特進クラスのふざけかた

やすを。

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36話 二人の本音ってやつ

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 「女の子をこんな時間に呼び出すって、あんたどんな神経してんのよ……」

 「それに関しては言い返しようがございません……」

 薄着だし、消灯時間も迫る中で時間も遅い。やはり紫音はどこか寒そうだった。

 「いいの? 輝波だって寒いでしょ。」

 「いいのいいの。僕が誘った訳だし、女子が風邪引くのはちょっと嫌だからさ。」

 「……何その謎理論……どうしてイケメン風に言うのよ……」

 「本当の事でも口に出されると、傷つくな……」

 僕らはそんないつもと変わらない会話をしていた。

 「それで呼び出した理由は…………ってまあ、あれよね。」

 「そう、あれだよ。」

 今僕の中で一番知りたい情報がこれだった。

 「はあ……あんたさ、どんだけお人好しなのよ。」

 「えっ、そうか?」

 「自覚無しときた。こりゃ、主人公キャラだわ。」

 「まあ、この物語の主人公だけど、それがどうしたのさ。」

 「……さらっとメタいこと言わなくていいよ。」

 何なんだ? いきなり褒め出すかと思えば、珍しく僕にボケさすし。

 「多分彩白が心配だから、行動に移したというところか?」

 「……何でわかったの?」

 「まあ、彩白を見てれば何となくわかるよ。」

 恐らく紫音にしか分からない何かがあるのだろう。それが今僕には分からなかった。

 「じゃあ、そろそろ本題といきますか。」

 「よっ、紫音さん! 待ってました!」

 「……雰囲気を壊すな!!」

 「……すいません。」

 それから紫音は居住まいを正すと、咳払いをした後に、声色を変えて話し始めた。

 「私さ、両親のことあんまり好きじゃないの。」

 僕はその爆弾発言に言葉を失った。

 前の旅行の時だって、今日だって、みんな仲睦まじげに僕の家に来ていた。

 「どうして? いつもあんなに仲良さげなのに。」

 「うん……でも、話したくないとか顔を見たくないとか、そんな感情はないのよ……けどさ……」

 紫音は言いづらそうに話を続ける。

 「私にも自由な時間が欲しいのよ。」

 「なるほどな……」

 僕は紫音の話を聞いて、ようやく全てが合致した。点と点が全て線になっていった。

 「何がなるほどなのよ……」

 「いやね、ようやく2人のすれ違いが見えてきてさ。」

 「すれ違い?」

 「ああ。これを僕の口から言うべきなのか迷うけど、少しなら大丈夫かな?」

 真斗から告げられた想い。そして紫音がこれから話してくれるであろう気持ち。

 それの相違がここ喧嘩を生み出してしまった。

 「話、聞かせてもらってもいいかな?」

 「ええ。輝波にはお世話になってるし、私達が空気悪くしてるしね。」
 
 ちゃんと現状理解してたのかよ……。だったらもっと早く行動してほしかった。

 まあ、流石にそれは難しい事だけどさ。年頃の女子と男子だし、色々抱えてるのもなんとなく分かるし。

 僕は紫音の口から語られた事実を、聞き漏らす事なく聞き取った。

 「私にはさ、それ以上に何もできなくて、ずっと輝波の両親に迷惑かけてさ。」

 「迷惑だなんて、思って無いけどな……」

 「それでもさ!! 人様の家に預けて、輝波の両親に世話してもらって。そりゃ申し訳なるに決まってるじゃない!!」

 「紫音……」

 多分こんな性格だから、一人で色々背負って頑張っちゃうんだよね。

 まあ、親も仕事で一日中外にいる。親戚も何県も離れた所にいる。そんな状況で助けを求めるにも求められないんだけどさ。

 紫音も年頃の女子。自分の時間が欲しい時も来る。それでも、兄弟に時間を使えるのは、可愛く思っているからだと思う。

 「僕には、紫音の気持ちは理解しようと思っても出来ないよ。だって、紫音みたいな立場に立ったことがないから。」

 「そうね……逆に分かったような顔をされる方が腹立つわね。」

 だよな。僕もそれには同意できるよ。

 「でもさ紫音。友達ってのはさ、迷惑をかけ合うもんじゃん。だから、もっと家を頼ってもいいんだぞ?」

 「いや、今以上にお願いするのは流石に気がひけるわよ。」

 そんな事考えなくても、どんどん預けてくれていいのに……。

 「紫音の兄弟が家に来た時にさ、両親の顔が明るくなるんだよ。今まで見たことないくらいにさ」

 最近の両親の口癖が『あの子達次いつ来るのかしら』だった。

 「だからさ、もっと来てもいいんだよ? 家はいつでも歓迎するから。」

 僕はそう言うと、紫音は決心したように言った。
 
 「私が中3の頃、修学旅行で兄弟を預けなきゃいけない時に、親戚に頼んだことがあったのよ。」

 「うん。」

 「それでさ、私が帰って来た時に、開口一番なんて言ったと思う?」

 「楽しかったよ~! とか?」

 紫音は首を振りこう続けた。

 「『もうここ嫌!』って言ったのよ。」

 僕は驚きながら紫音の言葉を待った。

 「どうやら、兄弟が言う事を聞かないからって、ご飯をまともに与えなかったり、すぐに怒鳴ったり、時には殴る事もあったって。」

 「うわ……そんな典型的なDV家庭あるんだ……」

 「本当にそうよね。私も同感だわ。」

 なるほどな。それは人の家に預けるのに、二の足を踏む訳だ。

 「けどさ、輝波の両親は違ったわね。暖かく私達を迎えてくれたし。」

 うちの両親の子供への愛情は異常だからな。側からみてても引くレベルだし。

 「だからさ、これからもお願いしてもいいかしら。」

 「そんなの聞くまでもないだろ? それに自分の時間が欲しいなら、もっと頻度増やしてもいいよ。僕も手伝うし!」

 「……ちょっと輝波は心配だな……」

 「えっ、何で?」

 「……なんとなく、不審者の匂いがする……」

 「どっからそんな匂い発してんだよ……」

 まったく、ここぞとばかりにボケてきやがる。まあ、紫音らしいかな。
 
 「……ありがとう、輝波……」

 「えっ、なんだって?」

 「ううん! なんでもないわよー!」

 『ありがとう輝波』の後から何か言ってたのか、まったく聞こえなかった。

 えっ、僕デジャヴでも見てるのか? 前にもこんなことあったよな。

 そんな不信感を抱きながら、僕はホテルに戻って行く。

 「……紫音、輝波。」

 そう声をかけたのは真斗だった。

 「あれ? 部屋に戻ったんじゃないのか?」

 「ちょっと、紫音に話したいことがあってよ……。」

 「えっ、うん……分かったわ。」

 「んじゃ、僕部屋戻ってるから、早く帰ってこいよ!」

 僕はそう言い残して、部屋に戻っていった。そこで行われた事が何か知っていた。

 それから、僕が部屋に戻って30分後。僕のスマホにラインが入った。

 「今日はありがとう。真斗とも仲直りできたし、輝波のおかげよ。」との事だ。

 まあ、詳しく何があったかは知らないけど、2人が納得する形で収まったのなら、それでよかった。

 僕は、安堵の心持ちで布団に潜ったのだった。

 

 

 
 




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