【完結】 ずっと夫を信じて暴力や暴言に耐えてきましたが、もう耐えられません ~あなたが離婚を望むなら、喜んで受け入れます~

ゆうき

文字の大きさ
32 / 44

第三十二話

しおりを挟む
 突然話を振られた私は、へっ? と変な声を漏らしながら、自分のことを指差した。

「彼女のこれからに関わることなのに、他人である我々が勝手に決めるというのも、おこがましいでしょう」

 リオン様の視線が、私へと向けられる。
 ここまでは自分がやったから、あとは私に任せるってことかな? よし、ビシッと断ってやるんだから!

「エメフィーユ、僕が悪かった。あの時は僕がどうかしていた。ベアトリスへの愛は捨てられないから、君には側室として、最高の愛を捧げると誓おう。それに、生活も全て支えるし、君の村も最高の暮らしが出来るように手配する」

 ……どうしよう、何を言われても、即座に断ってやるつもりだったんだけど、あまりにも言っていることがアレ過ぎて、言葉を詰まらせてしまったよ。

「だから、また僕達と一緒に暮らそう」

「……えっと……なんていうか……あなたがこんなにバカだとは思ってませんでした」

「ば、バカ……!?」

 えっ? なんでそんな驚いた顔をしているんだろう。今までのことを経験したうえで、マルセムの言葉を信じられると思う? こんなの、子供だって騙されないよ。

「そんな紙より薄っぺらい言葉なんて、誰が信じると思っているんですか? それに、今まで私やお母さんにしてきたことを、無かったことにするなんて、お話になりません! 私は、あなた達と同じ屋根の下で暮らすなんて、死んでも御免です!」

「ちっ……どいつもこいつも……エメフィーユを渡さなければ、我が軍がミヌレーボ国を亡ぼすと言ったらどうする!?」

 なっ……!? 私一人のために、どれだけ多くの人を巻き込むつもりなの!? 言っておくけど、私なんかにそこまでする価値は無いと思うけど!

「そ、それは……!」

 そんな脅しなんかに屈しない。私一人だったら、そんなカッコいい言葉を即座に言っているだろうけど、今は状況が違う。ここで答え方を間違えれば、ただの田舎娘の決断が、大勢の人の人生を粉々にしてしまう。

「随分と過激なことを仰る。その場合は、なんとか戦争を回避できる方法を模索しますよ。もちろん、エメフィーユを渡さない方法で」

「リオン様……! ありがとうございます! 私は、どれだけ脅されたって、リオン様と共に人生を歩むこと、そして幸せになることを、諦めたりしません!」

「ぐ、ぐぬぬぬ……!」

「はいはい、そこまでにしてくださいな」

 苦虫を噛み潰したような顔をするマルセムに助け舟を出すように、ずっと沈黙を貫いていたベアトリスが、手をパンパンっと叩いて注目を集めた。

「まったく、マルセム様ったら。あまり過激なことを仰っては、リオン様が困ってしまいますわ。申し訳ございません、リオン様。夫は日々の激務のせいで、少々気が立っておられるのです。私達は、戦争なんて望んでおりませんわ。ですよね、マルセム様?」

「……あ、ああ。そうだな」

 さっきまで誰が見てもイライラしていたのに、ベアトリスが介入した途端、マルセムは落ち着きを取り戻した。

「リオン様。我々の要求は全てお話しました。後に開かれる会談までに、そちらの意向をお決めになってくださると幸いですわ」

「ああ、もちろんだ。では、戻って話し合いをしなければならないので、そろそろ失礼する」

「ええ。本日はお越しくださり、誠にありがとうございました」

 にこやかに笑うベアトリスに頭を下げたリオン様は、私の手を取ると、足早に部屋の扉の前までいくが、部屋を出ていかずに、急にその足を止めた。

「そうだ、最後に一つだけ。あなた方がなぜそこまでしてエメフィーユを欲しがるかは存じませんが……先程お伝えした通り、俺は彼女を渡すつもりはありません。それでも奪うと仰るなら、こちらも相応の手段を取らせていただきますから、そのつもりで」

 リオン様のことが大好きな私でさえ、思わず背筋がゾッとするくらい、怖い雰囲気を醸し出した一言を最後に、今度こそリオン様に部屋の外まで連れ出された。

「おかえりなさいませ、リオン様、エメフィーユ様。いつでもご出立出来ますが、いかがなさりますか?」

「ああ、すぐに城に戻るよ」

「かしこまりました。ではお乗りください」

 御者に出迎えられた私達は、馬車に乗りこむと、ゆっくりとミヌレーボ国に向けて、カタカタと音を立てながら出発した。

「……ふぅぅぅぅ……」

 なんとか、無事に話を終えることが出来て安心した。まさか、私を欲しがるとか、戦争の話が出るとか、聞いてないって!

「あぁ、ビックリした……! 要求にも驚きましたけど、あんな物騒なことを言うだなんて、想定外でした」

「俺もだ。まあ、あれは彼の未熟さ故に出た戯言だろう」

「えぇ……それって、上に立つ人としてどうなんですか?」

「最悪と言って差し支えないだろうな。まあ、あまり大きな声では言えないが、彼が戦争を宣言したところで、それに従う兵や民は少ないだろうし、従わせるほどの力があるとも思えない。最悪、内乱が起きて殺されるだろうな」

 リオン様、結構ズバッと言うなぁ。とはいえ、王家のことが信用できないから、各地で暴動が起きているくらいだし……あながち間違っていないと思う。

「だが、楽観視することはできない。彼が愚かな行為を絶対に取らないとは、断言できないからな。母上と相談して、国境沿いの警備と、軍がいつでも動けるように、準備をしなければ」

「そうですよね、気をつけた方が……って、さっきからずっとリオン様に頼りっぱなしで、全然力になれてませんね、私……」

 話し合いは、終始リオン様とマルセムで行われていて、最後の良いところはベアトリスが持っていった。だというのに、私は後半に少し出番があっただけで、ほとんど聞いているだけだった。

「なに、気にすることはない。俺は王族としての仕事をしているだけだ。むしろ、君に最後の決定を託した時に、よく恐れずに言ったと感心した。正直、彼の悔しがる顔は、痛快だったな」

「あ、あはは……それなら、もっと強めに言ってやればよかったですね」

 少しでも場を和ませるために、ちょっとした冗談を言うと、リオン様はフッと柔らかい笑みを浮かべてくれた。

「そうだ、伝えるのを忘れてました。リオン様、私のことを守ってくれて、ありがとうございます」

「未来の妻を守るのは、当然のことだろう?」

「そういうことをサラッと言えるのも含めて、凄いことだと思います。あと……とても、カッコよかったです」

 マルセムの要求を完全に断った時のリオン様、本当にカッコよかった。今思い返しても、その勇姿に胸がドキドキしちゃう。

「そうか。君にそう言ってもらえるなら、カッコつけた意味があったかもしれないな」

「ふふっ、きっとそうですね」

 リオン様の珍しい冗談に笑いながら、私はリオン様の肩に寄りかかるように身を預ける。

 国のことも、民のことも、そして私のことも守ってくれるリオン様のためにも、私はこれからもずっとリオン様を支え続け、力になっていかなくちゃね。


 ****


■マルセム視点■

 忌々しいリオンとエメフィーユが帰った後、俺はベアトリスと愛を育む……ことはせず、ベアトリスに正座をさせられていた。

「まったく、マルセム様ったら……あんな大胆なことを言ったら、より警戒されるに決まってますでしょう」

「わ、悪かった……思い通りに行かなくて、つい頭に血が上ってしまった」

 さすがにあれは、僕でも言いすぎだとわかる発言だった。いくら相手が、長い間友好関係を築いてきたミヌレーボ国とはいえ、戦争をちらつかせれば、その絆にヒビが入る。

 そうすれば、ミヌレーボ国から支援や食料の輸入が困難になるどころか、その話が他国に知れ渡れば、警戒を強められ、孤立化させられる可能性もある。本当に迂闊だった……。

「まあいいですわ。ある意味、あの発言はエメフィーユを手に入れるという意味では、怪我の功名かもしれません」

「どういうことだ?」

「戦争をちらつかせた以上、ミヌレーボ国は我が軍の侵攻を、否が応でも警戒しなければならない。本来なら、エメフィーユを守るのに必要な人材も、そちらに裂かなければなりませんわ」

「そうか! 本来だったら、戦争をすると脅してまで手に入れようとしたエメフィーユを、奴らは全力で守らなければいけないのに、それに集中できないってことか!」

「さすがはマルセム様、大正解ですわ」

 そんなことを咄嗟に思いつくベアトリスは、やはり僕に相応しい女性だ。
 それと、ベアトリスの考えを即座に察知したり、もう一つの作戦に繋げるものとして、戦争をちらつかせる発言をした僕は、やはりこの国の王に相応しい逸材だな! はっはっはっ!

「はぁ……本当に疲れますわ……」

「ベアトリス、なにか言ったか?」

「いいえ、なにも。さあ、私達も動きましょう。エメフィーユを手に入れるのであれば、呑気に玉座に座っている暇はありません。遅くなればなるほど、向こうに準備の時間与えてしまいますわ」

 ああ、その通りだな。僕達がしようとしていることは、早ければ早いほど良い。早速準備に取り掛かろう。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

妹に婚約者を取られてしまい、家を追い出されました。しかしそれは幸せの始まりだったようです

hikari
恋愛
姉妹3人と弟1人の4人きょうだい。しかし、3番目の妹リサに婚約者である王太子を取られてしまう。二番目の妹アイーダだけは味方であるものの、次期公爵になる弟のヨハンがリサの味方。両親は無関心。ヨハンによってローサは追い出されてしまう。

お姉様。ずっと隠していたことをお伝えしますね ~私は不幸ではなく幸せですよ~

柚木ゆず
恋愛
 今日は私が、ラファオール伯爵家に嫁ぐ日。ついにハーオット子爵邸を出られる時が訪れましたので、これまで隠していたことをお伝えします。  お姉様たちは私を苦しめるために、私が苦手にしていたクロード様と政略結婚をさせましたよね?  ですがそれは大きな間違いで、私はずっとクロード様のことが――

【完結】愛で結ばれたはずの夫に捨てられました

ユユ
恋愛
「出て行け」 愛を囁き合い、祝福されずとも全てを捨て 結ばれたはずだった。 「金輪際姿を表すな」 義父から嫁だと認めてもらえなくても 義母からの仕打ちにもメイド達の嫌がらせにも 耐えてきた。 「もうおまえを愛していない」 結婚4年、やっと待望の第一子を産んだ。 義務でもあった男児を産んだ。 なのに 「不義の子と去るがいい」 「あなたの子よ!」 「私の子はエリザベスだけだ」 夫は私を裏切っていた。 * 作り話です * 3万文字前後です * 完結保証付きです * 暇つぶしにどうぞ

姉から奪うことしかできない妹は、ザマァされました

饕餮
ファンタジー
わたくしは、オフィリア。ジョンパルト伯爵家の長女です。 わたくしには双子の妹がいるのですが、使用人を含めた全員が妹を溺愛するあまり、我儘に育ちました。 しかもわたくしと色違いのものを両親から与えられているにもかかわらず、なぜかわたくしのものを欲しがるのです。 末っ子故に甘やかされ、泣いて喚いて駄々をこね、暴れるという貴族女性としてはあるまじき行為をずっとしてきたからなのか、手に入らないものはないと考えているようです。 そんなあざといどころかあさましい性根を持つ妹ですから、いつの間にか両親も兄も、使用人たちですらも絆されてしまい、たとえ嘘であったとしても妹の言葉を鵜呑みにするようになってしまいました。 それから数年が経ち、学園に入学できる年齢になりました。が、そこで兄と妹は―― n番煎じのよくある妹が姉からものを奪うことしかしない系の話です。 全15話。 ※カクヨムでも公開しています

妹の嘘を信じて婚約破棄するのなら、私は家から出ていきます

天宮有
恋愛
平民のシャイナは妹ザロアのために働き、ザロアは家族から溺愛されていた。 ザロアの学費をシャイナが稼ぎ、その時に伯爵令息のランドから告白される。 それから数ヶ月が経ち、ザロアの嘘を信じたランドからシャイナは婚約破棄を言い渡されてしまう。 ランドはザロアと結婚するようで、そのショックによりシャイナは前世の記憶を思い出す。 今まで家族に利用されていたシャイナは、家から出ていくことを決意した。

【完結】旦那様は、妻の私よりも平民の愛人を大事にしたいようです

よどら文鳥
恋愛
 貴族のことを全く理解していない旦那様は、愛人を紹介してきました。  どうやら愛人を第二夫人に招き入れたいそうです。  ですが、この国では一夫多妻制があるとはいえ、それは十分に養っていける環境下にある上、貴族同士でしか認められません。  旦那様は貴族とはいえ現状無職ですし、愛人は平民のようです。  現状を整理すると、旦那様と愛人は不倫行為をしているというわけです。  貴族の人間が不倫行為などすれば、この国での処罰は極刑の可能性もあります。  それすら理解せずに堂々と……。  仕方がありません。  旦那様の気持ちはすでに愛人の方に夢中ですし、その願い叶えられるように私も協力致しましょう。  ただし、平和的に叶えられるかは別です。  政略結婚なので、周りのことも考えると離婚は簡単にできません。ならばこれくらいの抵抗は……させていただきますよ?  ですが、周囲からの協力がありまして、離婚に持っていくこともできそうですね。  折角ですので離婚する前に、愛人と旦那様が私たちの作戦に追い詰められているところもじっくりとこの目で見ておこうかと思います。

学園首席の私は魔力を奪われて婚約破棄されたけど、借り物の魔力でいつまで調子に乗っているつもり?

今川幸乃
ファンタジー
下級貴族の生まれながら魔法の練習に励み、貴族の子女が集まるデルフィーラ学園に首席入学を果たしたレミリア。 しかし進級試験の際に彼女の実力を嫉妬したシルヴィアの呪いで魔力を奪われ、婚約者であったオルクには婚約破棄されてしまう。 が、そんな彼女を助けてくれたのはアルフというミステリアスなクラスメイトであった。 レミリアはアルフとともに呪いを解き、シルヴィアへの復讐を行うことを決意する。 レミリアの魔力を奪ったシルヴィアは調子に乗っていたが、全校生徒の前で魔法を披露する際に魔力を奪い返され、醜態を晒すことになってしまう。 ※3/6~ プチ改稿中

処理中です...