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聖女覚醒編
救出《マリア視点》
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迫り来る男の手に、舌を噛み切ろうとした、その時ー
ガシャーン!!
激しい音を立てて、窓ガラスが割れる音がした。
「な、なんだ?う、わぁぁぁぁぁぁ!!」
私の上に乗っていた男が、突然消失する。
何が起きたのか理解できず、驚いて思わず舌を噛みそうになった私の口に、指が差し込まれた。
勢い余って、その指を噛んでしまう。
口の中に錆びた鉄の味がして、私は慌てて口を開き、目の前の人を見た。
濡羽色の髪に、漆黒の瞳。
この人は・・・あの日、私にハンカチを差し出してくれた・・・リリウム公爵家の使用人の方?
「ご無事でよかった」
「あ・・・」
私が噛んだ指に、血が滲んでいる。
私は急いでポケットの中からハンカチを出すと、彼の指へと当てた。
「ごめんなさい」
「心配いりません」
心配ないと言うけれど、彼の白い手袋は血で染まっている。
申し訳なさに、涙が出てきた。
と。
ガラスの割れた音に気付いたのだろう。
扉がドンドン!!と叩かれ、外から男たちの声が聞こえた。
そうだ。私の上に乗ってた男は?
視界を巡らせると、目の前の人の他に、もうひとりいることに気付いた。
その人は、手早く男を拘束している。
年齢的に、多分目の前の人と同じくらいだと思う。
黒髪に黒目。黒装束の目の前の公爵家の使用人である人と、白のシャツに黒のズボン、鳶色の髪に瞳の、おそらく平民だと思えるその人。
全く風貌は違うのに、どこか似た雰囲気をしていた。
「カイ。ここは俺たちが片付けよう。お前は、さっさとお嬢様の元へ聖女様をお連れしな」
「セリオ」
「ジグルもそろそろ下からやってくるだろう。元凶に関しては、コイツらを締め上げて、後で報告書を届ける」
「頼む。殿下たちにもご報告しなくてはならないからな」
え?殿下?
そうだ。私は何故、攫われたの?
「それから、今度美味いものでも届けてくれ。それでチャラだ」
「ああ。お前とジグルの好物を届けよう」
カイと呼ばれた、リリウム公爵家の方は、私の上に乗っていた男を拘束しているセリオという方と会話した後、上着を脱ぐと、私の頭から被せる。
そして、そのまま私を抱き上げた。
「え、えっ?」
「窓から降ります。聖女様、俺・・・いや、私にしがみついていて下さい」
「え、ええっ?きゃ、きゃああああー」
2階の、割れた窓枠に足をかけたカイさんは、躊躇うことなく飛び降りた。
突然のことに悲鳴をあげるしかなかった私は、飛び降りる寸前に見た、にこやかに手を振るセリオという方の笑顔を最後に意識を失ったのだった。
ガシャーン!!
激しい音を立てて、窓ガラスが割れる音がした。
「な、なんだ?う、わぁぁぁぁぁぁ!!」
私の上に乗っていた男が、突然消失する。
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勢い余って、その指を噛んでしまう。
口の中に錆びた鉄の味がして、私は慌てて口を開き、目の前の人を見た。
濡羽色の髪に、漆黒の瞳。
この人は・・・あの日、私にハンカチを差し出してくれた・・・リリウム公爵家の使用人の方?
「ご無事でよかった」
「あ・・・」
私が噛んだ指に、血が滲んでいる。
私は急いでポケットの中からハンカチを出すと、彼の指へと当てた。
「ごめんなさい」
「心配いりません」
心配ないと言うけれど、彼の白い手袋は血で染まっている。
申し訳なさに、涙が出てきた。
と。
ガラスの割れた音に気付いたのだろう。
扉がドンドン!!と叩かれ、外から男たちの声が聞こえた。
そうだ。私の上に乗ってた男は?
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その人は、手早く男を拘束している。
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全く風貌は違うのに、どこか似た雰囲気をしていた。
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「セリオ」
「ジグルもそろそろ下からやってくるだろう。元凶に関しては、コイツらを締め上げて、後で報告書を届ける」
「頼む。殿下たちにもご報告しなくてはならないからな」
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2階の、割れた窓枠に足をかけたカイさんは、躊躇うことなく飛び降りた。
突然のことに悲鳴をあげるしかなかった私は、飛び降りる寸前に見た、にこやかに手を振るセリオという方の笑顔を最後に意識を失ったのだった。
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