特進クラスのふざけかた

やすを。

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32話 花咲く顔

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  「何でも良いんだよね~!!」

 彩白は顔を輝かせながら、メニュー表を見て選んでいた。

 5番勝負の結果、0勝5敗…………。完敗だった。的当ての後に、射撃と輪投げ、スリーポイント、ボール蹴り。全て後一歩届かなかった。

 「何でもいいけど、手加減はしてくれよ……。」

 店的には高校生が手軽に通えるレベルの値段だが、彩白の事だから手加減せずに僕のお財布に大打撃を与えるほどの攻撃力がある。

 「うん、気をつけるね~!」

 「……思ってないだろ……」

 あーあ、終わったな……。今月は昼ご飯、おにぎり一個とかになるだろうね。親に弁当作ってもらおうかな、親に話そう……。

 「最近さ、社会どうなの?」

 「うん……、まあまあかな。」

 「志望校って決めてんの?」

 「まあ…………東大とか?」

 そう冗談ぽく言った。

 「彩白が言うと行けそうだからさ、冗談に聞こえんのよ……。」

 「まあ、私にかかれば余裕だよ!」

 余裕は言い過ぎじゃないか? 知ってんのか、東大って歴史2教科必要だって。

 「まあ現実問題、社会が厳しい状況なんよね。それさえ解決すれば、それくらいのレベルまでいける気はするのよ。」

 「スゲーな。そう言うことをハッキリ言えるの。」

 正直社会なんか、高3の間に詰め込めば絶対結果出せるから。何の心配もいらない気はするけどね。

 「無責任かもだけど、社会に関しては大丈夫じゃない? 一応1人の先生だから、彩白の頑張りと成長は見てるつもりだからさ。高3の間に詰め込めば、絶対いけるよ。」

 「まあ、君は英語が欠点だからね。少し厳しい状態な気がする。でも他で戦えるから、何とかなるんじゃない? 私も君と一緒で、英語の先生だからさ。」

 そういえばそうだった。これでも歴とした先生なのだ。いつもちゃらんぽらんでふざけているけど、いざ勉強の事になると、何でもお見通しで目つきが変わる。

 「キー君は、単語さえ覚えればいけるからさ。後の教科は演習不足。別に後1年強あれば十分挽回できるよ。」

 そうは言うが、流石に今のうちに基礎が固まっていないのはマズイ気はしている。だから今不安しか無いし、恐怖感すら僕の心の中にあった。

 「キー君の志望校は?」

 僕は彩白のレベルの一つか二つ下の国立大学を答えた。偏差値も60ちょいくらいの、首都圏国公立の部類に入るところのなると思う。

 「なるほど。私も候補に入ってるのよね。」

 「えっ、つうことはライバルになるってこと?」

 「まあ、そう……なるね。」

 「そんな、楽しそうに言うことじゃ無いんだよ……」

 まったく、イキイキした顔しやがって。凄い楽しそうにさ。少年じゃないし、乙女ともちょっと違う……何というか幸せそうというか。柔らかくて、満開の花のような、見ていて癒されるそんな表情だった。

 「……可愛い……」

 「えっ……」

 「あっ、ごめん……口が滑った……忘れて……!」

 「……絶対に忘れない!!」

 なぜそこまで頑なに拒否するのか、僕には理解できなかった。恐らくだけど、遊ぶネタにするためのストックだと思っていた。

 「なんか、嬉しいかった!」

 「そ、そっか……それなら良かったよ。」

 「うん!!!」

 そして更に花を咲かせて、顔が輝いているように見えた。

 
 『僕、この人の笑顔が大好きだ!!!』


 そう心の底から思ってしまった。もう覆せる気も一切しなかった。ただ、その笑顔が眩しかった。

 僕は彩白を直視出来ていなかった。その時に彩白の顔が真っ赤に染まっていたのが、僕には見えていなかった。

 それから、またふざけ出して元の雰囲気に戻っていった。終わった後、僕の財布がすっからかんになったのは良い思い出だ。



 
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