囁き少女のシークレットボイス

うみだぬき

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76話 花火が咲く夜空の下で二人

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 花火というメインディッシュを残し腹も膨れ、腹ごなしに歩きながら気になる屋台を手当り次第に遊んでいく。

「響さん!私あれが欲しいです!」
「あのビーバーのぬいぐるみ…コルク玉じゃ絶対取れないぞ?」
「っファイトです!」

 菖蒲は両手の拳を震わせながら響に激励を送る。
 響は菖蒲の狙いのぬいぐるみに銃口を向け、力強く発砲する。

「兄ちゃん惜しいなー!あと少しだったな、あと二発頑張れよっ」

 射的屋の店主はうちわで仰ぎながら、余裕の表情を浮かべる。
 響は続けてコルク玉を打ち出すがぬいぐるみはビクともしない。

「響さん、ラスト頑張ってください!」

 半ば諦めながら狙ったコルク玉は、見当違いの場所へ飛んでいく。
 そのコルク玉は台の柱に当たり、老朽化が進んでいたのかバランスを崩し、ジェンガのように崩れていく。

「すみません!…は?」
「…くっついてますね?」

 ほとんどの景品は床にバラバラと広がったが、上位賞の景品は固定されているように微動だにしていなかった。
 その光景を見ていた他の客もザワザワしだし、店主はダンボールからぬいぐるみを取り出すと、響に押し当てる。

「に、兄ちゃんが欲しかったのはこれだろ!?これやるから今回は!な!?」

 店主は慌てて店を畳むとすごい速さで消えて行った。

「…行っちゃいましたね」
「だな…あとこれ、獲得方法は違うがぬいぐるみ」

 菖蒲は、響が渡したぬいぐるみに顔を埋めると、目元だけをこちらに見せる。

「ありがとうございますっ」


 菖蒲と屋台を回っていると『御手洗に行ってきますっ』と、浴衣の裾を気にしながら小走りで駆けて行く。

「あと二十分ぐらいか」

 スマホを確認すると花火までの時間が着々と進んでいた。
 チラホラと花火に言及する話し声も聞こえ、自ずと心が弾む。


 十分ほど経つが菖蒲の姿はまだ見えない。
 スマホに連絡も来ておらず、少し心配になり菖蒲の向かった方へ向かう。

「…居ないか」

 並んでいる列にも外にも菖蒲は居なく、周辺の人に声を掛けるも『見ていない』と情報になるものは無かった。
 するとスマホが音を立て振動する。

『響さん!すみません、人混みに流されちゃってっ』
『大丈夫か?今どこら辺に居るんだ?』
『…たい…ら辺です…』

 他の声や音に紛れ、肝心の菖蒲の声が途切れ途切れになってしまう。
 菖蒲に詳しい位置を聞こうとするが、スマホ画面が黒くなっていく。

「充電切れ…結構まずいんじゃないか…」


 菖蒲の姿を探し、通った道や休憩所に寄るも見つけることは出来なかった。
 バタバタとしていた響は、横から出てきた人に気づかずぶつかってしまう。

「っすみません」
「こちらこそ…って響じゃんっ!」

 ぶつかったのは髪のセットや着付けをしてくれた佑馬だった。

「佑馬だったのか、謝ったりして悪いな」
「いやいや!俺にも謝罪は必要だぞ!?」

 佑馬は他の友人と来ていたらしく、手には複数人のカバンを持たされていた。

「友達がトイレ行ってるから荷物持ちにされてんだよー。てか響、源さんはどこにいるんだ?」
「…菖蒲と来るって言ったか?」
「大体想像つくって。なんならさっき源さん見かけたしな」

 菖蒲を見たという佑馬に、細かい情報を聞くと本殿の方へ流されていたとのこと。

「佑馬サンキュっ!」
「おう!頑張れよ響っ!」

 佑馬と別れ、目撃情報のあった本殿へ向かって行く。


「っどこら辺だ」

 本殿に着き、辺りを見るが見つけることが出来ない。
 花火の時間が近いのか、人混みがより多くなり人探しが困難に近くなる。

「…やるしかないか」

 響はめいいっぱいに空気を吸い込むと、段差に乗り出し大声で叫ぶ。

「っ菖蒲ー!!っいたら返事しろー!!!」

 周辺からの冷ややかな目が突き刺さる中、本殿の後ろの方から返事が返ってくる。

「っ響さん!!ここでーす!!!」

 声がする方へ足を走らせると、目元に涙を浮かべ、赤くなった足を露にした菖蒲の姿があった。

「…やっと見つけたぞ」
「っ響さん!」
「足…怪我したのか?」

 菖蒲は人混みに流される中で、慣れない草履で靴擦れを起こしたらしく、痛々しい足を夏の風で冷ましていた。

「痛そうだな…歩けそうか?」
「…頑張れば…」

 菖蒲は草履に再度指先を通すが、声と身体が小さく跳ねる。

「無理はするな、大人しくしとけ」
「でもっ!もう花火始まっちゃいますし…ここからじゃ…」

 菖蒲は先程まで、花火の凄さをこれでもかと言うほど語っており、そんな花火を響に見せることが出来ないことに罪悪感を感じているようだった。
 響は菖蒲の隣に腰を下ろすと、胸元をパタパタと空気の入れ替えをする。

「私はここで待ってますので、響さんは花火見てきてくださいっ」

 菖蒲は響を押し、立たせようとするが響は動かなかった。

「…菖蒲と見れないなら…意味が無い…」
「っふぇ!?な、何言ってるんですか!ここでキザなセリフ言ってる場合じゃないですよ!」

 すると、会場全体に響く音量で花火のアナウンスが行われる。

「響さん始まっちゃいますって!」
「楽しみだな」
「何がですか!?」

 そんな話をしていると、一つ目の花火が空へ打ち上がる。
 しかし、花火は以外にも近い位置で弾けた。
 響は立ち上がり、その花火の方向を見ると木々を抜けた先に柵があるのが見えた。

「菖蒲」
「なんですか?ちょ、ちょっと!下ろしてください!」

 響は菖蒲を海の時のようにおんぶすると、その柵の方へ駆けて行く。

「どうしたんですか!いきなり!!」
「いいから大人しく背負われとけ」

 木々や林を越えると小さく広がった空間に、柵が置かれていた。
 柵に近づくと、タイミング良く花火が打ち上がる。

「穴場ってやつだな」
「凄いです!花火がいつもより大きく見えます!」

 背中でテンションを上げる菖蒲を背負いながら、無人の空間で花火を見上げる。
 そんな時、菖蒲が響の背中に顔を埋めたまま声を掛ける。

「っあの…響さん…」
「どうした?お、これはデカいんじゃないかっ!?」

 今までよりも大きい花火玉が真上に放たれると、菖蒲が小さく囁く。



 花火が弾け、夜空に鮮やかな火花が咲いた。
 菖蒲は響の肩を掴んでいた手を緩めると、カラッとした声で話し出す。

「…っ花火で声がかき消されるのって…フィクションだけじゃ無かったんですね…」

 小さく声を落とす菖蒲に、夜空を見上げたまま返答する。


「…え?」

 空を彩る花火を眺めたまま、響は最初の問にも返事を返す。



 響は空から轟く振動を一身に受けていると、菖蒲が再度囁く。

「…響さん」
「な、なんだ?」

 響は後ろを振り向くと、身を乗り出した菖蒲と顔が接近する。
 菖蒲は唇を震わせながら響の頬に手を添える。

「っなら……ですねっ?」

 その日一番の花火が夜空を埋める時、二人は密かに唇を交わした。
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