35 / 44
第三十五話 ドレス試着会
しおりを挟む
ドレスの依頼をしてから、ピッタリ一週間後のお昼前。私はユーゴ様が作ってくれたドレスを受け取り、自室で袖を通していた。
ユーゴ様が作ってくれたドレスは、青と白を基調としたものだ。ドレスの胸元の部分は青が強く、そこから足の方に行くにつれて、白が強くなっている。
「わあ、凄い……!」
これでも一応貴族の令嬢ではあるから、ドレス自体は何度も着たことがある。その中でも、このドレスは断トツで一番だといえる。
見た目が綺麗なのはもちろんだけど、ドレスなのに動きやすいし、風通しが良いおかげで肌が蒸れない。肌触りも絹みたいに滑らかだし……非の打ち所がないよ!
「お、良い感じじゃねーか! サイズもピッタリだな!」
「ユーゴ様! 最高のドレスを作ってくれて、ありがとうございます!」
姿見の前でクルクルと回って楽しんでいると、ユーゴ様がやってきた。
「なに、礼には及ばねえよ! 俺も作ってて楽しかったしな! そうだ、姉ちゃんがよければ、店の宣伝でもしてくれねーか?」
「はい、任せてください! 知り合いはほとんどいませんけど……頑張ります!」
握り拳を作り、自信たっぷりにそう言うと、ユーゴ様は楽しそうに高笑いをしていた。そんなに笑うようなことを言った覚えはないんだけどなぁ。
「がはははは! 姉ちゃんは随分と真面目な人間だな! ところで、兄ちゃんはどこに行ったんだ? 帰る前に、挨拶をしておきたかったんだが」
「ラルフですか? 午前中は用事があるみたいです。そろそろ帰ってくると思いますけど」
「なるほどな。だから出迎えられた時に、姉ちゃんだけだったのか」
「そういうことです」
仕事だから仕方ないけど、ラルフがいないと寂しくて仕方がない。本当に私は、ラルフに身も心も虜に……いや、依存してしまっているのかもしれない。
依存はあまり良くないし、直さないといけないのはわかってるけど……いきなりは結構難しい。少しずつ直さないとね。
「あーあ、早く兄ちゃんが驚いてすっころぶ姿を拝みてーわ」
「ラルフはそんなことはしないと思いますよ?」
「どうだろうな? 兄ちゃんはあんたにべた惚れしてるみたいだし、綺麗な姿に衝撃を受けて、倒れてもおかしくねーだろ?」
「うーん……ドレス姿自体は、何度も見てるから、そんなことは無いと思いますよ?」
「そういうもんかねぇ」
のんびりとユーゴ様とお話をしていると、部屋の扉がノックされた。時間的に、そろそろラルフが来ても良い時間だから、きっと来訪者は……。
「ラルフです。今よろしいですか?」
「うん、どうぞ~!」
やっぱりラルフだと思いながら返事をすると、いつもの様に静かにラルフが入ってきた――その矢先、私のことを数秒程見つめてから、その場で膝から崩れ落ちた。
「ら、ラルフ? 大丈夫!?」
「なんて……なんて美しい……私は今、この世の全てを超越した美しさを目の当たりにしている……!」
「お、大げさだよ~!」
「ガーッハッハッハっ! すっころびはしなかったが、だいたい俺の言う通りだったろ!」
「で、ですね……」
まさか、ユーゴ様の予想のような、こんなに大げさな反応をされるなんて、思ってもいなかった。あったとしても、普通に美しいとか、愛してるとか、そういうことを言われて終わりとばかり……。
「ユーゴ様、最高の品を用意してくれてありがとうございました。大変気に入りました」
「そいつは職人冥利に尽きるってもんよ。んじゃ、次の仕事があるからそろそろ失礼するぜ」
「かしこまりました。ではお帰りになられる前に、支払いの方を別室でさせてくださいませ」
「っと、そうだったな。俺としたことが、すっかり忘れてたぜ!」
それって、職人さんとして大丈夫なのだろうかと苦笑いしつつ、私は二人を部屋から見送った。
……美しいかぁ……そんなことを言われたら照れちゃうよ。ほら、鏡に映ってる自分の顔が、人に見せられないような、だらしない顔になってる。
でも、こんな顔になっちゃうくらい、ラルフに褒められると嬉しいし……欲を言わせてもらうなら、もっともっと言ってほしいな……な、なんて……えへへ。
「……だ、ダメだよラルフ……そんなこと言われたら、恥ずかしい……えへへへへ……」
「ただいま戻りました。おや、どうかされましたか?」
「ふにゃあ!?」
鏡の前で妄想に浸っている中、ラルフの声で正気に戻った私は、その場でピョンっと飛び上がってしまった。
わ、私ってば一体何を妄想しているの!? さっきから、手伝ってくれた使用人も近くにいたというのに……あまりにも浮かれすぎだって!
「なな、なんでもないよ! ユーゴ様はもう帰ったの?」
「ええ。帰り際に、この素晴らしい仕事っぷりを布教させてもらうと約束いたしました」
「そうなの? 私も宣伝するって言ったんだ!」
「考えることは同じですね」
別に大したことじゃないのに、ラルフと同じだと思ったら、それだけで嬉しくなっちゃうよ。
「……すまない、少しシエル様と二人きりにしてもらえるか?」
「かしこまりました。もうすぐ昼食ですので、その時間になったらお迎えに参ります」
「わかった。ありがとう」
ドレスを着る手伝いをしてくれた使用人が部屋を後にすると、ラルフが私の方をジッと見つめてから、私の頬に触れた。
私の頬に触れる。その後に繋がる動作はもうわかっている――だから私は、静かに目を閉じ、顔を少しだけ上に向けた。
「んっ……」
ラルフと唇を重ねながら小さく息を漏らしながら、ラルフの首に手を回した。キス自体は数秒程で終わったけど、その数秒で心が満たされているのがよくわかった。
「もう、ラルフっていつも急にキスするよね」
「シエル様が、私にそうさせるのが悪いのですよ」
「えー、私のせいなの?」
「冗談です」
「えへへ、知ってる」
ラルフの軽口に笑って答えてから、もう一度キスをする。
本当なら、このままずっとラルフと部屋でのんびりイチャイチャしていたいけど、さすがにそういうわけにはいかないよね。我慢我慢っと……。
****
ダニエル様に招待されたパーティーの当日、私はユーゴ様に仕立ててもらったドレスに身を包んでから、玄関でラルフが来るのを待っていた。
今日のパーティーでラルフに恥をかかせないように、いつも以上に身だしなみは気を付けているつもりだ。ドレスはシワ一つ無いし、髪もお化粧も完璧。ラルフに貰ったネックレスも付けている。
……まあ、そのほとんどは準備をしてくれた使用人のおかげだから、私が胸を張るのはおかしい話だけどね。
「ラルフ、まだかな……」
「もう少しで準備が出来るといってたから、そろそろ来ると思うわ。まったく、女性を待たせるなんて、いつからそんな悪い子になったのかしら? それに、ナディアも仕事で見送りに来れないなんて!」
「ま、まあまあ……きっとラルフとナディア様には、事情があるんですよ!」
見送りに来てくれたクリスティア様は、子供のように頬を膨らませて不満を表していた。
クリスティア様にも、こんな可愛い一面があったんだね。こんな所で新しい発見をしちゃったよ。
「お待たせいたしました」
「っ……!?」
玄関にやってきたラルフの格好は、黒の燕尾服だった。髪も私の誕生日の時のようにオールバックにしているおかげで、その端正な顔が前面に強調されている。
……な、なるほど。ラルフがこのドレスを見た時に、あんな反応をしたのがよくわかった。確かに大好きな人がドレスアップをした時の衝撃は、言葉に言い表せないほど凄い……!
「シエル様、お顔が赤いですが……体調がよろしくないのですか?」
「ち、違う違う! 今日のラルフ、凄くカッコイイから、見惚れちゃって……」
「……シエル様……」
モジモジしながら答えると、ラルフは息を漏らすような声で私の名前を呼びながら、私の頬に手を添えた。
……ちょ、ちょっと待って! 私もラルフと同じことがしたいけど、今は見送りに来てくれたクリスティア様も使用人もいるんだよ!? さすがにマズいってー!
「ら、ラルフラルフ! 周り!」
「……わ、私としたことが……大変失礼しました」
私達を見て、顔を赤くして目を逸らす人や、キャーキャーと喜ぶ人とか、色々な反応があったけど、大体が好意的なものだった。
あ、ちなみに私達がお付き合いしてることは、ちゃんと全員に報告しているよ。
「うふふ、これは孫の顔が見れる日も近いかもしれないわね。あ、私は男の子でも女の子でも、どちらでもいいわよ?」
「く、クリスティア様!?」
「何を仰っているんですか母上!?」
「二人して焦っちゃって、可愛いわね~」
子供だなんて、まだ早すぎるよ! そもそも結婚だってしてないし……いつかは産みたい気持ちは山々だけどね!
「さて、そろそろ出発の時間ね。シエル、ラルフ。今回のパーティーについては、ナディアから事前に聞いているわ。バーランド家のことなんて気にしなくていいから、我が身を第一に考えて、必ず帰ってくるのよ」
「母上……」
「シエル、あなたはもう私の子なんだから、帰ってこないなんてなったら泣いちゃうわよ。だから、ラルフと一緒に私の元に帰ってきて。ラルフも、孫の顔を見せる前にいなくなったら、承知しないわよ」
「わかりました、お義母様!」
「えっ……」
自然と口から出た言葉を止めようと、慌てて口元に手を持っていく。
今更もう遅いのは重々承知の上で、そーっとクリスティア様の方を見ると、とても嬉しそうな表情で、私に抱きついてきた。
「ええ、私はあなたの母よ。だから、これからは沢山甘えていいからね」
「クリス……じゃなかった、お義母様……ありがとうございます。私、ラルフと一緒に必ず帰ってきます!」
私はクリスティア様改め、お義母様と使用人達に見送られながら、ダニエル様の屋敷へと向かって出発した。
さて、一体何が待ち受けているのだろうか。不安は無いと言ったら嘘になるけど、ラルフが近くにいるなら、私は大丈夫。
それに、守られるだけじゃなくて、私もラルフを守るんだ!
さあさあ、蛇でもクマでもかかってきなさい! なにがパーティー会場にいたとしても、このシエル・バーランドとラルフ・バーランドが全部蹴散らしてあげるからねー!
……あ、虫だけはやめて! お願いだからやめてよね!!
ユーゴ様が作ってくれたドレスは、青と白を基調としたものだ。ドレスの胸元の部分は青が強く、そこから足の方に行くにつれて、白が強くなっている。
「わあ、凄い……!」
これでも一応貴族の令嬢ではあるから、ドレス自体は何度も着たことがある。その中でも、このドレスは断トツで一番だといえる。
見た目が綺麗なのはもちろんだけど、ドレスなのに動きやすいし、風通しが良いおかげで肌が蒸れない。肌触りも絹みたいに滑らかだし……非の打ち所がないよ!
「お、良い感じじゃねーか! サイズもピッタリだな!」
「ユーゴ様! 最高のドレスを作ってくれて、ありがとうございます!」
姿見の前でクルクルと回って楽しんでいると、ユーゴ様がやってきた。
「なに、礼には及ばねえよ! 俺も作ってて楽しかったしな! そうだ、姉ちゃんがよければ、店の宣伝でもしてくれねーか?」
「はい、任せてください! 知り合いはほとんどいませんけど……頑張ります!」
握り拳を作り、自信たっぷりにそう言うと、ユーゴ様は楽しそうに高笑いをしていた。そんなに笑うようなことを言った覚えはないんだけどなぁ。
「がはははは! 姉ちゃんは随分と真面目な人間だな! ところで、兄ちゃんはどこに行ったんだ? 帰る前に、挨拶をしておきたかったんだが」
「ラルフですか? 午前中は用事があるみたいです。そろそろ帰ってくると思いますけど」
「なるほどな。だから出迎えられた時に、姉ちゃんだけだったのか」
「そういうことです」
仕事だから仕方ないけど、ラルフがいないと寂しくて仕方がない。本当に私は、ラルフに身も心も虜に……いや、依存してしまっているのかもしれない。
依存はあまり良くないし、直さないといけないのはわかってるけど……いきなりは結構難しい。少しずつ直さないとね。
「あーあ、早く兄ちゃんが驚いてすっころぶ姿を拝みてーわ」
「ラルフはそんなことはしないと思いますよ?」
「どうだろうな? 兄ちゃんはあんたにべた惚れしてるみたいだし、綺麗な姿に衝撃を受けて、倒れてもおかしくねーだろ?」
「うーん……ドレス姿自体は、何度も見てるから、そんなことは無いと思いますよ?」
「そういうもんかねぇ」
のんびりとユーゴ様とお話をしていると、部屋の扉がノックされた。時間的に、そろそろラルフが来ても良い時間だから、きっと来訪者は……。
「ラルフです。今よろしいですか?」
「うん、どうぞ~!」
やっぱりラルフだと思いながら返事をすると、いつもの様に静かにラルフが入ってきた――その矢先、私のことを数秒程見つめてから、その場で膝から崩れ落ちた。
「ら、ラルフ? 大丈夫!?」
「なんて……なんて美しい……私は今、この世の全てを超越した美しさを目の当たりにしている……!」
「お、大げさだよ~!」
「ガーッハッハッハっ! すっころびはしなかったが、だいたい俺の言う通りだったろ!」
「で、ですね……」
まさか、ユーゴ様の予想のような、こんなに大げさな反応をされるなんて、思ってもいなかった。あったとしても、普通に美しいとか、愛してるとか、そういうことを言われて終わりとばかり……。
「ユーゴ様、最高の品を用意してくれてありがとうございました。大変気に入りました」
「そいつは職人冥利に尽きるってもんよ。んじゃ、次の仕事があるからそろそろ失礼するぜ」
「かしこまりました。ではお帰りになられる前に、支払いの方を別室でさせてくださいませ」
「っと、そうだったな。俺としたことが、すっかり忘れてたぜ!」
それって、職人さんとして大丈夫なのだろうかと苦笑いしつつ、私は二人を部屋から見送った。
……美しいかぁ……そんなことを言われたら照れちゃうよ。ほら、鏡に映ってる自分の顔が、人に見せられないような、だらしない顔になってる。
でも、こんな顔になっちゃうくらい、ラルフに褒められると嬉しいし……欲を言わせてもらうなら、もっともっと言ってほしいな……な、なんて……えへへ。
「……だ、ダメだよラルフ……そんなこと言われたら、恥ずかしい……えへへへへ……」
「ただいま戻りました。おや、どうかされましたか?」
「ふにゃあ!?」
鏡の前で妄想に浸っている中、ラルフの声で正気に戻った私は、その場でピョンっと飛び上がってしまった。
わ、私ってば一体何を妄想しているの!? さっきから、手伝ってくれた使用人も近くにいたというのに……あまりにも浮かれすぎだって!
「なな、なんでもないよ! ユーゴ様はもう帰ったの?」
「ええ。帰り際に、この素晴らしい仕事っぷりを布教させてもらうと約束いたしました」
「そうなの? 私も宣伝するって言ったんだ!」
「考えることは同じですね」
別に大したことじゃないのに、ラルフと同じだと思ったら、それだけで嬉しくなっちゃうよ。
「……すまない、少しシエル様と二人きりにしてもらえるか?」
「かしこまりました。もうすぐ昼食ですので、その時間になったらお迎えに参ります」
「わかった。ありがとう」
ドレスを着る手伝いをしてくれた使用人が部屋を後にすると、ラルフが私の方をジッと見つめてから、私の頬に触れた。
私の頬に触れる。その後に繋がる動作はもうわかっている――だから私は、静かに目を閉じ、顔を少しだけ上に向けた。
「んっ……」
ラルフと唇を重ねながら小さく息を漏らしながら、ラルフの首に手を回した。キス自体は数秒程で終わったけど、その数秒で心が満たされているのがよくわかった。
「もう、ラルフっていつも急にキスするよね」
「シエル様が、私にそうさせるのが悪いのですよ」
「えー、私のせいなの?」
「冗談です」
「えへへ、知ってる」
ラルフの軽口に笑って答えてから、もう一度キスをする。
本当なら、このままずっとラルフと部屋でのんびりイチャイチャしていたいけど、さすがにそういうわけにはいかないよね。我慢我慢っと……。
****
ダニエル様に招待されたパーティーの当日、私はユーゴ様に仕立ててもらったドレスに身を包んでから、玄関でラルフが来るのを待っていた。
今日のパーティーでラルフに恥をかかせないように、いつも以上に身だしなみは気を付けているつもりだ。ドレスはシワ一つ無いし、髪もお化粧も完璧。ラルフに貰ったネックレスも付けている。
……まあ、そのほとんどは準備をしてくれた使用人のおかげだから、私が胸を張るのはおかしい話だけどね。
「ラルフ、まだかな……」
「もう少しで準備が出来るといってたから、そろそろ来ると思うわ。まったく、女性を待たせるなんて、いつからそんな悪い子になったのかしら? それに、ナディアも仕事で見送りに来れないなんて!」
「ま、まあまあ……きっとラルフとナディア様には、事情があるんですよ!」
見送りに来てくれたクリスティア様は、子供のように頬を膨らませて不満を表していた。
クリスティア様にも、こんな可愛い一面があったんだね。こんな所で新しい発見をしちゃったよ。
「お待たせいたしました」
「っ……!?」
玄関にやってきたラルフの格好は、黒の燕尾服だった。髪も私の誕生日の時のようにオールバックにしているおかげで、その端正な顔が前面に強調されている。
……な、なるほど。ラルフがこのドレスを見た時に、あんな反応をしたのがよくわかった。確かに大好きな人がドレスアップをした時の衝撃は、言葉に言い表せないほど凄い……!
「シエル様、お顔が赤いですが……体調がよろしくないのですか?」
「ち、違う違う! 今日のラルフ、凄くカッコイイから、見惚れちゃって……」
「……シエル様……」
モジモジしながら答えると、ラルフは息を漏らすような声で私の名前を呼びながら、私の頬に手を添えた。
……ちょ、ちょっと待って! 私もラルフと同じことがしたいけど、今は見送りに来てくれたクリスティア様も使用人もいるんだよ!? さすがにマズいってー!
「ら、ラルフラルフ! 周り!」
「……わ、私としたことが……大変失礼しました」
私達を見て、顔を赤くして目を逸らす人や、キャーキャーと喜ぶ人とか、色々な反応があったけど、大体が好意的なものだった。
あ、ちなみに私達がお付き合いしてることは、ちゃんと全員に報告しているよ。
「うふふ、これは孫の顔が見れる日も近いかもしれないわね。あ、私は男の子でも女の子でも、どちらでもいいわよ?」
「く、クリスティア様!?」
「何を仰っているんですか母上!?」
「二人して焦っちゃって、可愛いわね~」
子供だなんて、まだ早すぎるよ! そもそも結婚だってしてないし……いつかは産みたい気持ちは山々だけどね!
「さて、そろそろ出発の時間ね。シエル、ラルフ。今回のパーティーについては、ナディアから事前に聞いているわ。バーランド家のことなんて気にしなくていいから、我が身を第一に考えて、必ず帰ってくるのよ」
「母上……」
「シエル、あなたはもう私の子なんだから、帰ってこないなんてなったら泣いちゃうわよ。だから、ラルフと一緒に私の元に帰ってきて。ラルフも、孫の顔を見せる前にいなくなったら、承知しないわよ」
「わかりました、お義母様!」
「えっ……」
自然と口から出た言葉を止めようと、慌てて口元に手を持っていく。
今更もう遅いのは重々承知の上で、そーっとクリスティア様の方を見ると、とても嬉しそうな表情で、私に抱きついてきた。
「ええ、私はあなたの母よ。だから、これからは沢山甘えていいからね」
「クリス……じゃなかった、お義母様……ありがとうございます。私、ラルフと一緒に必ず帰ってきます!」
私はクリスティア様改め、お義母様と使用人達に見送られながら、ダニエル様の屋敷へと向かって出発した。
さて、一体何が待ち受けているのだろうか。不安は無いと言ったら嘘になるけど、ラルフが近くにいるなら、私は大丈夫。
それに、守られるだけじゃなくて、私もラルフを守るんだ!
さあさあ、蛇でもクマでもかかってきなさい! なにがパーティー会場にいたとしても、このシエル・バーランドとラルフ・バーランドが全部蹴散らしてあげるからねー!
……あ、虫だけはやめて! お願いだからやめてよね!!
102
あなたにおすすめの小説
婚約者を譲れと姉に「お願い」されました。代わりに軍人侯爵との結婚を押し付けられましたが、私は形だけの妻のようです。
ナナカ
恋愛
メリオス伯爵の次女エレナは、幼い頃から姉アルチーナに振り回されてきた。そんな姉に婚約者ロエルを譲れと言われる。さらに自分の代わりに結婚しろとまで言い出した。結婚相手は貴族たちが成り上がりと侮蔑する軍人侯爵。伯爵家との縁組が目的だからか、エレナに入れ替わった結婚も承諾する。
こうして、ほとんど顔を合わせることない別居生活が始まった。冷め切った関係になるかと思われたが、年の離れた侯爵はエレナに丁寧に接してくれるし、意外に優しい人。エレナも数少ない会話の機会が楽しみになっていく。
(本編、番外編、完結しました)
ボロボロになるまで働いたのに見た目が不快だと追放された聖女は隣国の皇子に溺愛される。……ちょっと待って、皇子が三つ子だなんて聞いてません!
沙寺絃
恋愛
ルイン王国の神殿で働く聖女アリーシャは、早朝から深夜まで一人で激務をこなしていた。
それなのに聖女の力を理解しない王太子コリンから理不尽に追放を言い渡されてしまう。
失意のアリーシャを迎えに来たのは、隣国アストラ帝国からの使者だった。
アリーシャはポーション作りの才能を買われ、アストラ帝国に招かれて病に臥せった皇帝を助ける。
帝国の皇子は感謝して、アリーシャに深い愛情と敬意を示すようになる。
そして帝国の皇子は十年前にアリーシャと出会った事のある初恋の男の子だった。
再会に胸を弾ませるアリーシャ。しかし、衝撃の事実が発覚する。
なんと、皇子は三つ子だった!
アリーシャの幼馴染の男の子も、三人の皇子が入れ替わって接していたと判明。
しかも病から復活した皇帝は、アリーシャを皇子の妃に迎えると言い出す。アリーシャと結婚した皇子に、次の皇帝の座を譲ると宣言した。
アリーシャは個性的な三つ子の皇子に愛されながら、誰と結婚するか決める事になってしまう。
一方、アリーシャを追放したルイン王国では暗雲が立ち込め始めていた……。
行き遅れ令嬢の婚約者は王子様!?案の定、妹が寄越せと言ってきました。はあ?(゚Д゚)
リオール
恋愛
父の代わりに公爵家の影となって支え続けてるアデラは、恋愛をしてる暇もなかった。その結果、18歳になっても未だ結婚の「け」の字もなく。婚約者さえも居ない日々を送っていた。
そんなある日。参加した夜会にて彼と出会ったのだ。
運命の出会い。初恋。
そんな彼が、実は王子様だと分かって──!?
え、私と婚約!?行き遅れ同士仲良くしようって……えええ、本気ですか!?
──と驚いたけど、なんやかんやで溺愛されてます。
そうして幸せな日々を送ってたら、やって来ましたよ妹が。父親に甘やかされ、好き放題我が儘し放題で生きてきた妹は私に言うのだった。
婚約者を譲れ?可愛い自分の方がお似合いだ?
・・・はああああ!?(゚Д゚)
===========
全37話、執筆済み。
五万字越えてしまったのですが、1話1話は短いので短編としておきます。
最初はギャグ多め。だんだんシリアスです。
18歳で行き遅れ?と思われるかも知れませんが、そういう世界観なので。深く考えないでください(^_^;)
感想欄はオープンにしてますが、多忙につきお返事できません。ご容赦ください<(_ _)>
「地味で無能」と捨てられた令嬢は、冷酷な【年上イケオジ公爵】に嫁ぎました〜今更私の価値に気づいた元王太子が後悔で顔面蒼白になっても今更遅い
腐ったバナナ
恋愛
伯爵令嬢クラウディアは、婚約者のアルバート王太子と妹リリアンに「地味で無能」と断罪され、公衆の面前で婚約破棄される。
お飾りの厄介払いとして押し付けられた嫁ぎ先は、「氷壁公爵」と恐れられる年上の冷酷な辺境伯アレクシス・グレイヴナー公爵だった。
当初は冷徹だった公爵は、クラウディアの才能と、過去の傷を癒やす温もりに触れ、その愛を「二度と失わない」と固く誓う。
彼の愛は、包容力と同時に、狂気的な独占欲を伴った「大人の愛」へと昇華していく。
婚約破棄は別にいいですけど、優秀な姉と無能な妹なんて噂、本気で信じてるんですか?
リオール
恋愛
侯爵家の執務を汗水流してこなしていた私──バルバラ。
だがある日突然、婚約者に婚約破棄を告げられ、父に次期当主は姉だと宣言され。出て行けと言われるのだった。
世間では姉が優秀、妹は駄目だと思われてるようですが、だから何?
せいぜい束の間の贅沢を楽しめばいいです。
貴方達が遊んでる間に、私は──侯爵家、乗っ取らせていただきます!
=====
いつもの勢いで書いた小説です。
前作とは逆に妹が主人公。優秀では無いけど努力する人。
妹、頑張ります!
※全41話完結。短編としておきながら読みの甘さが露呈…
傷物令嬢シャルロットは辺境伯様の人質となってスローライフ
悠木真帆
恋愛
侯爵令嬢シャルロット・ラドフォルンは幼いとき王子を庇って右上半身に大やけどを負う。
残ったやけどの痕はシャルロットに暗い影を落とす。
そんなシャルロットにも他国の貴族との婚約が決まり幸せとなるはずだった。
だがーー
月あかりに照らされた婚約者との初めての夜。
やけどの痕を目にした婚約者は顔色を変えて、そのままベッドの上でシャルロットに婚約破棄を申し渡した。
それ以来、屋敷に閉じこもる生活を送っていたシャルロットに父から敵国の人質となることを命じられる。
悪役令嬢は調理場に左遷されましたが、激ウマご飯で氷の魔公爵様を餌付けしてしまったようです~「もう離さない」って、胃袋の話ですか?~
咲月ねむと
恋愛
「君のような地味な女は、王太子妃にふさわしくない。辺境の『魔公爵』のもとへ嫁げ!」
卒業パーティーで婚約破棄を突きつけられた悪役令嬢レティシア。
しかし、前世で日本人調理師だった彼女にとって、堅苦しい王妃教育から解放されることはご褒美でしかなかった。
「これで好きな料理が作れる!」
ウキウキで辺境へ向かった彼女を待っていたのは、荒れ果てた別邸と「氷の魔公爵」と恐れられるジルベール公爵。
冷酷無慈悲と噂される彼だったが――その正体は、ただの「極度の偏食家で、常に空腹で不機嫌なだけ」だった!?
レティシアが作る『肉汁溢れるハンバーグ』『とろとろオムライス』『伝説のプリン』に公爵の胃袋は即陥落。
「君の料理なしでは生きられない」
「一生そばにいてくれ」
と求愛されるが、色気より食い気のレティシアは「最高の就職先ゲット!」と勘違いして……?
一方、レティシアを追放した王太子たちは、王宮の食事が不味くなりすぎて絶望の淵に。今さら「戻ってきてくれ」と言われても、もう遅いです!
美味しいご飯で幸せを掴む、空腹厳禁の異世界クッキング・ファンタジー!
仕事で疲れて会えないと、恋人に距離を置かれましたが、彼の上司に溺愛されているので幸せです!
ぽんちゃん
恋愛
――仕事で疲れて会えない。
十年付き合ってきた恋人を支えてきたけど、いつも後回しにされる日々。
記念日すら仕事を優先する彼に、十分だけでいいから会いたいとお願いすると、『距離を置こう』と言われてしまう。
そして、思い出の高級レストランで、予約した席に座る恋人が、他の女性と食事をしているところを目撃してしまい――!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる