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第1章 異世界転生

第15話

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あくる日……

目が覚めるとジュリエッタが隣でスースーと寝息を立てて寝ている。こうしてみるとかわいいし美人でもある。10年後が非常に楽しみだ。

源氏物語を思い出すなあ。幼女を手塩をかけて自分好みにするというあれだ。まああそこまで女性に対し節操が無いのはいかがなものかと思うけどな。古文が得意でなかったおれの偏見が若干入っていると思うけど。

少し思考が逸れた。とりあえず気持ち良さそうに隣で眠るジュリエッタを残して部屋を出る。

顔を洗いに水場へと向うと、洗いたてのシーツを持った母とバッタリ鉢合わせた。

「あら。ヴェルおはよう。ジュリエッタさんは?」

「おはようございます。お母様。ジュリエッタならまだ気持ち良さそうに寝ていますよ」

『やべっ。これじゃ今まで一緒に寝ていたのがバレバレじゃないか!』

慌てていい訳を考えるが、母は驚くどころか微笑ましく笑う。

「そっか~。慣れない屋敷で寂しいから一緒に寝てあげたんだ。本にしか興味を示さなかったヴェルにしては良く気が利くじゃないの」

あれ?杞憂?もしかしてこんなことを気にしてるのは俺のオッサン部分だけ?それはそれで自意識過剰な痛い人みたいで恥ずかしい。

「そろそろ朝食の準備が出来るわ。顔を洗ったら優しく起こしてあげなさい」

母はそう言って外に出ていった。ほっと溜息を吐く。

顔を洗い歯を磨くと、母に言われたようにジュリエッタを起こす。

「ジュリエッタ。もう朝だよ。ごはんが出来たから起きて」

「うっ、う~ん。もう朝なの?」

「そうだよ。今日もいい天気だよ。ほら、顔を洗いに一緒に行こう」

「うん。今起きるから待って」

ジュリエッタは、寝ぐせを指でクシの様に解かして、紐でポニーテールを作った。初めてポニー姿を見るけどこれもいいな。

朝食を食べてからは勉強をした。ジュリエッタの算術は既に10歳だとは思えない程に理解が深まっている。

昼過ぎからはジュリエッタに剣術の稽古をつけて貰う。なんでも伯爵家では女の子でも10歳から学園に入学した時の為に剣術を習い始めるそうだ。

庭に出ると屋敷の周りを外周してから、ジュリエッタが木剣を持ち素振りを始めたので自分も見よう見まねで横に並ぶ。

こちらの世界の剣術はどうやら型から始めるようでそれを一緒にやった。剣道をやってきた俺からしてみれば無駄な動きが多いように感じられたが否定はしない。対人と魔物との闘い方は違う可能性が高いからだ。

一通り型を終えると、木材をベースにDIYで作った平均台で体幹トレーニングをする。どんな体勢からでも攻撃、防御が出来る様に体幹の鍛錬は必須と感じたからだ。

具体的な訓練方法は、木刀を地面に刺してそこを中心に20周した後に平均台を走ったり、目隠しをして歩いたりする訓練をする。日課にしていたので結構慣れてきた。今度はハードルでも作ってみようかな。

そんな事を考えながら鍛錬を終えると、ベンチに置いたタオルをジュリエッタに渡して、一緒に汗を拭ってからスポーツドリンクを飲み干す。一人で鍛錬をするよりも楽しいものだ。

その晩、良く考えて重力魔法とスキルの事をジュリエッタにカミングアウトする事にした。専属騎士になる以上は隠し続けるとバレた時にマズいと思うんだ。

布団に入いると「実はさ、ジュリエッタに隠していた事があるんだ」と、カミングアウトをし始める。

「えっまさか好きな人がいるとか?」

ジュリエッタの顔が笑ってない。まてまて。おれはぼっちだと話したはずだ。てか、最初にそこ?

「そんなわけないってば。実は光魔法以外に、重力魔法、鑑定スキル持ちなんだ」

そう答えると、ジュリエッタは驚いた後に何かを思いつめた顔をした。

「やっぱ驚くよね~」

「ええ。スキルもそうだけど、重力魔法って勇者しか使えないって本で読んだ事があるんだもの。これが驚くなと言う方がおかしいわ」

「予め言っておくけど、他のスキルは使えないから勇者ではないと言っておくよ。今日は遅いからまた明日以降に重力魔法を見せるよ」

「分かったわ。楽しみにしてるね」

次の日も、午後から剣術の鍛錬だ。終わってベンチで休憩をしていると、ジュリエッタが「ヴェル。昨日言ってた重力魔法を見せてくれないかな?」と、言い出した。

「いいけど、参考にならないかもしれないよ」

と答えると、それでも見たいと言うので、「パワーライズ」と、魔法を掛けて立ち木を右薙ぎ。【メキッ】と音を立て、立ち木が折れ曲がりジュリエッタは驚いている。

「なにそれ。本当に重力魔法法が使えるなんて驚いた。やっぱりヴェルって勇者じゃないの?」

「違うと思う。魔法やスキルのうちこれ以外には使えないんだから」

「そっかな~。これは上級貴族しか知らない事なんだけど、この国には昔魔王を倒した勇者、聖女、賢者の末裔がいるらしいわよ」

「おっ、そこんとこ是非詳しく!」

「500年前の事なのよ。それが詳しくわかるのなら誰も苦労をしないわ」

伝説か伝承か、もしくは国に箔を付けるための捏造か。これだけじゃわからないな。

それから重力魔法の研究と言うか試しまくる。もし成功すれば戦力アップは間違いない。幸い初めに当たりがきたようで何パターンも試しているうちにパワーライズを付与する方法を見つけた。

強化したい部位に魔力を纏った状態を保持し、そこにパワーライズをかける。そうすると上手いこと効果が出るようだ。

「凄いじゃないか。パワーライズを味方全員に掛けられれば、ほぼ無敵じゃないのか?」

「そうとも言い切れないかも。この魔法凄く燃費が悪いわ。魔力が一気に吸い取られる気がする。だから勇者専用の魔法じゃないのかな?」

幼い頃から気絶するまで魔力を使い切っていたから気付かなかったが、持続時間が長ければ長いほど魔力が大量に消費されるようだ。魔力が充分でないと使えない。随分ピーキーな感じだな。

それでも、パワーライズを軽く維持したまま、一気に魔力を開放すれば必殺技となるだろう。試行錯誤に付き合ってくれたジュリエッタにはマジで感謝しかない。

ジュリエッタが来てからは楽しくも平穏な日々が続く。幸い母にも発症の予兆は無く、屋敷はコレラのコの字も感じさせないぐらい平和だった。


□ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■


それから2ヵ月後

コレラは俺が予測をしていた3ヶ月を待たずに瞬く間に収束した。今日の朝早く厳戒令も解除されるそうだ。

もちろん母もテーゼも無事だ。思わず日本語で「やったぜオレ!!これで全部が自分の書いた小説に依存しているわけじゃないことが分かった!!」と叫ぶ。

大きな達成感に溢れ朝食を食べていると、窓に白い鳩が来た。伝書鳩のようだ。

鳩の足に括られた手紙を母が読むと、明日の朝に伯爵閣下の使いの者がジュリエッタを迎えにくると書いてあった。

父と伯爵閣下は残務処理で二、三日後に帰ってくるそうだけど、ジュリエッタの母が実家から一足早く赤ちゃんを連れて戻ってくるらしい。

なので今日はちょっとしたお別れ会をする事になった。

食事が始まるとジュリエッタが立ち上がり挨拶をする。

「皆さん。この2ヶ月の間、良くしていただいてありがとうございました。ご恩は忘れません」

「何言ってるのよ。ヴェルの遊び相手になってくれて、お礼を言うのはこちらの方ですよ」

「は~、今日で皆さんと一緒に生活するのが終ると思うと寂しいものね」

「弟が出来たんだ。寂しい気持ちなんて一瞬で忘れるって」

「それとこれとは別なの。ヴェルもまだまだね、女心が分かってないわよね」

母がそう茶化すとジュリエッタは頬を赤く染めて頷いた。ジロリと母に目をやる。

ふんっ。女心なんて知らんわ。9歳の子供に何を言わせたいんだか。断じて前世で彼女が居なかったからでは無いからな。

食事を終え、入浴を済ませると就寝時間になった。

布団に入ると、ジュリエッタが真顔でこちらを見る。

「さっき、ヴェルのお母様が言ったとおり、ヴェルは女心を少し勉強して欲しいかな?」

「勉強って。そんな方法があるならとっくにやってるよ」

「あの時、僕もジュリエッタが居なくなると思うと、寂しいとかって言って欲しかったな」

「みんなの居る前でそんなの言えるわけないじゃないか」

「それは寂しいってこと?」

「そうだね。寂しいと思うけどまだこうして隣にいるから実感ないや」

「うふふふ。そうね。でもそう思ってくれるなら許してあげる」

何を許すのかは理解出来ないが、取り敢えず言葉の選択は間違っていなかったようだ。

「ヴェル。この2ヶ月間本当に楽しかったわ。ありがとね」

ジュリエッタはそう言うと、不意打ちで目を閉じ俺の頬に軽くキスをした。思いがけないキスに時が止まったよのかと思った。

「言っとくけど、男の人にこんな事をするのは初めてなんだから。じゃ、おやすみ!」

ジュリエッタはそう言うと布団にもぐった。可愛すぎんだろ。

心臓がドキドキしている。顔が赤いのがばれないように、電気を消して布団に入った。こうでもしないと、興奮が冷めそうもない。おっさんなのに情けない。

それから魔力を流し始めると瞬く間に気が遠くなり眠りに落ちた。
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