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第八話 自由と幸せ
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「……様……」
「戻ってきますように……戻ってきますように……」
「シエル様!」
「ひょわぁ!?」
祈り始めてから、どれだけ時間が経ったのだろう――突然名前を呼ばれた私は、ビックリしすぎてその場でひっくり返ってしまった。
は、恥ずかしすぎる……! も、もうお嫁にいけない……! って、私のような平凡で追放までされるような人間が、お嫁にいけるわけないか!
「って……ラルフ!?」
「はい。お待たせして申し訳ございませんでした」
「……ラルフー!」
「し、シエル様??」
無事に戻ってきてくれたラルフの姿を見たら、安心と嬉しさでラルフに抱きついてしまった。周りの視線がちょっと痛いけど、そんなの関係ない!
「良かった~! 止める暇もないうちに行っちゃったから、心配で心配で!」
「ご心配をおかけして、申し訳ございませんでした。無事に町長には話がついて、疑いは晴れました」
ラルフは私の背中を優しくさすりながら、結果を報告してくれた。
良い結果の報告はもちろん嬉しいけど、やっぱりラルフの無事の方が嬉しいかな。もし疑いが晴れなかったら、急いで逃げるという選択肢も出来るけど、死んじゃったらどうしようもないからね。
「さあ、これで気兼ねなく観光が出来ますよ。私がご案内いたします」
「そ、そっか! もう怪しまれずに観光ができるんだ!」
「その通りです。さあ、行きましょう」
差し出されたラルフの手に自分の手を重ねると、そっと握ってから歩きだした。
互いにエスコート自体は何度も経験があるから、こんな状況でも何の問題もないね。長年の経験は伊達じゃない!
「案内してくれるのはいいけど、この町の地理ってわかるの?」
「はい。シエル様の元に行く前に、何度も来ていますから」
「なるほどね。ラルフのお家はこの辺りなの?」
「少し離れた場所にありますよ。迎えの到着はまだ時間がかかりそうなので、のんびりしていましょう」
迎えという単語に引っ掛かりを覚えつつも、ラルフのエスコートに従って歩いていると、とても大きな声が響き渡る建物の中に案内してくれた。
「わぁ~!! 凄い! 沢山の人に、お魚に、貝に……他にも色々! 見るものすべてが新鮮だよ! ラルフ、ここはなんなの!?」
「朝市ですよ。ここでは、今朝とれたばかりの海の幸を売りに出しているのです。基本的には、契約を結んでいる相手に卸すのですが、一般の方も購入できるようにしてるのが、この朝市なのです。シエル様なら、きっと喜んでくださると思い、お連れいたしました」
「最高だよ! ラルフ、お財布ちょうだい!」
「はい、どうぞ」
「ありがとう!!」
私はラルフに預けていたお財布を受け取ると、近くにあったお魚の前に立つ。
新鮮だからか、目が黒光りしているし、体の艶もよさそうに見える。私には魚の目利きなんてできないけど、多分新鮮でおいしいと思う!
「あの、このお魚がほしいんですけど、これで足りますか?」
「こいつかい? えーっと……どっひゃー!?」
「え、えぇ!?」
お金を出しただけなのに、このお魚を獲ってきた漁師と思われる人は、その場でひっくり返ってしまった。
わ、私……何か変なことしたかな……? 普通にお金を出して、足りるか聞いただけなんだけど……。
「シエル様、いくら差し出したのですか?」
「え? これだけだけど……」
そう言いながら、私はラルフに金貨の山を手渡した。それを見たラルフは、苦笑いを浮かべていた。
「こんな大金はいりませんよ。ほら、そこに値段が書いてありますよ」
「値段? 本当だ! って……一匹銅貨一枚!? こんなお手頃価格でいいの!?」
「お、おう……むしろ、それが最近の相場だぜ、嬢ちゃん。だから、そんな大量の金貨を出されても、困っちまうぜ……」
「そうだったんだね! それじゃあここにいるお魚、全部くださいな!」
「全部だって!? まあそれだけあれば余裕だが……全部とは恐れ入った! 少しまけてやるよ!」
「いいんですか!? やったー!」
とても気前のいい店主さんに、お魚が沢山詰められた袋をいただいた。
えへへ……この中にはあのおいしそうなお魚達が……考えただけでヨダレが出ちゃいそう……じゅるり。
「ところで、これはどうやって食べれば一番おいしいんだろう? 丸かじり?」
「生でも食べられないことはありませんが……頭からかじるのはあまりよろしくないかと。今回は焼いて食べましょうか」
「そっか! でも、どうやって焼こう? 焚火ってわけにもいかないし……ラルフ、何か出せそう?」
「焼くものですか……やってみましょう」
「お願いね! よーし、お魚を焼ける物……お魚を焼ける物……!」
ラルフは意識を集中して、床に両手を向ける。すると、光が集まっていき……形が変わっている花瓶? みたいなのが出てきた。
「なにこれ……?」
「これは七輪の一式ですね。遠い国で使われている調理器具で、この辺りの漁師も使っているものです。シエル様の魚を焼ける物が欲しいという気持ちに、魔法が応えたのでしょうね」
「シチリン……とりあえずお魚が焼ける物って思ったから、これが出たんだよね?」
「はい。しかし、煙がとても出る調理器具ですし、ここだと邪魔になるので、外に出てやりましょう」
ラルフの指示通り、私達は再び湖畔へとやってくると、シチリンを地面の上に置いた。これでどうすればいいんだろう?
「まず炭に火をつけてと……」
「炭と火打石、シチリンの中に入っててよかったね!」
「そうですね……これでよし。七輪の下の方に、小窓がありますよね?」
「うん、あるよ」
「そこに、このうちわで仰いでください」
「う、うちわ……??」
ラルフは先程のシチリン達と一緒に出てきた、木と紙がくっついた物を私に手渡した。
「遠い国で使われる、扇子のようなものです。それで扇いで風を送り込み、火の強さを上げるのです」
な、なるほど! 見た目が扇子と結構違うから、戸惑っちゃったよ。こうなるのなら、シチリンの使い方とかも勉強するべきだったな?
そんなことを思いながら焼けるのを待っていると、お魚から香ばしい良い匂いがしてきた。
「そろそろ焼けてきましたよ」
「食べられる!?」
「落ち着いてください。魚は逃げません」
もう楽しみなのと空腹で、いてもたってもいられないよ! こんなおいしそうな匂いがしてるっていうのに、我慢なんて無理無理!
「これは良い感じですね。本当なら塩があればよかったのですが……」
「そんなの無くても大丈夫だよ! じゃあさっそく……はふっ!? はふはふ……お、おいひぃぃぃぃぃ!!」
皮はパリッとしていて、中の身はホクホク! 少したんぱくだけど、それがむしろしつこくなくて良い! これならいくらでも食べられる!
「し、幸せぇ……これが自由なのね……」
「シエル様に喜んでもらえると、私もとても幸せになります」
「ほら、ラルフも食べて食べて! あっ、執事として……シエル様が食べ終わるまでは食べません……みたいなのは無しね!」
「考えていたことを読まれてしまった以上、食べるしかありませんね」
低い声を頑張って出して、ラルフの真似をしたつもりの私に、ラルフは苦笑いしながら、焼けた魚を食べ始める。すると、ラルフの表情がパッと明るくなった。
さっきラルフが言っていた、私が幸せだとって言葉の意味がわかるね。私も、ラルフが幸せそうなのを見て、幸せに感じるもん。
「もぐもぐもぐ……あれ、もう全部食べちゃった! お魚達、命をありがとう!」
「あれだけあった魚を全て平らげてしまうとは、さすがシエル様」
「な、なんかそれって素直に喜んでいいのかな……? ラルフも結構食べてたよね?」
「はい」
なんか私ばかりが食べたみたいな感じになっているのは、きっと気のせいじゃないよね? まあ……ほとんど食べたのは否定しないけど。あと、全然お腹いっぱいになっていない。
「さてと、まだ一つのお店しか周ってないし、他の所も行って食べまくるよ!」
「まだ食べるのですか?」
「もちろん! 他にも魅力的なものが沢山あったもの! あっ、でもラルフが持ってきてくれた食べ物もあるし……うん、なんとかなる!」
「……シエル様の意思を尊重しますが、食べ過ぎてお腹を壊さないようにしてくださいね」
「大丈夫だよ!」
お腹が痛いのなんて恐れていたら、おいしいものなんて食べられない! 私はそう思いながら、ラルフを連れて再び朝市へと戻っていった。
「戻ってきますように……戻ってきますように……」
「シエル様!」
「ひょわぁ!?」
祈り始めてから、どれだけ時間が経ったのだろう――突然名前を呼ばれた私は、ビックリしすぎてその場でひっくり返ってしまった。
は、恥ずかしすぎる……! も、もうお嫁にいけない……! って、私のような平凡で追放までされるような人間が、お嫁にいけるわけないか!
「って……ラルフ!?」
「はい。お待たせして申し訳ございませんでした」
「……ラルフー!」
「し、シエル様??」
無事に戻ってきてくれたラルフの姿を見たら、安心と嬉しさでラルフに抱きついてしまった。周りの視線がちょっと痛いけど、そんなの関係ない!
「良かった~! 止める暇もないうちに行っちゃったから、心配で心配で!」
「ご心配をおかけして、申し訳ございませんでした。無事に町長には話がついて、疑いは晴れました」
ラルフは私の背中を優しくさすりながら、結果を報告してくれた。
良い結果の報告はもちろん嬉しいけど、やっぱりラルフの無事の方が嬉しいかな。もし疑いが晴れなかったら、急いで逃げるという選択肢も出来るけど、死んじゃったらどうしようもないからね。
「さあ、これで気兼ねなく観光が出来ますよ。私がご案内いたします」
「そ、そっか! もう怪しまれずに観光ができるんだ!」
「その通りです。さあ、行きましょう」
差し出されたラルフの手に自分の手を重ねると、そっと握ってから歩きだした。
互いにエスコート自体は何度も経験があるから、こんな状況でも何の問題もないね。長年の経験は伊達じゃない!
「案内してくれるのはいいけど、この町の地理ってわかるの?」
「はい。シエル様の元に行く前に、何度も来ていますから」
「なるほどね。ラルフのお家はこの辺りなの?」
「少し離れた場所にありますよ。迎えの到着はまだ時間がかかりそうなので、のんびりしていましょう」
迎えという単語に引っ掛かりを覚えつつも、ラルフのエスコートに従って歩いていると、とても大きな声が響き渡る建物の中に案内してくれた。
「わぁ~!! 凄い! 沢山の人に、お魚に、貝に……他にも色々! 見るものすべてが新鮮だよ! ラルフ、ここはなんなの!?」
「朝市ですよ。ここでは、今朝とれたばかりの海の幸を売りに出しているのです。基本的には、契約を結んでいる相手に卸すのですが、一般の方も購入できるようにしてるのが、この朝市なのです。シエル様なら、きっと喜んでくださると思い、お連れいたしました」
「最高だよ! ラルフ、お財布ちょうだい!」
「はい、どうぞ」
「ありがとう!!」
私はラルフに預けていたお財布を受け取ると、近くにあったお魚の前に立つ。
新鮮だからか、目が黒光りしているし、体の艶もよさそうに見える。私には魚の目利きなんてできないけど、多分新鮮でおいしいと思う!
「あの、このお魚がほしいんですけど、これで足りますか?」
「こいつかい? えーっと……どっひゃー!?」
「え、えぇ!?」
お金を出しただけなのに、このお魚を獲ってきた漁師と思われる人は、その場でひっくり返ってしまった。
わ、私……何か変なことしたかな……? 普通にお金を出して、足りるか聞いただけなんだけど……。
「シエル様、いくら差し出したのですか?」
「え? これだけだけど……」
そう言いながら、私はラルフに金貨の山を手渡した。それを見たラルフは、苦笑いを浮かべていた。
「こんな大金はいりませんよ。ほら、そこに値段が書いてありますよ」
「値段? 本当だ! って……一匹銅貨一枚!? こんなお手頃価格でいいの!?」
「お、おう……むしろ、それが最近の相場だぜ、嬢ちゃん。だから、そんな大量の金貨を出されても、困っちまうぜ……」
「そうだったんだね! それじゃあここにいるお魚、全部くださいな!」
「全部だって!? まあそれだけあれば余裕だが……全部とは恐れ入った! 少しまけてやるよ!」
「いいんですか!? やったー!」
とても気前のいい店主さんに、お魚が沢山詰められた袋をいただいた。
えへへ……この中にはあのおいしそうなお魚達が……考えただけでヨダレが出ちゃいそう……じゅるり。
「ところで、これはどうやって食べれば一番おいしいんだろう? 丸かじり?」
「生でも食べられないことはありませんが……頭からかじるのはあまりよろしくないかと。今回は焼いて食べましょうか」
「そっか! でも、どうやって焼こう? 焚火ってわけにもいかないし……ラルフ、何か出せそう?」
「焼くものですか……やってみましょう」
「お願いね! よーし、お魚を焼ける物……お魚を焼ける物……!」
ラルフは意識を集中して、床に両手を向ける。すると、光が集まっていき……形が変わっている花瓶? みたいなのが出てきた。
「なにこれ……?」
「これは七輪の一式ですね。遠い国で使われている調理器具で、この辺りの漁師も使っているものです。シエル様の魚を焼ける物が欲しいという気持ちに、魔法が応えたのでしょうね」
「シチリン……とりあえずお魚が焼ける物って思ったから、これが出たんだよね?」
「はい。しかし、煙がとても出る調理器具ですし、ここだと邪魔になるので、外に出てやりましょう」
ラルフの指示通り、私達は再び湖畔へとやってくると、シチリンを地面の上に置いた。これでどうすればいいんだろう?
「まず炭に火をつけてと……」
「炭と火打石、シチリンの中に入っててよかったね!」
「そうですね……これでよし。七輪の下の方に、小窓がありますよね?」
「うん、あるよ」
「そこに、このうちわで仰いでください」
「う、うちわ……??」
ラルフは先程のシチリン達と一緒に出てきた、木と紙がくっついた物を私に手渡した。
「遠い国で使われる、扇子のようなものです。それで扇いで風を送り込み、火の強さを上げるのです」
な、なるほど! 見た目が扇子と結構違うから、戸惑っちゃったよ。こうなるのなら、シチリンの使い方とかも勉強するべきだったな?
そんなことを思いながら焼けるのを待っていると、お魚から香ばしい良い匂いがしてきた。
「そろそろ焼けてきましたよ」
「食べられる!?」
「落ち着いてください。魚は逃げません」
もう楽しみなのと空腹で、いてもたってもいられないよ! こんなおいしそうな匂いがしてるっていうのに、我慢なんて無理無理!
「これは良い感じですね。本当なら塩があればよかったのですが……」
「そんなの無くても大丈夫だよ! じゃあさっそく……はふっ!? はふはふ……お、おいひぃぃぃぃぃ!!」
皮はパリッとしていて、中の身はホクホク! 少したんぱくだけど、それがむしろしつこくなくて良い! これならいくらでも食べられる!
「し、幸せぇ……これが自由なのね……」
「シエル様に喜んでもらえると、私もとても幸せになります」
「ほら、ラルフも食べて食べて! あっ、執事として……シエル様が食べ終わるまでは食べません……みたいなのは無しね!」
「考えていたことを読まれてしまった以上、食べるしかありませんね」
低い声を頑張って出して、ラルフの真似をしたつもりの私に、ラルフは苦笑いしながら、焼けた魚を食べ始める。すると、ラルフの表情がパッと明るくなった。
さっきラルフが言っていた、私が幸せだとって言葉の意味がわかるね。私も、ラルフが幸せそうなのを見て、幸せに感じるもん。
「もぐもぐもぐ……あれ、もう全部食べちゃった! お魚達、命をありがとう!」
「あれだけあった魚を全て平らげてしまうとは、さすがシエル様」
「な、なんかそれって素直に喜んでいいのかな……? ラルフも結構食べてたよね?」
「はい」
なんか私ばかりが食べたみたいな感じになっているのは、きっと気のせいじゃないよね? まあ……ほとんど食べたのは否定しないけど。あと、全然お腹いっぱいになっていない。
「さてと、まだ一つのお店しか周ってないし、他の所も行って食べまくるよ!」
「まだ食べるのですか?」
「もちろん! 他にも魅力的なものが沢山あったもの! あっ、でもラルフが持ってきてくれた食べ物もあるし……うん、なんとかなる!」
「……シエル様の意思を尊重しますが、食べ過ぎてお腹を壊さないようにしてくださいね」
「大丈夫だよ!」
お腹が痛いのなんて恐れていたら、おいしいものなんて食べられない! 私はそう思いながら、ラルフを連れて再び朝市へと戻っていった。
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