婚約破棄?むしろご褒美ですわね

冬木あやめ

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22話

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「……ついにここまで来たわね」

レティシアは、王宮内の一室で原稿を広げながら静かに呟いた。

その手元にあるのは、“国家基本法見直し草案”。  
政教分離、貴族制度の再定義、そして市民参政枠の正式導入を含む提言書だった。

「まさか貴族令嬢が“法”にまで踏み込むとは、陛下も予想されていなかったのでは?」

そう言ったのは、控えていたノア=グランディス。

「……だからこそ意味があるのです。“変えられないもの”を、変え得る者が現れたということの」

「だがこの一線を越えれば、最も厄介な相手が動く」

「……ええ。“あの方”が来るわね」

*

その日の午後。

王宮・花環の間。かつて王妃主催の茶会が幾度となく開かれていた、静謐で華やかな空間。

そこに現れたのは、王妃イザベル=グランディス。

「お招きいただいたはずですが……まるで私が呼び出したような空気ね」

「“一国の法に手をつける”と聞けば、王妃様は必ず動かれると思っておりました」

レティシアは一礼しながらも、一切の畏れを見せない。

イザベルは静かに微笑み、向かいの椅子に腰を下ろした。

「……どうして、そこまで突き進むのかしら。貴女はもう充分、手にしている。民の支持も、王族の信頼も、未来さえも」

「足りないものがひとつあります。“制度が追いついていない”という現実です」

「理屈では動かないものもあります」

「それでも、動かせると知ってしまったのです。“声”があれば、“理”があれば、“構築”は可能だと」

一瞬、沈黙が落ちた。

やがてイザベルが杯を傾け、低く言う。

「あなたはまるで、“王”のようだわね」

「……恐れ多いお言葉ですわ」

「皮肉ではなく、本心よ」

王妃の声は、どこまでも穏やかで、しかし確かに試すような熱を孕んでいた。

「王妃であるこの私が“怖い”と感じるほど、貴女は――危うく、美しい」

レティシアは一瞬だけ視線を落とし、それでも静かに応じる。

「美しさは時に“滅び”を呼びます。けれど私は、滅びるために在るのではなく、繋ぐために立っているのです」

その答えに、イザベルの瞳がわずかに揺れた。

*

謁見の後、王妃はひとり、書斎の窓辺に立っていた。

侍女が静かに尋ねる。

「……いかがでしたか、レティシア様は?」

「……王太子妃に迎えるべきだったかもしれないわね。  
けれどもう、彼女は“王妃の座”すら超えた存在になってしまった」

*

一方、レティシアは帰路の馬車の中で、ふと手元の原稿を見つめる。

その末尾には、まだ誰にも見せていない“最終条項”が記されていた。

──《王族の義務と責任に関する条項》

それは、彼女が選び取った答え。

“支配”でも“服従”でもなく、“共に立つ”という選択肢。

法を整え、制度を築き、誰もが未来を語れる国へ。

そのすべてを実現するために、レティシア=ヴェルディーユは今、国家そのものと向き合おうとしていた。
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