婚約破棄?むしろご褒美ですわね

冬木あやめ

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15話

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王城・静翠の間。

普段は謁見の場としては使用されず、国王が“個人的に話したい相手”だけを招く特別室。  
緑を基調とした絨毯と、飾り気のない木製の椅子。それはまるで、玉座よりも人を測る場所のようだった。

「レティシア=マルグリット=ヴェルディーユ。ご足労感謝する」

その声は穏やかで低く、けれども圧倒的な“実在感”をまとっていた。

リュクサン王国国王、レナト=グランディス。  
即位以来、戦争も飢饉もなく国をまとめ続けてきた“統治の王”。

「……謁見の栄誉を賜り、恐れ入ります、陛下」

レティシアは丁寧に一礼し、目線を逸らすことなく国王と向き合った。

「君がここに来るのは、もっとずっと先かと思っていた。あるいは、来ないかもしれないともな」

「来た以上は、お応えいただけますか。“なぜ、今私を呼ばれたのか”を」

王の口元がわずかに緩んだ。  
問いにひるまず返すその姿勢が、まさしく“噂通り”だったからだ。

「君のしてきたことは、王家にとっても、この国にとっても——極めて興味深い」

「ご興味の範囲に収まるなら幸いですわ」

「だが、王としてではなく、一人の“統治者”として言おう。私は君を、危険視している」

その言葉に、わずかに空気が変わる。

「君の理は正しい。だが、理だけで国が動くと思うのは、若さだ。人は、もっと不合理に、感情で生きている」

「承知しております。だからこそ私は、“感情を用いた理”で応じてきたつもりです」

「……なるほど。それが“夜会”という舞台か」

「はい。そして、次の舞台もまた“物語”です。貴方が最も恐れるであろう、感情を操る物語を、私は手にしようとしています」

王の目が鋭く細められた。  
それは挑発への怒りではない。警戒——いや、興味。

「君の狙いは何だ。“改革”か、“王座”か、それとも——復讐か?」

「どれでもありません。ただ、“次の時代を残すこと”だけです。私はもう、過去に縛られません」

レティシアの声は、静かで、しかし深く澄んでいた。

「ならば、最後にひとつだけ。王妃が君を“未来の鍵”と呼んだ。その理由を、君は自覚しているか?」

「……はい。私が唯一、“誰にも染まらず、誰とも染まれる器”だからでしょう」

その答えに、国王はしばらく沈黙した。

そして、やがて重々しく口を開いた。

「……今宵より、君を“王政補佐会議筆頭顧問”とする。名義上はヴェルディーユ侯爵家の任命だが、これは私の個人的な判断だ」

「光栄ですわ、陛下」

「ただし、一つでも国を傾けるような過ちを犯せば——容赦はしない」

「そのときは自ら退き、責を負う覚悟です」

*

謁見の後、レティシアは歩を進めながら深く息を吐いた。

「……国王陛下と対等に言葉を交わせる日が来るとは」

後ろからアントンがひょいと現れる。

「お見事。今の貴女は、皮肉屋ではなく“王国を導く知将”ですな」

「まだ“導く”には足りません。導くには、共に歩む者が必要。私には……まだ、それが」

彼女の言葉は、そこで切れた。

何かを思い出すように遠くを見つめたあと、レティシアはゆっくりと歩き出した。

“新しい時代”が、ほんのわずかにその輪郭を見せ始めていた。
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