【完結済】婚約者である王子様に騙され、汚妃と馬鹿にされて捨てられた私ですが、侯爵家の当主様に偽物の婚約者として迎え入れられて幸せになります

ゆうき

文字の大きさ
32 / 45

第三十二話 聞き込み……難しいです……

しおりを挟む
 翌日、無事にポスターを何枚か完成させた私とエリカさんは、正体がバレないように、徒歩で城下町に行き、いくつかある掲示板に、ポスターを貼った。

 ちかみに、イラストはエリカさんが担当をし、文字は私が担当をした。エリカさん曰く、自分の文字は汚すぎて、私以外には読むのは困難だからとの事だ。

 うーん、そんなに汚いとは思わないんだけどなぁ……ちょっと独創的なのは否めないけど、読めないほど汚くは見えない。

「さて、とりあえずこれでポスターに関しては完了ですね。あとは情報提供先に指定した、自警団からの情報を待ちましょう」
「そうですね」

 正体がバレないようにする為に、私のよく知る常連のお客さんに変装したエリカさんに、大きく頷いて見せた。

 ……正体がエリカさんだとわかっていても、やっぱり変な感じだ。見た目もそうだけど、声も全然違うし……これでは気づきようがないよ。

「では予定通り聞き込みを始めましょう。まずは大通りから向かいましょう」
「わかりました」

 エリカさんと一緒に大通りに向かう。ここは城下町の中でも一番人通りが多い場所だ。周りには色んなお店が立ち並び、とても賑やかな場所でもある。

「何かあった時にすぐ対処できるように、できるだけ近くにいるようにお願い致します」
「わかりました」

 私に注意をしてから、エリカさんは近くの人から片っ端に聞き込みを始めた。

 わ、私も負けていられないよね。知らない人に声をかけるのは怖いけど……これもヴォルフ様の為だから!

「あ、あの……」
「…………」

 あれ……近くの男性に話しかけたのに、何の反応も無かった……声が小さくて、聞こえなかったのかもしれない。次はもうちょっと大きな声で……。

「すみません……お聞きしたい事が……」
「悪いけど急いでいるの。他を当たってもらえる」
「ご、ごめんなさい……」

 次は少しご年配の女性に声をかけてみたけど、嫌そうな顔をされながら、逃げられてしまった。

 うぅ……聞き込みって難しい……出だしから最悪すぎる……私みたいな人見知りで内気な人間には、こんなの無理だったのかな……。

 って、何を弱気になっているの私は! さっきヴォルフ様の為にって思ったばかりなのに、心が折れるのが早すぎるよ!

「私なら出来る……頑張れ、セーラ……これも大好きなヴォルフ様の為……!」

 私はお母さんから貰ったハンカチをギュッと握りしめながら、自分を鼓舞すると、近くを通りかかった若い男性の方に声をかけた。

「あ、あのぅ……ちょっといいですか
……?」
「ん? なにかな」
「えっと、その……一昨日から昨日にかけての夜中に、すぐ近くのお店が火事になったのですが……その日に怪しい人を見なかったか聞いて回ってて……」
「ああ、火事は知ってるよ。でも、怪しい人は見てないなぁ。役に立たなくてすまないね」
「い、いえ。ありがとうございます」

 男性は申し訳なさそうにしながら、人混みの中に消えていった。

 情報は手に入らなかったけど、人見知りな私でも、聞き込みが出来た……! 良かった、私にも何とか出来るんだ! この調子で、聞き込みを続けよう!

「あの、お聞きしたい事が――」
「いや、知らないわね」
「そうですか、ありがとうございます……あ、ごめんなさい、ちょっといいでしょうか――」
「特に見てねぇな……悪いな嬢ちゃん」
「ありがとうございます……」

 何とか聞けるようにはなったおかげで、何人も聞き込みをする事が出来たけど、これといって有力な証拠になりそうな情報は無かった。

「セーラ様、いかがでしたか?」
「ごめんなさい、知ってる人はいませんでした……」
「いえ、お気になさらず。それよりも、あの内気なセーラ様がちゃんと聞きこみが出来るか心配しておりましたが、ちゃんと出来ていて、感動しました。本当に成長されましたね」
「あ、ありがとうございます」

 エリカさんは、あの酒場がオープンした時から、常連のお客さんとして私を見てくれていた。だから、私がドジを連発していた頃を知っているからこそ、お母さんみたいな温かい事を言ってくれるんだね。

「はじめは緊張でガチガチになったり、注文を聞くのもままならなかったというのに……」
「わ、わーわー! 恥ずかしいから言わないでくださいー!」

 やめてー! それは私の黒歴史だからー! 今でも緊張すると噛んじゃうけど、あの頃は本当に思い出すと恥ずかしい失敗ばかりしてたからー!

「ふふっ、セーラ様の緊張をほぐすのは、これくらいにしましょう」
「うぅ……エリカさんの意地悪ぅ……」
「さて、次は広場に向かいましょう」
「わかりました……」

 多少緊張はほぐれたけど、代償が大きすぎると内心思いながら、私はエリカさんと広場に移動する。ここは城下町の中心にある広場で、大きな噴水と、沢山の道が交わっているのが特徴だ。

 広場には、大通りと同じで沢山の人が行き来する中、ベンチに座って談笑する人や、ハトさんに餌をあげてる人、楽しそうに走り回り子供達といった、様々な事をしている人で賑わっていた。

「では先程と同じように聞いて回りましょう。何かあったらお呼びくださいませ」
「わかりました」

 エリカさんと別れた私は、再び聞き込みを再開した。

「あの、ちょっといいですか――」
「火事ねぇ……知らないわぁ」
「そうですか、ありがとうございます……あ、すみません――」
「うーん、その時間は寝てるから、知らないよ! 早く寝ないと、ママに怒られちゃうから!」
「そっか、ごめんね変な事を聞いて……あ、ちょっといいですか――」

 老若男女、沢山の方に声をかけさせてもらったけど、結局有力な情報を得られないまま、いつの間にか夕方になってしまった。

「お疲れ様でした。残念ながら、今日は有力な情報はありませんでしたね」
「はい……ごめんなさい……」
「セーラ様のせいではありませんわ。明日からも頑張りましょう」
「……はいっ」
「では、念の為自警団の本部に寄って、情報が来ていないかの確認をしてから帰りましょう」

 エリカさんの提案に頷いた私は、一緒に自警団の本部に行って話を聞いてみたけど、やはりと言うべきか、情報は特に来ていなかった。

 結局今日は完全に空振りかぁ……でも、自分が聞き込みが出来ると分かったのは収穫だ。このおかげで、明日からも頑張って聞き込みが出来るのだから。

 絶対に証拠を見つけて、ヴォルフ様に安心してもらって、そして喜んでもらうんだ! 頑張ろう!



「あの、セーラ様。突然手を天に突き出して、どうかされたのですか?」
「あっ! い、いえなんでもないです! はい、ないです! うっ……あうぅ……は、恥ずかしい……!」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

どうぞ、おかまいなく

こだま。
恋愛
婚約者が他の女性と付き合っていたのを目撃してしまった。 婚約者が好きだった主人公の話。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

【完結】姉は聖女? ええ、でも私は白魔導士なので支援するぐらいしか取り柄がありません。

猫屋敷 むぎ
ファンタジー
誰もが憧れる勇者と最強の騎士が恋したのは聖女。それは私ではなく、姉でした。 復活した魔王に侯爵領を奪われ没落した私たち姉妹。そして、誰からも愛される姉アリシアは神の祝福を受け聖女となり、私セレナは支援魔法しか取り柄のない白魔導士のまま。 やがてヴァルミエール国王の王命により結成された勇者パーティは、 勇者、騎士、聖女、エルフの弓使い――そして“おまけ”の私。 過去の恋、未来の恋、政略婚に揺れ動く姉を見つめながら、ようやく私の役割を自覚し始めた頃――。 魔王城へと北上する魔王討伐軍と共に歩む勇者パーティは、 四人の魔将との邂逅、秘められた真実、そしてそれぞれの試練を迎え――。 輝く三人の恋と友情を“すぐ隣で見つめるだけ”の「聖女の妹」でしかなかった私。 けれど魔王討伐の旅路の中で、“仲間を支えるとは何か”に気付き、 やがて――“本当の自分”を見つけていく――。 そんな、ちょっぴり切ない恋と友情と姉妹愛、そして私の成長の物語です。 ※本作の章構成:  第一章:アカデミー&聖女覚醒編  第二章:勇者パーティ結成&魔王討伐軍北上編  第三章:帰郷&魔将・魔王決戦編 ※「小説家になろう」にも掲載(異世界転生・恋愛12位) ※ アルファポリス完結ファンタジー8位。応援ありがとうございます。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

幼馴染を溺愛する旦那様の前からは、もう消えてあげることにします

睡蓮
恋愛
「旦那様、もう幼馴染だけを愛されればいいじゃありませんか。私はいらない存在らしいので、静かにいなくなってあげます」

私達、婚約破棄しましょう

アリス
恋愛
余命宣告を受けたエニシダは最後は自由に生きようと婚約破棄をすることを決意する。 婚約者には愛する人がいる。 彼女との幸せを願い、エニシダは残りの人生は旅をしようと家を出る。 婚約者からも家族からも愛されない彼女は最後くらい好きに生きたかった。 だが、なぜか婚約者は彼女を追いかけ……

裏切られた令嬢は、30歳も年上の伯爵さまに嫁ぎましたが、白い結婚ですわ。

夏生 羽都
恋愛
王太子の婚約者で公爵令嬢でもあったローゼリアは敵対派閥の策略によって生家が没落してしまい、婚約も破棄されてしまう。家は子爵にまで落とされてしまうが、それは名ばかりの爵位で、実際には平民と変わらない生活を強いられていた。 辛い生活の中で母親のナタリーは体調を崩してしまい、ナタリーの実家がある隣国のエルランドへ行き、一家で亡命をしようと考えるのだが、安全に国を出るには貴族の身分を捨てなければいけない。しかし、ローゼリアを王太子の側妃にしたい国王が爵位を返す事を許さなかった。 側妃にはなりたくないが、自分がいては家族が国を出る事が出来ないと思ったローゼリアは、家族を出国させる為に30歳も年上である伯爵の元へ後妻として一人で嫁ぐ事を自分の意思で決めるのだった。 ※作者独自の世界観によって創作された物語です。細かな設定やストーリー展開等が気になってしまうという方はブラウザバッグをお願い致します。

婚約破棄を申し入れたのは、父です ― 王子様、あなたの企みはお見通しです!

みかぼう。
恋愛
公爵令嬢クラリッサ・エインズワースは、王太子ルーファスの婚約者。 幼い日に「共に国を守ろう」と誓い合ったはずの彼は、 いま、別の令嬢マリアンヌに微笑んでいた。 そして――年末の舞踏会の夜。 「――この婚約、我らエインズワース家の名において、破棄させていただきます!」 エインズワース公爵が力強く宣言した瞬間、 王国の均衡は揺らぎ始める。 誇りを捨てず、誠実を貫く娘。 政の闇に挑む父。 陰謀を暴かんと手を伸ばす宰相の子。 そして――再び立ち上がる若き王女。 ――沈黙は逃げではなく、力の証。 公爵令嬢の誇りが、王国の未来を変える。 ――荘厳で静謐な政略ロマンス。 (本作品は小説家になろうにも掲載中です)

処理中です...