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第十四話 彼からのプレゼント

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 薬草と花を無事に購入して屋敷に戻ってきた私は、早速薬草を使って治療を試みる。

 薬草の使い方は、至ってシンプル。薬草を持ったまま、魔法を使うだけで良い。そうすれば、薬草毎に備わっている効能が魔法の効果に付与されたり、単純に魔法の強さが上がるわ。

「ではウィルフレッド様、始めますね」
「ええ、よろしくお願いします」

 ウィルフレッド様の自室に集まったルナちゃんとシーちゃん、そして使用人達に見守られる中、私は薬草を持って魔法を発動する。

 すると、いつもは真っ白な魔法陣が、薄い青へと変化した。この色の変化が、何かしらを触媒にしたという合図だ。

「治りますように……治りますように……! お兄様がまた元気に動けるようになりますように……!」

 両手を組みながら、何度も何度もお願いをし続けるルナちゃんとシーちゃん。それに続くように、使用人達も両手を組んだり、成功するようにと祈っていた。

 皆を笑顔にするために、そして幸せになってもらうためにも……お願い、成功して!

「癒しの力よ、我が声に応えよ!」

 魔法陣から、ほんのりと青い光の粒子が出現し、ウィルフレッド様の体を包む。

 これで上手くいっていれば、ウィルフレッド様の体は元のように動くはずだ。上手くいって……!

「……ど、どうですか? ウィルフレッド様」
「…………」

 ウィルフレッド様は、以前と同じように首を小さく横に振る。それは、私の魔法は上手くいかなかったということだ。

 この薬草で駄目なら、他ので試すだけよ。この程度で諦めてたまるものですか!

 ――なんて意気込んでやってみたものの、全ての薬草を使っても効果は表れなかった。

 どうして上手くいかないの? 私だって聖女なのに……母さんから教えてもらったのに、これでは何の意味もない。

「はぁ……はぁ……申し訳ありません、ウィルフレッド様……」
「いえ、お気になさらず。沢山魔法を使ってくださいましたが、体は大丈夫ですか?」
「はい、私は大丈夫です……」

 本当は、魔法の使い過ぎで、体に力が入らなくなっているが、心配をかけないためにも、何とか耐えないと。

「凄い汗だよ……良かったら、これで拭いて」
「ルナちゃん、ありがとう」

 心配をかけないように無理に笑顔を作っていると、ルナちゃんが眉を落としながら、私に可愛らしい刺繍が施された、真っ白なハンカチを差し出してくれた。

「ごめんねルナちゃん、ウィルフレッド様の体はまだ治ってないみたい……」
「エレナお姉ちゃんはなにも悪くないよ! お兄様を治そうと頑張ってくれてるだけで、ルナはすっごく嬉しい! だって、診てくれたお医者様は、治らないって言って、みんなお兄様から離れた、酷い人達だもん……でも、エレナお姉ちゃんは諦めないで、何度も治してくれようとしてるもん!」

 ルナちゃんは唇を尖らせて、今まで診てくれた人達に、不満を前面に押し出す。

 ルナちゃんの気持ちもわかるけど、他の人達の気持ちもわかる。私は専属としてウィルフレッド様の元にいるけれど、別の仕事がある人達は、治る見込みのない患者を診るメリットが無いもの。

「ウィルフレッド様、今回は上手くいきませんでしたけど……私、諦めませんから。魔法の特訓をして、触媒も良いのを見つけて……必ず治します!」
「そんなに無理をされないでも――ごほんっ。エレナ殿はとても心強いですね。ですが、前に交わした約束をお忘れにならないように」
「わかっています」
「失礼致します。例の品が届きました」
「ああ、ありがとう」

 例の品? 一体何のことだろう――そう思っていると、部屋の中に入ってきた女性の使用人は、私の前で手に持っていた箱を開けた。

 そこに入っていたのは――美しい銀の髪飾りだった。小さな花の形をしていて、とても可愛らしい。

「私ばかりがあなたに色々してもらうのは申し訳ないので、せめて何か贈ろうと思いまして。つまらないものですが、受け取っていただけると幸いです」
「つ、つまらないだなんてそんな……!」

 こんな綺麗なプレゼントを貰えるなんて、嬉しくて胸がいっぱいになってしまう。現に気が少しでもゆるんだら、目から涙が零れてしまいそうだ。

「……ありがとうございます。大切にします」
「良かった。本当は私が付けてさしあげたいのですが、生憎この体ですので」
「いえいえ、ご無理はしないでください!」
「ウィルフレッド様、そろそろお時間が……」
「おっと、もうそんな時間か……私はそろそろ仕事をしないといけないので、そろそろ失礼します」

 え、仕事って……確か、急ぎの仕事はないって言ってたわよね? それなのに、これから仕事なの!?

「急ぎの仕事はないって……」
「あれはちょっとした嘘ですよ。そう言わないと、あなたは遠慮すると思っていましたので」

 嘘!? うぅ、完全に騙されていたわ! 確かにもし仕事があるなら、絶対に遠慮していただろうし……反論できない!

「その仕事って、大丈夫なんですか?」
「ええ。書類仕事が少々溜まっているので、それを片付けるのと、夜は貴族達のパーティーがあるので、それに参加するだけですよ」

 パーティー? それって参加しても大丈夫なのだろうか? だって、前にお墓の前で、貴族に馬鹿にされたり哀れに思われたって言ってた。

 その時のウィルフレッド様は、とても悔しそうで、深く傷ついているように見えた。そんなパーティーに参加しないといけないなんて……。

 ……そうだわ。私が一緒に行って、何か言われた時に、ウィルフレッド様を励ましてあげよう。そうすれば、少しくらいは傷つくのが抑えられるかもしれないわ。

 根本的な解決にはならないけど、少しでもウィルフレッド様の支えになれる可能性があるなら、やってみる価値はあるだろう。

「あの、そのパーティーって私も参加できますか?」
「可能ではありますが……どうして当然?」

 私の急なお願いに対して、ウィルフレッド様は首を傾げながら理由を尋ねてきた。

 疑問に思うのも当然よね。今まで貴族の集まりに行きたいなんて話はしたことがないのに、突然言い出したんだもの。

 でも、ここでもし他の貴族の悪口から守るためとか言ったら、きっとウィルフレッド様のことだから、遠慮してしまうに違いない。別の良い方にしましょう。

「えーっと……もし急に体調が崩れた時に、私が一緒にいた方が対応できるじゃないですか」
「それはそうですが、私のは怪我が原因なので、その心配は必要ないのでは?」
「うっ……」

 た、確かにそうだ……今の言い訳だと、病気で調子が悪い人への言葉になっている。これではお願いの材料にはなっていない!

「あなたのことですから、何か考えがあってのことなんですよね?」
「えっと、そのー……」
「本当にあなたという方は……気持ちはありがたいのですが、今回のパーティーは、多くの国の貴族達を招待したと聞いています。もしかしたら、あなたのいたレプグナテ家も、出席している可能性があります」

 レプグナテ家の人に会ってしまう可能性がある。そう聞かされたされた私は、思わず顔を引きつらせた。

 はっきり言って、私はもうアーロイ様達には会いたくない。でも……それ以上に、ウィルフレッド様に悲しんでほしくない。

「私は大丈夫です。お願いします、連れていってください!」
「……わかりました。ただし、出発までにしっかり休むことと、なるべく私の元から離れないこと。これらをお約束してください」
「わかりました!」

 こんな時でも私の心配をしてくれるウィルフレッド様に、私は手を取って感謝を述べた。

 これで何か劇的に変わるというわけじゃないのはわかっているけど、家でモヤモヤして待っているよりもいいわよね?

「……ありがとうございます、エレナ殿」
「そんな、お礼を言われるようなことは、何もしてないですよ」
「二人共、気を付けて行ってきてね! ルナ、みんなと一緒に良い子にしてるから、早く帰って来てね!」
「ああ、わかったよ。遅くなるかもしれないから、先に休んでいるように。ちゃんと歯を磨いて、暖かくするのも忘れてはいけないよ」
「もう、言われなくてもわかってるもんっ! ルナ、そんな子供じゃないし!」

 熟れたリンゴのような色に染めたほっぺたを、パンパンに膨らませる姿は、子供らしくてなんとも愛らしい。

 そんなことを言ったら、ルナちゃんが余計に怒っちゃうだろうから、わざわざ言ったりはしないけど……はぁ、本当に可愛いわ……。
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