【完結済】逆恨みで婚約破棄をされて虐待されていたおちこぼれ聖女、隣国のおちぶれた侯爵家の当主様に助けられたので、恩返しをするために奮闘する

ゆうき

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第四十話 暴走

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「ああ……凄い、これが高濃度の魔力!? 体に力がみなぎ――!?」

 愉悦に浸っていたジェシーだったが、突然口を抑えると、何かを吐き出した。それは、真っ白な液体だった。

「な、なにこれ……ごほっごほっ!! お、おえぇぇぇ……!!」

 い、一体何があったというの? 泉がボコボコし始めて、それに包まれたジェシーがものすごく苦しんでいる。明らかに普通じゃない!

「だから駄目だと……! 早く離れなさい!」
「黙りなさい! この泉の魔力は全て私の……誰にも渡さな……ごほっ!!」

 苦しそうに咳き込むジェシーは、力なくその場にうずくまると、更に苦しそうに悶え始めた。

「ウンちゃん、早く助けないと! ルナ行ってくる!」
「いけません! もう……手遅れです!」

 手遅れ。その言葉の指す意味は……ジェシーを見ていればわかった。

 泉に入っていたジェシーの姿は変わり果てていた。老婆のようにシワだらけになって痩せ細り、髪は白くて異様に長くなっていた。

 私のような魔法に精通していない人間でもわかるくらい、とんでもない魔力に満ちている。

「アー……アア……マリョク、モット、マリョク……」
「ひぃ!? おばけー!?」
「ルナちゃん!!」

 私はルナちゃんの手を取って、皆と一緒に少し泉から離れた。

 と、とにかく今は冷静になりましょう。冷静じゃないと、出来ることも出来なくなってしまうわ。

「……ニガサナイ……」
「皆さん、絶対に彼女に捕まってはいけません! 生きて帰れませんよ!」

 ジェシーの髪が一気に伸びると、私達に向かってまっすぐ伸びてきた。

 生きて帰れない……あれに捕まれば、きっと死ぬまで魔力を吸われてしまうということだろう。

 と、とにかく落ち着かないと……変に焦っても状況が好転するはずもないわ。早く逃げないと!

 ……いや、待って。あのジェシーを放っておいたら、周りの環境に影響が出るかもしれない。最悪、人のいる場所にまで来るかもしれない。

 ああもう、どうするのが正解なのよ! とにかく、今は私達に向かってくるあの髪をどうにかしないと!

「サラマンダーさん、あなた炎の精霊よね! あの髪を燃やせる!?」
「できなくはねえが、火事になるかもしれねえぞ!」
「火事になっても、私に任せてください。一応水の精霊なので」
「わーったよ! 行くぜぇ!!」

 サラマンダーさんは、自分の体を赤い炎に包ませる。それから間もなく、その炎が大きくなっていき……中から大きな炎の鳥が出てきた。

 凄い、なんて迫力と熱なの!? ここに立っているだけで、肌がビリビリするくらい熱い!

「炎の精霊、サラマンダー様の真の姿! その目に焼き付けておきな!!」
「お~、ダーちんお得意の焼き鳥モードだ~」
「誰が焼き鳥だごらぁ!!」

 ま、まあ燃えてる鳥だから焼き鳥だよね……そんな事を思っていると、ジェシーは髪を一気に伸ばしてきた。

「そんな馬鹿正直な攻撃、効くわけねーだろ! おらぁ!」

 伸びてきた髪の毛に、サラマンダーさんはくちばしから炎を出して攻撃する。すると、ジェシーのしわくちゃになってしまった顔が、更に苦悶でシワシワになってしまった。

「ア、アア……オナカ、スイタ……」
「ウンディーネさん、ジェシーは一体どうしちゃったんですか?」
「魔力の過剰摂取によって一気に老化が進み、精神も破壊され……魔力を求める気持ちだけが溢れているのでしょう。このまま放っておいても、魔力に耐えきれずにこの世を去りますが……放っておくわけにもいきません」

 ……元々私の虐待の発端だから、酷い目に合ってたら喜ぶべきなのかもしれないけど……こんな終わり方は、あんまりじゃないの。

「私の魔法で治せないんですか?」
「残念ですが、ああなってしまった人間を治す術は絶対にありません」
「で、でもやってみないと……!」
「駄目です。失敗したらあなたも共倒れですよ?」
「考えるまでもねぇな。さっさと楽にしてやるのが、互いにとって最高の選択だ!」

 サラマンダーさんは大きな翼を大きく羽ばたかせる。すると、沢山の羽が宙に飛んでいき……ジェシーに向かって落下していった。

 一枚や二枚じゃない。軽く百枚は超えてそうな羽の雨。こんなのが当たれば、変わり果てたジェシーといえど、ただでは済まないだろう。

 そう思っていたのだが……ジェシーはなんと何も抵抗せずに攻撃を受けると、その羽を体に吸収した。

「わわっ、羽を食べちゃったの!?」
「ちっ、攻撃したつもりが奴に塩を送っただけだけか」
「オイ、シイ……マリョク……」

 ブツブツと話しながら、ジェシーは伸びた髪を自分の前で一つにすると、髪が紫色に怪しく光りだした。

「ご、ご主人様! 凄い魔力が集まってます……!」
「マ、マリョク……! ヨコセェェェェ!!!!」

 集まった髪の毛から放たれた太いビームは、辺りの水や木を薙ぎ払いながら、真っ直ぐ向かってきた。

 もちろん対処するために、サラマンダーさんが火を噴いて応戦するが、数秒も経たないうちに、段々と押され始めた。

「ぐぉぉ……このオレ様に押し勝つとは、やるじゃねえか!」
「ダーちん!!」
「うぅ、私も加勢を……!」
「うるせぇ! お前らはそこで寝てやがれ! あんな髪オバケに、このオレ様が負けるわけねえだろ!」
「良い気迫です。私も泉の守護者として……諦めるわけには参りません」

 未だに火を吐き続けるサラマンダーさんの前に、スッと前に出たウンディーネさんは、己の体から青い光を生み出すと、それを自らの体に纏わせる。

 光に纏われたウンディーネさんは、そのまま卵のような物の中に入った。

「いったん攻撃を止めてください。そろそろあなたも限界でしょう」
「……すまねえ。この獣の姿って、尋常じゃないくらい魔力の消費えぐくてな……」

 そう言うと、サラマンダーさんは元の大きさに戻り、ルナちゃんの腕の中に入った。

 こっちは大丈夫そうだけど、ウンディーネさんは!?

「ヨコセェェェェェェェェ!!!!」
「残念ですが、守護者として……泉の安寧と、友を守らせてもらいます」

 卵から出てきたウンディーネさんは、青い大きな亀の姿に変身した。

 変身したウンディーネさんは、さっきの髪ビームを、なんと真正面から受け切ると、口から勢いのある水を出して、ジェシーを後退させた。

 しかし、ジェシーもただでは終わらなかった。ジェシーは何とか体勢を立て直すと、髪の一部を一瞬で伸ばし、ウンディーネさんの体に巻き付いた。

「しまっ――きゃあああああ!?!?」
「ウンディーネさん!!」
「マリョ……オイヒイ……」
「さ、させません!」

 ルナちゃんに抱っこされているシーちゃんは、風の魔法を使って風の刃を作ると、それを飛ばして髪を上手く切断した。

「ウンディーネさん、大丈夫ですか!?」
「ええ、防ぎ切って油断しました。かなり魔力を持っていかれましたが……まだいけます」
「うっ……うぅ~!!」
「る、ルナちゃん?」
「ルナの大切なお友達をイジめないでよ、しわくちゃオバケー!! ルナ、怒っちゃったんだからー!!」

 ルナちゃんは私に精霊達を渡してから、一人で果敢にウンディーネさんの前に行くと、体を縮こませ、両手に――いえ、体中に力を込めた。

 その一連の行動に反応するように、周りにある木がサワサワと音を立て始めていた。

「マリョク……マリョク! オイ、シソウ……!!」
「そんなに食べたいなら、たくさんご馳走してあげるよ! でも、ルナのごはんは……すっごくすっごく多いんだから!!」

 両手を前に突き出すと、そこに魔力がどんどんと集まっていき、ボールのような形になってきた。

 その魔力があまりにもすさまじくて……近くにいるだけでも、恐怖感を覚えるくらい魔力が強い。

 いや、それだけじゃない。そのボールにどんどんと魔力を流し込みながら、周りの魔力も集めている。一気に取り込んでるわけじゃないから、体は大丈夫だと思うけど……吸引力が強くて、近くにいると危険だわ!

「なんて吸引力……皆さん、私の陰に隠れて!」
「ありがとうございます! みんな、いる!?」

 ウンディーネさんの陰に隠れた私は、腕で抱えた精霊達を確認する。うん、しっかり三人揃ってる! 誰も欠けていない!

「さあできたよ! ルナ特製の魔力たっぷりのおまんじゅう……! ルナね、あなたのことは知ってるよ。ずっとエレナお姉ちゃんをいじめてたんだよね。だから……ぜったに許さないのっ! これはおしおきだから、ちゃんと食べるんだよ!!」

 ルナちゃんが作ったボールは、ジェシーに向かってまっすぐ飛んでいく。そして、魔力を食すのが目的のジェシーの口の中に入った。

 その一方で、ルナちゃんは力を使い果たしたのか、その場でドサッと地面にうつ伏せで倒れた。

「ルナちゃん!」

 どうなったかはわからないけど、ジェシーが止まっているうちに、ルナちゃんの状態の確認を……とりあえず生きてはいるわね。倒れた時に、ちょっとだけ怪我しちゃったみたいだから、治療をしてあげてっと……これでよし。

「ふむ……」
「わっ!? ウンディーネさん、いつのまに元の姿に……」
「つい先ほど。どうやら魔力をいきなり使いすぎて意識を失ったようですね。すぐに目を覚ますでしょう」
「それならよかったです。ジェシーは……」

 彼女の姿を見てみると、そこでは先程のボールを食べた状態で、固まってしまっていた。

 一体どういう状況なの? と困惑していると、ジェシーが急にガクガク動き出した。

「マリョク……オイ……モウ、イラナ……ヤメ、ヤメテ……!」
「あれだけ欲しがっていたのに……ルナちゃんの魔力が強すぎて、過剰に摂取したということ……?」
「ガ、ガガガガ……シニ、シニタク……マリョク……アイジョウ……オナ、ス、タ……」

 最後にそう言い残し、ジェシーは灰のように朽ち果てながら、泉の中に消えていった。

 ……因縁の相手と決着がついたはずなのに、全然心が晴れやかになりそうもないわ。こんな結末、私は望んでいなかった……。
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