婚約破棄?むしろご褒美ですわね

冬木あやめ

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5話

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「……これが、“皮肉屋令嬢”の反撃か」

ノア=グランディスは、差し出された文書に目を落としながら呟いた。

それは、ヴェルディーユ侯爵家から提出された“新財政改革案”。  
華やかさはなく、むしろ味気ない。だが、その中には政権を根底から揺るがしかねない要素が詰まっていた。

「税の配分見直し、神殿への補助金制限、そして王宮財務の可視化……」

「これを通せば、“奇跡”の演出にも金が使えなくなりますね」

側近の声に、ノアは小さく頷く。

「……さて。兄上はどれほど理解しているだろうな。この国の“本当の重み”を」

*

一方その頃。

レティシアは王都の一角、ある古書店の裏部屋にいた。

「ここが“アントンの根城”ってわけね」

「見た目はただの本屋でしょう? でも、私の情報はすべてここから流れている」

アントンは棚の奥から、重たい革の帳簿を持ち出してきた。

「神殿と一部貴族の“癒着”の証拠。最近になって急激に増えた寄進金の動きもすべて記録済み」

「これだけ揃えば、王妃が“見て見ぬふり”をする理由も崩れるわね」

「そう。今必要なのは、これを“正しい場所”に投げること」

「いいえ。私は“投げたり”しないわ」

レティシアは帳簿を手に取り、薄く笑った。

「“置いてくる”の。誰もが目にする場所へ。見て見ぬふりが、できないように」

*

そして——翌日。

王宮政庁の掲示板に、一本の書簡が張り出された。

匿名の形式ながら、そこに記されたのは神殿と王太子陣営の金の流れ。  
数字と日付と記録。ごまかしようのない“事実”のみ。

ざわつく官吏たち、動揺する若手の貴族たち。  
そして、その報を受け取った王妃イザベルは、静かに目を閉じた。

「……レティシア=ヴェルディーユ。あなたはやはり、手強い女」

*

午後の陽光が射し込むヴェルディーユ邸の書斎で、レティシアは紅茶を啜った。

「さて、次の一手は——どう出るのかしら、王太子殿下」

優雅なティーカップの縁から、彼女の笑みが覗いた。

それは、冷たくも確かな、“勝者”の微笑だった。
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