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30話 僕らの復讐
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そして、一週間の準備日を経て、とうとうこの日がやってきた。
「さあ、今日は当日! みんな頑張っていこー!」
「おーー!」
そんなありきたりな掛け声と共に、みんなの団結を深めた。
それから生徒会長の放送で、開会が宣言されると、一斉に学校は盛り上がりを見せた。
あー、始まっちゃた……。シフト的にもそこそこキツいし、今日は億劫な1日になりそうだな……。
僕はそう考えて、少し気分が落ちてしまった。
教室を喫茶店のように改装した店内で、メイドコスに着替えた女子と、僕を含めウエイターコスに袖を通した男子が忙しなく動いていた。
驚いたというか、まあ当然というか。普通クラスの人達が多く訪れていた。
どういうカラクリなのか、ある筋から情報を入手していたのだが、知った時に少し怖くなってしまった。
「思った以上にすごいね。」
「まあ、色々あったからな。」
「何か知ってるみたいだけど、何で教えてくれないの?」
「これからのお楽しみにして欲しいから。」
「それは、録音と何か関係が?」
「関係大有り。」
「あら、それは楽しみ。」
僕らは裏の調理場で、少し話をしていた。
覚えているだろうか、僕らの関係がカップルという設定なのを。
「輝波と彩白よろしくー!」
僕らに配膳の場面が回ってきた。僕らは手を繋いで表に出る。
「お待たせしました! 特製オムライスとナポリタンです!」
「それから私たちからの愛を受け取って下さい!」
そう彩白が言うと、僕らはハートを作って『ラブー!』と言った。正直死にたかった。
「……ねえ、後あれ何回やるの?」
「……分からないけど、注文がある度にじゃない?」
「……死にたくなったの私だけ?」
「……同感。」
そう言って僕らは疲労感を露わにして、裏に戻ると、厨房の料理担当の男たちが全員笑っていた。
「お前ら、オモロすぎる……!」
「これは……黒歴史だわ……!」
「頼むからもうやめてくれ……」
厨房は楽しい雰囲気に包まれていて、和気藹々としていた。
「彩白、頑張って耐えよう……。」
「そうね……、今日だけはボケるのやめるわ……」
そんな絶望的な顔を浮かべた僕らは、その後も幾度となくそれを続けて行った。
僕のことを知ってる普通クラスの奴からは、『オモロいから何度もくるわ!』と煽られながらこなしていた。
ようやく昼ごはん時間帯が過ぎて、席にも空きが見られるようになった頃、とつとう僕らにこの時が来た。
「シフト終わったー!」
「あー、やっと終わったなー!」
「とりあえずさ、適当に回ろうよ。美味しそうなものがあったら、食べ歩きしよ!」
「よっしゃ! いくぞー!」
僕はいつになくテンションが上がっていた。
それが何故かって? それは2時間前に遡ると分かるよ。
「ちょっと、このブースの責任者はどこ?」
「はい、今は代行として私が責任者ですが? ……彩白は一回裏に行って。」
「う、うん……。」
僕は、この時をどれだけ待ち望んだことか。長くなりそうな予感がしたから、とりあえず彩白は裏に行ってもらった。
さあ、復讐の開始だ……。
「こちらのブースの紹介動画を見たんだけどさ、あの音声は何?」
「その前に、ご視聴ありがとうございます。あの音声は……」
僕はあの音声を取った経緯と、情景を説明した。
「そうだったの……。それは本当に私の息子がご迷惑をお掛けしました。」
「確かに私たちは迷惑を被りました。でも、もっと酷い目にあった人は沢山いますよ。」
「それは本当なの?」
「ええ。確かな情報です。紗奈さんと言えば少し信憑性は増すでしょう。」
「……確かに。あの子なら信用をおけますから。」
僕は事前に紗奈から全てを聞いていた。
まず、段ボールを独占した理由は、『特進クラスが気に食わなかったから』だそうだ。
なんでも『お高く止まった感じがして、鼻につく』らしい。
そして、この事件の主犯格は各クラスの権力者。言い換えると、スクールカースト上位にいると勘違いしている、チャラついた人達。
その人たちは、結託してクラスの人達が言い返さないのをいいことに、無理を強いていたという。
だから紗奈以外のクラスは、段ボールを独占し僕らの作業を進行させないようにした。
そんな中で紗奈のクラスは、紗奈を筆頭に結託した人たちを打倒した。立場を失ったそいつらは、紗奈に従い段ボールを僕らに分けた。
主犯格の奴らは高一の頃から、特進クラスを見下して、馬鹿にしていた。それを僕も見ていたし、それが嫌だった。
だからこの際お灸を据えてやろうと計画を立てたのだ。まあ、紗奈の協力ありきだけどね。
僕が計画は、学校のホームページにアップするブースの紹介動画にあの音声を乗せて、問題を表面化させるというものだった。
段ボールを分けてもらいに行った時に、スマホの録音機能をオンにした状態で、会話を録音してもらって、それを編集して乗せたという、かなりシンプルな作戦だった。
それを見た学校の上層部もこれを問題視して、さっきそいつらが捕まえてられる現場を目撃した。
そして今、その母親がここに謝罪に来たというわけだ。
「それでも、迷惑をかけたことには変わりないから。本当にごめんなさい。」
「別にお母様が謝ることではありません。本人たちがこれを機に更生して、人に迷惑を掛けないように、生きてくれれば僕はそれで良いのです。」
「君は、随分と大人びてるね。器も大きいし。あなたのように子供が育てばよかったのに。」
「人には良いところと悪いところがございます。今回は息子様の悪い部分が垣間見えてしまったのでしょう。きっと彼等にも良いところがあります。それを伸ばすことが、一番良いと思われます。」
「おっしゃる通りだわ。ごめんなさいね、忙しい中。」
「いえいえ、とんでもございません。」
僕がそう言うと、主犯格の息子の母親は職員室の方へ歩いて行った。その背中が、とても悲しく見えた。
そして、僕は裏に戻ると、どうしてか拍手が沸き起こっていた。
「お前、やっぱ凄いよな。あの計画聞いた後にも思ったけどさ、頭いいよな。」
「母親へのフォローも素晴らしかったし。」
なんだろう、嬉しいはずなんだけど、褒められ慣れてないから、むず痒さが勝ってしまう。
「お疲れ様。」
「あれ? どうした、そのテンション。」
「あれ見て泣いちゃってさ……。」
「えっ、何で?」
「キー君の言葉が感動して……。周りにいた人、全員カメラ回してたよ……。」
「えっ、それガチ?」
恥ずかしい……。思ったことを言っただけだから、一切綺麗事を言ったつもりはなかったけど。
それでも、自分の言動がみんなの目に触れるのは、羞恥心が凄いな……。
「彩白、とりあえず後少しだから、その後にしよ。出来るか?」
「……うん。」
そうして残り1時間のシフトをこなし、今に至るのだった。
「さあ、今日は当日! みんな頑張っていこー!」
「おーー!」
そんなありきたりな掛け声と共に、みんなの団結を深めた。
それから生徒会長の放送で、開会が宣言されると、一斉に学校は盛り上がりを見せた。
あー、始まっちゃた……。シフト的にもそこそこキツいし、今日は億劫な1日になりそうだな……。
僕はそう考えて、少し気分が落ちてしまった。
教室を喫茶店のように改装した店内で、メイドコスに着替えた女子と、僕を含めウエイターコスに袖を通した男子が忙しなく動いていた。
驚いたというか、まあ当然というか。普通クラスの人達が多く訪れていた。
どういうカラクリなのか、ある筋から情報を入手していたのだが、知った時に少し怖くなってしまった。
「思った以上にすごいね。」
「まあ、色々あったからな。」
「何か知ってるみたいだけど、何で教えてくれないの?」
「これからのお楽しみにして欲しいから。」
「それは、録音と何か関係が?」
「関係大有り。」
「あら、それは楽しみ。」
僕らは裏の調理場で、少し話をしていた。
覚えているだろうか、僕らの関係がカップルという設定なのを。
「輝波と彩白よろしくー!」
僕らに配膳の場面が回ってきた。僕らは手を繋いで表に出る。
「お待たせしました! 特製オムライスとナポリタンです!」
「それから私たちからの愛を受け取って下さい!」
そう彩白が言うと、僕らはハートを作って『ラブー!』と言った。正直死にたかった。
「……ねえ、後あれ何回やるの?」
「……分からないけど、注文がある度にじゃない?」
「……死にたくなったの私だけ?」
「……同感。」
そう言って僕らは疲労感を露わにして、裏に戻ると、厨房の料理担当の男たちが全員笑っていた。
「お前ら、オモロすぎる……!」
「これは……黒歴史だわ……!」
「頼むからもうやめてくれ……」
厨房は楽しい雰囲気に包まれていて、和気藹々としていた。
「彩白、頑張って耐えよう……。」
「そうね……、今日だけはボケるのやめるわ……」
そんな絶望的な顔を浮かべた僕らは、その後も幾度となくそれを続けて行った。
僕のことを知ってる普通クラスの奴からは、『オモロいから何度もくるわ!』と煽られながらこなしていた。
ようやく昼ごはん時間帯が過ぎて、席にも空きが見られるようになった頃、とつとう僕らにこの時が来た。
「シフト終わったー!」
「あー、やっと終わったなー!」
「とりあえずさ、適当に回ろうよ。美味しそうなものがあったら、食べ歩きしよ!」
「よっしゃ! いくぞー!」
僕はいつになくテンションが上がっていた。
それが何故かって? それは2時間前に遡ると分かるよ。
「ちょっと、このブースの責任者はどこ?」
「はい、今は代行として私が責任者ですが? ……彩白は一回裏に行って。」
「う、うん……。」
僕は、この時をどれだけ待ち望んだことか。長くなりそうな予感がしたから、とりあえず彩白は裏に行ってもらった。
さあ、復讐の開始だ……。
「こちらのブースの紹介動画を見たんだけどさ、あの音声は何?」
「その前に、ご視聴ありがとうございます。あの音声は……」
僕はあの音声を取った経緯と、情景を説明した。
「そうだったの……。それは本当に私の息子がご迷惑をお掛けしました。」
「確かに私たちは迷惑を被りました。でも、もっと酷い目にあった人は沢山いますよ。」
「それは本当なの?」
「ええ。確かな情報です。紗奈さんと言えば少し信憑性は増すでしょう。」
「……確かに。あの子なら信用をおけますから。」
僕は事前に紗奈から全てを聞いていた。
まず、段ボールを独占した理由は、『特進クラスが気に食わなかったから』だそうだ。
なんでも『お高く止まった感じがして、鼻につく』らしい。
そして、この事件の主犯格は各クラスの権力者。言い換えると、スクールカースト上位にいると勘違いしている、チャラついた人達。
その人たちは、結託してクラスの人達が言い返さないのをいいことに、無理を強いていたという。
だから紗奈以外のクラスは、段ボールを独占し僕らの作業を進行させないようにした。
そんな中で紗奈のクラスは、紗奈を筆頭に結託した人たちを打倒した。立場を失ったそいつらは、紗奈に従い段ボールを僕らに分けた。
主犯格の奴らは高一の頃から、特進クラスを見下して、馬鹿にしていた。それを僕も見ていたし、それが嫌だった。
だからこの際お灸を据えてやろうと計画を立てたのだ。まあ、紗奈の協力ありきだけどね。
僕が計画は、学校のホームページにアップするブースの紹介動画にあの音声を乗せて、問題を表面化させるというものだった。
段ボールを分けてもらいに行った時に、スマホの録音機能をオンにした状態で、会話を録音してもらって、それを編集して乗せたという、かなりシンプルな作戦だった。
それを見た学校の上層部もこれを問題視して、さっきそいつらが捕まえてられる現場を目撃した。
そして今、その母親がここに謝罪に来たというわけだ。
「それでも、迷惑をかけたことには変わりないから。本当にごめんなさい。」
「別にお母様が謝ることではありません。本人たちがこれを機に更生して、人に迷惑を掛けないように、生きてくれれば僕はそれで良いのです。」
「君は、随分と大人びてるね。器も大きいし。あなたのように子供が育てばよかったのに。」
「人には良いところと悪いところがございます。今回は息子様の悪い部分が垣間見えてしまったのでしょう。きっと彼等にも良いところがあります。それを伸ばすことが、一番良いと思われます。」
「おっしゃる通りだわ。ごめんなさいね、忙しい中。」
「いえいえ、とんでもございません。」
僕がそう言うと、主犯格の息子の母親は職員室の方へ歩いて行った。その背中が、とても悲しく見えた。
そして、僕は裏に戻ると、どうしてか拍手が沸き起こっていた。
「お前、やっぱ凄いよな。あの計画聞いた後にも思ったけどさ、頭いいよな。」
「母親へのフォローも素晴らしかったし。」
なんだろう、嬉しいはずなんだけど、褒められ慣れてないから、むず痒さが勝ってしまう。
「お疲れ様。」
「あれ? どうした、そのテンション。」
「あれ見て泣いちゃってさ……。」
「えっ、何で?」
「キー君の言葉が感動して……。周りにいた人、全員カメラ回してたよ……。」
「えっ、それガチ?」
恥ずかしい……。思ったことを言っただけだから、一切綺麗事を言ったつもりはなかったけど。
それでも、自分の言動がみんなの目に触れるのは、羞恥心が凄いな……。
「彩白、とりあえず後少しだから、その後にしよ。出来るか?」
「……うん。」
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