【完結済】婚約者である王子様に騙され、汚妃と馬鹿にされて捨てられた私ですが、侯爵家の当主様に偽物の婚約者として迎え入れられて幸せになります

ゆうき

文字の大きさ
31 / 45

第三十一話 証拠を探します!

しおりを挟む
「落ち着いたかい?」
「はい、なんとか」

 ヴォルフ様に告白された事が嬉しくて、返事をした後に思わず泣いてしまった私は、ヴォルフ様の優しい言葉に小さく頷いた

 やっぱりいまだに信じられない。あのヴォルフ様が、私のような内気でドジで駄目な人間を好きになってくれるなんて。これは夢でしたと言われても、簡単に信じてしまいそうだ。

「ヴォルフ様、セーラ様と結ばれたのは喜ばしいですが、今は他にする事があるかと」
「そうだね。僕の大切な店を燃やした犯人を、すぐに見つけないといけない」
「その通りですわ。いつまでも泣いてるだけには参りません」
「それは忘れてくれないか? あの時はさすがに心に来ていただけなんだ」
「し、仕方ないですよ。大切なお店が燃えちゃったんですから……私も、凄く悲しいです」
「慰めてくれてありがとう、セーラ。本当に君は優しいね」

 ヴォルフ様は私の頭を優しく撫でながら、ニコリと微笑んだ。

 きっとヴォルフ様は、無理をしている。あの時、変わり果てた酒場の前で取り乱した時の様に、今もきっと悲しいに違いない。

「わ、私……なんでもしますから。だから、辛かったら言ってください。その……色々してもらった恩返しがしたいんです」
「セーラ……わかった。僕はこれから、犯行を決定付ける為の、証拠を探すつもりだ」
「証拠?」
「ああ。恐らく犯人はマルク王子だ」

 え、マルク様があの酒場を燃やしたの!? 確かに帰る時に、不穏な事を言っていたけど……まさかこんな酷い事をするなんて。下手したら死人が出てもおかしくないよ!

「だが、あくまでそれは僕が思っているだけだ。だから、証拠……具体的に言うと、目撃者を探す」
「目撃者……」
「現場を調べに来ていた自警団が言うには、事件は昨日から今日にかけての深夜に起こった事のようです。その時間帯は人通りが少ないとはいえ、ゼロではありません。なので、もしかしたら、目撃者がいるかもしれない……そういう事ですわよね?」
「まさにその通りだ」

 口で言うのは簡単かもしれないけど、この城下町には沢山の人がいる。その中から、目撃者を探すなんて、かなり難しいだろう。

 でも……それしか方法が無いのなら、私も一緒に探したい。

「私もやります! 一緒に目撃者を探しましょう!」
「ありがとう。僕は当主としての仕事もあるから、基本的には二人に任せたいんだが、良いだろうか? もちろん、空いている時間は僕も動くよ」
「はい、わかりました」
「かしこまりまし――誰ですか、そこにいるのは!!」
「ひゃわぁ!?」

 エリカさんは、突然大声を上げながら窓の外に飛び出していった。しかし、当然そこには誰もいなかった。

 び、ビックリした……思わずビックリしすぎて、変な声が出ちゃった……。

「おかしいですね。確かに誰かがいる気配を感じたのですが……」
「気のせいじゃないかい?」
「そうなのでしょうか……ところで、どうしてお二人は抱き合っておられるのですか?」
「「えっ?」」

 エリカさんに言われて、そこで私はヴォルフ様にくっついている事に気が付いた。

 きっとビックリしすぎて、無意識のうちにヴォルフ様の所に行っていたのだろう。ヴォルフ様も優しい人だから、私の守る為に抱きしめてくれて……結果的にこうなったんだと思う。

「ご、ごごご、ごめんなさいごめんなさい! 私、ビックリしちゃって……!」
「い、いや僕こそすまない……セーラを守ろうと思ったら、つい……!」
「仲がよろしいのは結構ですが、時と場合を選んでくださいませ。あと、そんな事が出来るなら、最初から偽物の婚約者など申し込む必要は無かったかと」
「うっ……」

 エリカさんに注意されても、私の事を離さないヴォルフ様に、私も釣られて服をギュッと掴んだ。

 確かにヴォルフ様は、エリカさんの言う通り、回り道をしてしまったかもしれない。でも、私の事を想ってくれたからこその行動だってわかってるから、嬉しく思っちゃうよ。

「まあいいですわ。とりあえず屋敷に戻って、情報収集の為に必要な物を準備しましょう。セーラ様、手伝っていただけますか?」
「は、はい! もちろんです!」
「二人共、本当にありがとう。必ず彼の犯行の証拠を掴んで、罪を白日の下に晒そう」
「はい! ヴォルフ様の夢だった店を燃やすなんて、絶対に許せないです!」

 私はヴォルフ様の胸の中で、ギュッと握り拳を作って気合を入れる。

 絶対に事件を見ていた人を探し出して、犯人の人にごめんなさいをしてもらうんだから……!




「これは思わぬ収穫だ……帰還して、主に報告せねば」


 ****


 屋敷に戻ってきた私は、エリカさんと情報収集をするのに必要な物を作る為に、エリカさんの部屋へとやってきた。

 別に私の部屋でやっても良かったんだけど、エリカさん曰く、ポスターを作るのに必要な紙や羽ペンといったものが、自分の部屋の方が多いとの事らしい。

 確かに私の部屋には、紙なんて用が無いからあまりないし、羽ペンやインクも必要最低限のものしかない。

「どうぞ、お掛けになっていてください」
「はい」

 エリカさんの部屋にあったソファに座った私は、エリカさんの部屋をザッと見渡す。

 エリカさんの部屋って、可愛い物が本当に多い。ぬいぐるみや小物、人形といった、沢山の可愛い物が置かれている。

 あっ……ベッドに置いてあるぬいぐるみ、私がプレゼントした子だ! ベッドに置くとは聞いていたけど、本当に置いてくれてるんだ……えへへ。

「以前、私の部屋にというお話はしましたが、まさかこのような形で来ていただくとは、思っても見ませんでしたわ」
「そ、そうですね」
「さて。では作る前に、どこで何をするかの打ち合わせをしましょう」
「えっと……?」
「人が全くいない所で聞き込みをしても、意味が無いでしょう?」
「あ、なるほど。いつ、どこで聞き込みをするかを決めるんですね」
「その通りです。明るいうちは、大通りや中央広場に人が多いです。夜は飲食店の近くに多いので、その辺りにしましょう」

 うん、それで特に問題は無さそうだね。私がいてもいなくても、エリカさんだけで何とかなってしまいそうな気がするけど、足手まといにならないように頑張らないと!

「ポスターとかも使った方がいいですよね。町の掲示板に貼れますし」
「それがいいかと」
「わかりました。問題は、どういうものを作るかですよね……」
「お任せくださいませ。以前店の新メニューを作った際に、ポスターを作った経験があります。試作を作りますので、少々お待ちを」

 新メニュー……あれからあんまり時間が経っていないはずなのに、なんだか凄く昔のように感じる。

「そういえば、あの時ってどうして新メニューを提供したり、値引きをしたりしたんでしょう? ヴォルフ様って、前はそういう事をしていなかったのに……」
「今だからお話し出来ますが、元々はあなたの為だったのです」

 私の為? 新メニューや値引きが、私にどう関係があるのだろう……?

「あなたの旅の資金を支援したがっていたヴォルフ様が、何とかバレないように支援をする為に、意図的に店を忙しくなるように仕向けたのです」
「えっ……それじゃあ、あの数日でお給料が上がって、それで旅の資金が一気に貯まったのは……」
「はい。全てヴォルフ様の計画です」

 ポスターを作りながら、淡々と話すエリカさんとは対照的に、私は戸惑いを隠せずにいた。

 まさか、そんなところでまで、ヴォルフ様が私を助けてくれていたなんて……どれだけ私の事を助ければ気が済むのだろうか? 私、一生かけても全ての恩を返せる気がしないよ。

「完成しました。どうでしょう?」
「わあ、可愛い! このうさぎさんのイラスト、良いですね! 文字も独創的で良いです!」
「……つかぬ事を伺いますが、この文字が読めるのですか?」
「え? はい。人探しをしていますって見出しですよね? その下に事件の概要が書かれてます」
「…………」

 エリカさんは、切れ長な黒い目をパチクリとさせてから、突然大粒の涙をポロポロと流し始めた。

「わ、私は……感動致しました……人生の中で、私からお伝えしなくても、私の字を読める方がいらっしゃるなんて……! ヴォルフ様があなたを選んだのは、間違いではなかったのですね!」
「ちょ、エリカさん!? よくわかりませんけど、泣かないでください~!」

 あのクールでカッコいいエリカさんが泣くのを初めて見た私は、助けを求める相手を見つけられず、オロオロしながらエリカさんを慰める事しか出来なかった……。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

どうぞ、おかまいなく

こだま。
恋愛
婚約者が他の女性と付き合っていたのを目撃してしまった。 婚約者が好きだった主人公の話。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

【完結】姉は聖女? ええ、でも私は白魔導士なので支援するぐらいしか取り柄がありません。

猫屋敷 むぎ
ファンタジー
誰もが憧れる勇者と最強の騎士が恋したのは聖女。それは私ではなく、姉でした。 復活した魔王に侯爵領を奪われ没落した私たち姉妹。そして、誰からも愛される姉アリシアは神の祝福を受け聖女となり、私セレナは支援魔法しか取り柄のない白魔導士のまま。 やがてヴァルミエール国王の王命により結成された勇者パーティは、 勇者、騎士、聖女、エルフの弓使い――そして“おまけ”の私。 過去の恋、未来の恋、政略婚に揺れ動く姉を見つめながら、ようやく私の役割を自覚し始めた頃――。 魔王城へと北上する魔王討伐軍と共に歩む勇者パーティは、 四人の魔将との邂逅、秘められた真実、そしてそれぞれの試練を迎え――。 輝く三人の恋と友情を“すぐ隣で見つめるだけ”の「聖女の妹」でしかなかった私。 けれど魔王討伐の旅路の中で、“仲間を支えるとは何か”に気付き、 やがて――“本当の自分”を見つけていく――。 そんな、ちょっぴり切ない恋と友情と姉妹愛、そして私の成長の物語です。 ※本作の章構成:  第一章:アカデミー&聖女覚醒編  第二章:勇者パーティ結成&魔王討伐軍北上編  第三章:帰郷&魔将・魔王決戦編 ※「小説家になろう」にも掲載(異世界転生・恋愛12位) ※ アルファポリス完結ファンタジー8位。応援ありがとうございます。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

幼馴染を溺愛する旦那様の前からは、もう消えてあげることにします

睡蓮
恋愛
「旦那様、もう幼馴染だけを愛されればいいじゃありませんか。私はいらない存在らしいので、静かにいなくなってあげます」

私達、婚約破棄しましょう

アリス
恋愛
余命宣告を受けたエニシダは最後は自由に生きようと婚約破棄をすることを決意する。 婚約者には愛する人がいる。 彼女との幸せを願い、エニシダは残りの人生は旅をしようと家を出る。 婚約者からも家族からも愛されない彼女は最後くらい好きに生きたかった。 だが、なぜか婚約者は彼女を追いかけ……

裏切られた令嬢は、30歳も年上の伯爵さまに嫁ぎましたが、白い結婚ですわ。

夏生 羽都
恋愛
王太子の婚約者で公爵令嬢でもあったローゼリアは敵対派閥の策略によって生家が没落してしまい、婚約も破棄されてしまう。家は子爵にまで落とされてしまうが、それは名ばかりの爵位で、実際には平民と変わらない生活を強いられていた。 辛い生活の中で母親のナタリーは体調を崩してしまい、ナタリーの実家がある隣国のエルランドへ行き、一家で亡命をしようと考えるのだが、安全に国を出るには貴族の身分を捨てなければいけない。しかし、ローゼリアを王太子の側妃にしたい国王が爵位を返す事を許さなかった。 側妃にはなりたくないが、自分がいては家族が国を出る事が出来ないと思ったローゼリアは、家族を出国させる為に30歳も年上である伯爵の元へ後妻として一人で嫁ぐ事を自分の意思で決めるのだった。 ※作者独自の世界観によって創作された物語です。細かな設定やストーリー展開等が気になってしまうという方はブラウザバッグをお願い致します。

婚約破棄を申し入れたのは、父です ― 王子様、あなたの企みはお見通しです!

みかぼう。
恋愛
公爵令嬢クラリッサ・エインズワースは、王太子ルーファスの婚約者。 幼い日に「共に国を守ろう」と誓い合ったはずの彼は、 いま、別の令嬢マリアンヌに微笑んでいた。 そして――年末の舞踏会の夜。 「――この婚約、我らエインズワース家の名において、破棄させていただきます!」 エインズワース公爵が力強く宣言した瞬間、 王国の均衡は揺らぎ始める。 誇りを捨てず、誠実を貫く娘。 政の闇に挑む父。 陰謀を暴かんと手を伸ばす宰相の子。 そして――再び立ち上がる若き王女。 ――沈黙は逃げではなく、力の証。 公爵令嬢の誇りが、王国の未来を変える。 ――荘厳で静謐な政略ロマンス。 (本作品は小説家になろうにも掲載中です)

処理中です...