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第二十三話
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あれから、あの村の小麦はすくすくと成長をしていった。現状でどれくらい収穫できるか、学者の人が計算したんだけど、前年の収穫量なんて、足元にも及ばないくらいの量になるとの事だ。
この調子でいけば、あの村の収穫は安泰だろう。そう思って過ごしていたある日、私はルシアナ様の自室に呼び出された。そこには、リオン様の姿もある。
「エメフィーユ、今日は大事な話が合って呼び出した」
大切な話……なんだろう、思い当たることはあるにはあるが、まだその判断を下すのは、早いと思っている。
「そなたの働きは、既に私の耳に届いている。この調子で行けば、あの村の収穫量は、異例と言える数になるかもしれない」
「はい。それもこれも、エメフィーユのおかげです」
「そんな、私だけじゃありません! 王族のみなさんや、村の人達、それに学者の人達だって……みんなの力を合わせたから、このような結果になったんですよ!」
「ほら、俺の言った通りになったでしょう?」
「むぅ……」
あれ、何か悪いことを言っちゃったの? なんだか、ルシアナ様が怒っているような感じがするんだけど!?
「そなたの腕を見込んで、新しい村へ向かうことを許可する。今までのも合わせ、二つの村で思う存分励むがよい」
「で、でも……問題を解決できたらって話でしたよね? まだ収穫は出来ていませんし、油断できる時期じゃありません」
「うむ。しかし悠長にしている時間は、我々には無い。だから、早い段階で実力を見極めさせてもらったのだ」
「な、なるほど。わかりました! 任せてください!」
少し想定外だけど、これで少し動ける範囲が広がったってことだね! 次の村の畑もちゃんと調べて、豊作になれるように頑張ろう!
****
新しい畑の面倒を見るようになってからというもの、私はかなり多忙を極める生活を送っていた。
早朝に起きて畑仕事を行い、終わると資料を漁って良さそうなものを考え、気づいたら外が暗くなっている。そんな生活だ。
元々は、これはリオン様の仕事なのだから、少しはリオン様の仕事が軽くなって、恩返しになるかもと思っていたけど、考えが甘かった。軽くなった分、他の仕事が舞い降りてくるだけだったの。
今は、私の知らない人とよく一緒にいるのを見みかけるけど、忙しそうだから、声をかけないでいるんだ。
「はぁ……寂しいなぁ」
今日の仕事が終わり、夕焼けに染まる畑を眺めながら、弱音を吐露する。
リオン様とまともに喋ったの、いつだったかな。今では食事すら一緒に取れていない。たまに目が合うと、手を振り合ったりして、小さな幸せを感じるとはあっても、会話をする時間もない。
「うぅ~……もう限界! リオン様成分を摂取しないと、頑張れない!」
唐突に立ち上がった私は、馬に乗って城への帰路につく。
実は、馬は幼い頃から村で一緒に過ごしていたから、何度も乗っていた経験があるの。だから、ここの往復くらいなら、楽々乗りこなせるんだ!
「到着っと。今日もたくさんは知ってくれてありがとうね~!」
「ブルルル……ヒヒーン!」
彼らが生活をしている馬房に送ってから、リオン様に会うために自室に向かうが、リオン様はいなかった。
「留守か……リオン様、どこいったのかな」
この時間なら、帰ってきていると思ったけど……どこかにいるのかな……あっ!
「リオンさ――」
声をかけようとしたが、私は咄嗟に物陰に隠れてしまった。
「あの女の人、最近よくリオン様と一緒にいる……」
肩より少し長い白い髪と高身長、出るところは思い切り出て、引っ込むところは引っ込んでいる、抜群のプロモーションが特徴的なその女性は、最近よくリオン様と一緒に行動している女性だ。
私は知らない人だけど、もしかしたら新しい学者の人かもしれない。それか、知らない貴族の人の可能性もある。そう思いこむようにして、気にしないようにしていたのだけど……。
「あの人、何者なんだろう……」
物陰からリオン様とその女性のことを見守っていると、女性は楽しそうに笑いながら、リオン様の肩をバシバシと叩いていた。
そんなことをされているリオン様も、特に嫌がる素振りは見せたりはしない。むしろ、それが当たり前みたいに受け入れている。
「リオン様が、あんなに女性と仲良くしているの、初めてみた」
リオン様が誰と仲良くしていようとも、それはリオン様の勝手だよね……なのに、どうしてこんなに胸が締め付けられるように痛むの?
「あっ……!」
とても嫌な痛みに狼狽えている間に、女性はリオン様の手を引っ張って、どこかへと行ってしまった。
「あ、明らかに普通の関係には見えない……も、もしかして……新しい好きな人が? 最近、全然一緒に過ごせないから、愛想を尽かされちゃった……?」
い、いや……あれだけ私に好きって言ってくれていたリオン様が、他の女性と親しくなるなんて……そんなわけが……。
「あれ、でも……最近、少し話す時間があっても、前みたいに言ってくれていないような……?」
ここ最近のリオン様との会話を思い出し、同時に体中から血の気が引いて行く。
リオン様が、私のことを嫌いになった可能性があるというのもあるけど、嫌いになったということは、多かれ少なかれ、リオン様は私のせいで傷ついてしまった可能性が大きい。それが、私に大きな動揺を与えてきた。
「あ、あはは……そうだよね……ずっと婚約の話を引き延ばしにするような女だもん……愛想を尽かされて、嫌われて当然かも……私、知らないうちにリオン様を傷つけちゃったのかな……」
「キー……」
「……サン、仕事……行こっか……」
私は、鉛のように重くなった体を気力で引きずって、今日行く予定の村へと向かう。
――その日の仕事は、全く集中できず、迷惑をかけっぱなしになったことは、言うまでもない。
この調子でいけば、あの村の収穫は安泰だろう。そう思って過ごしていたある日、私はルシアナ様の自室に呼び出された。そこには、リオン様の姿もある。
「エメフィーユ、今日は大事な話が合って呼び出した」
大切な話……なんだろう、思い当たることはあるにはあるが、まだその判断を下すのは、早いと思っている。
「そなたの働きは、既に私の耳に届いている。この調子で行けば、あの村の収穫量は、異例と言える数になるかもしれない」
「はい。それもこれも、エメフィーユのおかげです」
「そんな、私だけじゃありません! 王族のみなさんや、村の人達、それに学者の人達だって……みんなの力を合わせたから、このような結果になったんですよ!」
「ほら、俺の言った通りになったでしょう?」
「むぅ……」
あれ、何か悪いことを言っちゃったの? なんだか、ルシアナ様が怒っているような感じがするんだけど!?
「そなたの腕を見込んで、新しい村へ向かうことを許可する。今までのも合わせ、二つの村で思う存分励むがよい」
「で、でも……問題を解決できたらって話でしたよね? まだ収穫は出来ていませんし、油断できる時期じゃありません」
「うむ。しかし悠長にしている時間は、我々には無い。だから、早い段階で実力を見極めさせてもらったのだ」
「な、なるほど。わかりました! 任せてください!」
少し想定外だけど、これで少し動ける範囲が広がったってことだね! 次の村の畑もちゃんと調べて、豊作になれるように頑張ろう!
****
新しい畑の面倒を見るようになってからというもの、私はかなり多忙を極める生活を送っていた。
早朝に起きて畑仕事を行い、終わると資料を漁って良さそうなものを考え、気づいたら外が暗くなっている。そんな生活だ。
元々は、これはリオン様の仕事なのだから、少しはリオン様の仕事が軽くなって、恩返しになるかもと思っていたけど、考えが甘かった。軽くなった分、他の仕事が舞い降りてくるだけだったの。
今は、私の知らない人とよく一緒にいるのを見みかけるけど、忙しそうだから、声をかけないでいるんだ。
「はぁ……寂しいなぁ」
今日の仕事が終わり、夕焼けに染まる畑を眺めながら、弱音を吐露する。
リオン様とまともに喋ったの、いつだったかな。今では食事すら一緒に取れていない。たまに目が合うと、手を振り合ったりして、小さな幸せを感じるとはあっても、会話をする時間もない。
「うぅ~……もう限界! リオン様成分を摂取しないと、頑張れない!」
唐突に立ち上がった私は、馬に乗って城への帰路につく。
実は、馬は幼い頃から村で一緒に過ごしていたから、何度も乗っていた経験があるの。だから、ここの往復くらいなら、楽々乗りこなせるんだ!
「到着っと。今日もたくさんは知ってくれてありがとうね~!」
「ブルルル……ヒヒーン!」
彼らが生活をしている馬房に送ってから、リオン様に会うために自室に向かうが、リオン様はいなかった。
「留守か……リオン様、どこいったのかな」
この時間なら、帰ってきていると思ったけど……どこかにいるのかな……あっ!
「リオンさ――」
声をかけようとしたが、私は咄嗟に物陰に隠れてしまった。
「あの女の人、最近よくリオン様と一緒にいる……」
肩より少し長い白い髪と高身長、出るところは思い切り出て、引っ込むところは引っ込んでいる、抜群のプロモーションが特徴的なその女性は、最近よくリオン様と一緒に行動している女性だ。
私は知らない人だけど、もしかしたら新しい学者の人かもしれない。それか、知らない貴族の人の可能性もある。そう思いこむようにして、気にしないようにしていたのだけど……。
「あの人、何者なんだろう……」
物陰からリオン様とその女性のことを見守っていると、女性は楽しそうに笑いながら、リオン様の肩をバシバシと叩いていた。
そんなことをされているリオン様も、特に嫌がる素振りは見せたりはしない。むしろ、それが当たり前みたいに受け入れている。
「リオン様が、あんなに女性と仲良くしているの、初めてみた」
リオン様が誰と仲良くしていようとも、それはリオン様の勝手だよね……なのに、どうしてこんなに胸が締め付けられるように痛むの?
「あっ……!」
とても嫌な痛みに狼狽えている間に、女性はリオン様の手を引っ張って、どこかへと行ってしまった。
「あ、明らかに普通の関係には見えない……も、もしかして……新しい好きな人が? 最近、全然一緒に過ごせないから、愛想を尽かされちゃった……?」
い、いや……あれだけ私に好きって言ってくれていたリオン様が、他の女性と親しくなるなんて……そんなわけが……。
「あれ、でも……最近、少し話す時間があっても、前みたいに言ってくれていないような……?」
ここ最近のリオン様との会話を思い出し、同時に体中から血の気が引いて行く。
リオン様が、私のことを嫌いになった可能性があるというのもあるけど、嫌いになったということは、多かれ少なかれ、リオン様は私のせいで傷ついてしまった可能性が大きい。それが、私に大きな動揺を与えてきた。
「あ、あはは……そうだよね……ずっと婚約の話を引き延ばしにするような女だもん……愛想を尽かされて、嫌われて当然かも……私、知らないうちにリオン様を傷つけちゃったのかな……」
「キー……」
「……サン、仕事……行こっか……」
私は、鉛のように重くなった体を気力で引きずって、今日行く予定の村へと向かう。
――その日の仕事は、全く集中できず、迷惑をかけっぱなしになったことは、言うまでもない。
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