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はじまり

大きすぎる力

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「もちろんその言葉も嬉しかったですわ。でも、私はエド様のことが好きって気づいてしまいましたもの。だからその言葉では物足りなかったんですの。エド様はきっとこういう事には疎くてっらしゃるから、私からはっきりと伝えましたわ。好きだって・・・・・・・いつか絶対に迎えに行くから待ててくださいって」



「エド様は何ておっしゃいましたの?」



「最初はすごくびっくりなさってましたけど、待ってる。そう、おしゃってくださいましたわ。ふふ、私達の大切な約束ですの。ライラ様には真っ先に教えなきゃって思ったんですのよ」



そう語るマリアナは本当に嬉しそうで、見ているだけで何だかライラも幸せな気分になれた。

これからマリアナとエドが歩む道は決して容易ではないだろう。

貴族の令嬢であるマリアナと平民のエドが結ばれるなど、相当な根気がいるに違いなかった。

それでも真っ直ぐにエドを想い、好きだと言い切るマリアナはとても綺麗で眩しかった。



「私も、マリアナ様とエド様のことを応援させていただきますわ」



「ありがとうございます、ライラ様。・・・・・・ライラ様にはその手のお話がつきなさそうですわね」



「私にですか?そんなことありません!」



マリアナの言葉に慌てて首を横に振る。

竜城に招かれた後、兄であるミシェルとクランに婚約者が出来たことは二人から聞いてはいたが自分にそのような存在が出来るなどまだまだ先の話のように思う。

マリアナの様に誰かに特別な感情を抱いたこともなければ、恋というものが何なのかよく分かっていないのだ。

いつか、マリアナの様に心から好きになれる人が現れればいいなとは思うが当分そういうこともなさそうである。



「そうなんですの?残念ですわ。でも、ライラ様に好きな人が現れたときは私も全力で応援しますわ!!」



力強く意気込むマリアナにお礼をいおうと口を開きかけた時、ふいに二人に覆いかぶさるように影が差し込む。

マリアナと一緒に後ろを振り向けばクラスメイトの男の子が数名、二人を見下ろすように背後に立っていた。

顔に見覚えはあるものの特に言葉を交わしたこともない、彼らの名前を思い出せないライラを察してマリアナがこそっりと耳打ちする。



「一番偉そうにしているのが、ロベロン伯爵のご子息のレイスですわ。その後ろにいるのはレイスとよく一緒にいる男爵家のご子息たちです」



マリアなの声に視線を再び目の前に向ける。マリアナの言う通り、男の子たちの中でも先頭に立ち傲慢な態度で胸を張っている男の子がいた。彼がレイスだろう。

そんなレイスと呼ばれた少年はライラになど見向きもせずにマリアナを真っすぐ見つめていた。



「おい、マリアナ。今のは本当か?」



「何がですの?」



荒々しい口調でマリアナに声をかけるレイスにマリアナが困惑顔を浮かべる。



「お前がドワーフのエドって奴に求婚したことだ!!」



「なっ、盗み聞きしてたんですの!?」



レイスの口から出た言葉にマリアナが驚いた表を向ける。

ライラとは違い、どうやら彼女は彼らと顔見知りのようである。

ただ、あまり仲が良いようには見えないが。



「うるさい!!本当なのか!?あんな平民に婚約するなんて、お前は貴族だろう!!」



「レイス様には関係ありませんわ!!」



激しく言い合う二人に気圧され、ライラはただ成り行きを見守るしかできない。

レイスの後ろにいる取り巻きたちも同様である。



「ふざけるな!!」



「きゃあ!?」



顏を真っ赤にしたレイスがマリアナの髪を乱暴に掴む。

大きなリボンが奇麗に結ばれていたマリアナの髪が歪にゆがんだ。

これには、思わずライラが止めに入る。



「レイス様!!あまりにも乱暴ですわ!!その手をお放しください!!」



マリアナの髪を掴んでいるレイスの手を外そうと自身の手を伸ばすが乱暴に払いのけられる。



「お前に関係ないだろう!!」



じんじんと痛む手の痺れなど気にならないほどの怒りがライラを支配する。

髪を思いっきり引っ張っられているマリアナアの苦しそうな顔に堪らず声を荒げる。



「その手をお放しになって下さいと言っているのです!!」



ライラが声を張り上げた瞬間、小さな風が吹き大気が揺れた。それはほんの一瞬の出来事。

生暖かい風が頬を撫でたと思った時には、マリアナの腕を掴んでいたレイスの腕に赤い染みが広がっていた。

その場にいた全員が何が起こったのか理解出来なかった。



「う、うあああああああああああああああ!!」



マリアナの髪から手を放し、赤く染まっていくその腕をもう片方の手で押さえながらのた打ち回るレイスにライラは言葉を失う。



(・・・・・・何がおこりましたの?)



ライラだけでなく、その場にいた全員が顔を引き攣らせレイスを眺めていた。まるで地面に足が縫いついているかのように動くことが出来ない。



「ライラ様!!お下がりください」



そんな中、騒ぎを聞きつけたガランが声を張り上げライラを押しのける。倒れているレイスに目を向けるやいなや、すぐさま側へと駆けよる。



「っつ、・・・・・・脈が切れているかもしれない。この中に治癒魔法を使える者はいるか!?」



ガランの声にはじかれた様に呆気にとられていたマリアナが恐る恐るといった様子で名乗りを上げる。



「あ、・・・・・初級の治癒魔法でしたら」



「それでも構わない!!彼に治癒魔法を」



どこからともなく、エメラルドに輝く魔力石を取り出したガランはそれをレイスの赤く染まる腕へと宛がう。治癒石のようである。マリアナもガランに促され治癒術をかける。だが、レイスの傷は一向に塞がる様子はなく地面に赤黒い染みを淡々とつくっていく。

その間にも、ガランが魔術を唱え自身の契約精霊に何かを伝えているようである。

ガランとマリアナが懸命に治癒に当たっていると、しばらくして治癒能力に特化している学び舎専属の医師が顔色を変えレイスの元へと駆け付けた。

レイスの傷をみた医師はすぐさまここでは治療は不可能と判断し、彼を学び舎から王都の医学専門機関に移すように指示をだす。

ぐったりとしたまま動かなくなったレイスを見つめながら、ライラは恐怖で体を震わせることしか出来なかった。


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