婚約破棄?むしろご褒美ですわね

冬木あやめ

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24話

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王都中央議事堂——

その朝、重厚な門が開かれたとき、空は雲ひとつない晴天だった。

けれど、その空の下で集う民も貴族も、王族も官吏も、皆が同じ緊張を抱いていた。

今日、国家の“法”が、語り直される。

そしてその場に立つのは、王族でも聖職者でもない——  
一人の侯爵令嬢、**レティシア=マルグリット=ヴェルディーユ**。

*

「……ではこれより、法改正に関する提案発表を開始します」

会場の中央に設けられた演壇。そこに立つレティシアの姿は、いつもと変わらぬ凛としたものだった。

ただ一つ違うのは、今日のその瞳には“全てを受け止める覚悟”が宿っていたこと。

「私は、この国の矛盾と沈黙を、見過ごすことができませんでした」

その第一声は、堂内に染み渡るように響いた。

「“貴族だから優遇される”“生まれが違えば、言葉すら届かない”——そうした“目に見えぬ差別”が、この国には残り続けてきました」

「私は侯爵令嬢として生まれました。だからこそ、見えました。“誰にも届かない声”が、確かに存在するということが」

沈黙が降りる。誰も息を吐かず、ただ耳を傾けていた。

「だから私は、提案します」

レティシアは一枚の文書を広げる。

「新たなる基本法“民の参政枠の拡張”“王政における義務の明文化”“神殿と国家の独立化”、  
そして——“貴族特権の段階的廃止”を」

ざわつきが一瞬、全体を揺らした。

だが、それを封じるように、彼女はさらに言葉を重ねた。

「これは、“誰かを下げる”ための法ではありません。“誰もが並び立つ”ための法です」

「出自ではなく、行動と責任で語る時代を。  
祈りでも血筋でもなく、“選択”と“言葉”が未来を築く国を——私は、望みます」

そのとき、傍聴席の奥から、ひときわ大きな拍手が響いた。

最初に手を叩いたのは、王妃イザベルだった。

続いてノア=グランディスが立ち上がり、静かに一礼を送る。

そして——広がる拍手の輪。  
それは決して全員のものではない。  
けれど、確かに“この言葉を支持する人間がここにいる”という証だった。

*

その日の午後、王宮報道局は速報を流した。

──「基本法改定案、正式発表」  
──「ヴェルディーユ令嬢、国家枠組みの再設計を提言」  
──「支持と反発、広がる議論」

だがレティシアは、その記事の束を読みながら、ただ静かに微笑んだ。

「これでいい。これは、始まりに過ぎない」

*

夜、王宮の中庭。月光の下、ノアがそっと呟いた。

「君は、“国の形”を変えた。……そして、自分自身の在り方も」

レティシアはその言葉に目を伏せ、わずかに笑った。

「ええ。私は、ただ“誰にも選ばれなかった令嬢”だった。けれど今は——自分で、自分を選べる」

*

その言葉が、夜の空に溶けていく。

そして——誰もが知っていた。  
歴史の一頁に、その名が記されたことを。

レティシア=マルグリット=ヴェルディーユ。  
かつて“婚約破棄された悪役令嬢”と呼ばれたその人が、  
今や一つの国の“未来を語る者”となったのだ。
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