婚約破棄?むしろご褒美ですわね

冬木あやめ

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17話

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王政補佐会議——。

王太子の不在に伴い、ノア=グランディスを中心とした暫定体制として設置された政治評議機関。  
その初回会合は、王城内の円卓の間にて行われることとなった。

そこに集ったのは、国の未来を左右する六名。

・ノア=グランディス(補佐王)  
・レティシア=ヴェルディーユ(筆頭顧問)  
・ラファエル・クレメンス(商会代表)  
・エメリア教授(学識顧問)  
・神殿代表補佐官  
・記録官ロベール

席に着くと、空気が自然と張り詰める。

「……本日より、本会議は“未来に向けた合議体”として、その役割を担います」

開会の辞を述べたノアの声音は、柔らかでありながらも確かな威厳を持っていた。

「まず第一の議題。“神殿への国家補助金削減案”について、筆頭顧問よりご提案を」

すっと視線が集まる中、レティシアが立ち上がる。

「現行の神殿補助制度は、かつての“聖女信仰”に基づいた構造を長く温存しており、その透明性と公平性が問われています。  
我々は信仰を否定するものではありません。  
しかし、国家の財政と行政が、“信仰に基づく神秘”に過度に依存することは、国の自立性を損なうものです」

彼女の言葉は明瞭で、どこまでも理にかなっていた。

だが、神殿代表補佐官は口元を緩め、静かに反論を口にした。

「それは、あくまで“信仰を持たぬ者”の理屈です。我々は、神の御業が国家を守ってきたと確信しております」

「“確信”は尊重されるべき信条ですが、“予算”は理で動かさねばなりません」

レティシアの返しに、思わずエメリア教授がくすりと笑った。

「それに、御神託に従う運営が必要というのであれば、我々も“検証可能な神託”を拝見したいところですな。学術的にも価値がある」

神殿側がわずかに顔を引きつらせる。

そして、ラファエルが軽く肩をすくめた。

「庶民の目線から言えば、“神託で税が上がった”なんて話は納得されません。これが市場だったら、一瞬で信頼を失うところですよ」

それぞれの立場からの応酬が続く中、ノアがやがて口を開いた。

「補助金制度の見直しは、政教分離に向けた第一歩であると私も考えている。  
ただし、完全な断絶ではなく“段階的縮小”という形をとろう。神殿側にも、調整の余地を残す」

それは一見、妥協のように見えたが——

「“調整の余地”はあくまで、理と検証に基づいたものに限る。それが、私からの条件です」

と添えたことで、会議における立場は明確となった。

“神の名のもとに”振る舞っていた時代は、今、終わりつつある。

*

会議終了後。

控室でラファエルがレティシアに声をかけた。

「さすがですね、侯爵令嬢。あんなに優雅に神殿を追い詰められるとは」

「優雅というより、“当然の手順”ですわ。あの方たちは“神”という盾を持ち出せば、誰も手を出せないと思っていた。  
その幻想を崩すのは、私の役目ですから」

「じゃあ次は何を崩すおつもりで?」

「“常識”という名の沈黙。次の議題は、貴族特権の見直しです」

にっこりと笑うその姿に、ラファエルは背筋に小さく冷たいものを感じた。

“この人は本気だ”——そう確信するには、十分だった。

*

その夜。ノアは一通の手紙を手にしていた。

“君のやり方は、時に冷たく見える。だが、君ほどこの国に必要な“熱”を持つ者を、私は知らない”

それは、王妃イザベルからの私信だった。

——“令嬢一人で、国の芯を変えつつある”  

誰もが気づき始めていた。  
レティシア=マルグリット=ヴェルディーユが、今まさに“革命の導火線”になろうとしていることに。
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