【完結済】婚約者である王子様に騙され、汚妃と馬鹿にされて捨てられた私ですが、侯爵家の当主様に偽物の婚約者として迎え入れられて幸せになります

ゆうき

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第三十三話 それでも諦めません!

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■マルク視点■

「報告! あの酒場にいた連中が、あの火事の原因を調べている模様!」
「そうか」

 自室にあるバルコニーに腰を降ろし、次の退屈な仕事の前にここでコーヒーを一杯嗜む……それが俺様の至福の時だというのに、あいつらは見苦しく活動をしてるのか。

 以前の報告で、ライル家の連中が店をやっていたのには驚いたが、そいつらが犯人捜しなんてな。そんな事をしても無意味なのがわからないのか。これだから馬鹿は困る。

 だが……その馬鹿だからこそ、絶望に染まった時の顔は、面白い物になるはずだ。

「それと、例の件は準備出来たそうです」
「ああ、わかった」
「しかし……よろしかったのですか? 資料の改ざんなど、お父上が許したのですか?」
「ない。だが、俺様の権限があれば何でもできる。さっさと寄こせ」

 俺様は兵士から書類を奪い取ってから、中身をじっくりと読んでみる。

 くくっ……よし、完璧だ。あとはこれを奴らにつきつけて、その後は……くくくっ……これは想像以上に楽しめそうだな!


 ****


 あれから毎日聞き込みをしているけど、一向に有力な情報を得る事は出来ていない。それでも私は、諦めずに聞き込みを続けている。

 毎日やっているせいか、私の事を知っている人も増えたようで……露骨に避ける人が出てきたり、からかう人が出てきたりもしているけど、そんなものには負けないもん!

「今日は結構雨が酷いなぁ……」

 今日も聞き込みに行こうとすると、外はかなり雨風が強かった。でも、決して外に出れないほどではない。きっと大丈夫だ!

「あの~本当にいくんですか~?」
「もちろんです。早く目撃者を見つけないといけないんです」

 以前、私と一緒に本を探しに行ってくれたメイドさんが、心配そうに私の事を見つめてくれていた。

「セーラ様ったら~……ちょっと待っててくださ~い。一緒に行きますから~」
「え、いいんですか!?」
「お洗濯をしたいんですけど、この天気じゃできなくて、暇だったんですよ~」

 いつの間にか、彼女は雨具を着て完全防御の状態になっていた。私も負けじと雨具を着込み、雨風に負けないようにした。

 本当は、今日はヴォルフ様もエリカさんも忙しくて聞き込みが出来ないみたいだから、私一人で行くつもりだったんだけど……とても頼もしい助っ人だよ!

「では向かいましょう~。風が強いので、手を繋いでいきましょうね~」
「わ、わかりました……」

 なぜか手を繋いで外に出た私は、メイドの人と一緒に城下町へと歩き出す。

 確かにこの方が、滑って転んだりするのを防げる気がする。ちゃんと考えてくれたうえでの提案だったんだね。

「私も今回の件は腹が立ってまして~……絶対に犯人の証拠、見つけましょうね~」
「はい、もちろんです!」

 今日も自分に活を入れてから、聞き込みを開始する。しかし、雨のせいで人通りはかなり少なく、話しかけても、急いでいるのか、すぐに逃げられてしまう。

 それでも私は諦めないよ! 一日でも早く証拠を見つけて、もう大丈夫だよってなったら、ヴォルフ様と一緒に店を再オープンするんだから!

「あ、いたいた! おーいセーラちゃ~ん!!」
「え……あっ!」

 声のした方向を見ると、そこにはいつも酒場に来てくれていた、あの大きくて細い男性と、小柄で貫禄のある男性が、私に手を振っていた

「ど、どうしてここに? 雨も降ってますし、帰った方が良いですよ!」
「んだよ、冷たいな。オイラ達は情報を持ってきたんだぜ!」
「情報? もしかして……火事の?」
「ああ。俺達も気になって調べてたら、それらしい情報を見つけてよ!」

 やれやれと肩をすくめる小柄な人の隣で、大柄な人はとても嬉しそうに、声を上げていた。

「その情報、すぐに聞きたいんですけど……今日はマスターがいないんですよね……」
「ですね~。あの~、明日って空いてます~?」
「あ、はい! あなたのような美人さんの為なら、いくらでも時間を空けますよ。キラーン」
「それは頼もしいですね~。では明日この住所に来てください。時間は……十二時でお願いしますね~」

 なんだかよくわからないうちに、明日の事が決まってしまった。

 でも、初めて有益な情報が手に入れられそうだ。その相手が常連さんだったなんて、世の中は不思議だなぁ。



「ライル家……王子に報告……王子に」



 ****


 翌日、常連さん達に来てもらったのは良かったけど、二人揃って屋敷の前で固まっていた。私も最初はあんな感じだったのだろうか……?

「お前、なにかしたのか?」
「オイラ、何もしてねーから! 今日は情報提供だろ!」
「それがなんでライル家とかいう権力者の屋敷なんだよ!?」
「大丈夫ですよ。こちらにどうぞ」
「うぅ……セーラちゃんが頼りになる……なんかオイラ、ちょっと複雑だぜ……」

 何か小声でブツブツ言っているのは置いておいて。私は彼らと一緒に応接室の中に入ると、そこにはヴォルフ様とエリカさんがいた。

「えー、今日はわざわざお越しいただき、誠に感謝しております。僕はヴォルフ・ライル。若輩者ですが、家長を務めております。そして、あなた達がいつもお越しになってくれている、酒場のマスターです」
「「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?!?」」

 二人の強い驚きの声が、応接室に響き渡る。やっぱりこういう反応になるよね……。

「まさかマスターが、侯爵家の当主とは……」
「まあいいじゃねえか。マスターが誰だろうと、オイラ達は変わらねえ」
「そう言ってもらえると助かります。では本題に入りましょう」

 コホンっと大きく咳払いをしたヴォルフ様は、真剣そのものな表情で、ゆっくりと口を開いた。

「例の火事について、何かご存じですか?」
「おう。オイラの知り合いがさ、酔っぱらってあの辺をウロウロしていたんだ。それで、マスターの店の前を通ったら、店の前で座ってる奴がいたらしくてな。しかも兵士の格好をしてたようでさ。それでそいつは、変と思いつつも、そのまま帰ったらしいんだ。んで次の日に……ってわけよ」
「その兵士、なにか特徴は?」
「肩の部分に、鷲のエンブレムがあったって言ってたぜ」

 鷲のエンブレム……確か、マルク様が来た時に、一緒にいた兵士の鎧に、鷲のエンブレムがあった!

「これでようやく証拠が手に入った。他にもなにか証拠があれば――」
「あったら、面白いな」

 さっきまでなかった声に反応して部屋の出入り口を見ると、そこにはマルク様と兵士の姿があった。

「マルク様……!? どうしてここに……!」
「マルク王子、お越しになられるのなら、事前に――」
「黙れ。ヴォルフ・ライル。貴様に脱税の疑惑がかかっている。よってヴォルフ・ライル、並びに加担していたエリカを城に連行する」
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