57 / 115
第五十七話 大罪人?
しおりを挟む
「また来たぞ……」
「あいつら、たしか森を裏切った大罪人の幼馴染と一緒にいた人よね?」
私達をじろじろと見ながら話す人達の言葉が耳に入ってきた。
森を裏切った大罪人? 一体何のことを言っているのか、全然わからない。でも、穏やかな内容ではないというのは、さすがの私でもわかる。
「お話中に失礼。少々お聞きしたいのですが」
「うおっ、なんだよお前!? 罪人の仲間と話すことなんて無い!」
「その罪人というのは、一体何のことなのでしょうか? 実は我々は、知人に連れられて初めてこの土地に来たので、何のことかさっぱりなのです」
一人で疑問に思っている間に、オーウェン様は罪人と言っていた町の人に、遠慮なく声をかけた。
あんなに堂々と聞けるなんて、オーウェン様は凄いわ。私には真似できそうもない。
「知らない? はんっ、嘘を言ってんじゃねーよ!」
「ほ、本当なんです! 信じてください!」
「もしかして、罪の自覚すらないというの? サラと手を組んで、オーリボエに住む民と領主のグランディーゾ家、そして森の神様が守ってきた森を破壊したくせに!」
「森を破壊だって? サラ殿のような普通の少女が、そんなことをするとは思えないが……」
「何も知らないよそ者が、知ったような口を利くんじゃないよ!」
明確な敵意を込めた視線は、彼らの言葉が嘘偽りで無いことを表していた。
あまりにも強い敵意も気になったが、私にはもう一つ気になるところがあった。それは、領主の名前だ。
「オーウェン様、グランディーゾって……」
「ああ、エクシノ殿の家の名だ。実は彼の家であるグランディーゾは、オーリボエを含むこの辺りを領地としているんだ」
貴族なのだから、領地を持っているのは何もおかしなことではない。私が気になっているのは、植物になるという見たことがない病気を患った人がいる場所が、植物を操るエクシノ様の家が領主をしている土地ということだ。
偶然だと言えばそれで方がつく……なんて思えない。何かしら関係があると思うのだけど……確証はないのよね。
「とにかく、俺達が大切にしていた森を破壊するあの女も、仲間のお前らも、この町から出て行け!」
「……皆様の事情も知らずに、申し訳ありませんでした。では、これで失礼します。オーウェン様、行きましょう」
これ以上彼らと話をするのは、いたずらに刺激するだけだと思い、話を切り上げてその場を立ち去った。
本当に、サラ様が森を破壊したんだろうか? あんな大人しそうな、普通の女性だというのに?
でも、サラ様は何か隠しているようにも思えたし……うーん……一人で考えていても埒が明かない。人通りがすくなってきたタイミングで、オーウェン様にも聞いてみよう。
「エリン、少し急ごう」
「そうですね」
私はオーウェン様に手を引かれて、足早に町の中心地を通り過ぎ、無事に目的地の大森林へと到着した。
うん、周りには人がいないし、この辺りならオーウェン様に聞けるわね。
「オーウェン様、ちょっとお話しておきたいことがあるんですが」
「話? なら進みながらでもいいか?」
「はい。実は……さっきサラ様の体を診た時に、いくつか質問をしたんですけど、なにかを隠しているような態度を取ったんです」
「隠している? まさか、先程彼らが言っていたことと関係が?」
「それはわかりません。私もサラ様を信じたいのですが、念の為オーウェン様の考えも聞いておきたくて」
「ふむ……」
森の中を進みながらオーウェン様に問いかけると、開いている右手を顎に当てながら、思考を巡らせていた。
「関係があるのか、無関係なのか、どちらの可能性も捨てきれない。なにしろ俺達が持っている情報は、あまりにも少ないからな」
「やっぱりオーウェン様もそう思うんですね」
「ああ。森に何か手掛かりがないかを調べてから、サラ殿に話を聞いてみよう」
「わかりました」
私はオーウェン様の提案を受け入れると、森の中になにか病気の原因がないかを調べ始める。
病気になる可能性としては、食べ物や環境の変化だろう。そう思って周りの植物や動物の生態系を見て回ったけど、これといっておかしなものは無かった。環境自体も、特におかしなところは見受けられない。
あとは目に見えない空気とかに原因があるのかもしれないけど、仮にそうだとしたら、他の人にも症状が出てるはず。
でも、二度もオーリボエに行ったのに、そんな話は全く耳に入ってこなかった。あんな特殊な症状が流行っていたら、普通なら誰かが話していてもおかしくないわ。
「特におかしなものは無いな……」
「ですね……あっ! あれを見てください!」
「あれは……!」
私達の視線の先には、木々が何者かによって伐採され、だだっ広い景色が広がっていた。土は外界に晒され、倒れた木や残された切り株が、とても悲しそうに静かに佇んでいた。
そして、ここにはあの不思議な気配が、とても色濃く感じられた。
「酷い……どうしてこんなに自然が破壊されてるの!?」
「人間の手が加わっているのは明白だな。念の為に調べてみよう。もしかしたら、病気の手がかりがあるかもしれない」
明らかに今までとは違う景色に心を痛めながらも、辺りを調べ始める
とはいっても、自然を破壊されているだけで、これと言っておかしなところは見受けられない。気配は変わらず感じているけどね。
『——れ――』
「……? オーウェン様、なにか言いましたか?」
「いや、何も言っていないが」
『立ち去れ――人間――』
やっぱりなにか聞こえるわ。立ち去れって言っていたような……?
「あなたは誰……!?」
「どうした?」
「誰かの声が聞こえるんです!」
「声だって? 俺には何も……」
「確かに聞こえました! 人間は立ち去れって……!」
『我の声が聞こえるのか』
「ほら、やっぱり聞こえますよ!」
「俺には聞こえない声か……何者かはわからないが、友好的な感じではなさそうだな。エリン、俺から絶対に離れるな」
剣を構えて辺りを警戒するオーウェン様の背中に隠れて辺りを警戒していると、突然地面から木が生えてきた。
そして、その木は見上げるくらいの大きさまで急成長すると、まるで人の様に自分で動き始めた――
「あいつら、たしか森を裏切った大罪人の幼馴染と一緒にいた人よね?」
私達をじろじろと見ながら話す人達の言葉が耳に入ってきた。
森を裏切った大罪人? 一体何のことを言っているのか、全然わからない。でも、穏やかな内容ではないというのは、さすがの私でもわかる。
「お話中に失礼。少々お聞きしたいのですが」
「うおっ、なんだよお前!? 罪人の仲間と話すことなんて無い!」
「その罪人というのは、一体何のことなのでしょうか? 実は我々は、知人に連れられて初めてこの土地に来たので、何のことかさっぱりなのです」
一人で疑問に思っている間に、オーウェン様は罪人と言っていた町の人に、遠慮なく声をかけた。
あんなに堂々と聞けるなんて、オーウェン様は凄いわ。私には真似できそうもない。
「知らない? はんっ、嘘を言ってんじゃねーよ!」
「ほ、本当なんです! 信じてください!」
「もしかして、罪の自覚すらないというの? サラと手を組んで、オーリボエに住む民と領主のグランディーゾ家、そして森の神様が守ってきた森を破壊したくせに!」
「森を破壊だって? サラ殿のような普通の少女が、そんなことをするとは思えないが……」
「何も知らないよそ者が、知ったような口を利くんじゃないよ!」
明確な敵意を込めた視線は、彼らの言葉が嘘偽りで無いことを表していた。
あまりにも強い敵意も気になったが、私にはもう一つ気になるところがあった。それは、領主の名前だ。
「オーウェン様、グランディーゾって……」
「ああ、エクシノ殿の家の名だ。実は彼の家であるグランディーゾは、オーリボエを含むこの辺りを領地としているんだ」
貴族なのだから、領地を持っているのは何もおかしなことではない。私が気になっているのは、植物になるという見たことがない病気を患った人がいる場所が、植物を操るエクシノ様の家が領主をしている土地ということだ。
偶然だと言えばそれで方がつく……なんて思えない。何かしら関係があると思うのだけど……確証はないのよね。
「とにかく、俺達が大切にしていた森を破壊するあの女も、仲間のお前らも、この町から出て行け!」
「……皆様の事情も知らずに、申し訳ありませんでした。では、これで失礼します。オーウェン様、行きましょう」
これ以上彼らと話をするのは、いたずらに刺激するだけだと思い、話を切り上げてその場を立ち去った。
本当に、サラ様が森を破壊したんだろうか? あんな大人しそうな、普通の女性だというのに?
でも、サラ様は何か隠しているようにも思えたし……うーん……一人で考えていても埒が明かない。人通りがすくなってきたタイミングで、オーウェン様にも聞いてみよう。
「エリン、少し急ごう」
「そうですね」
私はオーウェン様に手を引かれて、足早に町の中心地を通り過ぎ、無事に目的地の大森林へと到着した。
うん、周りには人がいないし、この辺りならオーウェン様に聞けるわね。
「オーウェン様、ちょっとお話しておきたいことがあるんですが」
「話? なら進みながらでもいいか?」
「はい。実は……さっきサラ様の体を診た時に、いくつか質問をしたんですけど、なにかを隠しているような態度を取ったんです」
「隠している? まさか、先程彼らが言っていたことと関係が?」
「それはわかりません。私もサラ様を信じたいのですが、念の為オーウェン様の考えも聞いておきたくて」
「ふむ……」
森の中を進みながらオーウェン様に問いかけると、開いている右手を顎に当てながら、思考を巡らせていた。
「関係があるのか、無関係なのか、どちらの可能性も捨てきれない。なにしろ俺達が持っている情報は、あまりにも少ないからな」
「やっぱりオーウェン様もそう思うんですね」
「ああ。森に何か手掛かりがないかを調べてから、サラ殿に話を聞いてみよう」
「わかりました」
私はオーウェン様の提案を受け入れると、森の中になにか病気の原因がないかを調べ始める。
病気になる可能性としては、食べ物や環境の変化だろう。そう思って周りの植物や動物の生態系を見て回ったけど、これといっておかしなものは無かった。環境自体も、特におかしなところは見受けられない。
あとは目に見えない空気とかに原因があるのかもしれないけど、仮にそうだとしたら、他の人にも症状が出てるはず。
でも、二度もオーリボエに行ったのに、そんな話は全く耳に入ってこなかった。あんな特殊な症状が流行っていたら、普通なら誰かが話していてもおかしくないわ。
「特におかしなものは無いな……」
「ですね……あっ! あれを見てください!」
「あれは……!」
私達の視線の先には、木々が何者かによって伐採され、だだっ広い景色が広がっていた。土は外界に晒され、倒れた木や残された切り株が、とても悲しそうに静かに佇んでいた。
そして、ここにはあの不思議な気配が、とても色濃く感じられた。
「酷い……どうしてこんなに自然が破壊されてるの!?」
「人間の手が加わっているのは明白だな。念の為に調べてみよう。もしかしたら、病気の手がかりがあるかもしれない」
明らかに今までとは違う景色に心を痛めながらも、辺りを調べ始める
とはいっても、自然を破壊されているだけで、これと言っておかしなところは見受けられない。気配は変わらず感じているけどね。
『——れ――』
「……? オーウェン様、なにか言いましたか?」
「いや、何も言っていないが」
『立ち去れ――人間――』
やっぱりなにか聞こえるわ。立ち去れって言っていたような……?
「あなたは誰……!?」
「どうした?」
「誰かの声が聞こえるんです!」
「声だって? 俺には何も……」
「確かに聞こえました! 人間は立ち去れって……!」
『我の声が聞こえるのか』
「ほら、やっぱり聞こえますよ!」
「俺には聞こえない声か……何者かはわからないが、友好的な感じではなさそうだな。エリン、俺から絶対に離れるな」
剣を構えて辺りを警戒するオーウェン様の背中に隠れて辺りを警戒していると、突然地面から木が生えてきた。
そして、その木は見上げるくらいの大きさまで急成長すると、まるで人の様に自分で動き始めた――
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
1,276
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる