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やっぱり来ると思ったわ

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「ちょっと!ライアン様に馴れ馴れしくしないで!」

 それぞれ黙々と担当作業を行っていると、甲高い声が響いた。

 ルーナはチラリとそれに視線を向けた後、そこにいたのが予想通りの人物だったことにため息を吐いた。

「なんていうか、予想通りすぎてつまんないわ」

「・・・ルーナ様、それは言っちゃ駄目なやつですわ」

 そう言うリリアナも、なんとも呆れたような目で、そちらを見ていた。

 魔力を込める作業途中で、制御をミスり火傷を負ったライアンを癒していたアナは、今にも自分につかみかかって来そうなシシリーに首を傾げる。

「私は怪我を癒しているだけです」

「はぁ?どうしてライアン様が怪我するのよ?大体、こんなとこで一体なにを・・・」

「シシリー!急に走って行くなよ。っと、ライアン殿下?」

 淡々とした様子のアナに、食ってかかるシシリー。

 その後方から、一人の令息が駆け寄って来た。

 赤茶色の髪をした令息の登場に、ルーナの隣にいたカイルの表情が強張った。

 令息は周囲を見渡すと、カイルに気付く。

「ん?なんだ、伯爵になり損ねた平民じゃないか。ここは貴族が通う学園だぞ。平民が何をしてるのさ」

 馬鹿にしたような様子でカイルに話しかけて来た。

 その時点で、ルーナはこの相手を排除する決意を固める。

 ルーナにとって大切なのはカイルだ。
そのカイルを傷つける存在など、ルーナにとって存在することすら許せない。

 この馬鹿は、カサブランカ伯爵家に養子に入った愛人の息子だった。

 ルーナにとって、飛んで火に入る夏の虫、というやつである。

「ライアン殿下。そこの馬鹿がどこの誰かご存知ですか?」

「・・・カサブランカ伯爵家の令息だ」

「ちょ、ちょっと待て!お前、今俺のことを馬鹿と言ったか?」

 いや、馬鹿だろう。
そこにいたシシリーと当人以外の全員が心の中でそう思った。

 たかが伯爵家の令息が、筆頭公爵家のご令嬢に「お前」呼ばわり。

 大体、学園に入学して大分たつのに高位貴族の顔を覚えていないのはいかがなものかと思う。

「カサブランカ伯爵家令息、ヘリオ。ご令嬢をお前などと呼ぶなどマナー教育が足りないようだな。先生に知らせておこう」

「ちょっ、ライアン様?どうしてヘリオを叱るの?あの人がヘリオを馬鹿って言ったのに。悪いのはあっちじゃない」

 確かに馬鹿呼ばわりするのは、令嬢として正しくはない。

 だが、ここ数日一緒にいることで、ライアンはルーナがカイルに好意を寄せていることに気付いていた。

 そのカイルを平民呼ばわりである。
ルーナの中では完全に敵認定されていることだろう。
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