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ある次期公爵のひとり言②

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 異形の魔獣。
まさかそんなものが現れるとは思わなかった。

 ライアン殿下の後方に現れたソレは、こともあろうに殿下を傷つけた。

 すぐさまアナ嬢が、殿下の傷を癒しにかかる。

 そのアナ嬢に魔獣が敵意を向けた瞬間、魔獣が消滅した。

 誰も気付かなかったようだけど、僕とカイルには分かった。

 ルーナだ。

 アナ嬢を標的にしようとした瞬間、ルーナからとてつもなく怒りのオーラが上がっていた。

 ルーナは、自分の懐に入れた人間をとても大切にする。

 変な話だが、狙われたのがあの男爵令嬢だったなら、ルーナは魔獣を秒殺することはなかっただろうと思う。

 見捨てはしなかっただろうけど。

 ルーナは大切な人以外はどうでもいいと言うけれど、優しいからな。

 ライアン殿下に魅了避けの魔道具を渡したのも、アナ嬢が殿下とペアを組むと言ったことと、あとは多分リリアナ殿下のためだと思う。

 それでも僕たちに渡した魔道具と同じものだったなら、殿下は怪我を負うことはなかっただろう。

 ルーナいわく、一度だけは物理攻撃を防ぐらしいから。

 それをライアン殿下に渡さなかったのは、別にルーナの意地悪じゃない。

 その魔道具に使う魔石が手元になくて、学園が始まったことでルーナが狩りに行く時間もなかったせいだ。

 それに狩りに行ったとして、その魔石の魔獣が出るとは限らないし。

 だからルーナは手元にある魔石で、出来る限りの魔法を込めた。

 魔獣に背中から襲われてあの程度で済んだのは、ルーナの魔道具のおかげだ。

 殿下の魔力を利用する仕組みらしく、その前にリゾーラ嬢の魅了避けが発動していたから、殿下はヘロヘロになってたけど。

 でも魅了避けは完全に機能してた。
リゾーラ嬢を突き飛ばしていたし。

 魔力は休めば回復するし、アナ嬢の回復魔法ですぐに傷は塞がったし、問題はないだろう。

 問題があるとしたら、これから学園だけでなく王都中で魔獣に対する調査と警戒体制になるだろうから、魔法学の課題をどこでやるか、だな。

 やってることが国にとって価値のあることだから、提出するまでは極秘に進めたいんだよな。

 ライアン殿下もリリアナ殿下も、その方が良いと言ってたし。

 となると、王宮でやるわけにもいかないな。

 フィオレンサ公爵家でもいいんだが、あまりライアン殿下が足繁く通うと、王妃様が婚約話を再度プッシュしてきそうだし。

 そうなるとルーナの機嫌が悪くなるからな。

 カイルも、さっさとルーナに婚約を申し込めば良いのに。

 ルーナも叔父上も叔母上も、カイルの身分なんか気にしないんだから。

 まぁ僕も人のことは言えないけど、ライアン殿下が立太子するかどうかで僕の立ち位置も変わるからな。
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