婚約破棄?むしろご褒美ですわね

冬木あやめ

文字の大きさ
26 / 26

後日譚

しおりを挟む
後日譚──《選ばれなかった令嬢が、“誰かの希望”になるまで》

リュクサン王国歴563年。  
新基本法施行から三年が経ったこの春、王都は穏やかな風に包まれていた。

「……見違えましたね、広場も、議事堂も。まるで別の国に来たみたいですわ」

華やかな帽子を押さえながら微笑んだのは、かつての親友——クラリス=マルセル。  
彼女は今や、貴族子女向けの学問講義を行う教師として、多くの“未来の語り手”を育てている。

「人が変われば、風景も変わるのよ。逆もまた然り」

レティシアは白に近いラベンダーのドレスを身にまとい、芝生のベンチに腰を下ろす。

今の彼女は、国家顧問の職をすでに退いていた。

法と制度を整えた今、“私”ではなく“仕組み”で国が回るようにしたい——それが、彼女の最終目標だったからだ。

「……今では貴族の子も、商人の子も、農家の娘も同じ学問の門をくぐっている。貴女が築いた時代ですわ」

「私が始めただけよ。動かしているのは、貴女たち」

*

その頃、神殿では——

「“選ばれた”のではなく、“選び続ける”ための祈り。私が今も立っていられるのは、あの方のおかげです」

そう語ったのは、セシル=リーヴェルト。  
聖女としての地位は持ちながら、今では“宗教と社会の橋渡し”として、新たな役割を担っている。

彼女は決して神の名を盾にせず、人の声に耳を傾ける“聖女”になっていた。

*

そして、王宮。

ノア=グランディスは第二王子として即位せず、“王政の補佐者”として新たな立場にある。

「私は“王”ではない。だが、“誰かの背中を支える”くらいなら、喜んで引き受けよう」

そう語る彼の背後には、いまや多くの若手官吏や民間人が立っていた。

その誰もが、レティシアの名前を知っていた。

だが彼女は、もう国の中心にはいない。

*

現在のレティシアは——

郊外に建てた小さな学び舎で、若者たちに“言葉の力”を教えていた。

「身分も家柄も関係ありません。“あなたの言葉”が、世界を変える第一歩です」

教壇に立つその姿は、あの日演壇で語った令嬢と変わらず、けれどどこか柔らかかった。

*

ある日、一人の少女が彼女に尋ねた。

「先生。先生って、昔、偉い人だったんでしょう? 国の法を作ったって、父が言ってました」

「そうね。昔、少しだけ」

「なのにどうして、ここにいるんですか?」

レティシアは少し考えてから、答えた。

「だって、私は“誰にも選ばれなかった”ところから始まったから。  
だから今は、“誰かが選ばれるための場所”を作りたいのよ」

少女はきょとんとしながらも、やがて嬉しそうに笑った。

「……じゃあ、わたしも選ばれてみたいな」

「いいえ、違うわ」

レティシアは微笑みながら言った。

「“選ぶ”のよ。自分の人生を、自分の手で」

*

かつて、“婚約破棄された悪役令嬢”と呼ばれた少女は、  
今では“未来の選び方”を教える師となっていた。

そしてその教えは、また誰かの声となって、この国を静かに変えていく。

かつて語った言葉が、今もこの国を支えている。

──「婚約破棄? むしろ、ご褒美ですわね」

それは過去を笑い飛ばす冗談ではない。

未来を肯定するための、最初の一歩だった。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

「反省してます」と言いましたが、あれは嘘ですわ。

小鳥遊つくし
恋愛
「反省してます」と言いましたが、あれは嘘ですわ──。 聖女の転倒、貴族の断罪劇、涙を強いる舞台の中で、 完璧な“悪役令嬢”はただ微笑んだ。 「わたくしに、どのような罪がございますの?」 謝罪の言葉に魔力が宿る国で、 彼女は“嘘の反省”を語り、赦され、そして問いかける。 ――その赦し、本当に必要でしたの? 他者の期待を演じ続けた令嬢が、 “反省しない人生”を選んだとき、 世界の常識は音を立てて崩れ始める。 これは、誰にも赦されないことを恐れなかったひとりの令嬢が、 言葉と嘘で未来を変えた物語。 その仮面の奥にあった“本当の自由”が、あなたの胸にも香り立ちますように。

悪役令嬢は永眠しました

詩海猫(8/29書籍発売)
ファンタジー
「お前のような女との婚約は破棄だっ、ロザリンダ・ラクシエル!だがお前のような女でも使い道はある、ジルデ公との縁談を調えてやった!感謝して公との間に沢山の子を産むがいい!」 長年の婚約者であった王太子のこの言葉に気を失った公爵令嬢・ロザリンダ。 だが、次に目覚めた時のロザリンダの魂は別人だった。 ロザリンダとして目覚めた木の葉サツキは、ロザリンダの意識がショックのあまり永遠の眠りについてしまったことを知り、「なぜロザリンダはこんなに努力してるのに周りはクズばっかりなの?まかせてロザリンダ!きっちりお返ししてあげるからね!」 *思いつきでプロットなしで書き始めましたが結末は決めています。暗い展開の話を書いているとメンタルにもろに影響して生活に支障が出ることに気付きました。定期的に強気主人公を暴れさせないと(?)書き続けるのは不可能なようなのでメンタル状態に合わせて書けるものから書いていくことにします、ご了承下さいm(_ _)m

悪役令嬢と言われ冤罪で追放されたけど、実力でざまぁしてしまった。

三谷朱花
恋愛
レナ・フルサールは元公爵令嬢。何もしていないはずなのに、気が付けば悪役令嬢と呼ばれ、公爵家を追放されるはめに。それまで高スペックと魔力の強さから王太子妃として望まれたはずなのに、スペックも低い魔力もほとんどないマリアンヌ・ゴッセ男爵令嬢が、王太子妃になることに。 何度も断罪を回避しようとしたのに! では、こんな国など出ていきます!

悪役令嬢に相応しいエンディング

無色
恋愛
 月の光のように美しく気高い、公爵令嬢ルナティア=ミューラー。  ある日彼女は卒業パーティーで、王子アイベックに国外追放を告げられる。  さらには平民上がりの令嬢ナージャと婚約を宣言した。  ナージャはルナティアの悪い評判をアイベックに吹聴し、彼女を貶めたのだ。  だが彼らは愚かにも知らなかった。  ルナティアには、ミューラー家には、貴族の令嬢たちしか知らない裏の顔があるということを。  そして、待ち受けるエンディングを。

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

どうやらお前、死んだらしいぞ? ~変わり者令嬢は父親に報復する~

野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
ファンタジー
「ビクティー・シークランドは、どうやら死んでしまったらしいぞ?」 「はぁ? 殿下、アンタついに頭沸いた?」  私は思わずそう言った。  だって仕方がないじゃない、普通にビックリしたんだから。  ***  私、ビクティー・シークランドは少し変わった令嬢だ。  お世辞にも淑女然としているとは言えず、男が好む政治事に興味を持ってる。  だから父からも煙たがられているのは自覚があった。  しかしある日、殺されそうになった事で彼女は決める。  「必ず仕返ししてやろう」って。  そんな令嬢の人望と理性に支えられた大勝負をご覧あれ。

悪役令嬢を陥れようとして失敗したヒロインのその後

柚木崎 史乃
ファンタジー
女伯グリゼルダはもう不惑の歳だが、過去に起こしたスキャンダルが原因で異性から敬遠され未だに独身だった。 二十二年前、グリゼルダは恋仲になった王太子と結託して彼の婚約者である公爵令嬢を陥れようとした。 けれど、返り討ちに遭ってしまい、結局恋人である王太子とも破局してしまったのだ。 ある時、グリゼルダは王都で開かれた仮面舞踏会に参加する。そこで、トラヴィスという年下の青年と知り合ったグリゼルダは彼と恋仲になった。そして、どんどん彼に夢中になっていく。 だが、ある日。トラヴィスは、突然グリゼルダの前から姿を消してしまう。グリゼルダはショックのあまり倒れてしまい、気づいた時には病院のベッドの上にいた。 グリゼルダは、心配そうに自分の顔を覗き込む執事にトラヴィスと連絡が取れなくなってしまったことを伝える。すると、執事は首を傾げた。 そして、困惑した様子でグリゼルダに尋ねたのだ。「トラヴィスって、一体誰ですか? そんな方、この世に存在しませんよね?」と──。

悪役令嬢にざまぁされた王子のその後

柚木崎 史乃
ファンタジー
王子アルフレッドは、婚約者である侯爵令嬢レティシアに窃盗の濡れ衣を着せ陥れようとした罪で父王から廃嫡を言い渡され、国外に追放された。 その後、炭鉱の町で鉱夫として働くアルフレッドは反省するどころかレティシアや彼女の味方をした弟への恨みを募らせていく。 そんなある日、アルフレッドは行く当てのない訳ありの少女マリエルを拾う。 マリエルを養子として迎え、共に生活するうちにアルフレッドはやがて自身の過去の過ちを猛省するようになり改心していった。 人生がいい方向に変わったように見えたが……平穏な生活は長く続かず、事態は思わぬ方向へ動き出したのだった。

処理中です...