【完結済】逆恨みで婚約破棄をされて虐待されていたおちこぼれ聖女、隣国のおちぶれた侯爵家の当主様に助けられたので、恩返しをするために奮闘する

ゆうき

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第六話 ウィルフレッドの過去

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 手足が動かない……車椅子に乗っているから、何かしら体の調子が悪いのは予想してたけど、そんなに重い症状だとは、思ってなかったわ……。

「その、どうしてか聞いても……?」
「…………」
「ルナ様、少々席を外しましょう」
「え、うん……後で遊んでね、エレナお姉ちゃん」
「もちろん。沢山遊びましょう」

 ウィルフレッド様が、車椅子を押してくれていた使用人の女性に目配せをすると、彼女はルナちゃんを連れて部屋を出て行った。

 部屋の中に二人きりになってしまった私は、聞いてはいけないことを聞いてしまったのではないかと、後悔の念を抱いていた。

「申し訳ありません、変なことを聞いてしまって」
「いや、構いませんよ。別に隠すことではないので。ただ、妹にわざわざ重い話を聞かせる必要は無いので、こうさせていただきました」

 ウィルフレッド様は深く息を漏らすと、ポツリポツリと話し出した。

「五年前……私が十九歳の時のことです。私は両親と共に、とある貴族のパーティーに招待されたのです」
「パーティー……」
「はい。その会場が山の上にある屋敷でして。そこに行くためには、崖沿いにある道を行かなければならなかったんです。その日は、前日の雨で少々地面がぬかるんでいて……」

 そこで、ウィルフレッド様は一度言葉を止め、再び息を大きく吐いた。

 ここまでの話で、何となく予想がついた。それがわかった今だと……この溜息が、ウィルフレッド様の中に溜まった悲しみの現れだと思える。

「馬車を引っ張ってくれていた馬が、ぬかるんだ地面に足を取られて、バランスを崩したのです。その拍子に、私達は崖から真っ逆さまに落ちてしまいました」
「…………」
「なんとか魔法で窮地を脱しようと思いましたが、私と父はあまり魔法が得意ではなく、どうすることも出来ませんでした。そんな中、母は魔法が得意だったので、魔法で何とかしようとしました」

 ウィルフレッド様の話を、ごくりと生唾を飲みながら耳を傾け続ける。

「母は全員を助けようとしました。ですが、父は自分のことなどは良いから、他の者を助けるために魔力を回せと仰いました」

 崖から落ちている時にも、自分を犠牲にして家族や使用人が助かる可能性を上げたということ? 普通はそんな判断を咄嗟になんて出来るはずもない。ウィルフレッド様のお父様は、まさに騎士の鏡だったのね。

「その言葉を聞いた母も、自分に魔法は使わず、私と使用人達だけに魔法をかけ……そして、父と一緒に私を抱きしめて、少しでも地面との衝突による衝撃を和らげようとしてくださいました」
「…………」
「結果、両親はその場で亡くなりました。使用人達も……母の魔法も虚しく、打ちどころが悪くて……」
「そんな……」
「私だけが生き残りましたが、咄嗟の魔法では全ての衝撃から体を守れなかった。それが、この右の手足です。実は、前髪で隠してますが、右目も全く見えてないのです」

 内容を察せた時に、重い話が来ても大丈夫なように覚悟はしていたつもりだ。

 でも、いざ聞くと……ウィルフレッド様への、ご両親の愛情や、家族との永遠の別れが感じられて……悲しくて……ただひたすらに悲しくて。私は俯いて涙を流すことしか出来なかった。

「私のために泣いてくれるのですか? 優しい方ですね」
「だって……」
「あなたには笑顔が似合っていますよ。さあ、ルナにしていたような笑みを浮かべてください。私は、泣いているあなたよりも、笑っているあなたの方が好きですよ」

 俯かせていた顔を上げると、ウィルフレッド様はとても優しい笑顔で、私を見つめていた。私はその笑顔に倣うように、無理やり笑顔を作って見せた。

「ありがとうございます、エレナ殿。私の無茶なお願いを聞いてくれて」
「いえ……それで、ウィルフレッド様はお父様のお役目をついで、当主様に?」
「はい。こんな半分死んでいるような状態ですが、私がやらなければ、家が無くなってしまいますからね。とはいえ……私がこのような状態のせいで、ここ数年で一気に落ちぶれてしまいましたが」

 貴族についてはよくわからないけど、当主が若くて体が不自由だと、やっぱり色々と大変なのだろう。私なんかがそう思うんだから、当事者の辛さや悲しみは、想像を絶するものでしょうね。

「その怪我は、治らないんですか?」
「ええ。色々と治療を試みましたが……見ての通りです」
「……あの、さっき話してなかったんですけど」
「何でしょう?」
「私、聖女なんです」

 聖女として仕えていたことを言っても、特に意味はないと思ってさっきは言わなかったけど、今はちゃんと伝える意味がある。その意味とは……私がウィルフレッド様の怪我を治すこと!

「聖女……!?」
「はい。実は私の母さんも聖女で、ずっと教わりながら、お手伝いをしてました。まあ、偉大な母の足元にも及ばないですが……」
「偉大な、聖女……その人の名は、エレノアでは?」
「あ、はい! 母さんを知っているんですか!?」
「もちろん存じております。様々な地域で怪我や病気に苦しんでいる人を精力的に助ける、素晴らしい聖女と記憶しております。彼女がレプグナテ家に仕えていたとは知りませんでしたが」

 確かに母さんの名前は、色んな所に広まっている。でも、それがまさか別の国の方にまで知られていたなんて……大好きで尊敬している母さんがそう言われると、ちょっと鼻が高くなっちゃう。

 ……なんて、今はそんなことを考えている場合じゃないわよね!

「私に、治療をさせてもらえませんか!」
「いえ、お気になさらず。既に多くの医者に見てもらいましたが、治らなかったのです」
「うぅ……私かに私は、母さんと比べれば、無能といわれてもおかしくないくらい、魔法がヘタクソですけど……だからといって、やる前から諦めるなんて選択肢はありません! やらせてください!」
「……わかりました。ですが、ご無理はされないように。魔法を使いすぎると、体に負担がかかりますので」

 私は頷きながら彼の前に立つと、動かないと言われる右手にそっと触れる。

 ちょっと触っても、ウィルフレッド様の手からは何も反応が帰ってこない。試しに少しだけつねってみよう……うん、反応がないわ。完全に感覚が無くなってるのだろう。

「やってやるわ……我が癒しのよ……!」

 私は魔法陣を出現させてから、ウィルフレッド様の動かない右手をギュッと握り、魔法を発動させる。

 お願い、上手くいって……!!
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