囁き少女のシークレットボイス

うみだぬき

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60話 ギャルメイドはお好きですか

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 昼下がり、メルヘンな装飾に日常生活では見ることがほとんど無い格好をした女性、その女性に鼻の下を伸ばす男性たちを眺めていた。

「まじで付き合ってくれてありがとなっ!前に見かけて行ってみたかったんだよ!」
「俺も一回は体験してみたかったし気にするな」

 響たちは、駅前に最近出来たメイドカフェに入店していた。
 一人で来るのは相当のメンタルが無ければ叶わないが、二人ともあればノリで来たという免罪符にできる。

「あの子めっちゃ可愛いくないか!?あの子に接客して欲しすぎる!」
「どの子だ…あっ」

 佑馬がタイプだと言う子に、目を向けると見慣れたプリン柄の髪に、メイクだけでは隠せていないつり目の少女が接客をしていた。
 するとその二人の元に、別のメイドさんが声を掛ける。

「ご主人様はあのメイドさんが好みなんですかー?よかったら接客はあの子、きょうちゃんにしましょうかー?」
「京ちゃんって言うのか…是非お願いします!!」

 そのメイドさんは、佑馬のタイプのメイドさんに声を掛け、そのタイプの子は響たちの元に笑顔でやって来た。

「ご主人様おかえりなさーいっ。今日は初めてのご来……店…は?」
初めまして、道元響です」
「俺は佑馬!!」

 このメイドの正体は、京ちゃんもとい、響たちの友人のだった。
 響は一目で分かっていたが、佑馬は現在進行形で気づいていない。
 肝心の透子は、分かりやすく表情を歪め素の感情を出していた。

「なんで…ここに…」
「京ちゃんどうしたの?料理注文してもいいかな?」
「っどうぞー」

 透子は佑馬にはバレていないことを察し、わざと高めの声で返事をする。
 その間、響に対して『まじで余計なこと言ったら殺すっ』と耳の良い響だけに聞こえる声量で呟く。
 透子は響たちのオーダーを取り、ホールへ向かって行った。

「京ちゃん…めちゃくちゃ可愛いな!」
「確かにな」
「京ちゃんのために通おうかなー」

 佑馬は相変わらず気づいていないらしく、透子に思いを馳せる。
 数分後、二人の元に透子が飲み物を運んでくる。

「っご主人様のお飲み物です!」
「うぉー!なんか可愛くてメイドカフェっぽい!」
「メイドカフェっぽいって言うか、メイドカフェだしな」

 注文する前、メニュー表を眺めていた時に『全ての飲食物におまじないがあるよっ』と書かれていたことを思い出し、響はニヤニヤしながら尋ねる。

「京ちゃーん、おまじないはないんですか」
「おまじないとかあるのか!?」
「…ございますよっー」

 透子は引きつった顔でおまなじないの説明を始める。

「あたしが…じゃなくて、京と同じ動作をして『ラブラブビーム!』って言ってくださいねっ」
「分かった!!」

 響たちは透子を真似、胸の前でハートを作り、その手を飲み物に向けながらおまじないを発声する。

「「「ラブラブビーム!」」」
「はい、より美味しくなったと思うのでごゆっくりお楽しみくださーいっ」
「京ちゃんありがとう!!」

 佑馬はおまじないのかかった飲み物を飲みながら、透子のことを目で追っていた。

「っんー!めちゃくちゃ美味しい気がする!」
「良かったな」
「次は定番のオムライス!楽しみだなぁ」

 そんな話をしていると、透子が今話題にしていたオムライスを運んできた。

「ご主人様ーオムライスでーすっ」
「なんか文字書いてくださいよー」

 透子は机の下で響の足をぐりぐりと踏みながら、ケチャップで二人のオムライスに文字を綴る。
 佑馬のオムライスには『テストおつかれ』と書かれ、響のオムライスには最初『ころす』と書かれ、すぐさまそれをスプーンで塗り広げ、『ないしょだよー?』に変更された。

「なんでテストやったの知ってるの!?」
「あー、京の勘かなー?」

 透子は適当な嘘をつき、響がメニュー表の『おまじない』をトントンと指さすのに気づき、ぐりぐりと踏む力を強めた。

「京がオムライスにおまじないをかけますね!」

 透子は両手を自分の口に持っていくと『っちゅ』と投げキッスをオムライスに放った。
 終始、響は笑いを堪えるのに必死だった。

「っでは、ごゆっくりー」
「はーいっ!」

 佑馬はオムライスを美味しそうに食べながら、響に京ちゃんへの愛を語っていた。


 オムライスを食べ終え、最後にチェキを撮ろうと透子に声を掛ける。

「京ちゃーん、チェキお願いしてもいいですかー?」
「道元殺…っ分かりましたー、っではあちらにどうぞー」

 透子の背中に着いて行き、装飾がチカチカするほど派手な撮影スポットに向かった。
 初めは佑馬が透子と二人でハートを作り、チェキの撮影をした。

「ご主人様どうぞー!」
「響、京ちゃんに惚れちゃダメだぞ!?」

 響は透子の横に立つと、透子が響の頬を摘むポーズをする。

「京ちゃん、痛いんだけど?」
「道元うっさい」

 本来は実際には摘まないのだが、透子の手はしっかりと響の頬を捉え、なんなら痛いほど強く摘まれた。
 チェキを終え、二人はお会計を済ませた。

「ご主人様のまたのご来店心よりお待ちしてますねっ!」
「また来ます!!」


 その日、透子はバイトを辞めたらしい。
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