婚約破棄?むしろご褒美ですわね

冬木あやめ

文字の大きさ
18 / 26

18話

しおりを挟む
王都の空は、珍しく曇っていた。

重く垂れ込めた雲は、まるで“何か”が起こる前兆のようにも思えた。

「……近頃、屋敷の周囲をうろつく不審な影が増えております」

執務中のレティシアに、アントンが低い声で報告する。

「夜の間に門の印が二度も変わった。これは、旧来の貴族派が用いる“警告”のしるしです」

「つまり、“これ以上余計なことをすれば、どうなるか分かっているな”という脅し、というわけね」

レティシアは静かに書類を伏せた。

「おそらく、“貴族特権見直し案”が正式に動き出す前に、私を排除しようとしている。……焦っているのね」

「神殿に続いて、自分たちの“常権”が脅かされていると知れば、当然の反応でしょう」

「ならば、予定通り“公開討論会”は実行するわ。“表”で勝つには、“表”で勝負を仕掛けるのが一番ですもの」

「ですが、その前に……」

アントンはふっと視線を走らせた。

「今夜、襲撃の可能性があります」

「そう断言する根拠は?」

「……影が、消えました」

その言葉の意味を、レティシアはすぐに理解した。

——警告ではなく、“実行”に移ったのだ。

*

夜、ヴェルディーユ邸の離れにて。

レティシアは執務室に灯をともしていた。扉の外にはロザリィの気配。

そして、屋敷の外周にはアントンの手配した“見えない護衛”が潜む。

緊張感は、確かに満ちていたが、レティシア自身に怯えはなかった。

「“変化”は、必ず反発を生む。それは改革の副作用。むしろ、この痛みは正しい」

心の中でそう呟いた瞬間——

ガラス窓が、音を立てて破られた。

黒装束の影が飛び込む。

だが——

「“予測通り”の進入経路ね。少し残念だわ」

レティシアはすでに手元にあった細身の銀の短剣を構え、わずかに身を引く。

「お嬢様ッ!」

扉を蹴破って飛び込んできたのはロザリィ。  
その背後から、覆面の刺客が二人目、三人目と続く。

「アントン!」

「ここです、レティシア嬢!」

窓の外から飛び込むようにして現れたアントンは、すでに何人もの刺客の動きを読んでいた。

数合のうちに、黒装束たちは拘束され、残りは逃走。

静寂が戻ったとき、レティシアはただ、まっすぐに立っていた。

「……今ので確信できたわ。私の言葉は、敵にとって“殺したくなるほどの真実”だったということ」

「ご無事で何よりです……」

ロザリィが涙ぐむのを、レティシアはそっと抱き寄せた。

「私は、もう退かない。ここで退けば、“恐れた女”として未来に残るから」

*

翌日、襲撃事件は即座に機密として処理された。だが王妃イザベルとノアには報告が上がる。

王妃は唇を引き結び、一言。

「——“貴族が女一人を恐れた”という記録。これは、後の歴史に刻まれるでしょうね」

そしてノアは、報告書に書かれた一行に目を落とした。

《レティシア=ヴェルディーユ、刺客を前にして退かず。意志、極めて強し》

彼女が次に打つ一手。それはもはや、王家の者たちですら予測できないものになっていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

婚約破棄された翌日、兄が王太子を廃嫡させました

由香
ファンタジー
婚約破棄の場で「悪役令嬢」と断罪された伯爵令嬢エミリア。 彼女は何も言わずにその場を去った。 ――それが、王太子の終わりだった。 翌日、王国を揺るがす不正が次々と暴かれる。 裏で糸を引いていたのは、エミリアの兄。 王国最強の権力者であり、妹至上主義の男だった。 「妹を泣かせた代償は、すべて払ってもらう」 ざまぁは、静かに、そして確実に進んでいく。

「反省してます」と言いましたが、あれは嘘ですわ。

小鳥遊つくし
恋愛
「反省してます」と言いましたが、あれは嘘ですわ──。 聖女の転倒、貴族の断罪劇、涙を強いる舞台の中で、 完璧な“悪役令嬢”はただ微笑んだ。 「わたくしに、どのような罪がございますの?」 謝罪の言葉に魔力が宿る国で、 彼女は“嘘の反省”を語り、赦され、そして問いかける。 ――その赦し、本当に必要でしたの? 他者の期待を演じ続けた令嬢が、 “反省しない人生”を選んだとき、 世界の常識は音を立てて崩れ始める。 これは、誰にも赦されないことを恐れなかったひとりの令嬢が、 言葉と嘘で未来を変えた物語。 その仮面の奥にあった“本当の自由”が、あなたの胸にも香り立ちますように。

悪役令嬢と言われ冤罪で追放されたけど、実力でざまぁしてしまった。

三谷朱花
恋愛
レナ・フルサールは元公爵令嬢。何もしていないはずなのに、気が付けば悪役令嬢と呼ばれ、公爵家を追放されるはめに。それまで高スペックと魔力の強さから王太子妃として望まれたはずなのに、スペックも低い魔力もほとんどないマリアンヌ・ゴッセ男爵令嬢が、王太子妃になることに。 何度も断罪を回避しようとしたのに! では、こんな国など出ていきます!

悪役令嬢は永眠しました

詩海猫(8/29書籍発売)
ファンタジー
「お前のような女との婚約は破棄だっ、ロザリンダ・ラクシエル!だがお前のような女でも使い道はある、ジルデ公との縁談を調えてやった!感謝して公との間に沢山の子を産むがいい!」 長年の婚約者であった王太子のこの言葉に気を失った公爵令嬢・ロザリンダ。 だが、次に目覚めた時のロザリンダの魂は別人だった。 ロザリンダとして目覚めた木の葉サツキは、ロザリンダの意識がショックのあまり永遠の眠りについてしまったことを知り、「なぜロザリンダはこんなに努力してるのに周りはクズばっかりなの?まかせてロザリンダ!きっちりお返ししてあげるからね!」 *思いつきでプロットなしで書き始めましたが結末は決めています。暗い展開の話を書いているとメンタルにもろに影響して生活に支障が出ることに気付きました。定期的に強気主人公を暴れさせないと(?)書き続けるのは不可能なようなのでメンタル状態に合わせて書けるものから書いていくことにします、ご了承下さいm(_ _)m

婚約者様への逆襲です。

有栖川灯里
恋愛
王太子との婚約を、一方的な断罪と共に破棄された令嬢・アンネリーゼ=フォン=アイゼナッハ。 理由は“聖女を妬んだ悪役”という、ありふれた台本。 だが彼女は涙ひとつ見せずに微笑み、ただ静かに言い残した。 ――「さようなら、婚約者様。二度と戻りませんわ」 すべてを捨て、王宮を去った“悪役令嬢”が辿り着いたのは、沈黙と再生の修道院。 そこで出会ったのは、聖女の奇跡に疑問を抱く神官、情報を操る傭兵、そしてかつて見逃された“真実”。 これは、少女が嘘を暴き、誇りを取り戻し、自らの手で未来を選び取る物語。 断罪は終わりではなく、始まりだった。 “信仰”に支配された王国を、静かに揺るがす――悪役令嬢の逆襲。

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

敵対勢力の私は、悪役令嬢を全力で応援している。

マイネ
恋愛
 最近、第一皇子殿下が婚約者の公爵令嬢を蔑ろにして、男爵令嬢と大変親しい仲だとの噂が流れている。  どうやら第一皇子殿下は、婚約者の公爵令嬢を断罪し、男爵令嬢を断罪した令嬢の公爵家に、養子縁組させた上で、男爵令嬢と婚姻しようとしている様だ。  しかし、断罪される公爵令嬢は事態を静観しておりました。  この状況は、1人のご令嬢にとっては、大変望ましくない状況でした。そんなご令嬢のお話です。

悪役令嬢に相応しいエンディング

無色
恋愛
 月の光のように美しく気高い、公爵令嬢ルナティア=ミューラー。  ある日彼女は卒業パーティーで、王子アイベックに国外追放を告げられる。  さらには平民上がりの令嬢ナージャと婚約を宣言した。  ナージャはルナティアの悪い評判をアイベックに吹聴し、彼女を貶めたのだ。  だが彼らは愚かにも知らなかった。  ルナティアには、ミューラー家には、貴族の令嬢たちしか知らない裏の顔があるということを。  そして、待ち受けるエンディングを。

処理中です...