婚約破棄?むしろご褒美ですわね

冬木あやめ

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23話

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王都は、静かにざわついていた。

「……本当に発表されるのか? “国家法の見直し案”が」

「ヴェルディーユ侯爵令嬢が出すって話だが……あの人、もはや貴族ってより宰相だよな」

市場の噂話、街角の立ち話、酒場の酔いどれの会話にまで、その名が届いていた。

それは称賛でも、恐怖でもない。  
“変化”に対する戸惑いと、期待が入り混じった“予感”だった。

*

「……どうして、そこまでやるのよ」

クラリス=マルセルは、レティシアの書斎で小さく唸るように呟いた。

「私たちの時代って、もっとこう、“社交と駆け引きとちょっとの恋”で回るもんだったんじゃないの?」

「そうね。でも“未来”は、その延長線にだけあるわけじゃない」

「あなた、ほんとにどこに行く気?」

「行き着くところまで。自分が掲げた“理”の果てまで、見届けたいの」

クラリスは深くため息をつき、眉を寄せた。

「だったら私も、最後まで“最前列”で見るしかないじゃない。親友として」

「……ありがとう」

*

同じ頃、アントン=バジルは裏通りの酒場で、旧貴族派の動きを探っていた。

「……連中、“最後の一手”を用意してる。おそらく法案発表当日に、議事堂前で“暴動”を仕掛けるつもりだ」

ノア=グランディスに届けられたその報告に、彼は目を細めた。

「レティシア嬢が法を語るその瞬間に、混乱を起こし、“理”の権威を潰す……それが狙いか」

「神殿の一部とも繋がってる。名目は“信仰を守る抗議”だが、実態はただの扇動だ」

「……抑える」

ノアは静かに立ち上がる。

「私の名で警備を強化し、王妃にも報告を。彼女ならば、適切に“制裁”を許す」

「さすがに、動くか」

「この国には“声”が必要だ。そしてその声を守る“秩序”も」

*

レティシアは、改めて原稿を読み直していた。

一文字一文字に込められた“意志”。

この国の未来を、言葉で形作ろうとするその挑戦は、間もなく“歴史”になる。

だがその直前——

「……来たわね」

彼女のもとに届いたのは、一通の脅迫状だった。

──《お前の法がこの国を壊す前に、お前を消す》

筆跡は変えられているが、意図は明確だった。

「やっぱり来たか……」

ロザリィは顔色を変えるが、レティシアは微笑む。

「これで、確信できた。“正しい痛み”を突いている証拠よ」

*

そして、夜。

ノアは王妃イザベルと密かに会っていた。

「陛下はどうお考えでしょう?」

「……法案が通れば、王家も貴族も、民の中に“並ぶ存在”になる。私たちは、永遠の象徴でいられなくなる」

「では、お止めになりますか?」

イザベルは、深く、長い沈黙のあと、首を横に振った。

「……止めれば、“歴史に抗った者”として名が残るでしょう。  
私は“選んだ者”として記録されたいの。未来を恐れなかった王妃として」

*

こうして、王都の夜は更けていく。

翌日。  
歴史がひとつ、書き換えられる瞬間が、待っていた。
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