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一章
終わりのはじまり
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「……ああ、いい天気だな」
シリル・グレイスには前世の記憶がある。
今より百年ほど前に同じ名前で生きていたシリルは、またしても伯爵令息として生を受けた。
まさかまたこの世に、前世の記憶を持って生まれるなんてことがあると思っていなかったシリルは、神に感謝し過去の出来事を懺悔するために生きている。
いじめなんて情けない。
絶対にやるべきではないと、今世では清く正しく生きていくつもりだ。
だから神様、どうか今世は流行病でなんて殺さないでくださいと、毎朝祈りを捧げている。
「それにしても……なにも前世そっくりに生まれてこなくてもよかったのに……」
どうせならイケメンに生まれ変わりたかった。
変わり映えのしない黒髪に、少し三白眼気味の黒目。
身長もそれほど高くはなく、剣術を嗜んでいるとはいえ、体格もどちらかといえばひょろっとしている。
前世とほぼ変わらぬ容姿に、シリルは大きくため息をつく。
「……そういえばクリフは綺麗な顔してたんだよな」
過去にいじめていたクリフは、シリルとは違い派手な見た目をしていた。
薄い金髪に、深い緑の瞳。
顔もぱっと見は女の子のように可愛らしかった。
クリフの見た目は、過去のシリルからしてみればコンプレックスを刺激してくる相手だったのだ。
だからいじめていいという理由には、もちろんならないことは重々理解している。
まあ若気の至りだったのだ。
きっとシリルが死んで、クリフは幸せに生きたことだろう。
それがせめてもの償いだと思って欲しい。
なんてそんなことを考えながら、シリルは今世を楽しんでいた。
平々凡々が一番いい。
一人うんうんと頷くシリルに、声がかけられた。
「なーに一人で頷いてんだ?」
「レオン」
友人の声に、シリルはここが学園にある己の教室だったことを思い出す。
メリアーナ国の紳士淑女を集めたシュラペット学園。
そこの生徒であるシリルの前の席に、レオンが座った。
小麦色の肌に深紫色の髪。
金色に輝く瞳を持った美男子である。
身長が百六十程度のシリルとは違い、彼は百九十を超えているらしい。
爽やかな見た目と人懐っこい性格。
レオンもまたシリルのコンプレックスを刺激してくる相手である。
とはいえ改心したシリルだ。
もちろんいじめたりなんてしない。
今はよき友人として接している。
「今日だよな? 王太子殿下が来るのって」
そんなよき友人レオンは、なにやらワクワクした様子だ。
その原因は今日から編入してくる王太子のことらしい。
なにが楽しいのかシリルにはさっぱりわからなかった。
「なにをそんなにワクワクしてるのか知らないが、俺たちには関係ないだろ」
そもそもこんな時期に王太子が編入してくるなんておかしい。
シリルの今世の目標はただただ穏やかに、だ。
その目標のためにも、季節外れの転入生である王太子になんて関わり合いたくない。
「同い年らしいからうちのクラスの可能性あるぞ? ほら、女子たちが殺気立ってる」
レオンが親指で指した方を見れば、確かに女生徒たちが髪や化粧を気にしていた。
年若くまだ結婚していない王太子を射止めようと必死なのだ。
「……王太子って婚約者いるだろ?」
「もちろん。それでもいいって淑女が多いんだ」
「それは淑女とは言わないんじゃ……」
いや、これ以上の発言はやめておこう。
面倒ごとに関わり合いたくはない。
「王太子がきたら話してみたいよなー」
「…………ふーん。お前はそうやって新しい友だちとやらを作るんだな」
レオンは社交的だ。
だから彼には友人が多い。
しかしシリルには友人と呼べる存在はレオンしかいない。
つまりレオンが王太子に夢中になれば、自分は放っておかれるわけだ。
それに不満を感じたためそう素直に伝えれば、なぜかレオンは満面の笑みを浮かべた。
「そーかそーか。シリルは俺がいなくなったら寂しいのかー」
そう言って頭を撫でてきたため、シリルはその手をはたき落とした。
「レオン。いや、レオンハルト。俺をガキ扱いするなよ」
「チビだからって子ども扱いはしてないぞ?」
「チビ言うな!」
レオンからしてみれば、誰だってチビだろう。
なんだ身長百九十センチって。
反則以外のなんでもない。
ふんっとそっぽ向いたシリルの頭を、レオンは撫で続ける。
「うんうん。ちっちゃくてかわいいなー?」
「このやろう……っ!」
もう一度はたき落としてやろうとシリルが手を上げた時、教師が教室に入ってきた。
「おっと、時間だ。じゃあまた後でな」
「おー」
レオンは慌てて自分の机へと戻った。
それを見送ったシリルは、黒板の前に立つ教師を見る。
初老の男性は生徒思いのいい教師だ。
なので話をちゃんと聞こうと前を向いたのだが、その姿のまま固まった。
ただ大きく見開かれた真っ黒の瞳には、鏡に反射するかのように一人の男の姿を写した。
「……おい、嘘だろ……」
思わずそう呟いてしまったが、突如として教室内に巻き起こった黄色い悲鳴のおかげで、誰にも聞かれることはなかった。
女子たちがキャーキャー言っているには理由がある。
先ほどレオンが言っていたように、王太子が編入生としてやってきたのだ。
その見た目があまりにも美しくて、女生徒たちは色めき立っている。
いつものシリルなら女生徒たちとは逆に、三白眼気味の目をさらに細めて威嚇したことだろう。
それくらい目の前の男は目立つ存在だった。
身長は百八十を超えているだろう。
すらりと伸びた手足のおかげか、モデルのような体型をしている。
色の薄い金色の髪に、エメラルドのように輝く瞳。
成長を遂げたからか、記憶にある容姿よりもずっと男らしいそれに、シリルは息すら忘れて見つめる。
ありえない、と思いつつもあまりにも記憶の中の人に似ているため、もしかして、とも思ってしまう。
シリル本人が転生しているのだ。
ありえないことではない。
だがしかし……と解決しない思考を巡らせていると、不意に王太子がこちらを見た。
熱烈な視線でも感じたのだろう。
シリルと目が合うと、王太子もまた驚いたように大きく目を見開いた。
そしてその瞬間シリルは理解した。
彼は記憶の中にある存在。
前世でいじめていた男爵令息、クリフだ。
間違いない。
だって彼は驚いた顔をした後、ゆっくりと細く笑んだのだ。
人を魅了するその笑みを浮かべたクリフの姿に、シリルは絶望した。
だってまさか、そんなはずがない。
(王太子殿下が、俺が前世でいじめてた相手……?)
終わった……と、シリルは天を仰いだ。
シリル・グレイスには前世の記憶がある。
今より百年ほど前に同じ名前で生きていたシリルは、またしても伯爵令息として生を受けた。
まさかまたこの世に、前世の記憶を持って生まれるなんてことがあると思っていなかったシリルは、神に感謝し過去の出来事を懺悔するために生きている。
いじめなんて情けない。
絶対にやるべきではないと、今世では清く正しく生きていくつもりだ。
だから神様、どうか今世は流行病でなんて殺さないでくださいと、毎朝祈りを捧げている。
「それにしても……なにも前世そっくりに生まれてこなくてもよかったのに……」
どうせならイケメンに生まれ変わりたかった。
変わり映えのしない黒髪に、少し三白眼気味の黒目。
身長もそれほど高くはなく、剣術を嗜んでいるとはいえ、体格もどちらかといえばひょろっとしている。
前世とほぼ変わらぬ容姿に、シリルは大きくため息をつく。
「……そういえばクリフは綺麗な顔してたんだよな」
過去にいじめていたクリフは、シリルとは違い派手な見た目をしていた。
薄い金髪に、深い緑の瞳。
顔もぱっと見は女の子のように可愛らしかった。
クリフの見た目は、過去のシリルからしてみればコンプレックスを刺激してくる相手だったのだ。
だからいじめていいという理由には、もちろんならないことは重々理解している。
まあ若気の至りだったのだ。
きっとシリルが死んで、クリフは幸せに生きたことだろう。
それがせめてもの償いだと思って欲しい。
なんてそんなことを考えながら、シリルは今世を楽しんでいた。
平々凡々が一番いい。
一人うんうんと頷くシリルに、声がかけられた。
「なーに一人で頷いてんだ?」
「レオン」
友人の声に、シリルはここが学園にある己の教室だったことを思い出す。
メリアーナ国の紳士淑女を集めたシュラペット学園。
そこの生徒であるシリルの前の席に、レオンが座った。
小麦色の肌に深紫色の髪。
金色に輝く瞳を持った美男子である。
身長が百六十程度のシリルとは違い、彼は百九十を超えているらしい。
爽やかな見た目と人懐っこい性格。
レオンもまたシリルのコンプレックスを刺激してくる相手である。
とはいえ改心したシリルだ。
もちろんいじめたりなんてしない。
今はよき友人として接している。
「今日だよな? 王太子殿下が来るのって」
そんなよき友人レオンは、なにやらワクワクした様子だ。
その原因は今日から編入してくる王太子のことらしい。
なにが楽しいのかシリルにはさっぱりわからなかった。
「なにをそんなにワクワクしてるのか知らないが、俺たちには関係ないだろ」
そもそもこんな時期に王太子が編入してくるなんておかしい。
シリルの今世の目標はただただ穏やかに、だ。
その目標のためにも、季節外れの転入生である王太子になんて関わり合いたくない。
「同い年らしいからうちのクラスの可能性あるぞ? ほら、女子たちが殺気立ってる」
レオンが親指で指した方を見れば、確かに女生徒たちが髪や化粧を気にしていた。
年若くまだ結婚していない王太子を射止めようと必死なのだ。
「……王太子って婚約者いるだろ?」
「もちろん。それでもいいって淑女が多いんだ」
「それは淑女とは言わないんじゃ……」
いや、これ以上の発言はやめておこう。
面倒ごとに関わり合いたくはない。
「王太子がきたら話してみたいよなー」
「…………ふーん。お前はそうやって新しい友だちとやらを作るんだな」
レオンは社交的だ。
だから彼には友人が多い。
しかしシリルには友人と呼べる存在はレオンしかいない。
つまりレオンが王太子に夢中になれば、自分は放っておかれるわけだ。
それに不満を感じたためそう素直に伝えれば、なぜかレオンは満面の笑みを浮かべた。
「そーかそーか。シリルは俺がいなくなったら寂しいのかー」
そう言って頭を撫でてきたため、シリルはその手をはたき落とした。
「レオン。いや、レオンハルト。俺をガキ扱いするなよ」
「チビだからって子ども扱いはしてないぞ?」
「チビ言うな!」
レオンからしてみれば、誰だってチビだろう。
なんだ身長百九十センチって。
反則以外のなんでもない。
ふんっとそっぽ向いたシリルの頭を、レオンは撫で続ける。
「うんうん。ちっちゃくてかわいいなー?」
「このやろう……っ!」
もう一度はたき落としてやろうとシリルが手を上げた時、教師が教室に入ってきた。
「おっと、時間だ。じゃあまた後でな」
「おー」
レオンは慌てて自分の机へと戻った。
それを見送ったシリルは、黒板の前に立つ教師を見る。
初老の男性は生徒思いのいい教師だ。
なので話をちゃんと聞こうと前を向いたのだが、その姿のまま固まった。
ただ大きく見開かれた真っ黒の瞳には、鏡に反射するかのように一人の男の姿を写した。
「……おい、嘘だろ……」
思わずそう呟いてしまったが、突如として教室内に巻き起こった黄色い悲鳴のおかげで、誰にも聞かれることはなかった。
女子たちがキャーキャー言っているには理由がある。
先ほどレオンが言っていたように、王太子が編入生としてやってきたのだ。
その見た目があまりにも美しくて、女生徒たちは色めき立っている。
いつものシリルなら女生徒たちとは逆に、三白眼気味の目をさらに細めて威嚇したことだろう。
それくらい目の前の男は目立つ存在だった。
身長は百八十を超えているだろう。
すらりと伸びた手足のおかげか、モデルのような体型をしている。
色の薄い金色の髪に、エメラルドのように輝く瞳。
成長を遂げたからか、記憶にある容姿よりもずっと男らしいそれに、シリルは息すら忘れて見つめる。
ありえない、と思いつつもあまりにも記憶の中の人に似ているため、もしかして、とも思ってしまう。
シリル本人が転生しているのだ。
ありえないことではない。
だがしかし……と解決しない思考を巡らせていると、不意に王太子がこちらを見た。
熱烈な視線でも感じたのだろう。
シリルと目が合うと、王太子もまた驚いたように大きく目を見開いた。
そしてその瞬間シリルは理解した。
彼は記憶の中にある存在。
前世でいじめていた男爵令息、クリフだ。
間違いない。
だって彼は驚いた顔をした後、ゆっくりと細く笑んだのだ。
人を魅了するその笑みを浮かべたクリフの姿に、シリルは絶望した。
だってまさか、そんなはずがない。
(王太子殿下が、俺が前世でいじめてた相手……?)
終わった……と、シリルは天を仰いだ。
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