婚約破棄をされ、父に追放まで言われた私は、むしろ喜んで出て行きます! ~家を出る時に一緒に来てくれた執事の溺愛が始まりました~

ゆうき

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第四十一話 形勢逆転

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 再び門の所に来ると、同じ人達が門を守っていた。ボーっと立つその姿は、操られていた人達と全く同じだった。

「来たのはいいけど、魔法ってどうやって使えばいいのかな?」
「心の中で、魔法を使うというイメージをすればいいのです」
「それだけ?」
「はい。ただ、使い過ぎには気をつけてください。魔法は体力を使うので、乱用すると倒れてしまいます」

 その情報は、今のうちに聞けて良かったかも。知らないで手当たり次第に助けた結果、自分が倒れちゃってたら意味が無いもんね。

「私が先に行きますので、後ろをお願いします」
「うん、わかった!」

 ラルフは前を、私は後ろを警戒しながら門番の所に行くと、さっきと同じ様に道を塞がれてしまった。

「パーティーの最中は、誰も出入りをさせるなと命じられている」
「さっきと同じ言葉ですね」
「きっと、魔法でそれだけを言うように操られているんだよ。すぐに助けてあげますからね!」

 私は心の中で、門番の二人に魔法を使うイメージをすると、体からあの青い光が出てきた。そして、光は二人を包み込み……ガラスが割れるような音と共に消えていった。

 さっきもこの音がしたよね? これって、魔法が上手くいって、魔法の力を解除できましたっていう、お知らせみたいなものなのかな?

「大丈夫ですか。しっかりしてください」

 光が消えると、二人はその場で膝をつき、息を荒くしていた。目を見ている感じだと、さっきの虚ろな目じゃなくなり、少し疲れた普通の人の目になっているように見える。

 もしかして、うまくいった……!?

「うぅ……ここは、一体……」
「俺達は……」
「落ち着いて聞いてください。ここがどこかはわかりますか?」
「ダニエル様の、屋敷の門だ」
「今日はパーティーだから、俺達が門番をしていたんだが……」

 ちゃんと喋れてる! 意思疎通ができてる! さっきまでは、一方的に命令内容を突き付けるだけだったのに! 私の魔法は成功したんだ!

「無事で良かったです!」
「……頭がボーっとするな……さっき綺麗な貴族のお嬢さんと話してから、なんか変だな」
「俺も……」

 それ、絶対にヴィオラお姉様だ……そのタイミングで、この人達に魔法を使ったんだね。

「お話中に申し訳ございません。今、この会場で大変なことが起こっているのです」

 ラルフが代表として、現状起こっていることを門番の二人に話すと、二人は驚愕の表情を浮かべていた。

 そうだよね、意識がボーっとしながら門番をしている間に、ダニエル様やマーヴィン様といった多くの貴族が魔の手に落ちていたら、驚くのは無理もない。

「とりあえず、なにかあった時の退路として、ここを確保したいのですが、可能でしょうか?」
「問題無い! ここは俺達が絶対に守ってみせるぜ!」
「だから、代わりに……ダニエル様を助けてくれ! あの人、いつもは温厚でとても良い人なんだ! こんな門番しか出来ない俺にも、優しく声をかけてくれて、たまにお茶まで誘ってくれて……ぐすっ、そんな人が悪い奴に操られてるなんてよお……!」
「大丈夫、任せてください!」

 この人にも、色々と思うことがあるんだろう。もう、こんな悲しいことを増やさないためにも、早く私の家族達と決着をつけなきゃ!

「さあ、ヴィオラ様とリンダ様の所に行きましょう。あのお二人のことですから、きっとマーヴィン様も近くにいらっしゃるかと」
「私の大切な人を近くで操って、優越感に浸ってそうだよね。さっきお父様が会場にいるって言ってたから、きっと二人もそこにいると思う!」

 私達は再び固く手を繋ぐと、婚約パーティーの会場の前へとやってきた。

 ここから先に進んだら、何が待っているかはわからない。でも、行くしかないよね。

「よし、行こう!」

 ラルフと一緒に会場の扉に手をやると、そのまま強く押す。中はさっきよりもボーっとしている人が増えていて、婚約パーティーなのに、まるでなにかの集会みたいだ。

 そんな中、私の家族達が楽しそうに談笑している姿を見つけた。近くにマーヴィン様はいないみたいだけど……どこにいるのかな……。

 いや、ここで考えていても仕方がない。まずは他の人達を助けて味方になってもらい、ヴィオラお姉様とリンダがこれ以上悪いことができないように捕まえないと!

「見つけた!!」
「……え、えぇ!? なんでシエルお姉様がここにいるの!?」

 まさか私が生きていると思っていなかったであろうリンダが、その大きな目を丸くして驚いていた。その隣にいるお父様とヴィオラお姉様も、驚きを隠せていなかった。

「バカな、ヴィオラの話では、貴様は死んだはず!」
「お久しぶりだというのに、最初の言葉がそれなんですね、お父様」

 別に再会を喜ぶ言葉をとかを期待していたわけじゃないけど、改めてこうして言われると、何となく胸がモヤモヤする。

「ヴィオラ、リンダ! 話が違うではないか!」
「落ち着いてくださいませ、お父様。どうやって助かったのかは存じませんが、それならそれで、やることは一つでしょう?」

 ヴィオラお姉様が指をパチンっと鳴らすと、さっきの兵達が一斉に集まり、私達に向けて戦闘態勢を取っていた。

 案の定、この人達の武力でどうにかするつもりなんだ。そう思った矢先、ヴィオラお姉様は、変なことを話し始めた。

「皆さん、聞いてください。この子はシエル。私の妹なのですが、私達を恨んでおりまして、パーティーを滅茶苦茶にしようとしております! 先程は私達を殺そうともしたんですよ! 彼女は危険です! なので、一緒に彼女達を排除しましょう!」
「あいつらは犯罪者なの! さっき、あいつらに殺されそうになって……怖かった! だから……あたしを守って~!」

 二つの魔法によって完全に操られてしまった貴族や兵士達の他にも、普通にしていた貴族の人達まで頭を抱えはじめ、そして襲いかかってきた。

 今の言葉で、駒を増やしたってことだね。こんなに多くの人を簡単に操るなんて、完全に人間離れしている。

「ふふっ、バカな連中を操る程度、私達には造作もないことですわ」
「私達が思っていた以上に、お二人の魔法の力は強いようですね」
「そうだね。でも……絶対に諦めないよ!」

 さっきやったように、魔法を使うのをイメージすると、青い光が生まれた。

「え、なにかしらあの青い光は?」
「あたしも知らない……お父様は?」
「わからん……だが、あの光の中心にいるのは、紛れもなくシエルだ!」

 私の体から生まれた光は、私の体を覆うようにして、どんどんと大きくなる。

 さっきの魔法とは、少し雰囲気が違う――そんなことを思っていたら、光が沢山の細い糸となって、操られている人達の一部に伸びた。

「私の力よ、みんなを救って!!」

 私の声に呼応して、割れる音が辺りに響いた。そして、操られていた全員が、その場に座り込んでしまった。

 よし、とりあえずまだ全員じゃないけど、魔法の呪縛から解放できた。この調子で、全員を解放しよう!

「あ、あれ……私達はなにを……?」
「今までしていたことが、全然思い出せない……」
「……ね、ねえ。あたしの見間違えじゃなければ、あいつら元に戻ってない?」
「私も、魔法の力が目覚めたの! 私の魔法は、他の魔法の効果を消す力! もうあなた達の洗脳は効かない!」

 明らかに動揺をする家族達に、私はビシっと指を差して宣言をする。

 私にこんな大口を叩くのなんて、似合ってないなって思うけど、こう言えば諦めて投降してくれるかもしれないでしょ?

「みなさんは、私を殺すという身勝手な理由で、ヴィオラお姉様とリンダの魔法で操られていたのです!」
「な、なんだって……?」
「そんなことを急に言われても……」
「でも、言われてみれば最近の記憶がないぞ?」

 それぞれ反応は違っていたけど、共通していたのは動揺だった。

 そうだよね、もし私が同じ立場だったら、きっと意味がわからなくて混乱していると思う。

「それが彼女達の魔法の力です! 自分の強い意志を持っていれば、多少は抵抗できます! もし操られても、私がすぐにお助けします! だから……一緒に彼女達を止めてください!!」

 動揺する人達に、心の底からお願いをすると、一人の兵が家族に向けて剣を構えた。それに続くように、他の人達も続々と剣を構えたり、家族達を睨みつけていた。

「魔法を消す力……なるほど、それは想定外でしたわね。駒達も、ほとんど元に戻された……こんな絶体絶命の状況を打破できる方法なんて無いでしょう。わかりました、諦めて降伏しましょう」
「ヴィオラお姉様!? 何を言っているの!?」
「貴様、こんな所でマーチャント家を裏切るつもりか!?」

 な、なんか家族同士で言い争いを始めたんだけど……私達にとっては好都合だ。リンダの魔法は男性にしか効かないらしいから、ヴィオラお姉様が降伏すれば、これで少なくとも女性が洗脳されることは無い。

「シエル様、油断はされませんように。まずは、まだ残っている操られている人を順番に助けてから、ヴィオラ様とリンダ様を止めましょう」
「でもどうやって?」
「私がお二人を殴って気絶させます」
「そ、想像以上に暴力的だった……」

 やり方はあれかもしれないけど、とりあえずこのままいけば一件落着だ。あとは国の自警団に身柄を渡して終わりだ。

 本当はさっき言ったように、私自身が裁きを下したいところだけど……ここはグッと我慢だよね。

「ふふっ……本当にバカね! この私が諦めるわけないでしょう? 切り札は最後まで取っておくものですわ!」
「っ!? シエル様、後ろです!」
「えっ……?」
「ヴィオラ様の障害は、排除する」

 ほとんど息に近い声を出しながら振り向くと、そこには手に持ったナイフで私を刺そうとしている、マーヴィン様の姿があった。

 最後の最後で油断をした。マーヴィン様がいないと思ってはいたけど、まさかこんな役割を与えられていたなんて――
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