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「誰が……誰が、こんな文書を……!」
神殿内の私室で、リリィ=アルトワは震える手で帳簿の写しを握り潰した。
それは、彼女の“奇跡”の裏側——薬品の調合、協力した神官の名、報酬のやり取り——すべてを暴いた記録だった。
「落ち着け、リリィ。まだ証拠とは限らない。あくまで“噂”の域を出ない」
背後で彼女を宥める神官の声も、もはや届かない。
リリィは理解していた。
これはただの警告ではない。“狙われている”のだと。
*
王宮内の執務室では、王妃イザベルが王太子アレクシスを前にしていた。
「アレクシス。あなたは本当に……“彼女”を信じているのね?」
「もちろんです。リリィは……聖女です。奇跡を起こした。民衆も、彼女を求めている」
「では、これはどう説明するのかしら」
差し出された書状に、アレクシスの表情がわずかに強張った。
「これは……」
「あなたの陣営が動かしていた資金と、神殿が受け取った“浄財”が一致する。どう思う?」
「……偶然、です」
「アレクシス。“偶然”とは、王族が最も安易に口にしてはならない言葉よ」
イザベルの声は静かだったが、その一言が重く響いた。
「民はいつまでも愚かではないわ。彼らが目覚めた時、あなたは“聖女のために国を歪めた愚者”として名を刻まれるの」
*
その夜。
レティシアは静かに筆を走らせていた。
「……王妃がついに動いた、ということね」
アントンが持ち帰った報告には、王宮内で王太子と王妃が“対立”したことが記されていた。
「王家の中に裂け目ができれば、あとはそこに楔を打ち込むだけ」
「楔、ですか?」
「ええ。国政とは、常に“選択”の連続。誰かが嘘を選び、誰かが真実を捨てる」
羽ペンがさらりと走り、封蝋が落とされた。
「そして私は、そのどちらでもない“第三の道”を選ぶわ。王政の未来を託せるのは——今の王子たちではないと示すために」
その手紙は、ノア=グランディス宛。
皮肉なことに、“王家の正統性”を崩すのは、他でもない“王族”自身になるのだ。
*
そして翌朝。
王都最大の広場で、レティシアは立っていた。
新たに設けられた「改革派演説会」において、“侯爵令嬢”が異例の登壇をするという前代未聞の噂に、群衆が押し寄せていた。
「皮肉屋令嬢? あの冷たいヴェルディーユ家の娘が?」
「けど、帳簿の件は……あれが本当なら、彼女は“正義”かもしれない」
人々のざわめきの中、レティシアはただ一歩、前へ出た。
「皆様。私は貴族です。けれど、同時に一人の市民でもあります」
その声は、凛としていた。
「誰かの“愛”によって国が歪められ、真実が塗り潰されるなら、私はそれを許さない」
その言葉に、人々の目が、確かに彼女へと向き始めていた。
新たな局面が、幕を開けた瞬間だった。
神殿内の私室で、リリィ=アルトワは震える手で帳簿の写しを握り潰した。
それは、彼女の“奇跡”の裏側——薬品の調合、協力した神官の名、報酬のやり取り——すべてを暴いた記録だった。
「落ち着け、リリィ。まだ証拠とは限らない。あくまで“噂”の域を出ない」
背後で彼女を宥める神官の声も、もはや届かない。
リリィは理解していた。
これはただの警告ではない。“狙われている”のだと。
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「では、これはどう説明するのかしら」
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「これは……」
「あなたの陣営が動かしていた資金と、神殿が受け取った“浄財”が一致する。どう思う?」
「……偶然、です」
「アレクシス。“偶然”とは、王族が最も安易に口にしてはならない言葉よ」
イザベルの声は静かだったが、その一言が重く響いた。
「民はいつまでも愚かではないわ。彼らが目覚めた時、あなたは“聖女のために国を歪めた愚者”として名を刻まれるの」
*
その夜。
レティシアは静かに筆を走らせていた。
「……王妃がついに動いた、ということね」
アントンが持ち帰った報告には、王宮内で王太子と王妃が“対立”したことが記されていた。
「王家の中に裂け目ができれば、あとはそこに楔を打ち込むだけ」
「楔、ですか?」
「ええ。国政とは、常に“選択”の連続。誰かが嘘を選び、誰かが真実を捨てる」
羽ペンがさらりと走り、封蝋が落とされた。
「そして私は、そのどちらでもない“第三の道”を選ぶわ。王政の未来を託せるのは——今の王子たちではないと示すために」
その手紙は、ノア=グランディス宛。
皮肉なことに、“王家の正統性”を崩すのは、他でもない“王族”自身になるのだ。
*
そして翌朝。
王都最大の広場で、レティシアは立っていた。
新たに設けられた「改革派演説会」において、“侯爵令嬢”が異例の登壇をするという前代未聞の噂に、群衆が押し寄せていた。
「皮肉屋令嬢? あの冷たいヴェルディーユ家の娘が?」
「けど、帳簿の件は……あれが本当なら、彼女は“正義”かもしれない」
人々のざわめきの中、レティシアはただ一歩、前へ出た。
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その声は、凛としていた。
「誰かの“愛”によって国が歪められ、真実が塗り潰されるなら、私はそれを許さない」
その言葉に、人々の目が、確かに彼女へと向き始めていた。
新たな局面が、幕を開けた瞬間だった。
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