特進クラスのふざけかた

やすを。

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38話 女の家ってやつ

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 「今日私さ、研究日だから学校いないのよ。」

 「えっ、本当ですか?」

 担任が居残り勉強する僕らに、そう言って帰るように促してきた。

 「いちゃダメなんですか?」

 「ええ。責任者がいないから駄目なのよ。」

 それなら仕方ないな……。流石に学校の他の場所だと、迷惑になるんだよね。

 必要最低限だけど、話し声が気になる人も多いと思うから、学校もやめた方がいい。

 最寄りだと、コーヒーショップとかファミレスとかもあるけど、彩白が自由に使えるお金がない。だから不可能だ。

 じゃあ僕の家になるのかな……?

 「じゃあ、私の家来る?」

 「……えっ、いいの?」

 「うん。今日親いないし、ああ言うこともしちゃう……?」

 「い、彩白……! な、何言ってんだよ……!」

 「どうしたの~? そんな動揺してさ。そんなに私の体に興味あるの?」

 ったく、彩白の体に興味ない男子いないよ。大きなメロン2個付いてて、痩身体型で。

 「ま、まあ……ない事もないよ……」

 「ふーん……素直でよろしい!!」

 「……僕にこんな拷問、何が楽しいんだよ……!」

 そんな会話をしながら、僕らはバス停に向かい時間まで暇を潰した。そしてバスに乗り、最寄り駅へと戻っていく。

 「本当に大丈夫なんだよな……?」

 「うん。というか、そんな警戒しなくて大丈夫だよ?」

 「だって、彩白のお母さん厳しいんでしょ? やっぱり怖くなるって。」

 「……多分見つかったら、ただじゃ済まないと思うよ……」

 おいおい、そんな怖いこと言うなよ。帰りたくなるじゃんか……。

 「……もう、帰っていい?」

 「えっ、女の子が勇気出して言ったのに、そんな事するの?」

 「……今のお前、多分怒った時の彩白お母さんより怖いぞ……」

 まあでも、彩白の言ってる事もわかる気がする。

 今でこそ何とも思わなくなったけど、やっぱり初めて彩白が家に来た時は、緊張もした。

 「お邪魔します。」

 僕は遠慮するように玄関に足を踏み入れた。彩白に先導され彼女の部屋に入る。

 「本当に何もないな。」

 「あると捨てられるからね……。」

 びっくりするほどに物がない。洋服ダンスや勉強机、ベッドなど、生活に欠かせない物だけだった。

 彩白は、壁に立てかけてあった折り畳み式の机を持ってきて、部屋の真ん中に作った。

 「お茶持ってくるから、座って先に始めてて~!」

 「うん、ありがとうー!」

 彩白は小走りで階段を降りていった。

 僕は彩白の部屋を見渡した。少し罪悪感を抱きながら、真っ白の殺風景な部屋を眺めていた。

 「……綺麗にしてるよな……」

 僕は無意識にそう呟いた。埃ひとつないと言えば嘘になるが、人里離れた場所に積もった雪のようだった。

 土汚れもなく、足跡もない。一面に広がる白銀の景色、まさにそれがこの部屋の比喩には丁度良かった。

 「持ってきたよ~! おー、もう始めてるね!」

 「そりゃ、やらないとマズイからね。」

 「それは私もだよ……はいお茶。」

 「ん、ありがとう!」

 彩白は持ってきた2つのグラスにお茶をそれぞれ分けて入れ、1つを僕の前に置いてくれた。

 それからは無言で勉強に励んでいた。道中は、『部屋で勉強とか大丈夫かな?』という心配が大きかったけど、そうなる未来は来なかった。

 僕の部屋で2人きりという場面が多かったせいで、今全くドキドキしていない。

 だから勉強に差し支える事もないし、いつも通りの進み具合だった。

 「なあ彩白。」

 「ん? どうしたの?」

 「もうそろそろ、帰ってもいいか? 夕飯の時間だからさ。」

 「えー、もう帰っちゃうの? 明日休みだし、両親も帰ってこないし、もうちょっといてよ。」

 彩白はそう言うと、僕の隣に座りこう言った。

 「……あんなことやこんなことしても良いんだよ?」

 僕は少し考えた。魂胆は僕をイジって、笑いものにしたいだけ。

 「本当にいいんだな……?」

 「キー君がその気ならいいよ?」

 僕は彩白が挑発してきているのは、もう目に見えていた。

 だから、たまには不誠実なことをしてみようと思った。日頃の仕返しを兼ねて。

 「え、えっ……ちょっと……?」

 僕は彩白を床に押し倒した。目下に仰向けに寝る彩白が見えた。

 「この後もいいんだよな……?」

 「…………」

 彩白は顔を真っ赤にして、目を背けていた。一切返答することなく、目を瞑ってもいた。

 僕はため息をつきながら元の体勢に戻った。

 「まったく、男ってのは間に受ける奴もいるからな。」
 
 「…………」

 やばい、少しやりすぎたかもしれない……。

 「彩白、大丈夫か?」

 「…………」

 うわっ、これは終わった……口聞いてもらえなくなったみたいだな……。

 僕は反省の念を抱きながら、黙ってシャーペンを走らせていると、何やら安らかな声が聞こえてきた。

 「……おい、彩白寝たのか?」

 「スゥー……」

 「うわ、本当に寝てるわ。」

 僕はそれを見て少し安堵した。それから彩白が起きるまでの1時間、僕は黙って勉強をしていた。

 「……あっ!! 寝ちゃった……」

 「あっ、起きた。」

 「キー君!? 私に何かした……?」

 「何もしてないよ。」

 逆に怒らせたんじゃないかって、ビビってたよ。

 彩白は少し気まずいような雰囲気を出していた。とりあえず、僕は帰ることにした。

 「じゃあ、今日はありがとう。」

 「う、うん。また親がいない時に呼ぶね。」

 「ああ。また明日。」

 僕はそう言って帰路に着いた。

 その後彩白が、照れながら思い返している事を、僕が知るはずがなかった。

 




 
 
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