婚約破棄?むしろご褒美ですわね

冬木あやめ

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14話

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「つまり、私たちの“既得権”が、このままでは奪われるということか」

重厚なカーテンに遮られた伯爵家の応接室に、低い声が響いた。

その場に集められていたのは、王都でも保守的な名家の代表たち。  
いずれも代々王政に仕え、神殿との繋がりも深い家系ばかりだった。

「聖女は失墜し、王太子は退位。そして今、実権を握りつつあるのは……一人の、侯爵令嬢だ」

「悪名高き皮肉屋令嬢が、だ。王家にすら臆さず意見し、次代王子と連携していると噂されている」

「黙って見過ごすわけにはいかん」

「だが、下手に動けば“民意の逆鱗”に触れる。彼女はすでに“庶民の希望”として祭り上げられているからな」

沈黙。だが、その沈黙の中に、確かな“敵意”が芽生えていた。

*

一方その頃、ヴェルディーユ邸の書斎では、レティシアがノアからの文書に目を通していた。

「“王政補佐会議”の設立……やはり来たわね」

「新設部署ですか?」

ロザリィが慎重に尋ねる。

「ええ。ノア殿下が“暫定的に”王太子に準じる役目を務める以上、実務を担う専門会議が必要になる。そこに私を含めて四名——貴族代表、市民代表、学識顧問、そして神殿調停役」

「四名のうち三名は……貴女の選定とされている、と」

「正確には“推挙の権利”だけれど、それだけでも十分」

レティシアは手帳に名前を走らせていく。

「市民代表には商会連合の若手筆頭、ラファエル・クレメンス。学識顧問は王立学院の経済学部長、エメリア教授。そして神殿調停役には……」

そこで一瞬、ペンが止まった。

「……“聖女不在”の神殿を、誰が代表するか。ここが今回の鍵になるわね」

「となると、神殿内部からも動きがあるのでは?」

「ええ。彼らも“切り札”を出してくるでしょう。私たちが次の一手を打つ前に」

*

その予感は、的中する。

翌日、王都最大の神殿にて——  
“新たなる聖女の選定儀”が、密かに準備されているという報が入った。

しかも選定候補は、名家出身の令嬢でありながら、王政には一切関わってこなかった“神官階級の血統”。

「……出してきたのね、“無垢な象徴”を」

レティシアはアントンからの報告書を手にし、唇を引き結んだ。

「政の論理で圧しても、民は“物語”に動かされる。だから彼らは、新たな聖女という“物語”で抗おうとしている」

「どうしますか?」

「こちらも“物語”を用意するまで」

冷たい瞳に、確かな火が灯る。

「これはもう、“誰が正しいか”ではない。“誰が、この国を導けるか”の戦いなのだから」

*

夜。ノアから届いた密書には、たった一行だけ書かれていた。

——《国王陛下が、貴女に会いたいと仰せです》

それは、政治の舞台における“最大の山”が、ついに動き出したことを示していた。

レティシアはゆっくりと羽ペンを置き、静かに立ち上がる。

「いよいよ、次の舞台ね」

その声には、恐れも迷いもなかった。

すでに彼女は、“一令嬢”の立場を超え——国の未来に立ち会う者となっていた。
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