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はじまり
それぞれの道
しおりを挟む竜城から慣れしたしんだ屋敷へと戻ってしばらく、ライラは学び舎へと久しぶりに足を踏みいれた。
ライラの姿を見るなり、早足で駆けてきたのは親友であるマリアナだ。
「ライラ様!!ああ、もう大丈夫ですのね。あの日からずっと心配していたんですのよ?もしかしたらもう会えないのかと思いましたわ」
安堵のため息をつくマリアナに申し訳ない気持ちが込み上げてきて、謝罪の言葉を口にする。
「心配かけてごめんなさいマリアナ様。本当は直ぐにお手紙を出したかったのですけれど、それが出来なくて・・・・・・ごめんなさい」
竜城に着いてからしばらくして、ライラはマリアナに手紙をだそうとした。
中庭での騒動の後、リリアナ宛に何度かマリアナから文が届いているとトゥーナに教えてもらったのだ。
マリアナはライラが倒れたときに側にいたのだ。きっと不安にさせてしまったに違いないと思ったライラは、直ぐに筆を走らせたのだがその文を出すことは出来ないと公爵にやんわりと断られてしまった。
精霊王と契約したライラの存在は既に貴族達の間で噂になっており、引っ切り無しにスティハーン公爵の元にも文が届いていた。不要な火種を避けるためにも、公爵はどの文にも返事を出していなかった。
そんな中、噂の的であるライラが直々に文を出した相手がいると知られてしまえばその者にも迷惑がかかると忠告されたのだ。
「いいえ、大体の事はお母様たちが話しているのを聞きましたので分かっているつもりですわ。それより、少し場所を変えませんか?ここだと人目に付きますし、私もリリアナ様にお伝えしたいことがあったんですの」
マリアナの言葉に周囲を見渡せば二人の会話に側耳を立てる生徒たちの姿が目に入る。
「ええ、でも授業は大丈夫でしょうか?」
「ふふ、私達はみな優秀でしたので習得しなけらばいけない授業は全て終わっているんですの。だから、卒業の日までは自習なんですのよ。卒業までの残りの期間は学び舎に来も来ないも私たちに一任されていますの。エド様も最近では、あまり学校にはこられていませんわ。お家で物作りの修業をなさっているのですって」
なるほど。どうりでエドの姿が先ほどから見えないわけである。
マリアナの言葉に相槌を打ち、二人は中庭へと移動することにした。
そんなマリアナとライラの後ろにはつかず離れずの距離でガランが護衛に当たっている。
中庭に着いた二人は人気の少ない茂みの側へと腰を下ろし、ガランへと視線を向けた。
「ガラン、私達はここでお喋りしていますから少し離れた所にいてくれませんか?」
「ですが、」
ライラの言葉にガランが困惑顔を見せる。
いくら学び舎とはいえ危険がないとは言い切れない。護衛としては側を離れるのは憚られた。
そんなガランの心情を察し、すかさずライラが声をかける。
「大丈夫です。ここらは動きません。約束しますわ。私達にだって聞かれたくない話があるんですの。少しの間だけ、お願いします」
アランは一瞬迷う素振りを見せ、辺りを見回し危険がないことを確認する。
その後、念を押すようにライラとマリアナに何かあったら直ぐに呼ぶように言いつけ二人の姿が見える程度に距離を開ける。
「ふふ。りがとうございます、ライラ様。私のために気を遣って下さったのですね」
「マリアナ様がこんな風に秘密のお話をしてくれるだなんて珍しいんですもの。それに、いくら護衛でもガランは男性ですもの。聞かれたくないこともあるかもしれませんし・・・・・・」
「そうですわね。今から話すことはちょっと恥ずかしいことなのですが・・・・・・でも、ライラ様は私の一番のお友達ですか知っておいてほしくて」
そう言って愛らしく頬を染めるマリアナは意を決したように続けて口を開く。
「・・・・・・私、エド様に求婚しましたの」
「ええ!?」
思いがけない内容に思わずライラの口からはしたなくも大声が漏れる。
その声は少し離れていたガランにまで届いていたらしく、ガランがこちらを不思議そうに伺うのが見えた。
「ライラ様、声が大きいでですわ!」
ライラの口に手をあて、マリアアナが声を抑えるように促す。
慌てて、首を縦に振り頷き返すとマリアナの手が離れていく。
「ごめんなさい、びっくりしてしまいまして・・・・・・。求婚って、あの男性が女性にするプロポーズのことですか?」
半信半疑で尋ねるとマリアナは大きく頷く。
「ええ、そうですわ。・・・・・・ライラ様が精霊と契約した後、私もエド様もそう間を置かずに精霊と契約することが出来たんですの。エド様も精霊と契約してからしばらくは学び舎にきていたのですけど、ミトラク大陸にある学校に進学を決めてからは少しでも物づくりの技術を習得したいとお家で技術を磨くためにここに来ることが減りましたの」
ミトラク大陸とは炎の竜王が治める情熱と追究の大陸である。
ミトラク大陸には世界中から多くのドワーフが集まり日々装飾品や工芸品の技術を競い合っていると聞く。
そんな大陸の学園に進学すると決めたということは、エドは物造りの道に進むようである。
「エド様は炎の魔力でしたもの。きっと素晴らしい、職人になるに違いありませんわ。でも、やっぱり会えなくなるのは寂しいです。」
学び舎を出た後の進路は平民のエドと貴族のライラ達とでは異なることは十分理解しているつもりだった。
だが、いざその話を聞くと寂しさが込み上げてくる。
ライラもこの先はノアール大陸に進学することが決まっているため、そう簡単に二人には会えなくなるだろう。
「・・・・・・ライラ様もきっとここではない大陸に進学なさるのでしょう?あれほど、強い精霊と契約なさったんですもの」
「・・・・・・ええ、学び舎を卒業したらそう日を置かずにノアール大陸に行く予定です」
「そうだと思いましたわ。・・・・・・私、ライラ様と離れると思った時も凄く悲しかったんですの。でも、きっとこれから社交界や夜会でお会いできるからって思いましたの。でも、エド様は・・・・・・エド様とは学び舎をでたら本当にもう会えないかも知れない。そう思ったら、凄く苦しくて悲しかったんですの」
「マリアナ様・・・・・・」
今にも泣きだしてしまいそうなマリアナに、ライラの胸も締め付けられるように痛む。
「最初は自分がどうしてこんなにも戸惑っているのか分かりませんでしたわ。でも次にエド様に会った時に私はっきりと思いましたの。エド様とこのまま離れるなんて嫌!って。それで、一生懸命考えたんですの。どうしてそう思うのか・・・・・・そしたら、私エド様のことが好きなんだって気づくことが出来ましたの」
そう話すマリアナはとても奇麗で思わず釘付けになる。
「・・・・・・それでエド様に求婚なさったのですか?」
「だってエド様ったら鈍いんですもの。私が、これからも会いに行きますっていったら何て言ったと思います?離れてもずっと友達なんだから遠慮せずに来いよって・・・・・・」
「エド様らしいです」
エドらしい裏表のない言葉に思わず笑みがこぼれる。
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