婚約者に騙されて巡礼をした元貧乏の聖女、婚約破棄をされて城を追放されたので、巡礼先で出会った美しい兄弟の所に行ったら幸せな生活が始まりました

ゆうき

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第四十三話 交流祭、開幕!!

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 ついにやってきた交流祭の当日。ジェニエス学園は、ゲール学園の生徒や関係者も含め、沢山の人で賑わっていました。

 交流祭の目玉となる武闘大会は、午後に行われる予定です。午前はジェニエス学園の中に沢山の出店が並び、それを楽しむ時間のようです。

「シエル、せっかくの祭だというのに、浮かない顔だな」
「当たり前じゃないですか。この後にジーク様とクリス様が危険な目に合うとわかってるんですから……」

 皆様とても楽しそうに歩き、談笑する中……私はベンチに座りながら、深い溜息をついていました。

 私もなにもなければ、あそこに加わって楽しめたのでしょう。隣にはジーク様がいて……途中でクリス様がお仕事の合間に来てくれて……それは凄く素敵な景色で……近くて遠い、ささやかな願いです。

「……今から気を張っていては、後が持たない。それに、少々腹が減った」
「ジーク様、どこに行くんですか?」
「屋台に行ってくる。シエルも一緒に来い。そこでボーっとしてるよりかはマシだろう。それに、近くにいる方が、なにかあった時に対処しやすい」
「わかりました」

 私はいつものようにジーク様の手を取ると、中庭や校門の周りにある屋台へと足を運びました。こうして改めて加わってみると、人の多さと賑やかさに圧倒されてしまいます。

 巡礼中に、お祭り自体は参加した事はありますが、小さな村のお祭りばかりだっうえに、短時間しか参加していなかったので、こうして賑やかなお祭りにしっかり参加するのは、今回が初めてになります。

「シエル、はぐれないようにしろよ」
「は、はいっ……!」

 はぐれないようにとおっしゃられても、私にはどうすればいいか……そうだっ! こうすれば……えいっ!

「お、お前……何をしてるんだ」
「は、はぐれないように……腕に……」
「間違っては無いが、時と場合は少しは考えてくれ……」
「……はっ!?」

 そこまで言われてようやく気付いた私は、顔どころか体全部を真っ赤にさせてしまいました。でも、ジーク様の腕をギュッとする手だけは放しません!

 だって……これでも恋する乙女ですので……好きな人には触れていたいんです……へ、変でしょうか?

「ま、まあ構わん……行くぞ」
「はい……あれ?」

 覗き込むようにジーク様の顔を見ると、ほんのりと頬が赤く染まっているように見えます。それに、少し目が泳いでいるというか、挙動不審と言うか……?

「ジーク様、どうかしましたか?」
「どうもしていない。それで、食べたいものはあるか?」
「うーん、とりあえず見てから決めましょう!」

 ――ということで、グルっと見てきた後、ベンチに再び座った私達の膝の上には、沢山の食べ物が乗っています。普通に考えて、二人で食べ切れる量ではありません。

「その、これは違くて……おいしそうなものが沢山あるから、ついあれもこれもって……うぅ、ごめんなさい……」
「気にするな。好きな物から食べるといい」

 今日もお優しいジーク様に甘えて、私はこの丸い形をしたものを手に取りました。マカロンに似てる形で、上に何かのソースや、パセリに似た物もかけられていました。

「タコヤキ……? 名前からして、タコを焼くんですかね? タコってこの辺じゃ食べられてないから、なんだか不思議です」
「そうだな。俺が先に毒味をするから、後に食べろ」
「毒味だなんて……」

 私は止める前に、ジーク様はタコヤキを口に頬張りました。そして……僅かに口角が上がったのを、私は見逃しませんでした!

「毒味は終わった。ほら、食え」
「はい、食べます。でもジーク様もです! はい、あーん!」
「あ、あーん!?」
「ま、周りも見てますから……早く……」
「くっ……逃げ道がない……あぐっ!」

 まるでフォークを噛みきるかの勢いで、私の差し出していたタコヤキを食べました。すると、やはり少し嬉しそうです。

「はい、あーん」
「それを普通にやるような出来事にしないでくれ。心臓が持たん」
「残念です……しょんぼり」
「それよりも、お前も食べてみろ」
「そうですね。もぐもぐ……そ、外はカリカリなのに、中がふわふわしてて……このソースも相まって、凄くおいしい!」
「そうだ、あれも食べてみろ。雲みたいなやつ」
「ワタアメですね! 異国で作られた、ふわっふわのお菓子!」

 私は、大きな袋から白くてフワフワしたものを取り出しました。

 これがワタアメ……思っていた以上に大きいですね。こんなにたくさん食べられるでしょうか……?

 ――そう思ったのも束の間。

「はむっ……おいひ~!!」

 雲のように柔らかくて、そして甘いワタアメを大層気に入った私は、物凄い勢いで食べ進めてしまいました。そのせいで、ジーク様におすそ分けをと思った頃には、もうワタアメがありませんでした……。

「その……ごめんなさい、一人で食べちゃいました……」
「気にするな。お前がよく食べるのは知っている」
「うぅ……それって女の子としてどうなんだろう……太っちゃったら、嫌じゃないですか……?」
「俺は嫌わんが」
「え……?」

 たった数秒の短い言葉だというのに、私には衝撃でした。だって、それって……私のありのままを受け入れてくれるって事ですよね……!? そんな……そんなの……!

「すきぃ……」
「……おい、どうした急に変な顔になって」
「はっ!? なんでもないですよーあはははは! さあ、他のも食べちゃいましょう」

 完全に言い逃れに食べ物を使ってしまった事に、心の中で謝罪をしてから、たくさん買った屋台のごはんを食べます。それはどれも食べた事がない味ばかりで……一口食べるだけで感動してしまいます!

 もぐもぐ……おいしぃ……もぐもぐ……ごくん。あむっ……あ、あま~い! なのにこっちはしょっぱい! はふぅ……平和な時間に、ジーク様のお隣で食事をする……これが……。

「幸せ、なんですね……」
「そうかもしれない」
「ひゃあ!? い、今の聞いてました!?」

 驚きと恥ずかしさのせいで、勢いよく立ち上がった私の事を見ながら、ジーク様はフッと笑いました。

「ああ。ついでに言うと、お前がうまそうに食べてたのもずっと見てた」
「なんで見るんですかー!?」
「別にいいだろう。減るものでもないし。それに可愛かったんだから」
「減りません……け、ど……」

 思ってもみなかったところでお褒めの言葉をいただいたせいで、完全に勢いを失った私は、ベンチにペタンっと腰を下ろしました。

 褒めてくれるのは嬉しいですけど、不意打ちで言うのはずるいです。心の準備をする時間くらいほしいです!

「いきなり可愛いとかいうの、ズルいです」
「本当の事を言っただけだ」
「……ふーん、そうなんですね。そういえば、この前黒い人が来た時のジーク様、メチャクチャカッコよかったですよ。惚れちゃいそうなくらい!」
「ぶふっ!?」

 よほど今の言葉が効いたのか、ジーク様にしては珍しく、盛大にむせています。ここまでやるつもりは無かったんですが……。

「全く、何を言いだすと思えば……」
「お返しってやつです! 本音を言っただけなんですけどね」
「俺だって本音だ」
「え……あ、そうなんですね……」
「ああ……そうだ」

 ジーク様はどう思っていらっしゃるのかはわかりませんが、私は自分の行った事の恥ずかしさに耐えきれなくなりそうです。今にも爆発しちゃうー!

 ――と、そんな和やかで幸せな会話をしている中、一人の男が、薄ら笑いを浮かべながら、歩み寄ってきました。

「おや、こんな所で会うなんて奇遇だな……!」
「……ひっ……」
「……アンドレ」
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