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18話
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王都の空は、珍しく曇っていた。
重く垂れ込めた雲は、まるで“何か”が起こる前兆のようにも思えた。
「……近頃、屋敷の周囲をうろつく不審な影が増えております」
執務中のレティシアに、アントンが低い声で報告する。
「夜の間に門の印が二度も変わった。これは、旧来の貴族派が用いる“警告”のしるしです」
「つまり、“これ以上余計なことをすれば、どうなるか分かっているな”という脅し、というわけね」
レティシアは静かに書類を伏せた。
「おそらく、“貴族特権見直し案”が正式に動き出す前に、私を排除しようとしている。……焦っているのね」
「神殿に続いて、自分たちの“常権”が脅かされていると知れば、当然の反応でしょう」
「ならば、予定通り“公開討論会”は実行するわ。“表”で勝つには、“表”で勝負を仕掛けるのが一番ですもの」
「ですが、その前に……」
アントンはふっと視線を走らせた。
「今夜、襲撃の可能性があります」
「そう断言する根拠は?」
「……影が、消えました」
その言葉の意味を、レティシアはすぐに理解した。
——警告ではなく、“実行”に移ったのだ。
*
夜、ヴェルディーユ邸の離れにて。
レティシアは執務室に灯をともしていた。扉の外にはロザリィの気配。
そして、屋敷の外周にはアントンの手配した“見えない護衛”が潜む。
緊張感は、確かに満ちていたが、レティシア自身に怯えはなかった。
「“変化”は、必ず反発を生む。それは改革の副作用。むしろ、この痛みは正しい」
心の中でそう呟いた瞬間——
ガラス窓が、音を立てて破られた。
黒装束の影が飛び込む。
だが——
「“予測通り”の進入経路ね。少し残念だわ」
レティシアはすでに手元にあった細身の銀の短剣を構え、わずかに身を引く。
「お嬢様ッ!」
扉を蹴破って飛び込んできたのはロザリィ。
その背後から、覆面の刺客が二人目、三人目と続く。
「アントン!」
「ここです、レティシア嬢!」
窓の外から飛び込むようにして現れたアントンは、すでに何人もの刺客の動きを読んでいた。
数合のうちに、黒装束たちは拘束され、残りは逃走。
静寂が戻ったとき、レティシアはただ、まっすぐに立っていた。
「……今ので確信できたわ。私の言葉は、敵にとって“殺したくなるほどの真実”だったということ」
「ご無事で何よりです……」
ロザリィが涙ぐむのを、レティシアはそっと抱き寄せた。
「私は、もう退かない。ここで退けば、“恐れた女”として未来に残るから」
*
翌日、襲撃事件は即座に機密として処理された。だが王妃イザベルとノアには報告が上がる。
王妃は唇を引き結び、一言。
「——“貴族が女一人を恐れた”という記録。これは、後の歴史に刻まれるでしょうね」
そしてノアは、報告書に書かれた一行に目を落とした。
《レティシア=ヴェルディーユ、刺客を前にして退かず。意志、極めて強し》
彼女が次に打つ一手。それはもはや、王家の者たちですら予測できないものになっていた。
重く垂れ込めた雲は、まるで“何か”が起こる前兆のようにも思えた。
「……近頃、屋敷の周囲をうろつく不審な影が増えております」
執務中のレティシアに、アントンが低い声で報告する。
「夜の間に門の印が二度も変わった。これは、旧来の貴族派が用いる“警告”のしるしです」
「つまり、“これ以上余計なことをすれば、どうなるか分かっているな”という脅し、というわけね」
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「おそらく、“貴族特権見直し案”が正式に動き出す前に、私を排除しようとしている。……焦っているのね」
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「ならば、予定通り“公開討論会”は実行するわ。“表”で勝つには、“表”で勝負を仕掛けるのが一番ですもの」
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その言葉の意味を、レティシアはすぐに理解した。
——警告ではなく、“実行”に移ったのだ。
*
夜、ヴェルディーユ邸の離れにて。
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そして、屋敷の外周にはアントンの手配した“見えない護衛”が潜む。
緊張感は、確かに満ちていたが、レティシア自身に怯えはなかった。
「“変化”は、必ず反発を生む。それは改革の副作用。むしろ、この痛みは正しい」
心の中でそう呟いた瞬間——
ガラス窓が、音を立てて破られた。
黒装束の影が飛び込む。
だが——
「“予測通り”の進入経路ね。少し残念だわ」
レティシアはすでに手元にあった細身の銀の短剣を構え、わずかに身を引く。
「お嬢様ッ!」
扉を蹴破って飛び込んできたのはロザリィ。
その背後から、覆面の刺客が二人目、三人目と続く。
「アントン!」
「ここです、レティシア嬢!」
窓の外から飛び込むようにして現れたアントンは、すでに何人もの刺客の動きを読んでいた。
数合のうちに、黒装束たちは拘束され、残りは逃走。
静寂が戻ったとき、レティシアはただ、まっすぐに立っていた。
「……今ので確信できたわ。私の言葉は、敵にとって“殺したくなるほどの真実”だったということ」
「ご無事で何よりです……」
ロザリィが涙ぐむのを、レティシアはそっと抱き寄せた。
「私は、もう退かない。ここで退けば、“恐れた女”として未来に残るから」
*
翌日、襲撃事件は即座に機密として処理された。だが王妃イザベルとノアには報告が上がる。
王妃は唇を引き結び、一言。
「——“貴族が女一人を恐れた”という記録。これは、後の歴史に刻まれるでしょうね」
そしてノアは、報告書に書かれた一行に目を落とした。
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