに香る。
ソワソワと落ち着かないのに、ずっとこのままでいたいような、不思議な気持ちだ。
私の心臓が煩いくらいに脈打っているが、リチャード様の胸からも、同じ速さの音が聞こえた。
今までの私は〝幸せな婚約者を演じる〟という契約を履行する為に、他に恋をする事など許されなかった。
いや、実際サミュエル様の婚約者生活は大変過ぎて、余計な事を考える暇もなかった。
その前にも、私には幼い頃から別の婚約者がいたから、恋など出来る立場ではなかった。
だから、これが私にとっての初恋なのだ。
初恋の味は、甘酸っぱいとかよく聞くけど、私の場合は甘くて、・・・苦い。
ーーー私達の間に、きっと未来は無いのだ。
それは痛いほど分かっているけれど・・・・・・
今だけは、この幸せに浸っていたい。
聖女ってあんな感じの人もいるのね。
敬う気が失せるわ・・・・・・」
思わず呟いたソフィー様に、皆んなが首を縦に振る。
「他の聖女様達は、普通に人格者だったんだけどねぇ」
「サミュエル、貴方、あんな人のどこを好きになったのかしら?
ちょっと女性の趣味が悪いのではなくて?」
「僕だって反省してるんだよ。
次からはもう、見た目だけで恋をしたりしない」
「そう。それなら少し安心したわ。
まあ、過ぎた事は仕方ないから、勉強になったとでも思う事ね」
ソフィー様はカラリと笑う。
リチャード様は、未だに少しだけ不機嫌そうな空気を纏っていた。
ソフィー様とサミュエル様のテンポの良いやり取りを聞きながら、然りげ無くリチャード様の腕に手を添えて、お顔を覗き込むと、先程までの不機嫌な空気が霧散する。
視線を合わせて微笑む私達を、サミュエル様が少し寂しそうに見ていた。
「済まなかった。
・・・その、勝手にサミュエルに〝近付くな〟とか〝迷惑だ〟とか言ってしまって」
お兄様に早めに帰ると約束していた私達は、一足早く夜会を抜け出した。
私を送る馬車の中で、リチャード様が俯きながら呟いた。
「いいえ。私も随分と勝手だなって思いましたもの」
「メリッサ。君が好きなんだ。
頼むから・・・俺を、選んでくれないか?
・・・・・・サミュエルじゃなく」
真っ直ぐに向けられた言葉に、胸の奥が甘く疼いた。
私の手を握りしめたリチャード様の指先は酷く冷たくて・・・。
「・・・何故、そんなに私の事を想ってくださるのですか?」
それは告白された時から、ずっと感じていた疑問。
私は彼に好かれる心当たりが全くなかった。
「なんでだろう?
・・・・・・理不尽な目にあっても他人を頼ろうとせずに、いつも一人で凛と立っている君が眩しかった。
それと同時に、何も出来ない自分が歯痒くて仕方なかったんだ。
だから、一番近くで君を守る権利が欲しいのかな。
・・・ちょっと頼り無いかも知れないけどね」
リチャード様は、自嘲気味に笑った。
いつもは自信に満ちた彼の弱気な表情を見ていたら、嬉しさと苦しさが混じったような、複雑な感情が湧き上がる。
リチャード様は公爵家の嫡男だ。
サミュエル様の時のように、特別な事情でも無ければ、私の手が届く人ではない。
私が彼に与えられる物など何も無く、寧ろ不利益しかもたらさない存在なのだ。
この人は、サミュエル様と違って、私の助けなど必要無いのだから・・・。
貴族同士の結婚は、当人の想いがあっても、どうにもならない場合が多い。
彼がどんなに望んでくれたとしても、身分の低い私は、最終的には選ばれる事はないだろう。
ーーーだけど・・・・・・
「私も、リチャード様が好きです」
「・・・・・・っっ!?」
自然に口から溢れた私の言葉に、リチャード様は青い瞳を大きく見開いたまま固まった。
「リチャード様?」
「あ・・・、あぁ、済まない。
振られると覚悟していたから、かなり驚いてしまって・・・・・・」
「そんなに意外ですか?」
「さっき・・・サミュエルと再会した時に、君が嬉しそうな顔をしていたのを見てしまったんだ。
それに、サミュエルに手を握られて、頬を染めていただろう?
だから、君はまだ、彼の事が・・・」
リチャード様の瞳が不安に揺れる。
私は慌てて首を横に振った。
「違います!それは、違うのです。
色々と複雑な事情が・・・・・・っ」
・・・・・・言えない。
それを説明するには、魔力欠乏症の事を話さなければいけないのだ。
全てを打ち明けてしまいたいけれど、スタンリー公爵家との契約が私を縛る。
「事情って?」
「済みません。今は・・・何も話せないのです」
蚊の鳴くような声で呟いた私を抱き寄せると、リチャード様は深く息を吐いた。
「・・・分かった。聞かない。
今は、俺を選んでくれただけで満足する事にするよ」
花祭りの時にも感じたリチャード様の香水が、仄かに香る。
ソワソワと落ち着かないのに、ずっとこのままでいたいような、不思議な気持ちだ。
私の心臓が煩いくらいに脈打っているが、リチャード様の胸からも、同じ速さの音が聞こえた。
今までの私は〝幸せな婚約者を演じる〟という契約を履行する為に、他に恋をする事など許されなかった。
いや、実際サミュエル様の婚約者生活は大変過ぎて、余計な事を考える暇もなかった。
その前にも、私には幼い頃から別の婚約者がいたから、恋など出来る立場ではなかった。
だから、これが私にとっての初恋なのだ。
初恋の味は、甘酸っぱいとかよく聞くけど、私の場合は甘くて、・・・苦い。
ーーー私達の間に、きっと未来は無いのだ。
それは痛いほど分かっているけれど・・・・・・
今だけは、この幸せに浸っていたい。
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