【完結】お飾りの婚約者としての価値しかない令嬢ですが、少し変わった王子様に気に入られて溺愛され始めました

ゆうき

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第六十九話 封印された禁術

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 私達を襲う禁術の魔法陣を破壊するために、ルーク様と小屋を出発してから数分後、突然ルーク様は私の前で足を止めた。

「シャーロット、あれを見て」

 木の陰に隠れながら言われた方向を見ると、そこには真っ黒な人型の生き物らしきものが、手当たり次第に自然を壊し、その一部を取り込みながら進んでいる。

「なんて酷いことを……」

「これが禁術が禁術たる所以さ。あれらに善悪の概念はなく、ただひたすらに指定した相手を殺すまで、破壊活動を続けるんだ。触れたものは破壊され、容赦なく呑み込まれる」

 魔法というものは、使い方によっては、簡単に人を傷つけられる技術なのは重々承知だが、これに関しては使い方云々ではなく、存在そのものが破壊と絶望の象徴としか思えない。

 ……一体、この魔法を生み出した人は、何を考えてこんなおぞましいもの生み出したのだろうか。どれだけ崇高な理由があったとしても、私には理解出来る気がしない。

「触れるのすら駄目だなんて……どうします? 隠れながら進みますか?」

「いや、それでこの場は切り抜けられても、途中で他の連中に見つかった時に、挟み撃ちにされる可能性がある。なるべく危ない橋は渡りたくはない」

「それなら、気づかれていない今のうちに、奇襲を仕掛けてしまいましょう。どうすれば壊れますか?」

「一体ごとに、コアが存在している。それを破壊すれば止まるが、問題が二点ある。コアを破壊しないと再生すること、そしてコアの場所は個体ごとに違うんだ」

 思った以上に厄介な相手だ。ルーク様が私を助けてくれた時に、簡単に倒してしまったように見えたから、もっと簡単だと思ってしまっていた。

 こういう厄介なところも、禁術と呼ばれる所以なのだろう。

「魔力で探知すれば、場所の把握はさほど難しくはない。実際に、君が試験会場で襲われた時は、これで破壊したからね。しかし、複数体を相手に戦闘をしながら探知というのは、現実的ではないね」

 私達が、戦う訓練を常日頃からしていれば、また違った展開になったかもしれないが、私がしていた練習は、あくまで試験用の魔法の練習だ。ルーク様だって、本職は王子様……荒っぽいことをする立場の人ではない。

「でしたら、方法は一つですわ」

「何かいい方法があるのかい?」

「コアに当たるまで、遠距離から魔法を叩きこむことですの! そうすれば、戦いながら的確にコアを射抜く探知能力は必要ございません!」

「…………」

 あ、あれ……? これしか方法はないと思って、自信満々に言ったのに……なんだか、急に恥ずかしくなってきた。

「それも一つの方法だけど、僕の力では持久戦は向いていない。それに、君も魔法使いとしてとても成長したとはいえ、乱発してしまえば体力が持たない可能性が高い」

 ……言われてみれば、その通りだ。あまりにも正論すぎて、ぐうの音も出ない。

 だが、悠長に考えている時間が無いのも事実だ。今この瞬間も、この辺りの自然は破壊され、精霊達も犠牲になっているかもしれない。

「ちなみにですが、コアというのはどういった特徴がございますか?」

「見た目は丸い石みたいな感じだ。簡単に壊れないように、かなり固く作られている」

「確か、あの黒い人間というのは、泥のような体ですわよね? その中に、石があるという認識でしょうか?」

「ああ、その認識で問題無いよ」

 そこまでわかれば、あとはどうとでもなる……と思う。そう思わないと、命がけの戦いなんて出来っこない。

「ふぅ……よしっ!」

「しゃ、シャーロット!?」

 ルーク様との明るい未来を手に入れるために、私はお母様の杖をギュッと握る。
 そして、黒い人間の背後に回り込むと、マーガレットが使っていた魔弾の魔法を連続で打ち込んだ。

 ぶっつけ本番ではあるが、私の知っている魔法では、一番実践向きの魔法を使ったが、無情にも一体も破壊することは出来なかった。

「でも……場所はわかりましたわ!」

 魔弾で破壊できるのが一番楽だったが、そんなことがまかり通るほど、甘くはないというのはわかっていた。だから、今の魔法はあくまで牽制兼、コアの探知用だ。

 泥の中に石のような固いものがあれば、触ればわかる。それを、魔弾を使って代用して探しだしたというわけだ。

「はぁ!!」

 私の掛け声と共に、小さな魔法陣が黒い人間達の周りに描かれる。そこから細い線のようなものが照射され、的確にコアを打ち抜いていく。

 この魔法は、見た目こそ地味ではあるが、貫通能力が高い、火属性の魔法だ。燃費も良くて疲れにくいから、使ってみたのだけど……。

「いくつか倒し損ねてしまったようですわね……」

 見た目は同じでも、その性能にはばらつきがあるのだろうか? 無事に壊して泥になった人間もいれば、今も元気に私の元に向かおうとしている人間もいる。

 それなら、別の方法を考えなくちゃ。そう思った瞬間、黒い人間達は、目に留まらぬ速さで私の懐に潜ろうとする。

「くっ……!」

 急いで後ろに下がるが、相手の方が何倍も早い。このままでは彼らに呑み込まれてしまう。

 しかし、私の不安は杞憂に終わった。なぜなら、突然地面から生えてきた鋭利な岩に、彼らは体中を貫かれ、泥に戻ってしまったからだ。

「この魔法は……ルーク様!」

「シャーロットが頑張っているのに、僕だけ自分の身を案じて引っ込んでいるなんて、そんな格好つかないことは出来ないよ」

 ルーク様、格好良い……! こんなところで惚れ惚れするなんて、不謹慎なのはわかっているが、それでも格好良いものは格好良いの!

「シャーロット、一気に駆け抜けよう! 僕達が力を合わせれば、絶対に出来る!」

「はいっ! 必ず、共に生きて帰りましょう!」

「ああ、約束だ!」

 私はルーク様と頷き合うと、魔法陣のある場所に向けて走り出す。道中で何度も黒い人間達に襲われたが、力を合わせて難なく突破できた。

 膨大な数に、触れられるだけで危険な相手とはいえ、対策をしっかりしていれば、特に問題はない。
 それに、とても頼もしいルーク様が一緒というだけで、幾分か心に余裕が出来ているのも大きいわ。

 だが……この直後に、その余裕が、知らないうちに油断に変わっていたことに気づかされる。

「えいっ! そこですわ!」

 強い魔法は使えるが、その分消耗が激しいルーク様に少しでも体力を温存してもらうために、私が率先して敵を倒していく。仕留め損ねた敵は、ルーク様にお願いする形だ。

 この場にいる敵は、あと一体だけになった。あれも早く倒して先に――そう思った瞬間、泥になった黒い人間達が、生き残っていた黒い人間に集まっていき、見上げるくら巨大な体になった。

「が、合体……!? そ、そんなことが可能なんですの!?」

 気が緩んでいたところに、敵の思わぬ行動に驚かされてしまい、反応が遅れてしまった。
 本当なら、一目散にコアの場所を見つけて破壊しなければいけないのに、ただ茫然と見上げることしか出来なかった。

「あ、あぁ……」

 なんとか抑えていた恐怖心が、目の前の強大な敵を前にした影響で一気に噴き出し、体を震わせる。思考を鈍らせる。

 早く、早くなんとかしなくちゃ。それだけしか考えられず、体も硬直してしまっていた。

 そんな私を取り込むために、巨大な黒い人間は、その巨体に見合わない早さの拳を振り下ろされた。
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