38 / 48
38話 女の家ってやつ
しおりを挟む
「今日私さ、研究日だから学校いないのよ。」
「えっ、本当ですか?」
担任が居残り勉強する僕らに、そう言って帰るように促してきた。
「いちゃダメなんですか?」
「ええ。責任者がいないから駄目なのよ。」
それなら仕方ないな……。流石に学校の他の場所だと、迷惑になるんだよね。
必要最低限だけど、話し声が気になる人も多いと思うから、学校もやめた方がいい。
最寄りだと、コーヒーショップとかファミレスとかもあるけど、彩白が自由に使えるお金がない。だから不可能だ。
じゃあ僕の家になるのかな……?
「じゃあ、私の家来る?」
「……えっ、いいの?」
「うん。今日親いないし、ああ言うこともしちゃう……?」
「い、彩白……! な、何言ってんだよ……!」
「どうしたの~? そんな動揺してさ。そんなに私の体に興味あるの?」
ったく、彩白の体に興味ない男子いないよ。大きなメロン2個付いてて、痩身体型で。
「ま、まあ……ない事もないよ……」
「ふーん……素直でよろしい!!」
「……僕にこんな拷問、何が楽しいんだよ……!」
そんな会話をしながら、僕らはバス停に向かい時間まで暇を潰した。そしてバスに乗り、最寄り駅へと戻っていく。
「本当に大丈夫なんだよな……?」
「うん。というか、そんな警戒しなくて大丈夫だよ?」
「だって、彩白のお母さん厳しいんでしょ? やっぱり怖くなるって。」
「……多分見つかったら、ただじゃ済まないと思うよ……」
おいおい、そんな怖いこと言うなよ。帰りたくなるじゃんか……。
「……もう、帰っていい?」
「えっ、女の子が勇気出して言ったのに、そんな事するの?」
「……今のお前、多分怒った時の彩白お母さんより怖いぞ……」
まあでも、彩白の言ってる事もわかる気がする。
今でこそ何とも思わなくなったけど、やっぱり初めて彩白が家に来た時は、緊張もした。
「お邪魔します。」
僕は遠慮するように玄関に足を踏み入れた。彩白に先導され彼女の部屋に入る。
「本当に何もないな。」
「あると捨てられるからね……。」
びっくりするほどに物がない。洋服ダンスや勉強机、ベッドなど、生活に欠かせない物だけだった。
彩白は、壁に立てかけてあった折り畳み式の机を持ってきて、部屋の真ん中に作った。
「お茶持ってくるから、座って先に始めてて~!」
「うん、ありがとうー!」
彩白は小走りで階段を降りていった。
僕は彩白の部屋を見渡した。少し罪悪感を抱きながら、真っ白の殺風景な部屋を眺めていた。
「……綺麗にしてるよな……」
僕は無意識にそう呟いた。埃ひとつないと言えば嘘になるが、人里離れた場所に積もった雪のようだった。
土汚れもなく、足跡もない。一面に広がる白銀の景色、まさにそれがこの部屋の比喩には丁度良かった。
「持ってきたよ~! おー、もう始めてるね!」
「そりゃ、やらないとマズイからね。」
「それは私もだよ……はいお茶。」
「ん、ありがとう!」
彩白は持ってきた2つのグラスにお茶をそれぞれ分けて入れ、1つを僕の前に置いてくれた。
それからは無言で勉強に励んでいた。道中は、『部屋で勉強とか大丈夫かな?』という心配が大きかったけど、そうなる未来は来なかった。
僕の部屋で2人きりという場面が多かったせいで、今全くドキドキしていない。
だから勉強に差し支える事もないし、いつも通りの進み具合だった。
「なあ彩白。」
「ん? どうしたの?」
「もうそろそろ、帰ってもいいか? 夕飯の時間だからさ。」
「えー、もう帰っちゃうの? 明日休みだし、両親も帰ってこないし、もうちょっといてよ。」
彩白はそう言うと、僕の隣に座りこう言った。
「……あんなことやこんなことしても良いんだよ?」
僕は少し考えた。魂胆は僕をイジって、笑いものにしたいだけ。
「本当にいいんだな……?」
「キー君がその気ならいいよ?」
僕は彩白が挑発してきているのは、もう目に見えていた。
だから、たまには不誠実なことをしてみようと思った。日頃の仕返しを兼ねて。
「え、えっ……ちょっと……?」
僕は彩白を床に押し倒した。目下に仰向けに寝る彩白が見えた。
「この後もいいんだよな……?」
「…………」
彩白は顔を真っ赤にして、目を背けていた。一切返答することなく、目を瞑ってもいた。
僕はため息をつきながら元の体勢に戻った。
「まったく、男ってのは間に受ける奴もいるからな。」
「…………」
やばい、少しやりすぎたかもしれない……。
「彩白、大丈夫か?」
「…………」
うわっ、これは終わった……口聞いてもらえなくなったみたいだな……。
僕は反省の念を抱きながら、黙ってシャーペンを走らせていると、何やら安らかな声が聞こえてきた。
「……おい、彩白寝たのか?」
「スゥー……」
「うわ、本当に寝てるわ。」
僕はそれを見て少し安堵した。それから彩白が起きるまでの1時間、僕は黙って勉強をしていた。
「……あっ!! 寝ちゃった……」
「あっ、起きた。」
「キー君!? 私に何かした……?」
「何もしてないよ。」
逆に怒らせたんじゃないかって、ビビってたよ。
彩白は少し気まずいような雰囲気を出していた。とりあえず、僕は帰ることにした。
「じゃあ、今日はありがとう。」
「う、うん。また親がいない時に呼ぶね。」
「ああ。また明日。」
僕はそう言って帰路に着いた。
その後彩白が、照れながら思い返している事を、僕が知るはずがなかった。
「えっ、本当ですか?」
担任が居残り勉強する僕らに、そう言って帰るように促してきた。
「いちゃダメなんですか?」
「ええ。責任者がいないから駄目なのよ。」
それなら仕方ないな……。流石に学校の他の場所だと、迷惑になるんだよね。
必要最低限だけど、話し声が気になる人も多いと思うから、学校もやめた方がいい。
最寄りだと、コーヒーショップとかファミレスとかもあるけど、彩白が自由に使えるお金がない。だから不可能だ。
じゃあ僕の家になるのかな……?
「じゃあ、私の家来る?」
「……えっ、いいの?」
「うん。今日親いないし、ああ言うこともしちゃう……?」
「い、彩白……! な、何言ってんだよ……!」
「どうしたの~? そんな動揺してさ。そんなに私の体に興味あるの?」
ったく、彩白の体に興味ない男子いないよ。大きなメロン2個付いてて、痩身体型で。
「ま、まあ……ない事もないよ……」
「ふーん……素直でよろしい!!」
「……僕にこんな拷問、何が楽しいんだよ……!」
そんな会話をしながら、僕らはバス停に向かい時間まで暇を潰した。そしてバスに乗り、最寄り駅へと戻っていく。
「本当に大丈夫なんだよな……?」
「うん。というか、そんな警戒しなくて大丈夫だよ?」
「だって、彩白のお母さん厳しいんでしょ? やっぱり怖くなるって。」
「……多分見つかったら、ただじゃ済まないと思うよ……」
おいおい、そんな怖いこと言うなよ。帰りたくなるじゃんか……。
「……もう、帰っていい?」
「えっ、女の子が勇気出して言ったのに、そんな事するの?」
「……今のお前、多分怒った時の彩白お母さんより怖いぞ……」
まあでも、彩白の言ってる事もわかる気がする。
今でこそ何とも思わなくなったけど、やっぱり初めて彩白が家に来た時は、緊張もした。
「お邪魔します。」
僕は遠慮するように玄関に足を踏み入れた。彩白に先導され彼女の部屋に入る。
「本当に何もないな。」
「あると捨てられるからね……。」
びっくりするほどに物がない。洋服ダンスや勉強机、ベッドなど、生活に欠かせない物だけだった。
彩白は、壁に立てかけてあった折り畳み式の机を持ってきて、部屋の真ん中に作った。
「お茶持ってくるから、座って先に始めてて~!」
「うん、ありがとうー!」
彩白は小走りで階段を降りていった。
僕は彩白の部屋を見渡した。少し罪悪感を抱きながら、真っ白の殺風景な部屋を眺めていた。
「……綺麗にしてるよな……」
僕は無意識にそう呟いた。埃ひとつないと言えば嘘になるが、人里離れた場所に積もった雪のようだった。
土汚れもなく、足跡もない。一面に広がる白銀の景色、まさにそれがこの部屋の比喩には丁度良かった。
「持ってきたよ~! おー、もう始めてるね!」
「そりゃ、やらないとマズイからね。」
「それは私もだよ……はいお茶。」
「ん、ありがとう!」
彩白は持ってきた2つのグラスにお茶をそれぞれ分けて入れ、1つを僕の前に置いてくれた。
それからは無言で勉強に励んでいた。道中は、『部屋で勉強とか大丈夫かな?』という心配が大きかったけど、そうなる未来は来なかった。
僕の部屋で2人きりという場面が多かったせいで、今全くドキドキしていない。
だから勉強に差し支える事もないし、いつも通りの進み具合だった。
「なあ彩白。」
「ん? どうしたの?」
「もうそろそろ、帰ってもいいか? 夕飯の時間だからさ。」
「えー、もう帰っちゃうの? 明日休みだし、両親も帰ってこないし、もうちょっといてよ。」
彩白はそう言うと、僕の隣に座りこう言った。
「……あんなことやこんなことしても良いんだよ?」
僕は少し考えた。魂胆は僕をイジって、笑いものにしたいだけ。
「本当にいいんだな……?」
「キー君がその気ならいいよ?」
僕は彩白が挑発してきているのは、もう目に見えていた。
だから、たまには不誠実なことをしてみようと思った。日頃の仕返しを兼ねて。
「え、えっ……ちょっと……?」
僕は彩白を床に押し倒した。目下に仰向けに寝る彩白が見えた。
「この後もいいんだよな……?」
「…………」
彩白は顔を真っ赤にして、目を背けていた。一切返答することなく、目を瞑ってもいた。
僕はため息をつきながら元の体勢に戻った。
「まったく、男ってのは間に受ける奴もいるからな。」
「…………」
やばい、少しやりすぎたかもしれない……。
「彩白、大丈夫か?」
「…………」
うわっ、これは終わった……口聞いてもらえなくなったみたいだな……。
僕は反省の念を抱きながら、黙ってシャーペンを走らせていると、何やら安らかな声が聞こえてきた。
「……おい、彩白寝たのか?」
「スゥー……」
「うわ、本当に寝てるわ。」
僕はそれを見て少し安堵した。それから彩白が起きるまでの1時間、僕は黙って勉強をしていた。
「……あっ!! 寝ちゃった……」
「あっ、起きた。」
「キー君!? 私に何かした……?」
「何もしてないよ。」
逆に怒らせたんじゃないかって、ビビってたよ。
彩白は少し気まずいような雰囲気を出していた。とりあえず、僕は帰ることにした。
「じゃあ、今日はありがとう。」
「う、うん。また親がいない時に呼ぶね。」
「ああ。また明日。」
僕はそう言って帰路に着いた。
その後彩白が、照れながら思い返している事を、僕が知るはずがなかった。
0
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
月弥総合病院
僕君☾☾
キャラ文芸
月弥総合病院。極度の病院嫌いや完治が難しい疾患、診察、検査などの医療行為を拒否したり中々治療が進められない子を治療していく。
また、ここは凄腕の医師達が集まる病院。特にその中の計5人が圧倒的に遥か上回る実力を持ち、「白鳥」と呼ばれている。
(小児科のストーリー)医療に全然詳しく無いのでそれっぽく書いてます...!!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる