婚約破棄?むしろご褒美ですわね

冬木あやめ

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16話

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神殿・金枝の礼拝堂。

白と金を基調とした大理石の回廊を抜けた先、神殿の中心にあたるその場所は、静謐という言葉が最もふさわしい空間だった。

「……この場で対面の機会を設けてくださったこと、感謝いたしますわ。ヴェルディーユ侯爵令嬢」

鈴のような声が響く。

現れたのは、ふわりと揺れる白衣に身を包んだ少女。  
長い淡金の髪、無垢な水色の瞳、透き通るような声色。まさに“作られた聖女像”そのもの。

名前は——**セシル=リーヴェルト**。

神殿直系の家系に生まれ、表舞台には一切出てこなかった“温室育ちの才媛”。  
それが、失墜したリリィに代わる“新たな象徴”として担ぎ出されたのだ。

「こちらこそ、急な申し出にも関わらず、お時間をいただき感謝いたします。セシル様」

レティシアは礼儀正しく一礼する。だがその目は、慎重に相手の一挙手一投足を観察していた。

「まずお伺いしたいのは、貴女の“意志”ですわ」

「……意志、とは?」

「貴女がこの“聖女という役割”を、望んでいるのかどうか。それとも、与えられたままに受け入れているのか。どちらか、です」

質問というより、宣言だった。

セシルはわずかに微笑んだ。

「難しい問いですね。私が“誰かに望まれる存在”であることが、既に神の意志だと考えておりますの」

「つまり、“役割”を演じる覚悟はあるということですわね」

「はい。ですが、私は“演じる”つもりはありません。信仰も、祈りも、私にとっては日常ですから」

その答えは見事だった。

用意された言葉に見えて、実際には“信念”をにじませる強さを持っている。  
レティシアは心中で小さく舌を巻いた。

(……この少女、侮れない)

*

その後、形式的な質疑応答を終え、礼拝堂を出たところでロザリィが控えていた。

「お疲れ様です、レティシア様。ご様子は?」

「想像以上だったわ。人形かと思ったけれど、中身は……鋼」

「では、今後は敵対関係に?」

「いいえ。“敵”ではない。“並び立つ者”よ」

「……?」

「神殿が生み出した聖女と、王政が立てた補佐官。物語として並べば、人々はどちらかに傾く。そのとき、試されるのは——私たちの“在り方”」

*

その夜、ノア=グランディスに向けてレティシアが書き記した手紙には、ただ一行だけが綴られていた。

——《物語の第二幕が始まります。主役は私たちではなく、“国そのもの”です》

レティシアはその封を閉じながら、ゆっくりと立ち上がる。

“次の手”はもう打たれている。

あとは、動き出すのを待つだけ——新たなる舞台の幕が、今静かに上がろうとしていた。
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