前世で【俺の奴隷】といじめていた相手が王太子に転生してたとか聞いてない!

Natuめ

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一章

絶望へようこそ

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 まさかの編入生が王太子で、かつ前世自分がいじめていた相手でした。
 なんて絶望しかないだろう。
 シリルは頭を抱えそうになるのを必死に耐えた。
 正直授業の内容なんて一ミリも頭に入っていない。
 どうすればいいのだろうか?
 相手は王太子だ。
 下手をすれば家族もろとも悲惨な目に遭うかもしれない。

(いや――。もしかしたらクリフは覚えていないかも…………いーや覚えてるね。あの顔は間違いなく覚えてる!)

 誤魔化せばいけるかと思ったが多分無理なことはわかっていた。
 なので諦めた方がいいだろう。
 ちゃんと謝れば許してくれるかもしれない。

(…………許してくれなかったら困る……)

 過去の己の行いを心底悔やみつつも、シリルは早く授業が終わるよう祈った。
 そして終わりのチャイムがなると同時に、シリルは立ち上がるとクリフの前へと向かう。

「――話がある! …………ます」

「…………」

 なんだこいつと言いたげなクラスメイトたちの視線を受けて、シリルは慌てて敬語に戻した。
 そうだ、相手は王太子なのだ。
 シリルはただの伯爵令息なのだから、敬語を使うのは当たり前である。
 そのことをしっかりと頭に叩き込みつつも、シリルは静かに頭を下げた。

「話させてください……!」

「…………うん。わかったよ」

 立ち上がったクリフとともに人気のない場所を探し、最終的に空いている教室に入った。
 確か自習室に使われている教室で、放課後は賑わう場所だ。
 しかし今は授業と授業の間のため、人は一人もいなかった。
 なので今だと、シリルはクリフと向き合う。

「――…………記憶は、あるか……ですか?」

「……敬語使わなくてもいいよ?」

「あなた、王太子殿下! それは無理です!」

 変な喋り方なのは申し訳ないが、こればっかりは無理だ。
 相手は王族。
 自分はただの伯爵令息。
 なので敬語は続けつつも、もう一度同じことを問う。

「……記憶、ありますか? …………前世の」

「うん」

「…………終わった」

 ぼそりと呟いたシリルは、膝から崩れ落ちた。
 クリフにはシリルと同じように前世の記憶があるようだ。
 つまりは、シリルが彼をいじめていたという記憶が。
 脳内に一瞬で過去の映像が流れる。
 飲んでいた紅茶をクリフの顔にかけたことがある。
 飲めるくらいぬるいものだったけれど、そんなことは関係ないだろう。
 落ちた食べ物を食べさせたこともある。
 犬のように這いつくばらせて。
 両手を後ろで縛って放置したこともある。
 あの後彼がどうしたのかは知らない。
 裸にして犬のように首輪をつけて、庭を散歩した気がする。
 あ、終わったかもしれない。
 シリルは一人涙を流した。
 両親に心から謝罪する。
 一人息子はもう家に帰れないかもしれません。
 命があればいいなと、若干諦めの気持ちでいた。

「…………本当に申し訳ございません。謝って済むことじゃないのはわかっています。それでもどうか謝らせてください」

 深々と頭を下げるシリル。
 そこに屈辱と感じるようなちっぽけなプライドは一切ない。
 なによりも命が大切なのだから。

「いくら前世とはいえ……、ひどいことをしたと反省しています。本当に……本当に申し訳ございませんでした!」

 この際ちゃんと謝ろうと、シリルは床に手を置いた。
 シリルは自ら、彼に強要した土下座をする。

「許してください――!」

 せめて家族だけは!
 いや、叶うなら自分の命も!
 と心の中で叫ぶ。
 どうか許して欲しい。
 そんな思いから目をギュッと瞑りつつ、床に額を擦り付けた。
 まさに決死の謝罪。
 これで失敗すれば命はないかもしれない。
 だからどうか許すと言ってくれ!
 そんな思いでクリフからの言葉を待ち続けたシリルだったが、いくら待っても声が聞こえてこない。
 どうしたのだろうか?
 もう一度謝罪したほうがいいのか?
 と訝しみつつシリルはゆっくりと顔を上げた。

「――」

 シリルは己の背筋がゾッと震えたのを感じた。
 血の気が引くとはまさにこのことなのだろう。
 一瞬で顔色が悪くなったのがわかる。
 それくらい、目の前にいるクリフの顔が恐ろしかったのだ。
 彼は自分の目の前で土下座するシリルを、恍惚とした笑みで見下していた。
 なまじ見目が良いからか、その怪しい美しさが恐ろしいと思えたのだ。
 クリフは赤く染まった目尻をそのままに、ゆっくりと膝をついてシリルと目線を合わせる。
 そしてスラリとした指をシリルの頰に這わせた。

「……それで、許してもらえると本当に思うの?」

「…………へ?」

「だって君は僕を、許してくれなかっただろう?」

 ごめんなさい、許してください。
 思えば確かに、クリフは最初のころそう懇願していた。
 大きな瞳から大粒の涙をこぼして。
 けれどもちろん、シリルはそれで許すことはなかった。
 むしろ泣いて許しを乞う彼を嘲笑ったのだ。

 ――今のクリフのように。
 
 つまりこれは……。

「よかったよ。君に記憶があって。……そうじゃなきゃ、罪悪感が芽生えてしまいそうだろう?」

「…………あの、おれは……」

「なにされたっけ。確か……そうだ」

 クリフはシリルの顎を優しく掴むと、そっと持ち上げる。
 そしてシリルの耳元まで顔を近づけると、掠れる声で囁いた。

「まずは……服を脱いでもらおうかな?」

 クリフから香る甘い香りが、シリルを絶望の底へと叩き落とした。
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