【完結済】婚約者である王子様に騙され、汚妃と馬鹿にされて捨てられた私ですが、侯爵家の当主様に偽物の婚約者として迎え入れられて幸せになります

ゆうき

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第四十二話 決着

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「あくまで惚けるのか。それなら証拠を見せよう」

 国王様は書類を何枚か取り出すと、それをマルク様に手渡す。すると、面倒くさそうに溜息を漏らしながら、奪い取るように書類を手にした。

「……これは、ヴォルフとエリカに見せた書類と同じですね。これが何か?」
「数字をよく覚えておくと良い。これも見ろ」

 再び書類を手渡されたマルク様は、書類を交互に見る。しかし、特に表情や態度に変化はなかった。

「こんなの、そちらが数字を書き換えただけに過ぎないでしょう?」
「……この期に及んで、まだシラを切るおつもりですか……」
「耐えろ、エリカ。ここで僕らが感情に任せても、状況は好転はしない」

 すぐ隣で、エリカさんが悔しそうに握り拳を握っているのを、ヴォルフ様がなだめる中、国王陛下は更に言葉を紡ぐ。

「では次だ。この書類の数字を改ざんしたのは、財務班の人間だった。その人物が、そこで縛られている男だ」
「おや、そんな愚かな事をしていたとは。通りで間抜けな姿をしていると思いましたよ」
「はぁ!? 俺は王子にやれって言われたからやったんだぞ! 裏切るつもりか!?」
「随分と偉そうな輩だ。俺様はお前の事など知らないが?」

 ……これでも認めないか。さすがの私でも、段々と腹立たしくなってきた……。

「では次だ。ヴォルフが経営する酒場が最近火事になった。その実行犯が、ワシの元にやってきた」
「それは何よりですね。あの事件は痛ましいものでしたから」
「あ、あなたが自分にやれと指示をしたんじゃないですか! 散々脅しておいて!」
「それは心外だな。俺様は自分の兵士には、とても優しく振舞っていたぞ。なあ?」
「はい、マルク様」

 マルク様と一緒に来た兵士が、短い言葉で肯定の意を示す。やはりこれでも駄目だなんて……!

「それにしても……くくっ……ははははっ!! よくもまあ、こんなくだらない証拠紛いものを見つけたものですね! 聞かせてくれてありがとうございます。とてもつまらなかったですよ」
「……もうあなたの負けです。素直に認めたらどうです?」
「くだらない証拠を集め、格好つけられて満足か? 罪人風情が、調子に乗るなよ」
「罪人? 随分と大々的な自己紹介ですね」
「あぁ……? ずっと見逃してやっていたが……調子に乗るのも大概しろよ雑魚が。俺様が本気になれば、たかが侯爵家一つ、一瞬で灰に――」

 この期に及んで、まだヴォルフ様に酷い事を言うマルク様の前に、私はツカツカと歩み寄ると、持てる全ての力を使って、マルク様の頬を叩いた。

「……おいセーラ、これはなんのつもりだ?」

 私に叩かれてじんわりと赤くなっていく頬を抑えながら、低い声で問うマルク様。青筋も立っていて、とても怒っているのがわかる。

 でも、それ以上に……私の方が怒っているんだから!

「いいかげんにしてよっ! 私の大切な婚約者に酷い事を言わないで! どれだけヴォルフ様に酷い事をすれば気が済むの!? 早くみんなに謝ってよ! それでも、もう二度と関わらないで! 顔も見たくない!!」

 今まで生きてきた中で、一番と言って良いくらいの怒りの感情を、全てマルク様にぶつける。すると、マルク様は怒りの形相を浮かべていた。

「汚妃の成りそこない風情が、この国の神になる俺様にこのような狼藉……許されると思っているのか!?」
「ひっ……ゆ、許さないのは私達です! あなたは悪い人なんですから!」
「そうか。そこまで言うなら……覚悟は出来てるんだろうなぁ!?」

 怖くて怖くて仕方なかったけど、それ以上にヴォルフ様達の事で言わないと気が済まなかった私に、ヴォルフ様の拳が真っ直ぐ飛んでくる。

「っ……!!」

 もう駄目だと思って目を閉じる。しかし、いつまでたっても私の体は痛くない。それどころか、なにか暖かい物に抱きしめられているように感じる。

「大丈夫ですか、セーラ様」
「エリカさん! それに……!!」

 私のすぐそばでは、エリカさんが私を抱きしめて守ってくれていた。そしてその前では、ヴォルフ様がマルク様の拳から、守ってくれていた。

 しかし、その守り方が問題だった。なんと、手で受け止めるのではなく、顔で受け止めていたのだから。

「はっ、口から血が出て、良い顔になったな。セーラ以外の女に好かれそうだ。今からでも他の女に乗り換えたらどうだ?」
「お褒めにあずかり光栄ですよ。しかし、僕にはセーラ以外の女性は、異性として認識する事が出来ないのですよ」
「……はぁ、もういいでしょう、兄上。あなたの負けです」

 ヴォルフ様とマルク様がにらみ合っていると、ずっと黙っていたマルク様の弟様が、ゆっくりと前に出た。

「もう無駄ですよ、兄上。さっさとお縄について、彼らに謝罪した方が賢明かと」
「謝罪? 冗談じゃない。俺様は後の神だ。神が民に謝罪をするなどありえない」
「では、そのお笑い種の神を、滅ぼしてさし上げましょう」

 フェラート様は、国王様の時と同じ様に書類を取り出すと、マルク様にそれを見せた。

「これは……」
「火事に使った道具や燃やした場所の詳細、そして財務班の人間に渡した金の資料です。それ以外にも、細かい問題で発生したものを全てまとめてあります」
「なっ……フェラート、どうやってそれを!」
「ふふっ、それはここでは秘密ですよ。さあ、もう逃げ場はありません」
「……なるほど、これは用意周到だ。これだけ用意されると、確かに言い逃れるのは骨が折れそうだ。だから……」

 マルク様が後ろに下がると、連動するように兵士が前に出た。

 これは……武力行使でどうにかするって事!? そんなの駄目だよ!

「マルク様。それは自らの罪を認め、そして抵抗する意思と見て良いのですかな?」
「勝手に言ってろ、隠居ジジイが! おい、こいつらを全員捕まえて牢屋に入れろ! 誰が一番偉いかをわからせてやる!」
「愚かな……やりなさい」
「はっ」

 フェラート様が指示を出すと、こちらを向いていたマルク様の兵士が裏切り、マルク様をその場で倒し、そして拘束してしまった。

「は……? ふざけんな、何をしているんだ馬鹿野郎!」
「…………」
「くそがぁ!! 何がどうなっている!? こんなの許される訳がねえ!!」
「貴様は我々に刃を向けた時点で、既に罪人だ。マルクを牢に閉じ込めておけ! 罰は後に言い渡す!」
「やめろ、放せ! 俺様を誰だと思っている!!」

 抵抗も虚しく、マルク様は部屋から無理やり連れだされてしまった。

 結局、マルク様から謝られる事は無かったし、どうしてマルク様の兵士が味方に付いてくれたのかとか、フェラート様がいつの間にそんな情報を集めていたのかとか、色々わからないけど……これで……全部終わったんだ。
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