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王宮の回廊に、光が射していた。
けれどその輝きは、どこか薄く、白々しい。
「今日も“聖女様”のお告げがありましたのよ。市場で倒れた子供が立ち上がったとか」
「きっと神の御加護があるのですわ!」
侍女たちのそんな噂話を背に、リリィ=アルトワは王妃の間へと進んだ。
白と金のドレス。優美な歩き方。完璧な“清らかさ”を演出する彼女の姿は、まさに理想の聖女そのものだった。
「お入りなさい」
王妃イザベルの声は静かで、しかし冷たかった。
「お忙しい中、光栄ですわ、王妃様」
「聖女殿下。今朝の“奇跡”とやら、聞かせていただけるかしら?」
その問いかけに、リリィの指がわずかに止まる。だがすぐに笑顔を貼り直した。
「はい。わたくし、ただ祈りを捧げただけで……」
「ええ。祈りで人が癒えるなら、国医局はいらなくなるわね」
「……王妃様?」
「それとも“誰か”が裏で仕掛けているのかしら。薬物か、細工か、民衆への金銭的報酬か——」
イザベルの瞳は、あくまで優雅に、だが一切の情を感じさせない冷たさでリリィを射抜いていた。
「リリィ。あなたに求められているのは、純潔でも清廉でもなく、“利用価値”です。お忘れなく」
「…………」
リリィはその場で微笑を崩さなかったが、背筋には冷たい汗が伝っていた。
*
その夜。
ヴェルディーユ侯爵邸の一室で、アントン=バジルが音もなく窓から現れた。
「本日の“奇跡”の詳細。神殿が雇っていた薬師の名と、施した薬の構成を」
「ご苦労さま。資料は私の方で整理するわ」
レティシアは手早く内容に目を通しながら、頷いた。
「神殿の“演出”が粗くなってきたわね。焦っている証拠」
「おそらく王妃の圧が入った結果かと。噂では、明日にも“査問”が入るとか」
「王妃は“真実”には興味がない。ただ、王家にとっての“損益”を計算しているだけよ」
だからこそ、聖女の正体が暴かれる日は近い。
けれどその前に、まだやるべき手がある。
「アントン。ノア殿下への返答を。例の改革案、私の名義で“草案”を提出するわ」
「侯爵家の名を?」
「もちろん、落ちれば私が責任を負う。だが通れば——“皮肉屋令嬢”が、王政の裏側に食い込むことになる」
アントンはしばし沈黙し、やがて低く笑った。
「……王太子殿下が泣きますな。まさか“捨てた駒”が、自分より上手を取るとは思っていないでしょう」
「それでいいの。驚いて、後悔して、見上げて——そして気づくのよ。私は、はじめから“駒”じゃなかったってことに」
静かな夜の中、レティシアの声が落ちた。
「私は“盤面”を創る者。そうでなくては、生き残れないのだから」
けれどその輝きは、どこか薄く、白々しい。
「今日も“聖女様”のお告げがありましたのよ。市場で倒れた子供が立ち上がったとか」
「きっと神の御加護があるのですわ!」
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白と金のドレス。優美な歩き方。完璧な“清らかさ”を演出する彼女の姿は、まさに理想の聖女そのものだった。
「お入りなさい」
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「お忙しい中、光栄ですわ、王妃様」
「聖女殿下。今朝の“奇跡”とやら、聞かせていただけるかしら?」
その問いかけに、リリィの指がわずかに止まる。だがすぐに笑顔を貼り直した。
「はい。わたくし、ただ祈りを捧げただけで……」
「ええ。祈りで人が癒えるなら、国医局はいらなくなるわね」
「……王妃様?」
「それとも“誰か”が裏で仕掛けているのかしら。薬物か、細工か、民衆への金銭的報酬か——」
イザベルの瞳は、あくまで優雅に、だが一切の情を感じさせない冷たさでリリィを射抜いていた。
「リリィ。あなたに求められているのは、純潔でも清廉でもなく、“利用価値”です。お忘れなく」
「…………」
リリィはその場で微笑を崩さなかったが、背筋には冷たい汗が伝っていた。
*
その夜。
ヴェルディーユ侯爵邸の一室で、アントン=バジルが音もなく窓から現れた。
「本日の“奇跡”の詳細。神殿が雇っていた薬師の名と、施した薬の構成を」
「ご苦労さま。資料は私の方で整理するわ」
レティシアは手早く内容に目を通しながら、頷いた。
「神殿の“演出”が粗くなってきたわね。焦っている証拠」
「おそらく王妃の圧が入った結果かと。噂では、明日にも“査問”が入るとか」
「王妃は“真実”には興味がない。ただ、王家にとっての“損益”を計算しているだけよ」
だからこそ、聖女の正体が暴かれる日は近い。
けれどその前に、まだやるべき手がある。
「アントン。ノア殿下への返答を。例の改革案、私の名義で“草案”を提出するわ」
「侯爵家の名を?」
「もちろん、落ちれば私が責任を負う。だが通れば——“皮肉屋令嬢”が、王政の裏側に食い込むことになる」
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「……王太子殿下が泣きますな。まさか“捨てた駒”が、自分より上手を取るとは思っていないでしょう」
「それでいいの。驚いて、後悔して、見上げて——そして気づくのよ。私は、はじめから“駒”じゃなかったってことに」
静かな夜の中、レティシアの声が落ちた。
「私は“盤面”を創る者。そうでなくては、生き残れないのだから」
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