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57.お嬢様〜リュカ視点〜
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サウスフォード王国。
クライゼン王国から西に向かって、一番最初にある国がサウスフォード王国で、クライゼン王国側からすぐの街に入った。
もちろん、俺もお嬢様も来たのは初めてだ。
「リュカ!リュカ!あれ何かしら?すごく人が並んでいるわ。すごく賑わってる街ね!」
多くの人が行き交っていて、とても賑やかな街だ。
「お嬢。ひとりで先に行かないで下さい。迷子になりますよ」
「な、ならないわよ!小さな子供じゃないんだから!」
「ここは、マデリーン王国じゃないんですよ。お嬢のことは誰も知らないし、道に迷っても誰も助けてくれませんよ。俺から離れないでください。手、繋ぎますか?」
「手・・・手を繋・・・」
はしゃぐお嬢様に、意地悪でそう言うと、視線を彷徨わせた後に俯いた。
しまった。浮かれ過ぎた。
はしゃいでいるのは、お嬢様じゃなくて俺だ。
お嬢様と二人で旅をして、恋人や家族のように名前で呼べと言われて・・・
「お嬢?冗談で・・・」
「繋いで」
右手が俺に差し出される。
え?繋いでいいのか?
そっと、その白魚のような柔らかくて白くて小さな手を握る。
今まで、ずっとお嬢様の斜め後ろにいた。
幼い頃からずっと、お嬢様をお守りするために、鍛錬に励んで来た。
だけど、お嬢様の心まではお守り出来なかった。
生まれた時からの婚約者だったウィリアム王太子殿下が、メイドを抱きしめていたのを目撃した時も。
お嬢様が幼い頃に仲良くしていたアスラン殿下と婚約し、初めてお友達が出来たと喜んでいたのに、その二人の裏切りにあった時も。
いつもそばにいたのに。
一番近くでいたはずなのに、お嬢様を傷つける者から守ることが出来なかった。
俺は、男爵家の生まれだ。
父親がフローレンス公爵様、つまりお嬢様のお父上の護衛をしていたことで、俺も公爵家にお仕えすることになった。
俺が五歳になった年からずっと、お嬢様の護衛としておそばにいた。
もちろん当時は、護衛というよりは侍従みたいなもんだったが。
それでもお嬢様を守らなきゃと思っていたし、鍛錬にも参加した。
だけど、どれだけお嬢様に信頼していただいても、俺はしょせん男爵家の令息にすぎない。
王太子殿下に意見することも、他国の第二王子殿下に意見することもできない。
お嬢様は、アイシュ・フローレンス公爵令嬢様は、その肩書きに相応しい方だ。
ずっと王太子殿下の婚約者だったこともあってとても優秀だし、所作もとても美しい。
その上、容姿も非のつけようがないくらいお綺麗だ。
なのにどうして、揃いも揃ってお嬢様を傷つける?
あの日、お嬢様にエスコートを頼まれた日。
初めて、お嬢様の元婚約者の手を払った。
たとえ、処罰されることになってもかまわないと思った。
ただ。
許せなかったんだ。
クライゼン王国から西に向かって、一番最初にある国がサウスフォード王国で、クライゼン王国側からすぐの街に入った。
もちろん、俺もお嬢様も来たのは初めてだ。
「リュカ!リュカ!あれ何かしら?すごく人が並んでいるわ。すごく賑わってる街ね!」
多くの人が行き交っていて、とても賑やかな街だ。
「お嬢。ひとりで先に行かないで下さい。迷子になりますよ」
「な、ならないわよ!小さな子供じゃないんだから!」
「ここは、マデリーン王国じゃないんですよ。お嬢のことは誰も知らないし、道に迷っても誰も助けてくれませんよ。俺から離れないでください。手、繋ぎますか?」
「手・・・手を繋・・・」
はしゃぐお嬢様に、意地悪でそう言うと、視線を彷徨わせた後に俯いた。
しまった。浮かれ過ぎた。
はしゃいでいるのは、お嬢様じゃなくて俺だ。
お嬢様と二人で旅をして、恋人や家族のように名前で呼べと言われて・・・
「お嬢?冗談で・・・」
「繋いで」
右手が俺に差し出される。
え?繋いでいいのか?
そっと、その白魚のような柔らかくて白くて小さな手を握る。
今まで、ずっとお嬢様の斜め後ろにいた。
幼い頃からずっと、お嬢様をお守りするために、鍛錬に励んで来た。
だけど、お嬢様の心まではお守り出来なかった。
生まれた時からの婚約者だったウィリアム王太子殿下が、メイドを抱きしめていたのを目撃した時も。
お嬢様が幼い頃に仲良くしていたアスラン殿下と婚約し、初めてお友達が出来たと喜んでいたのに、その二人の裏切りにあった時も。
いつもそばにいたのに。
一番近くでいたはずなのに、お嬢様を傷つける者から守ることが出来なかった。
俺は、男爵家の生まれだ。
父親がフローレンス公爵様、つまりお嬢様のお父上の護衛をしていたことで、俺も公爵家にお仕えすることになった。
俺が五歳になった年からずっと、お嬢様の護衛としておそばにいた。
もちろん当時は、護衛というよりは侍従みたいなもんだったが。
それでもお嬢様を守らなきゃと思っていたし、鍛錬にも参加した。
だけど、どれだけお嬢様に信頼していただいても、俺はしょせん男爵家の令息にすぎない。
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あの日、お嬢様にエスコートを頼まれた日。
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たとえ、処罰されることになってもかまわないと思った。
ただ。
許せなかったんだ。
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