婚約破棄?むしろご褒美ですわね

冬木あやめ

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4話

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王宮の回廊に、光が射していた。

けれどその輝きは、どこか薄く、白々しい。

「今日も“聖女様”のお告げがありましたのよ。市場で倒れた子供が立ち上がったとか」

「きっと神の御加護があるのですわ!」

侍女たちのそんな噂話を背に、リリィ=アルトワは王妃の間へと進んだ。

白と金のドレス。優美な歩き方。完璧な“清らかさ”を演出する彼女の姿は、まさに理想の聖女そのものだった。

「お入りなさい」

王妃イザベルの声は静かで、しかし冷たかった。

「お忙しい中、光栄ですわ、王妃様」

「聖女殿下。今朝の“奇跡”とやら、聞かせていただけるかしら?」

その問いかけに、リリィの指がわずかに止まる。だがすぐに笑顔を貼り直した。

「はい。わたくし、ただ祈りを捧げただけで……」

「ええ。祈りで人が癒えるなら、国医局はいらなくなるわね」

「……王妃様?」

「それとも“誰か”が裏で仕掛けているのかしら。薬物か、細工か、民衆への金銭的報酬か——」

イザベルの瞳は、あくまで優雅に、だが一切の情を感じさせない冷たさでリリィを射抜いていた。

「リリィ。あなたに求められているのは、純潔でも清廉でもなく、“利用価値”です。お忘れなく」

「…………」

リリィはその場で微笑を崩さなかったが、背筋には冷たい汗が伝っていた。

*

その夜。

ヴェルディーユ侯爵邸の一室で、アントン=バジルが音もなく窓から現れた。

「本日の“奇跡”の詳細。神殿が雇っていた薬師の名と、施した薬の構成を」

「ご苦労さま。資料は私の方で整理するわ」

レティシアは手早く内容に目を通しながら、頷いた。

「神殿の“演出”が粗くなってきたわね。焦っている証拠」

「おそらく王妃の圧が入った結果かと。噂では、明日にも“査問”が入るとか」

「王妃は“真実”には興味がない。ただ、王家にとっての“損益”を計算しているだけよ」

だからこそ、聖女の正体が暴かれる日は近い。

けれどその前に、まだやるべき手がある。

「アントン。ノア殿下への返答を。例の改革案、私の名義で“草案”を提出するわ」

「侯爵家の名を?」

「もちろん、落ちれば私が責任を負う。だが通れば——“皮肉屋令嬢”が、王政の裏側に食い込むことになる」

アントンはしばし沈黙し、やがて低く笑った。

「……王太子殿下が泣きますな。まさか“捨てた駒”が、自分より上手を取るとは思っていないでしょう」

「それでいいの。驚いて、後悔して、見上げて——そして気づくのよ。私は、はじめから“駒”じゃなかったってことに」

静かな夜の中、レティシアの声が落ちた。

「私は“盤面”を創る者。そうでなくては、生き残れないのだから」
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